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第113話 水泡クラゲと水の小部屋

「かわいいなぁ……」


 白雪は水面に浮かぶ水泡クラゲを眺めていた。


 透明な体の中には、小さな青い光が浮かんでいる。水面を漂うたびに、その光がゆっくりと揺れていた。


 一匹が白雪の指先に近づく。


 ぷるん。


「お?」


 指先に触れた水泡クラゲは、少しだけ形を変えた。


 白雪が指を動かすと、クラゲもそれに合わせるようにふわりと移動する。


「ついてくるの?」


 白雪は指を右へ動かした。


 水泡クラゲも右へ。


 左へ動かす。


 今度は左へ。


「ふふっ。面白い!」


 ほかの水泡クラゲも集まってきた。


 白雪の指先の周囲を、何匹もの水泡クラゲがくるくると回っている。


 そのうち一匹が水面から少しだけ浮き上がった。


「飛んだ!」


 白雪は驚いて目を丸くした。


 水泡クラゲは空中でふわふわと揺れ、すぐに水面へ戻っていく。


 どうやら、長く浮かんでいることはできないらしい。


「もう一回飛ばないかな?」


 白雪は水面を指で軽く叩いた。


 ぽちゃん。


 小さな波紋が広がる。


 すると、水泡クラゲが一斉に水面から浮き上がった。


 ふわっ。


「わあっ!」


 白雪の周囲に、透明なクラゲがいくつも浮かぶ。


 その光景に夢中になっていると、システムメッセージが表示された。


 《スキル《泡操作》の熟練度が上昇しました》


「おっ、泡操作!」


 以前から使っていたスキルだ。


 白雪は空中に浮かんだ水泡クラゲを見つめる。


「これも泡みたいなものなのかな?」


 試しに、周囲に浮かぶ小さな泡へ意識を向けてみた。


 泡が少しだけ横へ動く。


「動いた!」


 しかし、水泡クラゲそのものは動かせない。


 白雪は何度か試したあと、無理に動かすのはやめた。


「クラゲさんは自分で動きたいもんね」


 水泡クラゲは、白雪の周囲をゆっくり漂っていた。


 しばらくすると、空中に浮かんでいたクラゲたちは一匹ずつ水面へ戻っていった。


 白雪は少し名残惜しそうに水面を眺める。


「また会えるかな?」


 水泡クラゲたちは、答えるように小さく光った。


 ◇


 空洞の端には、小さな岩棚があった。


 白雪が近づいてみると、そこには白い貝殻がいくつも並んでいた。


「貝殻がいっぱい!」


 一つ手に取る。


 表面には細かな模様があり、耳に近づけると水の流れる音が聞こえた。


「これも音がするんだね」


 《入手しました:水泡貝》


「水泡貝かぁ」


 隣には青白い小石が転がっている。


 《入手しました:泡晶の小石》


 さらに岩棚の奥には、薄い葉が一枚だけ生えていた。


 水面に浮かんでいる葉と似ているが、こちらは少し透明で、葉脈が青く光っている。


 白雪は葉を摘み取った。


 《入手しました:透水葉》


「今日は水の素材が多いね!」


 インベントリを開いて確認すると、今日拾った素材だけでもかなりの数になっていた。


 風のもの、草のもの、水のもの、石のもの。


「あとで整理しないとね」


 そう言いながら、白雪は新しい素材をしまった。


 整理するつもりはあるらしい。


 ただ、いつになるかは分からない。


 そのとき、水泡クラゲの一匹が空洞の奥へ移動した。


「あれ?」


 クラゲは水面を漂い、壁際にある細い隙間へ近づいていく。


 そして、隙間の前で一度だけ光った。


 白雪は立ち上がった。


「そっちに何かあるの?」


 隙間は狭く、人が通るには少し窮屈そうだった。


 しかし、白雪なら身体を横にすれば通れそうだ。


「行ってみよう!」


 水泡クラゲに続いて、白雪は隙間へ入った。


 ◇


 隙間の向こうは、小さな円形の部屋だった。


 天井は低く、中央には浅い水盤が置かれている。


 水盤の周囲には、青い石が四つ並んでいた。


「ここも水の部屋だ!」


 白雪は水盤を覗き込んだ。


 水は澄んでいて、底に小さな模様が見える。


 中央には丸い窪みがあり、その周囲に四本の線が伸びていた。


「何だろう?」


 白雪は水盤の縁に手を置いた。


 すると、青い石の一つが淡く光った。


「お?」


 もう一つの石も光る。


 三つ目、四つ目。


 四つの石が順番に光り、水盤の底に描かれた模様が浮かび上がった。


 白雪はその模様を眺めた。


 丸い窪みから四本の線が伸び、それぞれ壁の方へ続いている。


 壁を見ると、同じ位置に小さな穴が四つあった。


「ここにつながってるのかな?」


 白雪は壁の穴を一つずつ確認した。


 どれも同じ大きさで、奥には何かが詰まっているように見える。


 試しに指で触れてみると、穴の中から小さな水が流れ出した。


 ぴゅっ。


「わっ!」


 指先に水がかかった。


 白雪は驚いて手を引っ込める。


 すると、水盤の水位が少しだけ下がった。


「あれ? 水が減った?」


 もう一度穴に触れてみる。


 今度は別の場所から水が流れ出した。


 水盤の水が、少しずつ四つの穴へ流れているようだった。


「なるほど……」


 白雪は水盤の縁にある青い石を見た。


 一つずつ触れると、穴から流れる水の量が変わる。


 四つの石を何度か触っているうちに、水盤の水がすべて流れ出した。


 その瞬間、中央の丸い窪みが光った。


 カチン。


 水盤の底が少しだけ開き、小さな箱が現れる。


「開いた!」


 箱の中には、青い結晶と小さな金属片が入っていた。


 《入手しました:水脈晶片》

 《入手しました:水盤の留め具》


「また素材!」


 白雪は嬉しそうにアイテムをしまった。


 水盤の仕掛けを解いたことで、イベントポイントも加算された。


 しかし、白雪はもう次のことを考えていた。


「水、全部なくなっちゃったね」


 空になった水盤を覗き込む。


「また水を入れたら、動くのかな?」


 白雪は水を取り出して、少しだけ注いでみた。


 ちゃぽん。


 何も起きない。


 もう少し注ぐ。


 やはり変化はない。


「うーん。違うのかぁ」


 残念そうに水をしまった。


 そのとき、背後から小さな鳴き声が聞こえた。


 キュッ。


 振り返ると、水泡クラゲが隙間の入口で揺れていた。


「待っててくれたの?」


 クラゲはふわりと水面へ戻っていった。


 白雪も後を追い、元の空洞へ戻る。


「そろそろ行こうかな」


 水泡クラゲたちに手を振り、白雪は滝の裏から外へ出ることにした。


 ◇


 黒羽は《根晶の守り手》を倒したあと、奥の明るい空間へ進んでいた。


 そこは先ほどまでの地下空間とは違い、天井の一部が崩れていて、上から淡い光が差し込んでいる。


 床には苔が生え、小さな草がいくつも伸びていた。


「地下なのに植物が育っているのね」


 黒羽は周囲を確認しながら歩く。


 空間の中央には、古い石碑が立っていた。


 石碑には細かな文字が刻まれているが、すべてを読むことはできない。


 ただ、中央には根の模様が描かれていた。


 黒羽が近づくと、石碑の根元に小さな光が浮かぶ。


 《探索記録を確認しました》

 《イベントポイントを獲得しました》


「ここも探索対象だったのね」


 黒羽は石碑の周囲を調べた。


 足元には小さな結晶が落ちている。


 《入手しました:古樹の結晶片》


 さらに、石碑の裏側には小さな木箱が置かれていた。


 中には古い金属片と、緑色の石が一つ。


 《入手しました:根紋金属》

 《入手しました:深緑石》


 黒羽はアイテムをしまった。


「これで一通りかしら」


 周囲に魔物の気配はない。


 ここまでの探索で、かなりの素材とイベントポイントを獲得できた。


 黒羽は一度、現在のイベント状況を確認する。


 順位は変わっていない。


 白雪が一位、黒羽が二位。


「白雪はまたどこかで見つけたんでしょうね」


 黒羽は小さく笑った。


 あの自由奔放な友人なら、イベントの仕組みなど気にせず、どこかで何かを見つけているに違いない。


「私もそろそろ戻る時間を考えないと」


 黒羽は来た道を戻ることにした。


 ◇


 ユウマは《白晶の岩蜥蜴》の攻撃を避けていた。


 岩蜥蜴は水の塊を吐き出したあと、再び突進してくる。


 ユウマは横へ跳び、柱の陰へ回り込んだ。


 ドンッ!


 岩蜥蜴が柱へぶつかる。


 しかし、柱は先ほどの衝撃で崩れてしまったため、今度はそのまま床を滑るように進んできた。


「まだ止まらないか!」


 ユウマは剣を構えた。


 岩蜥蜴が体をひねり、尾を振る。


 ユウマは後ろへ下がって攻撃を避けた。


 その直後、岩蜥蜴の背中に残っていた水晶が光る。


「また何か来るのか?」


 水晶から細かな光の粒が飛び散った。


 ユウマはすぐに横へ移動した。


 光の粒が床に落ちる。


 その場所から、小さな水の結晶が生えてきた。


「地面に結晶を作るのか……!」


 足元がさらに動きにくくなる。


 ユウマは周囲を見回した。


 戦いが長引けば不利になる。


 残りの水晶を破壊するためにも、攻撃の隙を作らなければならない。


 ユウマは岩蜥蜴の正面へ出た。


「来い!」


 岩蜥蜴が突進する。


 ユウマはぎりぎりまで引きつけ、横へ跳んだ。


 岩蜥蜴はそのまま床に突っ込む。


 今度は柱がない。


 勢いを止められず、岩蜥蜴は広間の端にある岩壁へ激突した。


 ガガンッ!


 その衝撃で、背中の水晶が大きく揺れる。


 一つが根元から割れた。


「よし!」


 ユウマはすぐに駆け寄った。


 剣を振り下ろす。


 水晶が砕け散る。


 残りは二つ。


 岩蜥蜴は大きく体を震わせ、低い唸り声を上げた。


「あと二つだ!」


 ユウマは一度距離を取る。


 まだ体力は残っている。


 しかし、油断すれば危険な相手だ。


 ユウマは相手の動きを見ながら、次の攻撃に備えた。


 ◇


 白雪は滝の裏から外へ出て、草原へ戻っていた。


「いっぱい見つけたなぁ」


 水泡クラゲに水貝モモン。


 水音晶片に水脈晶片。


 インベントリには、また新しい素材が増えている。


「あとで整理しようっと」


 そう言いながら、白雪は空を見上げた。


 ゲーム内の空は、少しずつ夕方の色に変わり始めていた。


 イベントの二日目も、そろそろ終わりが近い。


「まだ時間あるかな?」


 白雪は周囲を見回した。


 遠くには草原が広がり、少し先には岩場が見える。


 もう少しだけ探索できそうだ。


「じゃあ、もうちょっとだけ!」


 白雪は再び歩き出した。


 今日の探索は、まだ終わっていない。


 そして、イベントの二日目もまだ続いているのだった。

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