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第101話 草原を舞う白い影

 草原を吹き抜ける風に、白いものがひらひらと揺れていた。


「……なんだろう?」


 白雪は目を細める。


 少し離れた場所にある、小さな丘。


 その斜面で、白い何かが草の上を転がっている。


 布の切れ端にも見えるし、大きな綿毛にも見える。


「ふわふわしてそう!」


 白雪はそちらへ歩き始めた。


 近づいてみると、それは地面に落ちていた白い羽根だった。


 ただの羽根にしては大きく、先端には淡い青色が混じっている。


「羽根だ!」


 拾い上げようとした瞬間、風が吹いた。


 ふわっ。


 羽根が宙へ舞い上がる。


「あっ!」


 白雪は慌てて手を伸ばした。


 しかし、羽根は指先をすり抜け、そのまま丘の向こうへ飛んでいく。


「待ってー!」


 白雪は走り出した。


 羽根は風に乗って、上がったり下がったりしながら草原を進んでいく。


 白雪もそれを追いかける。


 途中、草の根に足を取られそうになったが、軽く跳んで避けた。


 羽根は小さな岩の上に落ちる。


「やっと捕まえた!」


 白雪が手を伸ばす。


 その瞬間、羽根が再び舞い上がった。


「ええっ!?」


 羽根は岩の向こう側へ。


 白雪は少しだけ頬を膨らませた。


「もう、逃げないでよー」


 もちろん羽根に意思があるわけではない。


 ただ、風が吹いているだけだ。


 それでも白雪は、羽根に追いかけっこを挑まれたような気分になっていた。


 羽根を追いかけて丘を越えると、そこには背の低い白い草が広がっていた。


 風が吹くたび、草の穂先が一斉に揺れる。


 その中に、白い羽根がいくつも混じっていた。


「わあ……!」


 白雪は足を止めた。


 白い草の間を、綿毛のようなものが漂っている。


 その向こうで、小さな影が跳ねた。


 ぴょん。


「ん?」


 もう一度、ぴょん。


 白い影は草の中を移動している。


 白雪が近づくと、影はぴたりと止まった。


 草の間から顔を出したのは、小さな鳥だった。


 全身は白く、翼の先だけが淡い青色。


 頭には短い羽根が二本立っている。


「鳥さんだ!」


 白雪が声を上げると、鳥は翼を広げた。


 ばさっ。


 そして、地面から少しだけ浮かび上がる。


 しかし、すぐに草の中へ降りてしまった。


「あれ? 飛ばないの?」


 白雪はしゃがみ込んだ。


 鳥は警戒するように、少しだけ距離を取る。


 白雪は追いかけず、近くに落ちていた白い羽根を拾った。


 《風羽根》


「これ、さっきの羽根と同じかな?」


 手のひらに乗せて、そっと息を吹きかける。


 羽根はふわりと浮かび、鳥の方へ流れていった。


 鳥はそれを追いかけるように、ぴょんぴょんと跳ねた。


「ふふっ。羽根が好きなの?」


 鳥は羽根をくちばしでつついた。


 そして、羽根をくわえたまま、草の奥へ走っていく。


「あっ、そっち?」


 白雪も後を追った。


 草の奥には、小さな窪みがあった。


 周囲には白い草が生え、窪みの中央には細長い石が何本も突き出している。


 風が吹くたび、石の隙間を通り抜けて音が鳴った。


 ひゅう……。


 ひゅるる……。


「笛みたい!」


 白雪は石の前にしゃがみ込んだ。


 石の先端には小さな穴が開いている。


 試しに、近くの石を指で軽く叩いてみた。


 こん。


 音が響く。


 別の石を叩く。


 こん、こん。


 少しずつ音が違う。


「おもしろい!」


 白雪は次々と石を叩いてみた。


 すると、風が吹き抜けた。


 ひゅううう……。


 石の穴から音が鳴り、窪み全体に不思議な音色が広がる。


 白い鳥が、窪みの中央へ跳ねてきた。


 そして、翼を広げる。


 ばさっ。


 一瞬だけ、鳥の体が風に持ち上げられた。


「おおっ!」


 白雪も真似して、その場で跳んでみた。


 ふわり。


 風が足元を押し上げる。


「わっ!」


 思ったより高く跳び上がり、白雪は慌てて着地した。


「びっくりした!」


 もう一度、石の音に耳を傾ける。


 風の向きが変わると、音の高さも変わっているようだった。


 白雪は風が吹く方向へ顔を向ける。


 右から左へ。


 今度は左から右へ。


 風の流れを追いかけるように、何度か体の向きを変えた。


 そのとき、視界に通知が表示された。


 《風音感知》を習得しました。


「おっ?」


 白雪は通知を見つめた。


「風の音がわかるようになったのかな?」


 試しに目を閉じてみる。


 ひゅう。


 草が揺れる音。


 石の隙間を抜ける音。


 遠くで枝が擦れる音。


 今まで気にしていなかった音が、少しだけはっきり聞こえる気がした。


「おお……」


 白雪は目を開けた。


「でも、何に使えるんだろう?」


 すぐに考えるのをやめる。


 今は目の前の鳥の方が気になった。


 白い鳥は、石の上に乗っていた。


 白雪が近づくと、鳥はくちばしを開いて小さく鳴く。


 ぴい。


 その声に合わせるように、周囲の石がかすかに震えた。


「今の声で鳴ったの?」


 白雪は鳥の前にしゃがみ込んだ。


 鳥は白雪を見つめると、今度は翼を広げた。


 ばさっ。


 ふわり。


 今度は先ほどより少し長く空中に浮かんだ。


 そして、白い羽根を一枚落としていく。


「くれるの?」


 白雪は羽根を拾った。


 《風鳴り鳥の羽根》


「ありがとう!」


 鳥はもう一度、ぴいと鳴いた。


 そのとき、イベント通知が表示された。


 未登録の生物を発見しました。


 《風鳴り鳥》の生息地を発見しました。


 イベントポイントを獲得しました。


「おおっ、また発見!」


 白雪は嬉しそうに笑った。


 鳥は窪みの奥へ歩いていく。


 その先には、白い草がまとまって生えている場所があった。


 白雪もついていく。


 草の根元には、小さな青い実がいくつも落ちていた。


 《風鳴り青実》


 さらに、少し離れた場所には、細い青色の草が生えている。


 《風音草》


「いろんな草があるね」


 白雪はそれぞれ少しずつ採取した。


 そして、風鳴り青実をひとつ手に取る。


 表面は薄い青色で、先ほど食べた風穴青実によく似ていた。


「こっちはどんな味かな?」


 白雪は実を鼻に近づけた。


 ほのかに甘い香りがする。


「いただきます」


 小さくかじる。


 しゃくっ。


「んー……」


 口の中に広がったのは、爽やかな甘さだった。


 後味には、ほんの少しだけ清涼感がある。


「おいしい!」


 今度は特に変な感覚もない。


 白雪は残りも食べてしまった。


 《味覚》の熟練度が上昇しました。


「ふふっ。これは当たり!」


 白い鳥は、そんな白雪をじっと見ていた。


 その後も、白雪は窪みの周辺を歩き回った。


 白い草の中に隠れた小石を拾ったり、風で動く羽根を追いかけたり。


 鳥が飛び立つたびに、その後を追いかけてみたり。


 気づけば、窪みの周囲を何度も往復していた。


 そして、ふと足元に違和感を覚える。


「……ん?」


 地面に、小さな丸い穴がいくつも開いていた。


 穴の周囲には、白い羽根が集まっている。


 白雪はしゃがみ込み、ひとつの穴を覗いた。


 中から、微かな風が吹き上がってくる。


「また穴だ!」


 近くの羽根を拾い、穴の上に置いてみる。


 羽根はふわりと浮き上がり、少しだけ空中を漂った。


「おおっ!」


 白雪は別の羽根も置いてみた。


 今度は二枚。


 二枚の羽根がくるくると回りながら浮かび上がる。


「きれい!」


 その様子を見ていた風鳴り鳥が、穴の近くへやってきた。


 鳥はくちばしで地面をつつく。


 すると、穴の周囲の草が揺れ、少しだけ土が崩れた。


 その下から、小さな青い石が姿を現す。


「石だ!」


 白雪は指先で土を払った。


 《風鳴石片》


 拾い上げると、石の中に細い線のような模様が走っている。


「さっきの石と似てるね」


 白雪が石を眺めていると、風鳴り鳥が再び鳴いた。


 ぴい。


 すると、周囲の穴から一斉に風が吹き上がる。


 白い羽根が舞い上がり、窪み全体を包み込んだ。


「わああっ!」


 白雪は思わず両手を広げた。


 羽根が髪や肩に乗り、マントの上を滑っていく。


 まるで、白い羽根の雨だった。


 そして、視界に通知が表示された。


 《風鳴り鳥》の生息地周辺を探索しました。


 地形の特徴を発見しました。


 イベントポイントを獲得しました。


「やった!」


 白雪は満足そうに頷いた。


 鳥は羽根の舞う中を、軽やかに跳ねている。


 白雪も一緒になって、何度かその場で跳んだ。


 ふわり。


 風が足元を押し上げる。


「これ、楽しい!」


 一方、その頃。


 黒羽は根に覆われた通路の奥で、足を止めていた。


 先ほど宝箱を開けた部屋から続く道は、細く曲がりくねっている。


 その先には、木の根が複雑に絡み合った壁があった。


「ここが最後の仕掛けかしら……」


 黒羽は周囲を観察する。


 壁には三つの小さな穴があり、それぞれの奥に淡い光が見える。


 近くには、先ほど宝箱から見つけた板と同じ紋様が刻まれていた。


「この板が鍵になっているのね」


 黒羽は板を壁のくぼみに差し込んだ。


 すると、三つの穴の奥で光が強くなる。


 しかし、壁は動かない。


「……順番がある?」


 黒羽はそれぞれの穴を調べ始めた。


 ユウマは、水場に現れた大型の魔物と対峙していた。


 《水晶水亀》。


 青白い水晶を甲羅にまとった、大型の亀型モンスターだ。


 甲羅の表面には水が流れ、周囲の水面を揺らしている。


「硬そうだな……」


 ユウマは剣を構えた。


 水晶水亀が前脚を持ち上げる。


 次の瞬間、水面が大きく盛り上がった。


「っ!」


 ユウマは横へ跳ぶ。


 水の塊が地面に叩きつけられ、岩を砕いた。


「まともに受けるのはまずいな」


 ユウマは距離を取りながら、亀の動きを観察する。


 甲羅は硬い。


 正面から攻撃しても、大きなダメージは期待できない。


 ならば、狙う場所は別にある。


 ユウマは剣を握り直し、再び前へ出た。


 そして白雪は。


「そろそろ戻ろうかな」


 風鳴り鳥と遊び終えた白雪は、草原の方を振り返った。


 気づけば、かなり時間が経っている。


 イベントの残り時間も少しずつ減っているはずだ。


「今日はいっぱい見つけたね!」


 白雪はアイテム欄を確認した。


 羽根に草、実に石。


 また、いろいろ増えている。


「これ、何に使うんだろう?」


 ひとつずつ確認することはせず、そのまましまっておいた。


 必要になったら考えればいい。


 白雪は風鳴り鳥に手を振る。


「またね!」


 鳥は翼を広げ、草原の向こうへ飛び立った。


 白い羽根が一枚、風に乗って白雪の前を通り過ぎる。


 今度は追いかけず、ただ見送った。


「ふふっ」


 白雪は空を見上げる。


 イベント2日目は、まだ終わっていない。


 そして、草原にはまだまだ知らない場所がありそうだった。

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