第7話 神牛ロベルトの手紙~親愛なる野蛮なエーレントへ~(春の十二支会議最終日にて)
末尾加筆・挿絵差替えver.
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親愛なる 野蛮なエーレントへ…
〜ある春の十二支会議の最終日にて〜
リヒト嬢が、大神殿を去ってしまった。
感情を失った13歳の少年シリウス様の心を恋に落とし、
そして、おそらくは、リヒト嬢自身も、シリウス様に恋をしたまま…
この日、この時まで、
シリウス様の感情再生計画は、
予想を遥かに超えて、順調に進んでいたんだよ。
神鼠のシリウス様が、
猫族のリヒト嬢のことで怯えたり、目を丸くしたり…
そんなことから、あっという間にシリウス様の感情の幅は広がっていった。
シリウス様は、
リヒト嬢を恐れると同時に、
一目ぼれしたんじゃないかと思う。
私は赤ん坊のときから世話をしていたから、
すぐに分かった。
シリウス様が、あの少女に心を奪われ続けたのは、よく分かる。
私もステファニーも、初めて話したときから、
リヒト嬢には驚きしかなかったから。
物事の一番大事なことを瞬時に掴み取る聡明さ…
そしてそれを守る覚悟と勇気がある。
その過程で不要なものはあっさり捨てる。
若干独善的な気もするけど、筋が通っていて、優しい。
それなのに、猫族としての属性は凶暴で、
常にシリウス様を憎悪してしまう。
彼女自身は、それを止めようと必死なのに。
こんな少女に、シリウス様のような気高い方が、心を奪われない方がおかしい。
蝋人形のように淡々と、毎日、国家のために尽くして生きていたシリウス様が、
こっそりとリヒト嬢を見つめたり、
何気ないふりをしてリヒト嬢の予定を確認したり、
何かといえばリヒト嬢に近づこうとしたり、
リヒト嬢にムッとしたり、我儘を言ったり…
初めて見る、少年らしいシリウス様…
本当に希望溢れる光景だったよ。
*****
でも、それが、昨晩、一瞬で崩れ去ってしまった。
リヒト嬢が、シリウス様を血まみれにするほど襲ったのは、最初に会ったときだけ。
それ以降は、リヒト嬢は鎮静剤を定期的に打っていたし、
近くに護衛もいるから、
獣化したとしても、そこまでの事態にならなかった。
なのに、急に、
シリウス様の口元を食いちぎったんだ。
…リヒト嬢の部屋で、
…二人きりの時に。
絶望のどん底にいるシリウス様にとても問いただせなかったが、
私は、まだ13歳の…
でも、大人びているシリウス様が、
リヒト嬢に手を出そうとしたのでは?と思っている。
そう考えれば、リヒト嬢が激しく獣化したことが理解できる。
なにせ、君が生きていた200年前など、
神鼠と猫族が(性的な意味で)触れ合えないことは、公然の秘密・秘密の常識だった。
今の人たちときたら、知らないんだよ。
私がうっかり、シリウス様とリヒト嬢を少年少女と思って、微笑ましくみている間に、
竜巻のように、全てが終わってしまった。
**********
君は、死ぬ前、君の目玉を私に無理やり飲み込ませて、こう言ったね。
「アンタはいつか、復活の儀を使うときが来る。」
私が、その意味を実感することはついぞなかった。
テレシウスが猫族を殲滅した後、
君には悪いが、ひどく国は安定したからね。
私は何代もの神鼠の守護獣・神牛として、君の死後200年くらい生きた。
少々長生きに疲れてきていたときに、シリウス様が誕生した。
長命の私ですら見たことがない恐るべき神通力、
頭脳、身体、聡明で気高い性格を目の当たりにしたとき、
「私が時代に神牛を譲るときが来た」と思ってホッとした。
この方が大王である限り、数十年はツヴェルフェトは安泰だろうから。
…その時に、誘拐戦争が起こって、シリウス様が誘拐されてしまったんだ。
****
私が、君を復活させようと思った一度目は、
誘拐から2年後にシリウス様を救出した後、隣国クラウンよりも、
自国ツヴェルフェトの各州独立派が、誘拐戦争の手綱を握っていたと知ったときだ。
怨霊祭を行えば、私を含め、【十二支】は神通力を失い、
【十二支を王とする統治】のシステムは崩壊する。
各州独立派にとってみれば、むしろ渡りに船かもしれないが、
怨霊祭の場合、忌数9人の十二支は死ぬのだし、その後継承する者が現れたとしても、
すぐに独立派のいいようには動かないだろう。
これに対して、シリウス様は、神通力を除いても素晴らしい能力を持っていて、
人望も極めて厚い。
私とエーレント(が依拠する十二支の誰か)が支えれば、十分に新しい統治体制を築けるだろう。
その統治体制を築く途中で、そう、私はテレシウスになる。
テレシウスが、国家の安定のために泥をかぶったように、
各州独立派を殲滅しよう。
シリウス様の代わりに、完膚なきまでに。
いや…むしろ、各州独立派の生ゴミ共を殲滅することが目的かもしれない。
とにかく、私は、あの、
身勝手な大義名分のもとにシリウス様を穢した悍ましい肉欲のクソ共を、
末代にわたるまで、塵一つ残らないように粉砕して、
反吐を吐きかけたかった。
******
しかし、7歳で大神殿に戻ったシリウス様は、実に立派だった。
誰も恨まず、
妬まず、
憎まない。
感情をなくしているものの、
いつも穏やかで、堂々としている。
ずば抜けた頭脳と身体能力と、
それを支える健康そのものの肉体。
その姿を見ているうちに、
200年以上生きている私が、生ゴミ共に囚われてどうする、と思い直した。
しばらくすれば感情も戻るだろう。
それなら、シリウス様を支えて、穏やかに、この国を守ればよい。
…
私は、復活の儀を行うことをやめた。
これが、一度目のことだった。
*******
でも、1年経っても2年経っても…
何年経っても、シリウス様の感情は戻らなかった。
我々が代理できる幼いときはよかったが、
12歳を過ぎて、身体も大きくなり、一人で公務をされることが増えたとき、
無表情で、笑うこと一つない様子に周囲も違和感を覚え始めた。
何せ、誘拐戦争で虐待を受けたことや、
感情を失っていることは、十二支や血の誓約を行った者以外は知らないのだから。
特に、大王の仕事として行う強大な神通力の操作は、
感情がないまま進められるとは到底思えない。
私も、その他の十二支の王もただ焦るばかりだった。
…そこで登場したのがリヒト嬢というわけだ。
********
リヒト嬢が与えるシリウス様の幸せに、私が酔いしれ、
久々に、ようやく死ねると安堵したところで、
この事件が起こり、リヒト嬢は去ってしまった。
それでも、今日も、気高いシリウス様は、苦悩を押し隠し、
大王としての責務を果たそうとしておられる。
だから…
今回も、君を呼び起こす復活の儀は行わないことにするよ。
ではまた、いつか会う日まで
ロベルト
(追伸)
ああ、神犬クロエ嬢だけは、今日殺しておいたよ。
あの子は、シリウス様がこんな悲惨な状況だというのに、
自分だけ幸せになろうとしたんだ。
それだけで、死ぬ価値があるだろう?
(次話へ続く)
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/
第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/
第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/
カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067




