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第6話 誘拐戦争の記憶「ゴテスベルクを開放しろ」に …たどり着いた

挿絵追加ver.


第Ⅴ章開幕


物語の登場人物・世界の【総まとめ】はこちらの短編を:

https://ncode.syosetu.com/n3739lz/

挿絵(By みてみん)


『ロベルトは…貴女を失って、僕が苦しんでいたから…

怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)】が、

最終的には自分も僕も死ぬことになる儀式とも知らずに…

エーレントを【復活祭(パスハ)】で復活させたんですね。


ああ…でも…』


僕は、顔を開いてリヒトさんを見た。


『エーレントは今、どこに…』


リヒトさんは秘儀書の図を指さした。


『12の〇の一つが…うっすら身体まで書かれているでしょう?

ちょっと消えかかっているけど、【儀の初めに…柱来たりて…その魂を贄…身体をば棲み処…】』


僕は思わず唸り声を上げた。


『なんてこと…なんてことだ…!』


しかし、僕はすぐに冷静にリヒトさんの目を見た。


『十二支の一人は、魂を抜かれて、怨霊エーレントの棲み処となっているんですね。三年前から。』


リヒトさんは小さく頷いた。


『私は、10月の十二支会議で久々に王様たちに会ったけど、この三年間のことは知らない。

…誰か、思い当たる人はいる?』


僕は、額に手を当てた。

大王の地位にある者の迂闊な疑いは、大きな不幸を呼ぶ。


しかし、僕が思い当たる人間はたった一人しかいない。


『…います。』


僕は、リヒトさんの耳に口を寄せて、その名をささやいた。


リヒトさんは息を飲んで、「そう…」と呟く。


『近日中に、この調査結果をまとめて、十二支に報告する緊急会議を招集します。

その時に…オスカーを呼んで、話を聞きましょう。

本人に聞くよりも確実で、動きやすい。』


リヒトさんは頷いて、心配そうにソロリと僕の手に、指を添えた。

たまらずに、僕はその指を額の刻印に持って行く。


『ロベルトは、復活の儀でユーリの魂を奪い、

クロエを殺して…

テオも殺そうとして…』


『フレドリック様も…まだ子供で、しかも、双子の妹に恋していたから…

心の闇に食われるような罠をかけたのかもしれない。』


『フレディに直接手を下したのはロベルトだ。

フレディを【闘牛】で粉砕したのに、猫の天神で、頭部があったでしょう。

僕、あれが不思議だったんです。でも、今なら分かる。』


『そう…あの瞬間にエーレントが空間操作をして、首だけ猫の天神に送っていたのね。』


『律義に死体に【垂涎】まで掛けて、腐らないようにしたんだな…

愚かなロベルトだ。

僕を救おうと、こんな狂ったことを…』


僕は、これまで思い出さないようにしていたこと…

幼いころから共に過ごしたロベルトの穏やかな笑顔が頭をかすめ、

一瞬言葉に詰まった。


しかし、それを振り払う。


『リヒトさん、結局、ロベルトが死んで、

神鼠を倒すための、

怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)】は頓挫したのでは?』


『そう、頓挫した。


でも、200年前の猫族の王が、どんな人か知らないけど、

怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)】が頓挫したからって、ハイそうですかって、

ユーリ様として生きていく人かしら?』


『…エーレントは、


今、スクリーチ州で盛んな煙草産業の始祖。

実際、エーレントの作った技法書や道具は今でも使われています。


猫族を守るために戦い、

この秘儀書まで作っていた人物…


処刑のときも誇り高さを失わず、

遺体から自然と炎が上がったとか、

テレシウスの方が恐れおののいて、

髪が真っ白になったとか伝わっていますよね?


歴史的に語り継がれるほどの器と力…


怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)】が頓挫したとしても、

神鼠を倒すための別の手段を考えるでしょうね。』


『炎とか白髪の話は、虚実入り乱れている気がするけど。』


リヒトさんは、思慮深い夕日色の瞳を書物に向けて、

冷静に呟いた。


窓に目を向けた僕は、すっかり夜も更けていることに気付いた。


『さあ、もう遅くなりました。

その【別の手段】が何かは、僕たちの今度の課題にしましょう。』


『…そうね!』


リヒトさんは机に準備された菓子を手に取り、僕に渡してから、

自分も『何味かな?』と言いながら口に入れる。


可愛い口の動きに一瞬目を奪われる。

僕は、慌てて、少しリヒトさんに身体を寄せて、書物をめくり始めた。


が、ふいに一つのページで手を止めた。


僕が、『これは?』とそのページを指さすと、リヒトさんは固まった。


『…これは…』


僕は笑いをこらえる。


実は、僕も、古代語の素養があるのだが、これは…


リヒトさんは懸命に言葉を選ぶ。


『夜…その…エーレントが…あの…』


とうとう僕が吹き出して、


『いや、ごめんなさい。言わなくていいですよ。

エーレントが、秘儀を使って女性と楽しもうとしていたんでしょう?』


と言うと、リヒトさんは猛然とプリプリし始めた。


『なによ!古代語読めるくせに!シリウスが解読すればよかったじゃない!』


僕が『では、今度一緒に読みましょう。』というと、

さらにプリプリして、立ち上がってしまった。


結婚したら、絶対に、一緒に読もう。

絶対に。


*********


ふと、僕は秘儀書の最後のページに書かれた古代語を読み上げた。


『【怨霊(ゲシュペンスト)(フェスト)】…

これにより…

ゴテスベルクが…開放され…

神通力の路が…閉ざされる…』


突然、僕の目の前が真っ暗になった。


僕の悍ましい記憶がガリガリと爪を立てて露わにされる。


「ゴテスベルクを開放しろ…」

「ゴテスベルクを開放しろ…」

「ゴテスベルクを開放しろ…」

「ゴテスベルクを開放しろ…」

「ゴテスベルクを開放しろ…」

「ゴテスベルクを開放しろ…」

「ゴテスベルクを開放しろ…」


息が苦しい…胸が弾けそうに圧迫される…苦しい…


『どうしたの?大丈夫?…大丈夫じゃないね、絶対!』


リヒトさんは僕を腕一杯に抱き締めて、背中を強くさする。


『またテレシウス?心臓が痛い?…楽にして…

どこをさすってほしい?胸?』


リヒトさんは背中も胸もさすってくれる。


『大丈夫だからね…楽になるまでここにいるから…』


ようやく、僕の息苦しさは遠のいていく。

でも、僕は、すぐには動かなかった。


【楽になっても、ならなくても、

ずっと、

ずっと、

僕のそばにいて】


そう思いかけたが、また息苦しくなりそうで…


そのときの僕は、

ただ身を寄せて、

彼女の温かさに身を任せることにしたのだった。



この調査報告の後、

リヒトさんが死にかけた、毒殺未遂の事件が起こったのだ。


**********


時を戻そう。

今は、そう、僕がエーレントに、

男として、婚約者として完敗して、

テレシウスと彼について語らった…その朝だ。


僕は気持ちの良い朝日を感じて、パチリと目を開け、

しばらくあれこれ思い出していた。


そうだ。

何はともあれ、リヒトさんは生きている。

生きて、僕のそばにいる。


僕は…

僕こそ、

その幸せを忘れちゃだめだ。


僕はベルを鳴らすと、すぐに風呂に向かう。


風呂には、やけに良い香りの花びらやなんかが浮かべられている。

朝の予定で会う人物が、こういった香りが好みなのか?

まあいい。


僕の風呂場からは、空が見える。

ああ、気持ちがいい。


この香りもいい。

もじもじ僕を見上げるリヒトさんみたいだ…


結婚したら、この浴槽から、二人で空を見て…


一瞬で僕の耳に火がともる。


こういうことをすぐに考えるから!僕は!!!


しかし、僕の手は、すかさず、

彼女の胸の感触をありありと思い出した。



…そういうわけで、僕は、この場では、衝動に抗うことを、

すっぱりと観念することにしたのだった。



十二支と神鼠は猫に「こい」


第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/

第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/

第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/

第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/


カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067


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