第4話 神鼠シリウスと虐殺王テレシウス 猫王エーレントを語り合う
第Ⅴ章開幕
物語の登場人物・世界の【総まとめ】はこちらの短編を:
https://ncode.syosetu.com/n3739lz/
何もかもが、頭と胸の中で渦を巻いている。
さっきの僕はなんだ?
離れ離れの三年間に鍛えた身体で、
獣化したリヒトさんに対抗したまではいいが、
そのあとは凍り付いて、
リヒトさんを命の危険にさらしてしまった…。
木偶の坊のように立ったまま、
まともなことは、一言もエーレントに言えなかった。
リヒトさんに、【男として好かれたい】?
それどころじゃない。
こんなことでは、リヒトさんが、
僕のことを【男として見てくれる】ことすら難しい。
…さっき、僕が、テレシウスに変化していたら、どうなったんだろうか。
テレシウスなら、「ハッ!」と言いながら、
堂々と胸を張って、エーレントとのやり取りを愉しみそうだ。
それに…そうだ…
テレシウスは、猫族への恐怖がないと言っていた。
僕は乗っ取られていたからか、記憶が曖昧だが…
その理由を、何か言っていた気がする。
僕は思わずつぶやいた。
「テレシウス…さっきみたいなときこそ、出てこればいいじゃないか…」
一度つぶやくと、意外と平気になって、
もう少し大きな声を出した。
「なぜ出てこない?
『地獄でエーレントにあわせる顔がない』と言っていたな?
…本当は、自分が処刑したエーレントに、会いたいのか?」
その途端、僕の心臓が、引きちぎられるように痛んだ。
テレシウスだ。
僕は、拳を握りしめ、歯を食いしばった。
「ここは地獄じゃないが、会えばいいじゃないか。
僕の身体を貸してやる。」
(ハッ…私は会わん。)
「エーレントは…何なんだ、あの男は?
僕は、リヒトさんを盗られそうだ。」
(ハッハッハッハッ!!!!!!)
頭の中で、驚くほどテレシウスが笑っている。
(おい、貴様、それを認めるのか?
ハッハッハッハッ!!!!)
「だって…どう見ても、そうじゃないか。
あんな魅力のある男に言い寄られているんだ。
…見た目も良くて…」
(見た目?
あのチビガキが?
…ハッ、実物は、もっと良かったぞ?)
「エッ!?そうなのか?」
僕は起き上がって、急いで机の本をめくり、
【二百年前の悲劇の王エーレント】という絵が載っているページを開いた。
「見ろ。僕たちが教えられているエーレントは、これだ。」
(ハーッハッハッハッハッ!!
最高だな!!
エーレント!!!
貴様はこうなったぞ!!!
ざまを見ろ!!!
ハッハッハッハッ!!!)
大笑いするテレシウスの言葉が、僕の胸を刺した。
その声に…あまりにも親愛が、溢れていたから。
親友同士で肩を組んで笑い合うような…
「さっき、『猫族好きのバカと女を漁った』と言ったとき、
エーレントは、僕を…すごく悲しそうに見た…
…すごく寂しそうに…」
僕が言うと、テレシウスはピタリと笑いを止めた。
「その『バカ』は…
…お前じゃないのか?テレシウス…」
その瞬間、僕の心臓は飛び上がるほど締め付けられた。
やはりそうなのか…
200年前、猫狩りをした残虐王テレシウスと処刑された猫族の王エーレントは…
…友と友の間柄だったのだ。
******
友人だったのでは?ということは…リヒトさんと話していた。
しかし、実際にそうと分かると、僕の心は行き場を失いそうだ。
一連の事件の、終局的な悪者はいないのか?
僕は、猛烈にリヒトさんに会いたくなった。
このことをリヒトさんに、今すぐ話したい。
何に困惑しているのかも分からないけれど、
ただ、今は、手を繋いで、刻印を寄せ合って、
ギュッと抱き締め合って、共に道に迷ってほしい。
しかし、僕は、一度目を強くつぶると、言葉を続けた。
「テレシウス…
エーレントの復活と、お前の出現は何か関係があるのか?
いや、関係ないわけがない。
何か術を行ったのか?
鼠の怨霊にでもなって、エーレントがいつか復活したときに…」
(五月蠅い。ガキは早く寝ろ。)
「…分かった。今は寝るよ…」
その瞬間、僕は、自分の言い出した約束を思い出した。
「ランチは…どうなるんだろう…」
(女々しい野郎だ。約束を守らん奴は死ね。)
僕は、鼠族のテレシウスを友としていた、エーレントの気持ちが分かる気がした。
男らしく、
清々しく、
優しい。
濡れたタオルで頭や体をゴシゴシ拭いて寝台に向かったが、
ふと思いついて、先ほどの書物をめくった。
「テレシウス。」
(なんだ。)
「…こっちの絵が、お前だ。」
僕は、「猫狩りを行った暴君 虐殺王テレシウス」と書いた絵を指さした。
(…ああ?…なんだ。つまらん。)
「似ているのか?」
(ハッ!!そっくりだ!!!)
思わず僕は吹き出した。
「そうなのか!エーレントは似てないのに?」
(ハッ!ざまあ見ろ、エーレント!!)
やけに嬉しそうだ。
僕は寝台に転がった。
まだ2,3時間は寝られそうだ。それで十分。
僕はすぐにウトウトとし始めた。
眠りに引きずり込まれる瞬間、
遠くの方で、テレシウスの声がした。
「ざまを見ろ…
…貴様が…
…私を…
許さないから…だ…」
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/
第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/
第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/
カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067




