表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/21

第3話 僕は 男として 婚約者として エーレントに完敗した

挿絵差替えver.


第Ⅴ章開幕


物語の登場人物・世界の【総まとめ】はこちらの短編を:

https://ncode.syosetu.com/n3739lz/

挿絵(By みてみん)



突然、


僕は黒い突風に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

誰かがそばに立ったかと思うと、

額の刻印に鋭い痛みが走った。


「う…」


「『う』じゃねェよ!!!クソ鼠が!!!!!」


僕は思い切り蹴り飛ばされた。

その人影は…エーレントは、リヒトさんに近づく。


「おい、アンタ、生きてる?」


呪文を唱える、澄んだ声が流れる。


「お、効いた。やれやれ。」


その間、ようやく僕の恐怖が消え、身体が元に戻って行くのを感じた。


僕は転がるようにリヒトさんに近づ…


「来るな、クソ鼠!!!」


ユーリの顔をした…エーレントのオレンジの瞳が、

激しい怒りで強い光を放っている。


僕は覚えず、ピタリと立ち止まった。


エーレントは、()()()()()()()()、リヒトさんを抱えている。


リヒトさんは、虚空のようなポッカリとした目をうっすらと開けた。


エーレントは彼女の瞳孔を覗き、

僕に押さえつけられた箇所を確認し、脈をとる。


「ヨシ、問題ねェ。」


煙草を咥えると、指から不思議な火を出現させて、吸い始めた。

目を奪われるような仕草だ。


「リヒト…アンタ、火の誓約を迷惑がってんだろ?」


リヒトさんの左手をとって、自分の左手と共に、

彼女の瞳の前に持って行く。


「この誓約はなァ…アンタの居場所でもある。」


エーレントは、リヒトさんに当たらないように、

少し横を向いて煙を吐く。


「アンタ、これまでは逃げる場所がなかったろ?

この誓約で、アンタはいつでも、俺のところに逃げられるんだ。」


僕は、このエーレントの言葉に凍り付いた。


「アンタが、必死にやってることは知ってる。

…でも、最後に、【逃げる】ってことも、スゲェ決断の一つだ。」


エーレントは、リヒトさんの顎を優しくつまんで、

その目を覗き込んだ。


「200年前に、俺が()()()()()に処刑されたから、

猫族は…特にアンタみたいな純血は、完全に居場所をなくした。

アンタも苦労して生きてきたのに、

十二支に利用されて、頑張っちゃってよォ…」


エーレントはため息のように、天に向かって煙を吐いた。


「ま、アンタのそんなところがイイと思ったのは否定できんな!

ハハハ!!!」


僕はただ立ちすくんでこのやり取りを見ているばかりだ。

足の先から砂のように崩れていきそうだ。


「お?しっかり目が覚めてきたな?

ちょいと秘儀も授けてるから、すぐによくなる。」


リヒトさんの腕が持ち上がり、エーレントの額を指さすようにする。


「ア?ああ、そこのクソ鼠に酒瓶でぶん殴られた傷さ…唾つけて治した。

猫だからなァ!!!ハハハハ!!!」


面白そうに煙草を吹かす。


「さて、そろそろ帰るか…

秘儀【空間旅行(ラウムライゼ)】」


ゆっくりと黒い渦がエーレントを取り巻く。


「そうだ、リヒト。

白状しちまうが、俺は200年前、女を抱きまくってる。

猫族(フェリス)好きの()()()()()()と、女を漁りまくったしな…」


ここでようやく、僕の方を横目で見た。


…暗く、寂しそうな目で。


「嫉妬してくれよ?」


黒い渦が広がって行く。


「そんときは、俺も嫉妬する。

『今、俺とクソ鼠を比べたのか?』ってな…」


そう言うと、煙草を持ったまま、リヒトさんの顔を引き寄せて、

舌で絡めとるように口づけした。


「何をする!!!」


とうとう僕は飛び上がって、

リヒトさんをエーレントから引き離した。


エーレントはほとんど黒い渦に消えている。


「来るの遅くねェ?」


捨て台詞を残し、黒い渦とエーレントは、完全に消えた。


訓練場には、

朦朧としているリヒトさんと

…男として、婚約者として、完全に敗北した僕が残された。


*****


黒い渦の消えた訓練場。


既に、リヒトさんの目ははっきりとしている。

…でも、黒い渦が消えた跡を見やったまま、何も言わない。


僕は、リヒトさんを抱き上げて、訓練場を出る。


人のいない、大王専用の、

ところどころに蠟燭が灯るだけの暗い廊下を、なるべくゆっくり歩く。


「僕は、もしかして、

貴女の身体を、

誰かと比べるような寝言を言ったかもしれません。


でも、僕は、虐待を勘定に入れなければ、

女性と関係を持ったことはありません。


僕が夢の中で比べたのは、

悍ましい記憶の中の汚い身体とか、

パーティでわざわざ見せつけられる身体と、


…貴女の身体です。」


僕の腕の中で、リヒトさんの身体が少し動いた。

僕は、リヒトさんをしっかりと抱え直す。


「貴女の胸の感覚が、あまりにも素晴らしくて、

これまでのうんざりするような記憶と違ったので、

夢中になりました。」


リヒトさんは顔を覆ったようだが、

僕はリヒトさんを見ることができない。


僕はさらにゆっくり歩く。

まだ、言うことが終わっていないから。


「目を覚ましたとき、夢だったのかと残念でした…

でも…寝ながら触っていたんですね、僕は。


リヒトさんは、不本意だったと思いますが、

僕は、手に感触が残っていたのが…嬉しくて…」


角を曲がれば、奥にリヒトさんの部屋が見えるところに来た。


「でも、同時に、火の誓約が反応しなかったことにホッとして…

ため息もついたと思います。


…残念だからため息をついたわけでは、

絶対にありません…」


リヒトさんの部屋の前に着いた。

僕は、胸がいっぱいのまま、そっと彼女を降ろす。


僕は彼女の顔を見られなかった。

僕はうつむいたまま、「おやすみなさい」と言う。


リヒトさんも、かすれるような声で「おやすみなさい」と返す。


僕は2、3秒、何かを待つように動かなかったが、

彼女は何も言わないし、僕も何も言えない。


…僕はそのまま、自室に向かって、廊下を戻り始めた。

後ろで、静かに扉が閉まる音。


部屋に戻ると、もう、たまらずに、

頭を抱えて近くのソファに突っ伏した。


(次話に続く)

十二支と神鼠は猫に「こい」


第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/

第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/

第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/

第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/


カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ