第14話 【テレシウス・エーレント編】奇妙な同居生活
200年前に猫族を殲滅した残虐王テレシウスと
処刑された猫族の王エーレントの物語、開幕。
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加筆修正ver.
「おい、アンタ!」
…
「おい!アンタ!起きろ!!!」
「五月蠅いな…」
呟いた瞬間、
「グアァッッ!!!!!!!」
思い切り背中に飛び乗られた。
「起きる!…起きると言っている!!」
周りでクスクスと美しい笑い声が奏でられる。
私は思い切り身体を回して、背中の上の男を吹っ飛ばす。
が、その男は、音もなく軽やかに床に着地する。
「ハッ…起こし方まで野蛮だな!エーレント!!」
「何が野蛮だよ、この野獣!
俺の部屋に女連れ込んで、昼まで寝てよォ…」
「ここはもう、私の部屋でもある。
…それに…貴様も共に楽しんだろうが?」
「フウ―――」
エーレントは口にしたタバコをの煙を吐き出し、
女たちに金を握らせる。
「まあ、否定できねェな。」
女たちはクスクス笑いながら、軽やかに着衣して、舞うように去る。
「アァ…やはり、猫族の女は最高だな…」
「娶りゃいいだろ?ただし、孕ませたら、ディモイゼに行くな。」
「種族だの家格だの、煩いんだ、鼠族は…」
私は上体を起こして葉巻に火をつける。
「ハッ!このままここで暮らせばよいか…」
「アンタ、いつまで俺んちにいるわけ?」
「葉巻も最高だな…」
「聞いてる?」
「おい」
「あ?」
「葉巻、最高だな?」
「聞いてるっての!!!
人の話は聞かないのに、自分の話は…」
「腹が減ったな。」
「アンタ、いい加減にしろ!勝手に食えよ!!!」
「どこだ?」
「テーブル!!!」
私が立ち上がると…フワリと目の前が白く染まる。
「素っ裸で歩くな!」
「いいじゃないか…同じ部屋で同じ女たちを抱く仲…う”ッ…」
頭にかけられたシーツが締め上げられる。
私は、目隠しされた状態で、そのままテーブルに向かう。
目隠しされていても、この部屋ならどこへでも行ける。
私がシーツを被ったまま椅子に座ろうとすると、
思い切りシーツが引っ剝がされて、下半身に巻きつけられる。
「剥き身で座んな!」
私は座って食べ始める。
エーレントは緑色の液体の入ったコップを私に差し出す。
「毒か」
「おう、そうだ。残らず飲め。」
私は喉を鳴らして飲む。
「不思議な味だな…苦いがかえってそれがいい。
葉巻が欲しくなる。」
「だろ!!!」
少年のように笑う。
「ちょっとな、考えたんだ。
煙草に合う「薬湯」ってやつ。
酒もいいんだけどよ、昼でも気軽に煙草と合わせられて、
そして…」
エーレントは言う前から胸を張っている。
「健康にもいい!
…どうだ?」
私は机の葉巻に火をつけて、ゆっくり薬湯を味わう。
「おい。」
「早く言えよ。」
「うまい…」
「アハハハ!!!
もっといろんな味の薬湯を全部作ろうと思ってんだ。
それぞれ、効能も違う…ってな。」
「作り過ぎても価値が下がる。
上流層が最も金になる。アイツらに特別感を味わわせる工夫が必要だ。」
「おう、そうだな!」
気付けばエーレントは、いくつかグラスを私の前に出している。
「試作品!」
こういうときのエーレントは、真夏の太陽のようだ。
ドブを這いまわる鼠には眩し過ぎる。
「おい。」
「このキッシュもうまい。」
「へへ、隠し味を使ってるんだぜ…って俺は忙しいんだ!」
なにやらプリプリ怒りながら…そして、私の皿の上にキッシュを追加する。
「いい女、うまい食事、うまい飲み物、うまい煙草に葉巻…お前の部屋は天国だな。」
「ヒモかよ!!!」
「ヒモだが。」
「黙って味わえ!!!
…あ、感想は教えろよ。」
そういうと、エーレントは魔女のごとく、鍋をぐつぐつさせて味見をしては、
何かを足したりして首をひねっている。
「エーレント。」
「何?」
「忘れていた。大量の煙草の注文がディモイゼから来ていた。」
「納期は?」
「明日だ。」
「アンタなぁ!!!!!」
慌ててエーレントは筆をとる。
この国で文字が読み書きできるのは各種族の上流階級の一部なのに、
この男は難解な古代語まで操れる。
「この新しい葉巻も少し入れておけ。
飛ぶように売れるぞ。」
「お、イイねぇ…お試しってヤツな。」
エーレントはふと手を止めて私を見る。
「ここまでの商売になったんだ。
アンタに利益の一部を払う。
無償なのは、俺が落ち着かねェ。」
「ハッ…!」
私は立ち上がって、伸びをする。
「細かいことを言うな、野蛮な猫族の王のくせに…」
「アンタがおおらか過ぎんだよ!」
「ハッハッハ!!!」
おおらかなのはどっちなんだか…
「私は、貴様のおかげで気楽に生きているヒモだ。
この程度クソの足しにもならん。」
エーレントは少し驚いたように私を見ると、
視線を逸らしてモゴモゴして、
やおら忙しそうに筆を動かす。
「もっと大きくしないのか?大産業になる。」
「大きくするには、土地も人も要る。
アンタらのせいで猫族に領地はない。
土地を購入することも禁じられている。
人口も少ない。」
「人を使おうにも、煙草作りの技法は、絶対に他種族に渡さんしな?」
「そう!」
エーレントは顔を上げて、頬杖をついた。
「いいんだよ、俺らは。
ディモイゼから離れたとこに住んで、
神鼠に会わないように気をつけて、
細々やってりゃ、目も付けられない。」
「ハッ!勿体ないな…
こんなに最高の嗜好品…
猫族のタバコと女があれば、
どこでも人間は幸せにやれる。」
「アンタ…
だらしないのに褒め上手だよなァ…」
私は着替え始める。
「貴様の秘儀は108あるだろう。」
「アンタ、何で知ってるわけ…」
「酒飲んで、自慢していただろうが。
『俺なら死んでも復活できる』とか『怨念で人を殺せる』とか…」
「ハハハ!ヤベェ…覚えてねェ…」
頬杖をついたまま、頭を掻いて笑い出す。
「おい、ここまでの秘儀を使えるのは、猫族の歴史の中でもお前くらいだ。
なぜ使わん。
使えば、ツヴェルフェトを滅ぼして、猫族の国を創れる。」
「えらく褒めやがって、気持ちワリィ。
小遣いは増やさねェぞ?」
澄んだオレンジ色の瞳を、呆れたように私に向ける。
…この男は、勝手に転がり込んでいる私に小遣いまで渡している。
「俺は身の丈ってもんを知ってんだヨ。
秘儀の研究は、趣味だ、趣味!
…女を悦ばせるためのな!」
エーレントは煙草の煙を吐きながら、猫のように目を細める。
「ハッ!好きにやれ。
でも、折角書いた秘儀書をそこの棚の三段目に置きっぱなしにするな。」
「アンタ、なんで知ってるんだよ!」
「女とイクときにそこにイイもんがあるって言ったろうが。」
「マジか!!!」
私は身支度を終えた。
慌てて秘儀書を棚の五段目に移すエーレントを肩越しに見やる。
その気になれば、不世出の傑物としてふんぞり返って生きていけるのに、
勤勉で、
謙虚で、
お人好しで、
隙だらけだ。
「今日は帰って来ないかもしれん。」
「いやもう、帰ってくんなよ!」
「まあそう言うな。」
私は帯剣して扉を開けると、エーレントを振り返る。
「私はお前のうちに帰ることが喜ばしいぞ?」
「アンタ、根っからのヒモ体質だな!!!」
サッサと行け!というエーレントの声を背中に、私は外に出た。
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/
第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/
第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/
カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067




