第13話 猫リヒト エーレントのもとへ 空間旅行(ラウムライゼ)
加筆・修正ver.
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「テレシウスは、誰かに騙されたのかな…?」
「…分かりません…」
僕は、手を握りしめて、心臓の上に置いた。
「今、分かっていることは、
二人が友人だったこと、
テレシウスがエーレントを処刑して、猫族を殲滅したこと、
ロベルトが復活祭を行って、エーレントが復活したこと、
ロベルトが怨霊祭を行ったけど、死んで失敗したこと、
エーレントはユーリの身体に憑りついていること、
テレシウスも僕の中で目覚めたこと、
10年以上前の誘拐戦争の首謀者だった独立派が、3年前から運動を再開して、
最近、異常に活発化していること…」
僕は…一度唾を飲み込んだ。
「そして、リヒトさん…先ほど、報告を受けました。
…やはり、今、独立派の中心者は、今は神兎の…
ユーリの顔をした、エーレントです。」
リヒトさんは黙って耳を傾けていたが、
僕が話し終わると、ゆっくり口を開いた。
「エーレントが、独立派を使ってツヴェルフェトを滅亡させようとしていることの、
確証がとれたのね?」
僕は、リヒトさんを見つめて頷いた。
リヒトさんは、夕日色の瞳を静かに僕に向けた。
「私たちの計画を発動するときは…きっともうすぐだね?」
僕は、思わず目を逸らして、リヒトさんの手をとり、口づけをした。
僕の手も、唇も震えそうだ。
僕は、何度も何度も、リヒトさんの…骨ばって、荒れた手に口づけをした。
リヒトさんは、片方の手で、僕の髪にそっと触れた。
「ねえ…シリウス、髪がモジャモジャ…」
僕は、思わず顔を上げ、慌てて髪を触った。
本当だ…リヒトさんみたいにモジャモジャだ。
僕は、リヒトさんの首筋にそっと手を伸ばした。
「ムキになって、ここに痕をつけたので…」
「エッ!?痕?痕ってなに!?」
「ああ、唇の痕です、僕の。」
「エェ―――ッッ!?痕付くの!?どうして?どこ!?どこ!?」
「リヒトさん、ごめんなさい。」
「なにが…?」
「服で隠れない部分にもつけてしまいました。」
「シリウス――――――ッッッ!!!!!!!!!」
リヒトさんは、両手を突っ張って、僕の顔を遠ざける。
「貴女が…僕を…男として…見な…い…から…」
僕はのけぞりながら言う。
「エェ?君、男でしょ?
男性にしか見えないよ?」
「あああ――――ッッ!!!もう!!!
なんか違います!!!!!」
「綺麗な顔だけど、ちゃんと男性に見えるから、
安心して!」
「アァ……ハイ……ハァァ…」
リヒトさんは、小首を傾げて僕を覗き込む。
僕は笑顔を返した。
そんなやり取りの間も、
午後のやわらかい日差しが、僕たちを包んでいる。
時折僕たちを取り巻く寒風も、
リヒトさんが息を切らして持ってきたブランケットを一緒にかけているから、
温もりに溶けて消える。
僕たちは、今まで、
絶え間なく努力し、
悩み、
苦しみ、
話し合い、
ときに衝突し、
希望を分かち合ってきた。
――運命に負けない
リヒトさんと僕の
希望の
未来の
ために
このまま、二人で過ごすだけでは、
死ぬまで…
いや、違う。
永遠に、
運命に勝てない。
だから、僕たちは、
二人が、
それぞれ、
同じ目的のために、
別の場所で、
別の役目を果たしながら、
共に戦うことを決めたのだ。
時が来れば。
…そして、その「時」は、
目前に迫っている。
もちろん、この共闘に失敗すれば、
僕たちは二度と会えない。
それでも、
運命に押しつぶされながら、
薄ぼんやりとした悦びを指先に乗せて、
死ぬまで互いに殺し合おうとするなら、
賭けに出ることにしたんだ。
リヒトさんと僕は。
******
今、僕たちは黙っている。
心地よくて…
すぐに壊れそうな均衡を永遠にしたくて、
鼠と猫は、
針の先で、
沈黙のワルツを踊っていた。
********
しかし、針先のワルツはすぐに終演した。
大王付きが僕の名を叫びながら、
神兎…今はエーレントが治めるクローリク州で、
「神兎ユーリ」が先導した大規模な武装蜂起があったことを伝えに来たからだ。
僕は、大王付きに緊急会議の招集など必要な指示を出す。
「すぐに行く。先に行け。」
大王付きは転がるように去って行く。
僕とリヒトさんは向き合った。
「僕は、クローリク州に向かいます。
僕自身が先頭で戦って、この国を守り、導く姿を見せて、
…貴女と共に、
エーレントを倒して、
この独立運動を終わらせます。」
リヒトさんは木漏れ日のように微笑んで、頷いた。
「じゃあ…私は、
今から行くね。」
僕の顔から血の気が引いた。
リヒトさんも死人のように青ざめている。
しかし、彼女は立ち上がって、スルリとポンチョを脱いだ。
ラピス・ラズリの服だ。
引きずられるように僕も立ち上がる。
「楽しかった…
今日、ランチできてよかったな。」
と言うなり、リヒトさんは僕の首にかじりついた。
「また、やろうね。ランチ!」
「もちろん…!」
僕の目から、滝のように涙が溢れ出た。
リヒトさんは僕の顔を見ると、指先で涙を拭って、
その指をそっと口に入れた。
「シリウスって…
泣いてる顔もかっこいいんだね?」
「何言ってるんですか、もう!」
思わず僕がリヒトさんを叱った、その瞬間、
「出でよ 【燈火の魂】」
リヒトさんは、右手で、うなじの刻印から炎を引き出すと、
左手を掲げて、静かに唱えた。
「秘儀 【空間旅行】」
…そう、エーレントが空間を移動するときの秘儀。
リヒトさんは、これを継承者として使えるようにしたのだ。
リヒトさんの役目…
それは、独立運動が本格化したときに、
リヒトさん自身が…
エーレントを「倒す」役目なのだ。
黒い渦がジリジリとリヒトさんを取り巻いていく。
「シリウス!!死んじゃだめだからね、絶対!!!」
「…」
リヒトさんこそ、と言おうとしたのに、喉が詰まって声が出なかった。
僕は、何とか自分も力強い姿を見せよう…
と思ったのに、全く別のことを叫んだ。
「待って!リヒトさん…
待って…!!!」
やっぱり、
ずっと、僕のそばにいて…
殺し合うとしても…!!!
僕は走り出そうとしたが、黒い突風が行く手を阻んで…
…
顔を上げると、
そこは、穏やかな日が降り注ぐ、先ほどと変わらない東屋だった。
リヒトさんがいないことを除いては。
僕は、一瞬、まだ、ランチ前で、リヒトさんを待っているような気がした。
が、ふと目に、鼠と猫のぬいぐるみが目に入った。
そうだ。
もう、リヒトさんは戦いに出発したのだ。
僕は、深呼吸をすると、
二つのぬいぐるみを手に取って、額の刻印につけた。
そして、猛然と大神殿に向かって、走り始めた。
―――――運命に負けない
リヒトさんと僕の
希望の
未来の
ために
十二支と神鼠は猫に「こい」
第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/
第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/
第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/
第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/
カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067




