第11話 結婚したら 同じ枕の下に この子たちを入れましょう
「そう。私、頼まれた服を繕ったり、
服とか小物…こういうぬいぐるみとかを売ったりして、
勉強代の足しにしてたの。
結構、成績がよかったから、
先生に『お金があれば高等学院や大学にも行ける』って言われて…」
【エクウスの俊才】と呼ばれていたリヒトさんだから、
「結構」どころじゃなく、
ずば抜けて成績が良かったのだろう。
「お母様も『絶対行こうね!』って頑張ってくださって…
お母様は、ほら、コルデールのときの私みたいに、商家で働いていたの。」
思いがけないリヒトさんの昔話。
「私が大学に合格して、ディモイゼに行く少し前から、
お母様、痩せてきていた気がしたの。
腰が痛いと言っていたし…
でも、大学に合格したから、もう少しで楽にしてあげるね…って…」
リヒトさんは黙った。
彼女の痛みを…僕が分かることはできないかもしれない。
それでも、僕はリヒトさんを抱き締めて、呟いた。
「結婚したら、エクウスに行きましょう…
リヒトさんのお父様とお母様に、僕、ご挨拶したいです。」
しかし、リヒトさんは、むしろ僕に心配そうな視線を向けた。
自分など、まだマシだと考えている様子だ。
「そうだ…考えてみれば、私も、シリウスのご両親の…お墓にご挨拶していない…
怖いおばあさまには会ったけど…」
思わず僕は、リヒトさんの頬にそっと触れた。
冷たい風が一陣舞う。
彼女は少し身震いしたが、急に胸を張った。
「ほら!寒いけど、ブランケットがあるから!
だって、寒いとゆっくりできないと思って…」
最後の方はほとんど聞こえない。
リヒトさんは自分と僕の膝にブランケットを掛けた。
「さあ、シリウス、食べよう!」
ランチボックスを覗くと、いつもの、ファリアが作る芸術作品のようなランチ…
ではない。
一口食べてみると…
「あ、美味しいですね!この…」
しかし、僕が全部を喋る前に、
「美味しい!?美味しいでしょ!?
これも、私が作ったの!!!」
と、リヒトさんは、もう反り返るほど胸を張った。
「エェ!?!?本当ですか!?!?」
僕の方も、反り返るほど驚いた。
驚かせようとするリヒトさんは分かりやすいのに、
予想以上の驚きが次々と提供される…
「だって、食事を作るのは私の役目だったのよ?」
そして、自分でも一口食べ、
「うん、結構うまく味付けできた。」と自画自賛する。
僕は、次々に平らげていって、あっという間に食べきってしまった。
「すごくたくさん作ってくれたんですね…」
「え?あ、うん、ほら、君、たくさん食べるから、多く作った方がいいかなって…」
よく分からないが、しどろもどろ言い訳するように話すリヒトさん。
「とても美味しかったです…また食べたいな。」
「エェ?そんなに?…まぁ考えてみれば、
こんなもの、大神殿の料理の前では恥ずかしいものだけど、
今日はホラ、ここでランチをするっていう記念のランチ…でしょ?
ああ、ランチがかぶっちゃったけど、
ちょっと無理を言って台所の片隅を貸してもらって…
ちゃんと邪魔しないように、隅っこで、時間もずらしたんだよ…」
よく分からないが、リヒトさんは必死に言い訳をしている。
僕は、言い訳を続ける口に、僕の唇を押し当てたくてムズムズする。
「…だから、うん、皆さんが許してくれて、機会があれば、また…
でも、あんまり期待しちゃだめだからね!」
最後は、よく分からないが、ちょっと怖い顔を繕って念押しをされた。
とても…可愛い…
僕は、色々とムズムズしてきたので、
急いでリヒトさんから目を逸らし、
プレゼントされた猫のぬいぐるみを手にとった。
「この猫さんを、僕も、枕元に置いて寝ます。」
「僕…も…?」
耳聡くリヒトさんは聞き返す。
「リヒトさん、鼠くんを枕の下に入れているでしょう?」
「…どうしてそれを…」
僕は慌てた。
「あ…毒でリヒトさんが瀕死のときに…見つけてしまって…」
「…それは、君の健康と繁栄を祈ってですね…枕の下に入れると願いが叶うから…」
頬を夕日色にしてモゾモゾと話すリヒトさん。
僕は、鼻の頭をリヒトさんの頬にすり寄せながらささやく。
「結婚したら、同じ寝台で寝るんですから、
同じ枕の下に、この子たちを入れましょう…」
リヒトさんは飛び上がって、急に大きな声を上げる。
「そうそう!!!…な、名前は…何にするの?こっ…この子の…」
「名前…?
…ああ、女性は、ぬいぐるみに名前をつけるんですか?」
「エッ…ああ、そ、そうね…」
「そうですか…」
僕は、鼠くんを手に取ってチラリとリヒトさんを見る。
「この鼠くんの名前はなんですか?」
リヒトさんは、とんでもなく慌てて、
急いで僕から鼠くんを取り返し、抱え込んでいる。
一体、どんな名前をつけたら、ここまで慌てられるんだろうか…
「うん、まあ、つけなくていいよ!名前!」
「…リヒト」
「…?」
「リヒトにします。」
「エェ―――ッ!?!?」
リヒトさんは怒っているのか驚いているのか分からない声を上げる。
「ちょっと、それは、ややこしいし…」
「ややこしくないです。ねェ、リヒト?」
僕が猫さんに呼び掛けると、リヒトさんは顔を覆ってしまった。




