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第10話 シリウスの気まずさを吹き飛ばすには リヒトの力技が一番

物語の登場人物・世界の【総まとめ】はこちらの短編を:

https://ncode.syosetu.com/n3739lz/

挿絵(By みてみん)




僕は、庭園の東屋(ガゼボ)にいる。

リヒトさんとランチの約束をしているからだ。


リヒトさんと会うのは気まずい。

昨晩は、思い出すと走り回りたくなるほど、散々だったから。


僕のそばに、まだ、いてくれるのか。

…婚約者として…


午前の予定の合間に「リヒトさん付き」にこっそり尋ねると、

リヒトさんはランチのために東屋(ガゼボ)に行く予定で、

手ぶらで来て欲しいとのこと。


リヒトさん、僕とランチ…するつもりなんだ!


僕は、顔が緩んで、また走り回りたくなったが、

官吏の「髭の長官」が来たから、

顔を叩いて、背筋を伸ばした。


会議は思ったよりも早く終わった。


執事のモレルが、静かに「次は東屋(ガゼボ)でございますね。」と言う。


ヤンが紫の厚いマントを羽織らせてくれる。


ああ…

リヒトさんに、どの面を下げて会えばいいんだろう。

何を言えばいいんだろう。


「午後の予定は延期になりましたので、ごゆっくりなさいませ。」

執事のモレルが静かに頭を下げる。

この周到さ…

朝の浴槽に浮かんでいたいい香りの花びらは…

僕は世話焼きの彼らにクスリとする。


時間はまだある。

僕は最初はなるべくゆっくり、

気付けば急ぎ足で東屋(ガゼボ)に向かった。


リヒトさんは来ていない。


僕は、とりあえず座ったものの、すぐに立って、

東屋(ガゼボ)の手すりに足を掛けて腹筋したり、

屋根の縁に手を掛けて懸垂をしたりした。


汗ばむ前に、僕は飛び降りて一息ついた。


と、僕は遠くに人の気配を感じた。

心臓が飛び上がる。


目を上げると、遠くから、ひょこひょこと歩くリヒトさんの姿…


僕は目を見開いて一瞬固まった。


が、これまでの緊張が消し飛び、すぐに飛んで行った。


「リヒトさん!!!ちょっと、どうして…!?」


「触っちゃダメ!!!私が歩けるところを見せるんだから!!!」


僕は口をパクパクさせて、

不自然に手を上げたり下げたりした。


何とリヒトさんは…


頭に大きな、たたんだブランケットを乗せ、

分厚いポンチョで口まで埋めて、

大きな、鉄の玉のごとく重そうなランチボックスと鞄を手に下げるという、

理解が及ばない姿で登場したのだ。


僕は、後方に控える従者たちをジロリと睨んだ。

彼らは、手を横に振ったり、頭を米つきバッタのように上げ下げしたりしている。

…まあ、リヒトさんが彼らを振り切ったんだろう。


僕が、遠くに行くように身振りで指示すると、彼らは瞬時に姿を消した。


「どれか一つでも持ちますから…」


「シリウスは、見ていて!」


ブランケットの下の髪は、冬なのに汗で張り付いている。


「す…すごいでしょう…?」


息を切らしながら、リヒトさんは笑う。

僕は何度も頷いた。


「すごい!すごいですよ!!!」


しかし、リヒトさんは、東屋(ガゼボ)を目前に、

一度ランチボックスを置いて、足をさすり、息を整える…


「大丈夫ですか?やっぱり…」


「あと少しだから…シリウスは、東屋(ガゼボ)に先に行って、私を迎えて!」


僕は急いで、東屋(ガゼボ)に駆け込んで叫んだ。


「リヒトさん!猫さん!

もうすぐですよ!

こっちに「来い」!「来い」!」


リヒトさんは満面の笑みになる。


エイと力を振り絞り、全てを抱えて歩いてくる。

必死の顔が、上気している。


僕は我慢できずに、東屋(ガゼボ)の階段を降りる。


「ホラ、ホラ、後少し!!!」


とうとう、リヒトさんは僕の目の前に来た。


「到着!!!」


僕は、荷物をパッと受け取り、

リヒトさんを片手でギュッと抱き締める。


「ああ!痛い!!!ね、すごいでしょう?」


僕は、荷物を地面に置くと、

リヒトさんを、両手で思いきり抱き締めた。


「すごいです、リヒトさん、こんなに歩けるなんて…

少し前は死んじゃうかと思ったのに…

なんだか、嘘みたいだ。」


胸を張っていたリヒトさんだが、

僕が、彼女の頭に頬を擦り付けると、丸く縮こまってしまった。

僕は胸が高鳴って、一気に顔が熱くなる。


リヒトさんは僕を振り仰いだ。


「こういう場面でね、結婚の申込みをお受けします、って言うつもりだったの。

ほら!前に言った…」


「ああ!…そういうことですか!!!

…ありがとう、リヒトさん…」


僕は腕を緩めて、リヒトさんの顔を覗き込んだ。


気まずい「おやすみなさい」をした僕を、

こうやって、何気ないふりをして救ってくれる。


リヒトさんは顔を赤らめて少しうつむいたが、

ランチボックスが目に入ったようで、

勢いよく顔を上げた。


「ここで食べない?」


何やら意気込むリヒトさん。


僕はハンカチを草の上に敷いて、リヒトさんを座らせてあげて、

その隣に腰かける。


リヒトさんはさらに意気込む。


「開けて!開けて!」


ランチボックスの中に何か入っていることが丸わかりだ。


笑いをこらえる僕。


パッと開けると…


「エッ!?」


思わず僕は声を上げる。


あの鼠のぬいぐるみと共に、猫のぬいぐるみが入っていたのだ。


「シリウスに、プレゼントです!」


黒いハチワレに、目はオレンジのボタン。

身体は、官吏の服のような黒い布で作られている。


「触っていいですか?」


と聞くと、「もちろん!」と急き込んで言う。


「私が作ったの!」


「エェ!?!?」


さらに驚いて、相当大きな声を上げてしまった。


僕の反応に、リヒトさんは大満足の様子。


「どう?結構上手でしょ?」


「リヒトさん、縫い物できるんですか?」


「木登りと屋根登りしかできないと思ってない…?」


少しプリプリした様子だったが、僕はリヒトさんの肩を抱き寄せる。


「プロポーズを承諾してくれたとき…

『ランチボックスを開けたらプレゼントがある』って言ってたのは、これですか?」


「そうそう!さすが…よく覚えてるねぇ…」


「いや…すごいですね。売っているものみたいです。」


「売ってたのよ。」


リヒトさんは僕を見上げて笑う。

僕は心底驚いて、リヒトさんを見つめる。


「売ってた?リヒトさんが?」




(次話に続く)

十二支と神鼠は猫に「こい」


第Ⅰ章(人生の 最後のページで 見えるもの):https://ncode.syosetu.com/n5418ls/

第Ⅱ章(猫に恋する神鼠 妹に恋する禁忌の竜):https://ncode.syosetu.com/n3802lt/

第Ⅲ章(神山ゴテスベルクと猫天神):https://ncode.syosetu.com/n9385lu/

第Ⅳ章(神鼠の中に 住まう者):https://ncode.syosetu.com/n2574lx/


カクヨムでも連載:https://kakuyomu.jp/works/2912051595951960067


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