98.猫って引き笑いできるんだ
この二日間、僕は開き直ってベストとグローブを着けたまま訓練を受けていた。服はもちろんダルダルの部屋着。それしか持っていないので。
「ブッハ、ヨナハン、フフ、イカしたベスト着てるね」
「ヒャ――! に、似合ってるぜ!」
同期のファーラとエドに盛大に笑われた。ギルド本部の職員は早くも僕の素っ頓狂な格好に慣れてしまったから、派手に笑われるのも二日ぶりだ。
昼休みのギルド食堂でのことだ。エドは引き笑いで酸欠になるくらい笑い転げている。山猫の獣人だけど、猫って引き笑いできるんだ。
「ありがとう、ダンジョンアイテムなんだ、そんなに気に入ったんならきっと二人にも出るよ、こうゆうデザインのアイテム」
「笑ってごめん、勘弁してください」
「もう笑わないから許してください」
「僕に言われても困る、ダンジョンのセンスだから」
本気で嫌そうな顔をする二人に、それはそれで僕は傷ついた。
ファーラは冒険者としての仕事がないから、今は実家の雑貨屋を手伝っているそうだ。エドもファーラの実家で荷運びのバイトをしていて、今日は冒険者ギルドへの配達があったから、久しぶりにギルド本部へ来たという。
「たまにギルド本部来ないと、自分が冒険者だってこと忘れちゃいそう」
「ようやく見習いから一歩進んだってところでコレだもんな、先輩たちも他所の街行っちゃったし」
ファーラもエドも先輩冒険者とパーティを組んでE級まで上がっていたそうだけど、第一ダンジョンが閉鎖になってパーティは一時解散になっているらしい。戻る見込みは今のところない。
D級以上の冒険者なら他所の街での仕事もあるけれど、E級以下では単体だと受けられる仕事はない。それに、他所の街へ行くには移動や宿泊に金がかかるから、D級以上でも経費が嵩んで儲けは少なくなる。というわけで、E級以下の下っ端は置いて行かれてしまうことが多い。
パーティを組んだとしても結局はフリーランスの集まり。余裕のある時なら後輩の面倒も見るけど、自分の生活が厳しい時に足手まといの世話をするほどの義理はないのだ。
世知辛い。まあ、僕らは元より頼れる先輩もいなかったから関係ないけどね。泣けてくるから考えないようにしてるけどね。
「で、二人は何したの? 毎日罰則受けてるって聞くけど」
「変な格好する刑が冒険者ギルドにできたってほんとう?」
「ないないない」
「え? 俺らそんなふうに言われてんの?」
酷い噂が立っているらしい。予想通りだけど。
僕らはお試し強化訓練の説明をした。変な格好をする刑は僕の今の恰好を見てもらえればわかる。刑罰ではないです。
「へえ、そんなんあるなら私も受けたかった」
「残念でした~仕事ある人は受けられません」
「仕事なくてギルドに軟禁されてるのか、可哀想に」
「本気で憐れむのやめてくれる? 僕も傷つくから」
同期たちからガチ目に憐れまれて僕もネニトスもしょんぼりした。
タダで強化訓練受けられて住むとこと食事は保証されてるの、そんなに悪くないと思うけど、自由はないから、改めて考えても今の状況は刑務所の中と大差ないんだな。改めて考えないようにしよう。
ファーラとエドは仕事があるからと早々に立ち上がった。僕らも午後にはまた訓練があるけど、休憩時間はしっかりあるのだ。
「その変なやつダンジョンアイテムなんでしょ、鑑定してもらった?」
去り際にファーラに聞かれた。彼女はまだダンジョンアイテムに遭遇したことはないけど、憧れはあったらしい。あったらしいって、僕を見て過去形にしないでほしい。普通に憧れ続けてていいじゃん。
「変なやつ言わないで、あ、グローブは鑑定してないや」
「駄目だよ、ちゃんと鑑定しないと、ダンジョンアイテムはよくわからない機能が付いてることもあるから」
見た目もよくわからないんだし、と一言余計なことを言いながらファーラとエドは帰っていった。
ということで、昼休みのうちに指ぬきグローブの方も鑑定してもらうことにした。鑑定もせず使ってましたなんて、グレンさんやスイルーさんにバレたら絶対に怒られる。
「鑑定もせずにダンジョンアイテムを使うなんて危険極まりないダンジョンアイテムは性能が良い代わりに魔力消費が多かったりデバフがあったりして着用した瞬間に命の危険があるものもあるんですからくどくどくど……」
結局アルバートさんにくどくど説教をされたけど、怒鳴ったり叩いたりしないから恐くない。スイルーさんは割とすぐに殴ってくるから恐い。
結果、意外な効果があった。
「こちらのグローブ、魔法の制御機能が非常に高いですね、闇属性のみという制限をかけることで性能を高めているのでしょう、あとは握力や腕力も底上げするようですね」
「え!? 魔法の補助だけじゃないんですか」
魔法の補助だけだと思ってた。だって、グローブ付けたって僕の腕力は大したことなかったし……ということは? アイテムで底上げされてようやくギリギリ人並みの腕力になっていたということで? アイテム無しだと僕の力は人並み以下ということ? 流石に雑魚過ぎない???
ショックを受けている僕の隣で、ネニトスが眉を下げて肩を叩いてくる。本気で憐れむなや。
「身体強化は副次的な効果でしょうね、魔法に特化している方は魔力を安定させるだけでも身体能力が向上しますから、まあちゃんとした魔法使いはそもそも魔力は安定してますから、こんな副次的効果なんてほぼほぼないに等しいですが、ヨナハンくんはアイテム装着した時と装着しない時の握力を測り直しましょうか、副次的効果の恩恵を多分に受けているでしょうからね」
「魔法使いとしても雑魚って言われてますね」
アルバートさんは何も気にせず説明してくれる。人の心とかないらしい。
言われなくてもわかってますけどね。未だにエルンさんの封印術も解けていないから、ぜんぜん自分の魔法を使いこなせていないのは明らか。アイテムのおかげでなんとか魔法を制御できている魔法使いは、そりゃちゃんとした魔法使いとは言えないですよね。
アルバートさんの勧めでグローブありと無しで鑑定をし直してもらったら、技力だけじゃなく本当に戦力にも差が出た。ベストに続いて指ぬきグローブまで、デザインがアレなくせに性能が良くて嫌になる。
「グローブとベストを着けていた方が安定してレベルアップが見込めるので、ヨナハンくんはできる限りそれらを着用していた方がいいですね」
「え~~……」
すごく嫌だ。笑われ慣れたと言っても、笑われて嬉しいわけではないのだ。
「と言うか、そのアイテムがないと訓練について行けなくなると思いますから、着用はもう必須ですね」
「………………はい」
不貞腐れながら午後の訓練へと向かった。
ヨナハンは口下手人見知りのコミュ症ですが、内弁慶なので仲の良い友達ができたら結構喋ります。
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