97.僕らは最初から罠にかかるべくしてかかっていたのだった
二日目、ランニングに素振りに体術訓練、昼飯を挟んで戦闘訓練と魔法訓練と、一日目とまったく同じ訓練メニューをこなす。
一日目ほど試行錯誤の時間がない分、反復練習の時間が増えるから、僕の体力の限界は昨日よりも早く来るだろう。
「倒れてもギルドの誰かが助けてくれるから安心しろ、俺は別の仕事あるから今日は勝手にやってて」
「ほげー」
グレンさんは何も安心できないことを言って早々に本部内に戻ってしまった。まず僕らが指導云々のレベルに達してないから、指導教官は碌にやることがないのだ。
「隣には教会もある、死んでも平気だからな、じゃ、サボるんじゃないよ」
「ひえー」
スイルーさんは恐いことを言って去っていった。たぶんギルマスとボードゲームでもやるのだろう。あの人はお試し強化訓練の担当ではないというけど、一応言い出しっぺだから様子を見てくれているらしい。A級冒険者が直々に見てくれるのは有難いことだけど、こちらも指導することもないから本当に様子を見ているだけだ。
僕らは最早悲鳴にもヤル気がなく、死んだ顔でずるずるとランニングを始めた。
教官がいないからサボっても平気、なんてことはない。訓練場に向くギルド本部の窓全てが見張り台なのである。前を走るネニトスはチラチラと窓を気にしている。ちなみに、僕はどうせ周回遅れになるから、最初から後ろを走っておこうという作戦だ。
「サボる隙なんかないぞ」
「わかってるよ、見張られてると思うと気になって、俺ら信用無さ過ぎない?」
「信用される実績がないからね、ここは見張られてるのじゃなく見守られてると思っておこうよ、僕が倒れてもすぐ助けてもらえるって」
「倒れないように頑張れよ」
「無理」
「無理かー」
「喋ってないで足動かせ!!」
「「はい!!」」
怒鳴られながら今日も走る。真面目に走れば僕はあっという間に周回遅れになるけど、僕の体力よりもネニトスの根性が挫ける方が早かった。
「もう嫌だー!!」
「早くない?」
僕より二周前を走っていたネニトスが逃走を図った。こいつ三日坊主にすらならないのか。
コースから外れて訓練場の裏の通用口へ走っていくネニトスに、僕はツッコミを入れたが、追いかける余力はない。早くも足ガクガクなんですわ。
そこで、腕に付けた計測用魔道具の隠された機能が発覚した。
通用口を潜ろうとしたネニトスが、片腕を掴まれるようにして立ち止まった。当然、誰にも掴まれていない。ネニトスの腕が不自然に持ち上げっているだけだ。
「え? は? う、動かない~~!!」
傍から見ればパントマイムしているように見えるが、ネニトスは自分の片腕を掴んで、間違いなく全力で引っ張っているようだ。
それでも、通用口の少し手前で、計測器を付けた片腕だけが動かなくなるらしい。
引っ張っても駄目だから、腕を押すようにしてもやっぱり動かない。明らかに腕輪が原因だから、外してしまおうとしたが、外れない。
「戻れネニトス!!」
窓から飛んできたグレンさんの怒声に合わせて、誰にも引っ張られていないはずなのに、ネニトスは片腕を引っ張られるようにしてズルズルと訓練場の真ん中まで戻ってくる。
訓練生が逃走を図ったにもかかわらず、グレンさんは悠々とした足取りで訓練場に出てきた。
「言い忘れてたが、その腕輪を付けている間は外に出られないぞ、動ける範囲はギルド本部と訓練場と寮だけだ」
「横暴だ!!」
「まず逃げるなよ」
グレンさんの意見は尤もだ。今回は逃げ出そうとしたネニトスが雑魚過ぎる。
でも、これは付ける前に説明すべきではある。完全に騙し討ちでリードを付けられた。
「じゃあ、訓練期間中は買い物にも行けないってことですか」
僕は睨み上げるようにグレンさんを見た。睨み上げたのは走り込みで疲れ果てていて中腰になっていたせいもある。ネニトスの愚行のおかげで休憩時間ができたラッキー。
「外出申請を出したら外に出られるようにしてやる、だが腕輪は外さないからな、そのまま逃げたら窃盗で指名手配するぞ」
「横暴だ!!」
僕もやっぱり叫ばずにはいられなかった。
今時、スポーツ強豪校の学生寮だってそんなことしたら世間からバッシングを受けるぞ、あ、前世の話だった。この世界にはまだ人権という概念はあんまりない。詰んだ。
どうりで最初から訓練メニューが無茶なわけだ。最初から逃亡防止策をとられているから、訓練生が逃げ出さない程度のメニューなんて加減する必要はなかったんだ。
「さ、その腕輪を外すには、訓練をやり遂げるか、冒険者を諦めて講習代を払うかだ、勿論、借金も家賃も即金で払ってもらうぞ」
無理だ。僕にそんな金はない。実家にもない。
ネニトスの顔を見れば、僕と同じような絶望的な顔をしている。いや、おまえは実家に泣きつけばなんとかなるだろ。なんで安いプライド護るための根性だけはあるんだ。
僕らは最初から罠にかかるべくしてかかっていたのだった。
「じゃあ走れ~、休んでた分取り戻すために重り付けるか、両手両足に、うん、これは逃走未遂の罰則にしよう」
「え~~無理~~」
「バッカ! ネニトスのバカ!」
僕らはとうとう金属の手枷足枷を付けられてしまった。見た目が完全に囚人、ないしは奴隷。これはちょっと冒険者ギルドのイメージダウンになるんじゃないですかね。どうせ僕ら自由に外にも出られないからいいのか。
二日目も同じ訓練メニューに重りを追加されて、一日目よりも死にかけながら終了。食事と睡眠時間だけはしっかりとられているのがせめてもの救いだ。
お試し強化訓練用のお試し計測腕輪は、もろ囚人の逃走防止用の手枷が土台になっています。
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