94.めっちゃバラすじゃん
「これはどれぐらいの広さ出せるんだい?」
スイルーさんは頑張って使い道を探ってくれるらしい。
僕もどれくらい出せるか試したことはなかった。今まで練習場所もなかったし、使い道がないから使うだけ魔力の無駄遣いにしかならかった。
でも、自分の魔法の効果範囲を知るのは大事なことだ。この場で全力でダークネスを使ってみることにする。
特に意味はないけど、なんとなく両手を前に出して黒い靄を出す。たぶん、やろうと思えば掌と言わず、身体のあちこちから靄を出すことはできるだろうけど、靄に包まれると自分の視界も悪くなるから、自分の前方に出すイメージでモックモックと黒い霧を広げていく。人体に害はないけど、排ガス製造機になった気分だ。
三十秒ほどかけて五メートル平方ほど広がって、それ以上は広がらなくなった。これが今の僕の限界値だ。
「遅いし狭い、これはどれくらい維持できそうだい?」
「あー魔力消費は大したことないので、半時間くらいは」
ブラックホールを出したら、ガンガン魔力が削られていく感覚があるけど、ダークネスはどれだけ広げても魔力を消費している感覚はほとんどなかった。
シャドウウォークを使う時も、最近ではあまり魔力消費を気にすることはなくなっていた。本当に微々たる変化だから、魔法使いとしての成長なのか、ただの慣れなのかはわからない。なにより、シャドウウォークを使う時は影の中で動き回らないといけないから、魔力消費よりも体力の消費や息切れの方が深刻なのだ。
「燃費がいいのはせめてもの救いか、にしても、せいぜい一秒でこの訓練場全体を覆うくらい出せないと使い道がないね」
スイルーさんに指摘されてしょげる。
確かに、一気に広範囲を暗闇にすることができれば、僕のペースで攻撃し放題ということができるわけだ。できればの話だけどね。
「あのアイテムは使わないのか?」
ネニトスが余計なことを言ってきた。僕がどれだけあのアイテムの方向性に悩んでいるか、ネニトスは知っているくせに、気を使えるほどのデリカシーがないらしい。
ちょっと黙れ~と念を送っても、残念ながら僕らパーティには以心伝心ができるほどの関係性はなかった。
「アイテム?」
「ヨナハンは魔法のコントロールがしやすくなるっていうグローブをいつも付けてるんです、あとベスト、どっちもダンジョンアイテムだって」
めっちゃバラすじゃん。あれを人前で使う気はないんだよ。僕がわざわざマントを羽織っていた意味を今一度思い出してほしい。
「なんで持ってきてないんだ?」
「いやーあのー……」
見た目がアレだからです、なんて言ったらスイルーさんに怒られる気がする。僕はそっと目を反らして、ただならぬ理由がある雰囲気を出してみる。
「デザインが嫌いなんだよな」
クソネニトス、他人事だと思いやがって。
「さっさと持ってこいバカタレ!!」
「はい!」
スイルーさんに怒鳴られて、僕は寮に走った。
黒革の指ぬきグローブとベストは、キラーアントに襲われた日から封印していた。深い意味はまったくない。どうせ虫除け作りくらいしか仕事がなかったから、これらのアイテムを着ける必要がなかっただけだ。
死に物狂いで逃げ帰ったあの日、服も靴もマントもボロボロになったのに、グローブとベストは傷一つなく新品同然だ。
おかげさまで僕自身も無傷で生還できたわけだけど、グローブとベストはもう少し草臥れた感じが出れば、多少は冒険者のアイテムとしての貫禄的なものが出ると思う。
しかし、見た目に反して性能が良いばかりに、いつまでもツヤツヤピカピカの黒光りを保っていて、合皮みたいな安っぽさが拭えない。いや、これ本当に本革かな? 塩化ビニルとかエナメルとかじゃないよね? 洗剤で洗ってもいいやつ? 洗濯表示くらい付けといてほしい。
まあ、素材はさておく。これが非常に安っぽく見えてしまうのは、僕の前世の記憶が影響しているのだから。
ただ、デザイン的なナンセンスさはこの世界でも通用してしまうのだから遺憾である。
いつまでも嫌だなーと思っていても埒が明かないから、僕は観念して服の上からベストを着て、グローブを装着して訓練場に戻る。
案の定、僕の姿を見た途端、グレンさんとスイルーさんが口元を押さえて下を向いた。
「笑うなら堂々と笑ってくれません?」
キラーアントにズボンもブーツもボロボロにされたから、今の僕の服装は部屋着としても使っているダボダボの古着上下だ。そんなぼろくて緩い服の上から、やたらと格好付けたピチピチのベストとグローブを着けている。
効果音を付けるならテテーン☆と言う感じだ。靴さえもスリッパに近い布靴を履いているから、余計にベストとグローブが浮いている。
自分でもちぐはぐな格好をしているとは思う。思うけど、ウケ狙いでこんな格好をしているわけじゃないんです。
「いやっ、ふふ、すまん、予想外で、ふふふ……」
「く、くく……よく、似合ってるぞ、ブフフフ……」
「言っときますけど僕の趣味じゃないですからね、ダンジョンに出現した時からこうだったから、仕方なく使ってるだけですからね」
「わかったわかった」
「わるいわるい」
絶対悪いと思ってない!
ベストもグローブも本革製です。何皮かはわかりません。
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