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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
修行編?
93/99

93.僕、戦うの向いてないね

「ヨナハンは魔法と組み合わせる訓練をした方がいいな」


 つまり、僕は武器を持って正面から戦うのは向いてないということだ。なんとなくわかってたけど、改めて再確認されると悲しくなる。僕、戦うの向いてないね。


 一方のネニトスは木剣と盾を持って、スイルーさんにバコバコ打ちのめされている。色んな武器を持ってみて、結局、基礎から叩き込まねばならんとなったらしい。


 あちらもボコボコにされてぜんぜんダメなように見えるけど、あれだけ扱かれているということは、武器は使えると見込まれたのだろう。扱かれる段階にもならなかった僕よりは戦えそうで何よりだ。


「あの派手な魔法以外、どんな魔法が使えるんだ?」

 派手な魔法とはブラックホールのことだろう。人前で使ったことがあるのはブラックホールだけだ。


「これなんですけど……」

 僕はとりあえず自分の影に潜る。なんにもない訓練場だと自分以外の影がなかったのだ。


 そう言えば、指ぬきグローブも黒革のベストもなしに魔法使ったのは久しぶりだ。この程度の距離なら、アイテムのあるのとないのとの差はよくわからない。


 影の中から地上を見上げれば、いきなり消えた僕に、グレンさんが目を見開いているのが見えた。


「影から影に移動できます」

 グレンさんの影から出ると、突然背後から聞こえた声にグレンさんがギョッと振り返る。でもプロの冒険者はこれしきで声を上げたりしない。


「へえ、便利だな」

 一瞬驚いただけでグレンさんはすぐに元の調子に戻った。転移魔法が日常的に使われているから、人が消えるのも然程珍しいことではない。いや、いきなり消えたら僕ならビビるけど。


「ふむ、おまえの持ってるものも影の中に入るんだな」

「はい」

 でないと素っ裸で影の中に入ることになるからね。


 グレンさんは腰から下を影に沈めている僕を見回して考え込む。既にシャドウウォークの特性がわかっているのか、影を動かさないようにその場に留まってくれている。


「ちょっとこれ持って、もう一回沈んでみろ」

 グレンさんが渡してきたのは素人の杖だ。風属性みたいだから、ネニトスの訓練用に持ってきたのだろう。


 僕は言われた通り素人の杖を持って影の中に全身沈む。僕は風属性ではないからこの杖は使えそうにない。この杖で何の魔法が使えるのかもわからない。

 しばらくもせず、グレンさんが手招きしてきたので地上に戻った。


「影の中にいると気配もしないし、魔力感知にも引っかからないな」

「へーそうなんだ……」


 グレンさんは何もしていない様子だったけど、地上で感知魔法を色々試していたらしい。ぜんぜんわからなかった。

 結果、たぶん影の中にあればどんな魔法アイテムでも感知魔法にかからない、ということがわかった。もっと強力な魔石とかはどうかわからないけど。


「でもあんまり重いと一緒に沈みそうなので持てないですね、あと生き物も入らないです」

 試しにグレンさんの手を握って影に沈んでみたけど、グレンさんの手は地面に阻まれて影の中には入らなかった。


「影の中までモンスターが入ってこれないのは利点か……入っていられる長さは決まってるのか」

「決まってないと思いますけど、影の中は息できないんで」

「あ~そんな長くは潜伏できないのか、いや息ができればずっと中にいられる、か……?」


 グレンさんはシュノーケルみたいなものを口に付けて、影の中で待ち伏せするような狩りを考えているのだろう。


「影の中に物を収納しておくとかはできないのか」

「それはできないです」


 これは僕も実験済みだった。影の中に物を入れておいて、いつでも出し入れ出来たら便利だし格好良いと思ったんだけど、物を持って影の中に入っても、僕が手を離すとその物は外に出てしまう。

 試しに、そこらの小石を掴んで片手を影の中に突っ込み、手を開いてみると、小石だけがポロリと地面に出現した。


「勢いよく飛び出るとかでもないんだな」

「そうできれば射出機的な感じで使えたんですけどね」


 とりあえず、シャドウウォークは移動や隠れることにしか使えないことがわかった。でも、僕が使える魔法の中では安全な使い道があるだけマシだ。


「他には?」

「あとは、これですね」


 僕は躊躇いつつダークネスを発動した。

 モクモクと黒い靄が現れるのを見て、スイルーさんとネニトスも手を止めて眺めている。スイルーさんは謎の靄に警戒しているようだが、そんな警戒されても僕の方が困る。


「攻撃力はないので、触っても吸い込んでも平気ですよ」


 ダークネスは前回使った時よりも黒い靄が濃くなっているように見える。前までは靄の中に入ってもシルエットが見えるくらいの濃さだったけど、今なら靄の中に入れば完全に姿が見えなくなるくらいの濃さだ。多少はレベルアップしているということだろうか。


 そして、黒いモヤモヤが僕の手からモヤモヤ広がって、それだけで特に何も起きないとわかって、グレンさんが目を細める。チベットスナギツネみたいな顔だ。


「……こんだけ?」


「こんだけです」


 僕の回答にスイルーさんも目を細める。ネニトスもコメントに困っているようだ。別に一発芸大会でもないけど、なんか僕がスベッたみたいな空気やめてほしい。


「あー……自分で影作って移動することができるんだな」

「はい」


 グレンさんは一目見ただけで使い方を理解した。僕はあまりの意味のなさに使い方がわかるまで数ヶ月かかったので、やっぱりベテラン魔法使いはすごい。


「まあ、黒い靄出した時点で、そこから出るってバレバレなんですけどね」

「そうだな」


 グレンさんも納得の使いどころのなさ。


「こんな魔法も使えたんだ、知らなかった」

「ダンジョンの中はだいたい暗いから、使う必要ないだろ」

「確かに」


 いつの間にか近くに来てたネニトスも納得する。使いどころ無いんだよ本当に。

ヨナハンが物を持った状態で影に入ると物の重さに従って下に沈みますが、ヨナハンが放すと物は重さ関係なく外に出ます。シャドウウォークの謎仕様です。


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