91.僕らメンタルも弱いんで
剣術の基礎、にもならない腕の筋トレの後は、また数分休んでから体術の基礎練習だった。
これにはギルマスが直々に出てきたけれど、ベンドレンドさんはよく食堂とかフラフラしているのを見るから、有難がるほどのことではない。
体術とはどの武術だろうかと思ったけど、僕らの場合は決まった流派を教わるレベルにも達していなかった。
「ヨナハンに足りんのは、まあ……言わんでもわかるだろ」
「体力です」
「そうだ、身体を鍛える体力がまずない」
「はあ……」
流派どころか体術を教わるレベルでもなかった。ベンドレンドさんの視線は呆れというより憐みだ。
「ダンジョンでは結構走れるのにな」
「あれは火事場の馬鹿力」
ダンジョンで全力疾走する時と言えば、命の危険が迫っている時だから、そりゃあ命がけで走る。息が止まっても心臓さえ動いていれば魔法でどうにか助かる世界だから、肺が爆発しても足は止めない。
だから、普通に走ってこんなに走れないとは自分でも知らなかった。田舎でも、狩りと言えば罠を仕掛けるようなやつだから、獲物を追って走り回るとかなかった。街に出たら尚更、ダンジョン以外で走ることってない。
「ネニトスは体力はまあまあだな」
「あざーっす」
「だが体格の良さに胡坐を掻き過ぎだ、せっかくの身体を活かす動きがさーっぱりできとらん」
「……へい」
「ヨナハンは動けないが俊敏さと柔軟性はある、が体力が絶望的にない、ネニトスは体力があるだけで速さも柔軟性もない、腕力はあるのにぜんぜん使いこなせとらんし、根性もなければ機転も利かんし」
「その辺で勘弁してください、僕らメンタルも弱いんで」
体力的によぼよぼになっている僕の隣で、ネニトスも精神的にしおしおになってしまう。
僕らは丁度良いところにいたから、このお試し強化訓練の実験体になったけど、僕らの実力は企画者であるギルマスの想定を遥かに下回っていたようだ。
ここでようやく僕もネニトスもちょっとヤバいのでは? と思い始めた。こんな面倒臭い訓練早く終わらせたいと思ってたけど、もしもここで見捨てられてしまったら、無職ニートに逆戻りだ。
だからって、もう少しヤル気を出すとか真面目な態度をとるとかもできないんだけど。なんせこれが全力なので。このヘロヘロのプルプルの体たらくが全力なので、これ以上なんとかする余力はない。
残る手立ては、二人揃って見捨てないでという目でベンドレンドさんを見るだけだ。
そんな視線を受けて、ベンドレンドさんは目を細めて、と言っても眉毛に埋もれて目は見えないけど眉毛がちょっと下がったから顔を顰めたんだと思う、それから盛大に溜息を吐いた。
「まあ………………鍛え甲斐だけはあるな」
しょーがねーなーと言いたげに、辛うじてギリギリポジティブな点を絞り出してくれた。
「「頑張りまーす」」
僕らはもうしばらく冒険者ギルドの脛を齧っていられることに安堵する。よかった、ギルドの方に役立たずでも面倒見てくれる根性があって、本当によかった。
体術訓練は、予想通り体術訓練にはならず、柔軟体操をしてから、腕の動かし方とか足の動かし方とか、本気で基礎の基礎の体操みたいなことを教わった。
あとはそれを繰り返すだけだ。またもや、終わりと言われるまでずっと。
僕の体力のなさと、ネニトスの柔軟性のなさを考慮して、ゆっくりでいいから正しく動けと言いおいてベンドレンドさんは建物に戻っていった。僕らは真面目に指導する域にも達していないからね。
僕らは太極拳みたいな、武術と言うか体操と言うか踊りのような動きを延々繰り返した。
「こんなんで俺ら本当に強くなんのかな」
「根性無さ過ぎるだろ」
今さっきギリギリで拾ってもらえたというのに、ネニトスは早くも体操に飽きて来たらしい。動きは止めないけれど、ヤル気のなさが滲み出ている。
「ヨナハンは体力無さ過ぎるくせに」
「それを今鍛えてるんですぅ、ネニトスだって体力以外は僕とどっこいどっこいだからな」
「身体を鍛える体力がない人に言われたくないですぅ」
「ネニトスの体力は身体が大きいおかげだろ」
「つまり生まれ持った才能」
「親に感謝しろよ」
「してますぅ」
「引っ越した理由話した?」
「話してない」
「ほらみろ」
「それとこれとは話が違うでしょうが、ヨナハンは実家が遠いから自由に出来てるけど、地元にずっといるっていうのは結構窮屈なんだからな、だいたいこの前も」
「ネニトス喋ってねーで身体動かせ!!」
「はい!!」
窓から飛んできたベンドレンドさんの怒号に、ネニトスはビシッと背筋を伸ばしてきびきび動き出す。無駄に力が入ってても怒られると思うけど、僕は素知らぬ顔で体操を続ける。
「一人で真面目なフリしてズルいぞ」
「気付かない方が悪い、あと愚痴多過ぎ、マジで真面目にやれよ」
「真面目にやってますぅ、でもこんな変な動き繰り返してもさぁ~……」
「ネニトス!! 無駄口叩いてんじゃねえ!!」
「はいぃ!!」
ギルマスの怒号と、ネニトスの泣き言をBGMにして、僕はとにかく身体を動かすことに集中した。動けているだけ偉いからね。
昼食はギルドの食堂で用意されていた。
そうだ、まだ午前中の訓練しか終わっていない。同じことを延々繰り返すという特訓は想像以上にメンタルにもきていて、既にもう一日中動き続けたような気分なのに、まだ昼なのだ。
僕もネニトスもゲッソリした気分で飯を掻き込む。
救いなのは、まだまだ若いので回復が早いし、疲れ過ぎて飯が喉を通らないなんてこともない。疲れたら疲れた分だけ食べられるし、食べたぶんだけ回復する。
食事メニューは選べないけれど、僕らは訓練生と言うことで肉多めの料理が出たようだ。カチカチのパンは食べ放題だったし、大して美味しくないギルド食堂の料理も疲労が最高のスパイスになってくれた。
ネニトスもヤル気がないわけじゃないんです。ただ愚痴を言わずにいられない性格なだけで、本気でヤル気が無かったら実家に泣きついてでもバックレる方法を探してます。
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