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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
修行編?
90/99

90.計測ミスでも何でもなく雑魚であることが確定した

「想定通りだ、念の為もう少し専門的な訓練も考えていたが、二人ともまったくそんな段階じゃないな」

 グレンさんは納得顔だ。訓練メニューがめちゃくちゃ普通なのは、僕らにそもそもの基礎がないからだったらしい。一般人に毛が生えた程度でもなく、まんま一般人レベルだ。


 測定と無駄話が終わると、次は渡された腕輪を付けてもう一度腕輪で測定、アルバートさんの鑑定と同じ数値が出たから腕輪は正しく機能しているのだろう。ついでに、僕らの数値も計測ミスでも何でもなく雑魚であることが確定した。


 それから、特訓メニューに従って、まずは只管走った。

 終わりと言われるまで訓練場の中をグルグルと走り続ける。時計が無いのは仕方がないと思っていたけど、何の目安もなく、変わり映えのないコースを、いつ終わるかもわからず走り続けるというのは、想像以上に過酷だ。


「これ、いつまで、やるんすか」

 ネニトスは十周もしないうちに飽きた顔をしていた。ぜひぜひ荒い息を吐きながら声を上げる。


「俺が終わりと言うまでだ」


 グレンさんは答えにならない答えをくれる。ただ走るのを見守るだけも暇だろうと思ってたら、机出して来て別の仕事を始めている。


「ひえぇ~~……」


 ネニトスは泣きそうな悲鳴を上げているけど、悲鳴を上げられるだけ余裕がある。僕はもう既に声を出す元気もなく、呼吸するだけで精一杯だ。


 水は持たされたけど、終わりと言われるまで休憩もなし。これはたぶん体力増強の他に、精神力とか計画性とかの訓練にもなっている。とは思うのだが、僕にはまず温存するだけの体力もないので、計画的に走るとか以前の問題だ。


「もう無理、やばい、しぬ、せめて休憩、あ、トイレ行きたいっす」

「ネニトスは黙って走れ~、ヨナハンは元気に走れ~」


 グレンさんが僕にかける声は、注意でも指導でもなく励ましだ。そう言われたって僕の足は上がらない。さっきからズーリズーリとランニングとは思えない足音が響いている。


「む……むり……」

「ほら、ヨナハンも無理って、休憩を」

「ネニトスは黙れ~、あとおまえもっと速く走れるだろ」

「いや、仲間を、置いてくわけには」


 ネニトスはキリッとした顔でほざくが、愚痴る元気があって、そもそもの足の長さが違うのに僕の横を走っているのは、言い訳のしようもなくサボりだ。


「僕の、ことは、気にせず、いけ……つか、よこで、うっさい……」

 サボるためだけに横を走られては精神的にも削られる。今の僕にはツッコミを入れる元気もないので、本気で先に行ってほしい。


「ひど、俺は見捨てないぜ」

「じゃあ背負って走るか?」

「一人で走れまーす」


 無駄にイケメンな顔をしていたくせに、グレンさんの提案を聞いた途端ネニトスはさっさと走っていった。悔しがる気力もなく、まだまだ体力が残っていることが今は素直に羨ましい。


「ヨナハンはとにかく足を止めるな」

「し……しぬ……」

「死なん走れ~」


 いや死ぬって。


 ネニトスは荷物背負わされたら堪ったもんじゃないと思ったのか、無計画に全力を出し、後半はへばって足を引きずるようになっていた。

 僕は走るというか、始終足を引きずるように前進した。体力のなさが課題なのはわかった。わかったから終わらせてくれ頼む。


 何時間走ったかわからないまま、終わりと言われて崩れ落ちる。


「ひ~、無理、あー、もー、むり、なあヨナハン……ヨナハン? 死んでる?」

「死んでない」


 倒れても愚痴る元気のあるネニトスに、返答したのはグレンさんだった。僕は声を上げるどころか、肺が痛くて呼吸もままならない。ほぼ死んでるので勝手に答えないでください。


「休憩終わったら素振りな」

「無理だって~」


 グレンさんはネニトスの愚痴を無視して大きな砂時計をひっくり返した。砂が落ちきったら休憩終わりらしい。たぶん十分もない。


「……ネニトス、あれ、壊して」

「おうおう元気じゃねえかヨナハン、休憩いらないか」

「ごめんなさい、いります」


 砂時計を壊すと休憩なし、というルールが追加された。


 僕らの状態などお構いなしに砂時計の砂は落ちきり、言われた通り次は素振りだ。

 訓練用の木剣を持たされて、グレンさんに軽く型を教わる。それから只管素振りを繰り返す。

 これまた、終わりと言われるまでずーっとだ。しかも、今度はちゃんとやってないと指摘される。


「ネニトス脇締めろ、腰曲がってるぞ、テキトウに上げ下げすんな、一振りごと型を意識しろ」

「なんで俺ばっかり~」

「おまえ前衛だろうが、剣もまともに振れないでどうする」

「まだ役割とか決まってないし、ヨナハンも剣持ってるし」

「ヨナハンは……腕動いてて偉いな」

「贔屓? なんか賄賂でも渡したんか」

「いやヨナハン見てみろ」


 とっても楽しそうに素振りをするネニトスの横で、僕は死んだ顔で木剣を上げ下げしてた。


 いやもう自分でも笑えるくらい無理。さっきの走り込みで足が生まれたての小鹿のようになっているから、立っていられるのが奇跡だ。木剣持ち上げるだけで腕もプルプルだし、振り下ろしたら木剣の重さに負けて倒れそうになる。


 いやね、これでも前世よりはマシなんですよマジで。我ながら本当に面白いほどプルプルしてるけど。運動不足の現代人だった前世なら、走り込みの途中で動けなくなってた自信がある。今世は山を駆け回っていた田舎者だから、まだ体力はある方だ。


 だから、立って木剣持ててるだけ偉い。もうなんか体力無さ過ぎて笑う。笑う体力もないけど(笑)


「……木剣持ち上げられて偉い」


 ネニトスも僕の惨状を見て理解してくれたらしい。


「なんだそのヤル気のねえ素振りは!! ネニトス真面目にやれ!!」

「ひぇえ! すんまっせん!」


 今度は窓からベンドレンドさんの怒号も飛んでくる。フォームもくそもなく足が動いていればよいという走り込みと違って、素振りは型が崩れていては意味がない。のはわかるのだが、できるかどうかはまた別なのだ。


「ヨナハンもっ……、……う、動き止めんなよ!」


 僕の惨状はベンドレンドさんの声すら控えめにした。

この世界の一般人は現代日本人より体力はありますが、体育の授業とか受けたことないので真面に動ける人はそういないです。主人公は前世で体育の授業を受けた知識はありますが、それを活かすだけの体力が足りたないのでやっぱり雑魚です。


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