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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
修行編?
89/99

89.はい雑魚です

 軽率だったと思う。


 死にそうな息を吐きながら僕は天を仰いだ。晴れてはいないが雨も降っていない曇り空、絶好のランニング日和に、僕は朝からずっと走り続けている。

 僕の少し前をネニトスも走っている。同じく死にそうな呼吸を繰り返し、足を引きずるようにして走っている。


 でも、やめるわけにはいかない。


 ここから逃げることもできない。


 ここは冒険者ギルド本部の訓練場、建物の窓から丸見えだから、少しでも足を止めれば誰かしらから怒号が飛んでくる。


 あ、ネニトスがこけた


「足止めてんじゃねえぞ!!」


 ほらね。ギルマスの執務室からベンドレンドさんの怒号が飛んできた。

 僕はべそをかくネニトスを引っ張り起こして、またズルズルと走り始めた。


 こんな日が、かれこれ四日は続いている。




   * * * * *




 特訓メニューは普通に真っ当過ぎて面白みがないな、と思ったのが第一の罠だった。


 『目指せD級冒険者!! 集中強化合宿(仮)』と書かれたパンフレットをパラパラ捲って、僕はまだこの時までは暢気にあくびを噛み殺していた。


 どうせ仕事ないし暇だからと、昨日は冒険者ギルドの資料室に入れてもらって書籍を読んでいたら、気付いた時には深夜になっていたのだ。

 どうして誰も声をかけてくれなかったんだと思ったけど、深夜勤務のギルドスタッフさんに「勉強熱心ですね」なんて微笑まれたら何も言えなかった。ただ前世のファンタジー小説読む感覚で楽しんでただけです。


 おかげさまで、夜中まで勉強していて寝不足という立派な言い訳が出来ているわけだけど、僕からしてみると、勉強しているふりで漫画読み耽ってて寝不足というだけだから、多少の罪悪感はある。真面目な態度に努めておこう。


 パンフレットによれば、午前中は走り込みと素振りと体術基礎練習、午後は武器の扱いと魔法の扱いを学ぶとなっていた。魔法以外は前世の体育会系部活動と大差ない内容だ。相変わらずファンタジー感が薄い。


 時間が書いていないのは時計がないから当然だと思ったけど、メニューを見た時点でツッコミを入れておくべきだった。と気付いた時には後の祭りだった。


「はいじゃあこれ着けて」

 説明してくれたグレンさんが小箱を出してきた。


 彼はこの強化訓練のプロジェクトリーダー的なものを押し付けられたらしい。まだまだぜんぜん、スイルーさんの思い付きとギルマスのふわっとした構想だけで押し進められているので、上司のフワフワな企画を形にしていくのがグレンさんの仕事というわけだ。


 無茶ぶりに振り回されるグレンさんには同情するが、欲を言えば、もう少し面倒臭ぇという顔は隠してほしい。僕らも面倒臭ぇです。


 渡された小箱の中身は小さな輪っかだった。大きさからして腕に嵌めるものだろうが、木製で飾りの一つもないから、ブレスレットというより本当にただの腕輪って感じだ。


「何すかこれ」

 ネニトスも手に取って一目見て首を傾げるだけ。


「装着した者の体力や魔力なんかを常に計測できる道具、のはずだ、試作品だから、おまえらの特訓ついでに試す」

「へーすごい……」


 説明を聞いても、ネニトスはイマイチわかっていない様子だった。

 そう言えば、この世界ではまだ測定機器のようなものは見たことがないから、なかったのかもしれない。冒険者の実力測定だって、鑑定魔法を使える人が直に診て結果を書くしかない。


 僕もどういう仕組みかなんてわからないけど、前世でこういうのあったからなんとなく想像は付く。

 でも、前世のなんとかウォッチみたいに逐一自分で確認できるわけではなく、腕輪と連動した別の魔道具が定期的に測定結果を紙に記録していくという。


 それでも、とんでもなくハイテクなものには違いない。ただ、本人の許可なく試作品の実験体にするのはどうかと思う。逆らえる立場じゃないからってやりたい放題されている。


 これも、ホイホイ受け取る前に詳細をもっと突っ込んでおくべきだった。


「グレンさん、お待たせしました」

 そこにやって来たのは、鑑定士のアルバートさんだ。


「あ、そうだった、これ着ける前に現状を測定しとく」


 試作品の腕輪で正しく測定できるか、まずは既存の方法で正しい数値を取っておくという。


 初心者講習の時と同じく、アルバートさんの持ってきた水晶玉に手を乗せる。

 僕の数値は全体的に少し上がっていた。


 体力は二十三から二十八になり、戦力は十五から十七になっていた。魔法の方が伸びは大きく、魔力は三十四から四十七に、技力は二十五から二十九になっていて、総合レベルは二つ上がって七だった。

 これは魔法の訓練の成果じゃないか。成果が見えると嬉しくなる。


「ヨナハン君は元がそこそこ高いので、伸びはあまり大きくないですね」


 あんまり伸びてなかった。ちょっと得意気になった分ガッカリが大きい。


「元のレベルいくつだったんだ?」

「五」

「新人だと結構高いじゃん、なんでそんな伸びなかったんだ」

「うっさい、わかれ」


 ぼっちだったからだよ言わせんな。八つ当たりにネニトスの背中を殴っておく。


 新人冒険者は元のレベルが低いから伸びも大きいらしい。先輩たちとパーティを組んでダンジョンにガンガン潜っていれば、一ヶ月でレベルが三つか四つは上がるのが普通だという。

 素人の杖のしょぼい魔法も後方支援として使えるから、仲間がいれば素人の杖をどんどん使って、魔力もあっという間に上がるそうだ。


 ソロで一階層をうろついていた期間の長い僕は、体力と戦力の伸びが残念だった。やはり素人が独学で戦力あげるのはほぼ無理だということだ。


 ネニトスは総合レベルが八だった。体力が五十五、戦力が二十五、魔力は三十九、技力が二十三だ。僕よりは高い。


「冒険者やって半年でこれはやる気がないな」


 やる気がなかった。グレンさんに普通に言われてネニトスはしょげていた。体力は僕よりも高いはずだけどヘバるのは僕よりも早いから、根気とかが足りないのだろう。


「前回測った時のレベルは?」

「……八」

「上がってないのかよ」

「いや前回って二か月前だからな」

「新人なら二か月で一つ二つは上がるぞ」

「上がるって」

「いや、でも、だって~……っ」


 ネニトスの言い訳はグレンさんによって叩き潰された。ついでに八つ当たりのチョップも華麗に避けておく。本気じゃなくても身体が大きい分当たったら痛いのだ。避けんなよと言う顔をされるけど、ネニトスには体格差というものを考えていただきたい。


「ヨナハンだって大して伸びてないって言われたじゃん」

「大してね、伸びてない人に言われたくない」


「二人とも大差なく雑魚ですからね」


「「……はい」」


 はい雑魚です。僕らの目くそ鼻くそを嗤う言い合いは、アルバートさんの冷静なお言葉で収束した。

測定機器的なものはありますが、作るのが難しくとっても高価なので、鑑定魔法でどうにかできることは鑑定士に任せるのが普通です。


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