88.はい、暇してます
「へえ……」
「はあ……」
ポーズはキマっているけれど、僕はそれが何の駒なのか知らないし、ネニトスも良くわかっていない様子だ。ついでに、ベンドレンドさんもスイルーさんのズルを見抜くのを諦めたようだから、ポーズ以外なにもキマってない。
「高ランク冒険者になるには、主にダンジョン七階層以下へアタックする必要がある」
なんか格好良いポーズをするだけのギルマスと、なんもわかってない僕らの会話に、グレンさんが溜息を吐きつつ説明を引き継いでくれた。
高ランク冒険者になるには相応の実績が必要であり、その実績を作るにはダンジョンの深層にいるような強力なモンスターに挑む必要がある。
まあ、モンスターを狩る以外でも、凶悪な盗賊を討伐するとか要人に警護を任されるとか、実績を上げる方法は色々あるけれど、盗賊退治や要人警護の仕事は都合よくいつでもあるわけではない。その点、ダンジョンの深層には常に強力なモンスターがいてくれる。
しかし、現状のルビウスダンジョンには、七階層以下へ行くまでの道のりに雑魚モンスターが多過ぎるという。
「四階層から七階層で活動できるのはD級程度だ、つまり、その中級の冒険者が少ないと、深層に挑戦したいやつらも手間ばっかりかかって深層に辿り着けないってことさ」
なるほど。それで考えられたのが、中級冒険者を増やすための強化訓練ということか。
ようやく今日ここに呼び出された理由がわかった。絶対に最初のスイルーさんの脅迫いらなかっただろ。
だが、まだ答えをきめるわけにはいかない。というか、僕らにとって重要なことがまだわかっていない。
「だからって、何で僕らなんですか?」
僕らが呼び出されたってことは、その強化訓練の記念すべき一回生に選ばれたってことなのだろうが、理由がわからない。どこまでが新人と呼べるのか知らないけど、冒険者になって一年以内としても、もっとヤル気のあるやつはいると思う。
そこでスイルーさんが僕らを見た。真剣な眼差しだけど、さっきまでのヤクザみたいな眼光ではない。
「あんたらには才能がある」
思いもよらない言葉だった。いきなりのことでよくわからないけれど、スイルーさんにきっぱり言われると、僕もネニトスも満更じゃない。
僕らは顔を見合わせて、へへっと鼻の下を掻いた。
「そして才能を活かす才能がないし、不真面目じゃないがやる気もない」
上げて落とすやつだった。
僕らは照れ笑いを引っ込めて肩を落とす。言われた通りだけど、そこまできっぱり言われると傷つく。
「それにギルドに借金があって寮住まいで逃げ場がない」
スイルーさんは僕らの様子など気にも止めずに言いたい放題だ。全部事実だから言い返せもしないけど、逃げ場がない発言はなんか恐い。
「要するに、強化訓練を試すのに、おまえらが丁度良いところにいたってことだ」
グレンさんのわかりやすい説明で僕らは撃沈した。僕らを説得する気なら、最初の才能があるというところをもっと強調してもらいたいのだけど、これは説得ではなく強制であるらしい。
「でも、今そんなことしてていいんですか?」
用件がわかっても、やっぱりなんか恐いから、僕はできるだけ断る方向に話しを持っていきたい。
だが、僕の意見はただの悪足掻きにしかならない。
「今だからだよ、蟻駆除が終わらないことには他の仕事も回らねえし、どうせおまえらも暇してんだろ」
「いやーでもー、もっとやる気のあるやつに話し持ってった方が……」
ネニトスの顔にはあからさまに「訓練面倒臭い」と書いてある。僕も正直言って面倒臭いと思ってるけど、ネニトスはもう少し表情を誤魔化す術を身に付けるべきだ。
僕らの心情はバレバレだから、スイルーさんはもう取り合う気もなくボードゲームに目を戻ってしまう。
「やる気のあるやつは自分で特訓してんだよ、やる気がなくても要領のいい奴はこんな時でも仕事見つけてる、おまえらは特訓もせず仕事も見つけられず暇してんだろ」
二回言われた。はい、暇してます。
言い訳も見つからないのに、うだうだと返答を拒んでいた僕らだけど、ベンドレンドさんも既に決定事項として話を進めてしまう。
「これはまだ試運転だ、おまえらの出来を見て特訓メニューは変えていく、ギルドからの依頼と言うことにしてもいい、報酬は出ねえが、そうだな、借金返済は一年待ってやるし寮に一年は住んでていいぞ」
ベンドレンドさんは今思い付いたという口調でホイホイ決めてしまう。最終決定権を持っているギルマスだからできることだが、雑過ぎる。詳細をもう少しまとめてから呼び出すべきじゃないのか。ないか。どうせ僕らだし。
だが、軽々しく出される条件は悪くない。悪くないどころか好条件過ぎて、やっぱりちょっと罠を疑ってしまうくらいだ。
タダで鍛えてもらえる上に、借金の返済期日も伸びるし、部屋を探すのも先送りできる。ベンドレンドさんの話を信じるならば、特訓が面倒臭い以外は僕らに損はまったくない。
僕とネニトスは顔を見合わせて、溜息を吐いてから、頭を下げた。
「「よろしくお願いします」」
この後ちゃんとギルドからの正式依頼として契約書は作ってくれました。グレンさんが。
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