83.気分はマックに屯するリーマンというか学生だ
出来るだけ人に出くわさないように裏門からギルド寮へ入って、自室に駆けこんでようやく一息吐けた。冷静に考えると、教会から逃げるってどうゆうことだよ。
まだまだ僕らに休んでいる暇はなかった。
「ヨナハン、ネニトス、呼び出しだ、ってダハハハハ!」
同室の山猫獣人のエドが伝言を持ってきてくれた。
「笑われるのも慣れてきたわ」
「慣れたっつーか、諦めたっつーかな」
遠い目をする僕らにはお構いなしに、ゲラゲラ笑い転げるエドが言うには、着替え終わったらギルド本部の小会議室に来いとのことだ。
小会議室はその名の通りとても小さな部屋で、別名取調室もしくは説教部屋だ。飾りっ気のない小部屋に、これまた飾りっ気のないテーブルとイスだけが置かれているから、軍駐屯所の取調室にそっくりなのだとか。
そこに呼び出されるのは、だいたいやらかしたやつだけだから、またの名が説教部屋だ。
やらかした覚えのありまくる僕らは、できるだけダラダラ着替えをしてから、渋々と事情聴取へ向かった。
数匹とは言え、結局外までモンスターを連れて来てしまったし、おそらくキラーアントの巣穴があると思われる広場は僕らしか見ていない。
説教部屋で待っていたのは、初心者講習でお世話になったレヴィさんだった。名目は事情聴取だけど、冒険者ギルドに尋問菅などいるはずもない。
レヴィさんは怪我も完治して既に冒険者に復帰している。A級冒険者だから、今回のキラーアント殲滅作戦の統括本部に入るらしい。
「はぁ~嫌んなるぜ、虫系の大発生は面倒臭いばっかりだしさ」
事情聴取は思ったほど説教にはならず、半分くらいレヴィさんの愚痴だった。有難いことに軽食まで用意してくれた。全速力で逃げ回った後、飯を食べる暇もなかったら僕もネニトスも腹ペコだった。
「キラーアントあれだけいたのに、本当に誰も気付かなかったんですか?」
「部屋中埋め尽くすくらいだったのに、他には出なかったんすか?」
僕らは口をいっぱいにしながら首を傾げる。あれだけ大量にいたなら、他の場所にも出そうなものだ。変動しているとは言え、他の冒険者が蟻に遭遇しなかったのもおかしい。
ちなみに、用意されていたのは丸いパンに具材を挟んだもの。ハンバーグが挟まっていればハンバーガーと呼べただろうが、具材は味付けされたイモのみ。モッサモッサで飲み込むのに苦労する代物だけど、安いし腹持ちが良いから底辺冒険者の定番飯だ。
俺の奢りだ、とレヴィさんは格好付けて言ってたけど、このメニューをみるに、食堂の余りものを持ってきただけのタダ飯だろう。
「たぶん、全ての蟻が今日いきなり出てきたんだろうな」
「え?! あの量が一気に?」
「それまでどこにいたんだ?」
ギョッとする僕とネニトスに、レヴィさんは「それがわかれば苦労しない」という表情で茶を啜る。
「キラーアントはな、ある日突然大量発生するんだよ、学者によっちゃ、地面の中に大量に溜め込まれていた卵が一斉に孵化するとか、普通の小さい蟻が何らかの異変で一斉にモンスター化するとか、いろいろ言われているけど、大量発生のメカニズムはわかってないんだ」
レヴィさんの大きな溜息に、僕らはとりあえず納得する。何故大量発生するかはわからないけど、今日突然大量発生したのなら、僕らが第一発見者になったのは納得だ。
「あの、キラーアントの殲滅ってどうやるんですか?」
「というか、出来るんですか? あの数を?」
イモバーガーを延々モグモグしながら、僕もネニトスもちょっと絶望的な気分だ。
今日見ただけでももの凄い数がいたのに、キラーアントの恐るべきところは繁殖力だ。一匹の女王蟻が一時間で百個ほどの卵を産み続けるという。いくら倒しても果てがないように思える。
「できるよ、ただ時間かかるけどな」
レヴィさんの話しだと、キラーアントの討伐方法は前世の蟻駆除と変わりなかった。
まず殺虫剤を撒きまくって外にいる蟻を減らしてから、巣穴付近に毒餌を設置して様子を見る。ただの蟻ならそれで巣の中まで殲滅できるだろうが、キラーアントは魔物なので流石に毒餌だけでは女王蟻は倒し切れない。
毒で弱らせて卵を産む数を減らしてから、巣穴を掘り返して女王蟻を引っ張り出して殺す。残ったキラーアントを殲滅して、それでようやく討伐完了だという。
「どこまで広がってるかわからないが、まず数減らして巣に近付くだけでも一苦労だし、毒餌の効果が出るのに十日はかかるし、バカデカい巣穴を掘り返して女王蟻見つけ出すには、土魔法使えるやつ五十人以上は必要だ」
レヴィさんは既にゲッソリした顔で揚げたイモを食べている。だいたい、イモバーガーには櫛切りにして揚げたイモがセットだ。前世のハンバーガーチェーン店と何故か似ているけど、こちらはパンとイモしかない炭水化物三昧だし、コーラもこの世にはない。
なんかもう、事情聴取とは名ばかりの食いながら愚痴ってるだけだ。メニューまで似通っているから、気分はマックに屯するリーマンというか学生だ。
「しかも、金にならん」
「最悪っすね」
「むしろ金かかるだけか」
キラーアントはこれと言って売れる箇所もないから、尚更みんなやる気が出ないらしい。せいぜいが女王蟻が薬として売れるだけで、山ほどいるその他の蟻はいくら倒しても金にならない。労力と時間だけが食われる。
ダンジョン内で大発生する虫系モンスターとしては、キラービーなんかは、巣が丸ごと売れるし、中の蜂蜜や卵や幼虫にはかなりの高値が付くという。その代わり、蜂は飛行するし毒まであるから、危険性がキラーアントの数倍は増す。
「壁壊すならヨナハンの魔法使えるんじゃね?」
「言うなよ」
ネニトスが何気なく言ってくるけど、僕はもうあんな蟻に埋め尽くされた場所には二度と行きたくない。E級冒険者は討伐への参加義務がないから知らん顔してたのを察してほしい。
僕がどう誤魔化そうか考える前に、レヴィさんが首を振ってくれた。お茶を淹れ直しているけれど、ここでダラダラして、面倒臭い討伐計画会議をできるだけ後回しにしようとしている魂胆が見え見えだ。
「駄目だな、キラーアントの巣穴は何ヶ所か分かれていることがあるんだ、その中から確実に女王蟻を見つけないといけないから、討伐したかどうかわからない魔法は使えない」
よかった。僕のブラックホールなら壁を広範囲抉ることはできるだろうけど、何を吸ったか僕でもわからないから、モンスター狩りには本当に向いていないのだ。悪人を死体ごと抹殺するとかいう方が向いてる。やらんけど。
結局、レヴィさんと飯食ってお喋りしただけで僕らは解放された。
罰金はとられたけど、外に連れ出したキラーアントをその場ですぐにシレーネが殺してくれたから、それほどの額にならなかった。
今回はシレーネ様様だ。今度会ったら消耗品弁償だけでなく酒でも奢るべきだろう。彼女がどこに住んでいるのか知らないから、どっかで遭遇するのを待つほかない。
この街で食事を安上がりに済まそうとするとレパートリーはイモとマメのみになります。
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