82.態度は悪いけど
「アッハッハッハッハッハッハ!! これは、これは、災難でしたねふふふ、ハッハッハッハッハ……」
教会に行ったらエルンさんに爆笑された。
それはただ腹が立つのだが、周りにいる可愛いシスターさんたちも、堪え切れずにクスクスしているから泣きたいくらい恥ずかしい。
でも、仕方がない。
ネニトスは蟻に噛まれまくって、両足が象のように腫れあがっているし、ズボンも破けて斬新過ぎるダメージジーンズみたいになっている。裂けた生地がパンパンに腫れた皮膚に食い込んで、まるで両足ボンレスハムだ。
僕は怪我こそしていないけれど、中古の革ブーツはすっかりサンダルになっているし、布の長ズボンは太腿まで出るつんつくてんのショートパンツになっているし、マントもほぼボロ布と化している。みすぼらしいことこの上ない。
それでいて、黒革のベストとグローブだけは新品のようにピカピカのままだから、下着の上から革ベストだけ着たようになっている。街中を歩こうものなら変態呼ばわり待ったなしだ。
ここまでくる間の転移門でも、散々笑われたし憐みの目も向けられた。
でも、人目を避けて歩いて帰るのもネニトスが無理だったから、泣く泣く人目の多い転移門を利用してさっさと帰って来たのだ。こんな仕打ちを受けるために教会へ急いだわけじゃない。
「あの、痛いんで、笑ってないでさっさと治療してください」
ネニトスは涙目で恨みがましくエルンさんを睨んでいる。あの腫れ方は本気で痛いだろう。中途半端にズボンが食い込んでいるのも痛いのに、腫れあがっているせいでズボンを脱ぐこともできずにいる。
「ひひひひ、ああ、ごめんごめん、でも股間にプロテクター付けててよかったね、なかったら……ふふ、今頃女の子ですよ」
「ぴぇ」
ネニトスはまた涙目だ。エルンさんは笑っているけど、冗談でなく、プロテクターを着けていなかったら股間まで齧られていただろう。想像すると僕まで股間がヒュッとなる。
「で、ヨナハンくんは何しに? 治療魔法でズボンまでは回復できませんよブッフフフフ」
服が直せないことくらい言われなくとも知っとるわい。
いや、服を修繕する魔法というのはある。街中の服屋にも『魔法修繕承ります』の看板をたまに見る。ただ、僕が着ている古着だと、わざわざ魔法で直してもらうより、また古着を買い替えた方が安上がりなのだ。
「左手も噛まれたんで、封印の状態確認してほしいんです」
魔法の封印は基本的に術者にしかメンテナンスを頼めない。封印を確かめてからじゃないと、服を着替えに寮へ戻ることもできない。
「怪我人はこちらへ」
「台の上に寝そべってください」
「ズボンはもう切っちゃいますね」
「え、あ、はい、あの、パンツは勘弁してください……」
ネニトスは治療のためにシスターさんたちに囲まれ、下半身をひん剥かれて、タジタジしている。
両足とも負傷なので治療魔法も複数で施す必要があるのだろうが、女性ばかりに集られているのは絶対にあの顔のせいだと思う。キョドりまくっているネニトスの態度に、シスターさんたちがすごく楽しそうだ。羨ましい。
僕の担当はエルンさん一人だ。未だにニヤニヤ笑っている態度の悪いお兄さん。お姉さんたちにちやほやされたくて教会来たわけじゃないから別にいいですけどね。
「ああ、ちょっと破れてますね、でも包帯破れただけなら封印は解けませんよ」
そう言いながらエルンさんが手をかざすと、破れた包帯が元に戻っていく。ついでに、ちょっと薄汚れていたところも綺麗になる。態度は悪いけど魔法の腕前は確かだ。態度は悪いけど。
「キラーアントは魔法を使わないモンスターだから平気、アンズーとかバジリスクとか、魔法使う系モンスターにやられたら封印解けるかもしれないんで、気を付けてくださいね」
すごく軽く言われたけど、アンズーとかバジリスクって第一ダンジョンの四階層以下に出るモンスターだ。そんなものにやられたら封印解ける前に死ぬと思う。
「つか、封印ぜんぜん弱まってませんね」
「え、良いことじゃないですか」
「良いことじゃないですよ、この封印魔法は必要なくなれば自然と解けるように設定してるから、技力が上がれば合わせて封印も弱くなるんです」
「……できることは増えてますけど、少しずつ」
「精進がぜーんぜん足りないってことだね、だいたい一年くら保つこと想定してるけど、かけ直しは何でもできますからね、もち有料で」
どうせ何年も魔法コントロール身に付かないだろ、と思われている。エルンさんの舐め腐ったニヤケ面を睨みつけた。絶対に一年で封印解いてやりますよ! と心の中で宣言する。口に出して宣言するほどの自信はない。
「ヨナハンくんの施術は終わりでーす、他に怪我もないね、封印術のメンテのみなので五百三十イェンになります、あ、保険証提示してください」
「ギルドカードね」
僕はギルドカードを見せて施術料を払う。今日は収穫がほぼないのに、この他にも服やマントを買い替えないといけないから大赤字だ。
「はい確かに、まいどあり、そのイカしたベストに合う服買った方がいいですよ、ブフフ」
聖職者がまいどありって言っていいのかよ。絶対イカしてるなんて思ってないエルンさんの笑い顔に、僕は早めにマントを買い直すことを決めた。
「待ってヨナハン、俺も終わったから帰る」
「まだまだ確認が終わってませんよ」
「上も噛まれていないか見ませんと」
「ほら、パンツの中も」
「もう大丈夫ですから、お会計を、あの、いや、パンツは勘弁してくださいって!」
僕が教会を後にしようと思ったら、ネニトスの情けない声が聞こえてきた。一緒にやたらと色めき立つシスターさんたちの声がしなければ、聞こえなかったフリして帰ってたところだ。どうせ帰るったって隣だし。
振り返ってみれば、すっかりズボンを切られてショートパンツ姿になっているネニトスがいた。プロテクタを付けているから股間は見えていないけど、おかげでハイレグくらいまでズボンが削られている。
「うわ、隣歩きたくない」
「ヨナハンも大差ないだろ」
確かに僕も人のことなど言えない酷い有様だけど、僕の場合はモブが変な格好してもモブはモブでしかない。ネニトスの場合は変な格好の上にキラキラしい顔面が乗ってるから、完全にギャグだ。イケメンは何でも似合うなんて、所詮は都市伝説だったんだな。
しかし、ネニトスが怯えているのもわからないでもない。シスターさんたちがすっかり肉食獣の顔になって、治療にかこつけて服を剥ごうとしているのだ。完全にセクハラだ。鋏持って迫る姿は殺人鬼のそれだ。この教会には俗物しかいないのだろうか。女性に囲まれているのに、これほど羨ましいと思えない光景も他にない。
羨ましいとは思えないし、憐れだと思える状況だけど、無理だ。僕には鼻息荒いご婦人方に対抗する術がない。悲しいかな、同じような格好してても、僕は引き止められもしないしね。
「僕も酷い格好だけど、酷いのが二人も並んでたら余計目立つじゃん」
「一人で歩くのもキツいじゃん、というか置いてかないで、助けて」
「教会で助けを求めるなよ、シスターさんたちに失礼だろ」
「教会に俺を売ろうとしてる? 見捨てないで頼むから」
「痴話喧嘩は他所でやってもらえます?」
「「痴話喧嘩じゃないです」」
エルンさんの言葉に二人揃って首を振る。エルンさんのツッコミはわけがわからないけど、おかげでシスターさんたちが引いてくれた。よくわからないけど、僕らはその隙に冒険者ギルドへと逃げ帰った。
服を修繕する魔法は繕えないレベルの破れや染みや色落ちも直して新品同様に出来ますが、非常に高度な魔法でお高いです。大抵の古着は縫ったり貼ったりして直してます。
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