81.僕の露出とかどこにも需要ないよ!!
通路の奥の方で黒い塊が蠢いて、次の瞬間にはドッと黒い塊になった蟻の大群が溢れ出してきた。
「駄目だ!」
「逃げろ!」
また二人同時に走り出した。僕の攻撃はキラーアントをブチギレさせただけだったらしい。あ、多少は距離を広げられたかもしれない。でも、二人とも体力が限界に近い。対する蟻の進行速度は衰えしらずだ。
帰還の環を使えばすぐさま地上に戻れるけど、今のキラーアントとの距離では、キラーアントも複数地上に連れて行くことになる。
生きたモンスターを拘束もせずに地上へ連れてくると、罰金が科される。特に、キラーアントなどの繁殖力の高い虫系モンスターは十匹以上連れてくると罰金がとんでもない額になるという。
だから、どうにか距離を取ってから帰還の環を使いたいのだが……
「ヨナハン、さっきのもう一回できるか?!」
「あー、無理! 魔力切れ、ネニトスの風魔法は?」
「俺のは効果範囲広くないから、あいてっ、いたたたた、取り付かれた?!」
ネニトスの足に一匹二匹とキラーアントが昇ってくる。
「うわあああ僕にも来た、あれ? 痛くない」
僕の足にもキラーアントが齧りついてきたけど、痛くない。黒革ベストの完全防御すごい。クソダサベストとか言ってスンマッセンでした。
「あ、駄目だ! マントもズボンも食われてる?!」
完全防御のおかげで僕にダメージはないけど、布のズボンやマントが瞬く間にボロ布になっている。ネニトスの分厚い生地のズボンも食い破られているから、僕の中古の革ブーツも時間の問題だろう。
完全防御って言うなら服も守れよ!? このままじゃ怪我はしないけどベスト以外の衣服が無くなる。まるで都合よく服だけ溶かすエロ漫画の触手生物だ。僕の露出とかどこにも需要ないよ!!
「どどどどどうする?!」
「ど、ど、どうしよう?!」
「こ、このままじゃ広場まで出ちゃう!」
この蟻の大群を引き連れて三階層入り口の広場に出たら、他の冒険者にも被害が出るのではないか。同業者と揉めるのはできるだけ避けたいけど。
「いや、広場まで行けば、誰か虫除け持ってるかも」
ネニトスはここまで来ても前向きだ。いや違うな。ここで帰還の環使って罰金払うのをできるだけ回避したいって、泣き顔に書いてある。足に噛みつく蟻を何匹もぶら下げながら、とんだ根性だ。
そんな僕も、こんな命がかかっている場面で、他の冒険者への迷惑料とモンスター放出の罰金とを天秤にかけて悩んでいるのだから、貧乏性が板に付いていて悲しい。
しかし、僕らの思惑は無情にも裏切られた。
「行き止まりだ?!」
「うっそだろ?!」
さっき通ってきたはずの通路が塞がっていた。
三階層は変動中だから突然道が変わることもあるだろうけど、何もこんな緊急事態の最中に変動しなくてもいいだろう。
僕らは仕方なく右に曲がった。だってそっちにしか道がなかった。もうこれで広場までの道はわからなくなった。
「も、もう、無理じゃないか」
僕もネニトスもヘロヘロだ。ネニトスはあちこち噛まれてズボンが斑に赤くなっているし、僕は怪我はないけど革のブーツも穴が開いている。
「くっ……しょうがない、帰還の環を……」
ネニトスも諦めて帰還の環を取り出した時、正面に人影が見えた。
だが、一人だ。このままだとあの人も巻き込んでしまう。
「に、逃げて……!!」
「息止めろ!!」
僕が声をかけると同時に、女性の声が飛んできた。
聞き覚えのある声だななんて考えている暇もなく、正面に現れた人影は丸い物を投げてきた。
僕とネニトスの間をすり抜けて、背後に落ちたと思うと、ボカンッと大きな音を立てて真っ白い煙が通路に広がった。
「うべっ」
「ぼわっ」
僕らは煙に押されるように倒れた。一瞬で視界が真っ白になって、煙で目も鼻もピリピリ沁みる。咄嗟に口を押えていなかったら、噎せ返って息も止まっていたかもしれない。
でも、覚悟していた蟻の猛攻はやってこない。
混乱しているうちに、首根っこを掴まれて煙から引っ張り出された。
「さっさと帰還の環出しな!!」
もうわけがわからなくて、言われるままに帰還の環を発動した。
目の前が一気に明るくなる。
「わ……ゲェッホゲホゲホゲホッ!!」
「ぶわっクションッ!! ハァックション!!」
僕もネニトスも途端に咳とくしゃみが飛び出す。涙も鼻水も止まらなくて、ただでさえ走りっぱなしで息切れしているのに呼吸困難で死にそうだ。
だが、外に出てようやくわかった。通路で遭遇した人が虫除けの煙幕を張ってくれたのだ。白い煙は草を燻したみたいな独特の匂いがした。
「ったく、虫除けくらい持っていきな阿呆どもが!!」
「……シレーネ」
そして、僕らを助けてくれたのはシレーネだった。
転移したところで動けずにいる僕らに、臭い水を振りかけて、引っ張って外に出してくれる。
たぶん、かけられたのは殺虫剤だ。ほとんどのキラーアントは虫除けで撃退できたけど、噛みついていた数匹はそのまま一緒に外に出てきた。それらが水をかけられた途端、悶えて丸まって動かなくなる。
「うわっキラーアント?!」
「三階層で大量発生してるよ」
冒険者ギルドの職員も僕らを見て慌てて走っていく。キラーアントは大量発生したら、ダンジョンを閉鎖して集中駆除をしなければいけない。
僕らに代わってシレーネが、ギルド職員に詳しい場所などを説明してくれている。今日中にも討伐隊という名の害虫駆除要員がダンジョン内に送り込まれるだろう。
「蟻かよ~やだな~」
「うわ最悪だ、俺パス」
「強制参加だ」
「蜂よりはマシ」
そこかしこで冒険者たちの嘆きが聞こえる。スタンピートの危険性がある場合の討伐は、D級以上は強制参加だ。駆除が完了するまでダンジョンは完全に封鎖されるから、D級未満の冒険者にとっても大迷惑だ。
そんな阿鼻叫喚の中、僕らは地面に転がって空を眺めていた。全力疾走と足への負傷でしばらく立ち上がれそうにない。
「し、死ぬかと思った……」
「すごい、生きてる……」
割と本気で死ぬかと思った。死ななくても大怪我したうえに、モンスターを外に出した罰金で更に借金が増えるところだった。
この程度の被害で済んだのは奇跡だ。虫除けのおかげで、僕らに取り付いていたキラーアントは五匹か六匹くらいだから、罰金も大した額にならないだろう。
良く晴れた青空が綺麗だ。さっきまで暗くて狭い通路を、モンスターに追いかけられながら死に物狂いで走っていたなんて嘘みたいに思えてくる。
「いつまで転がってんだい、邪魔だよ、さっさと退けな! あと虫除けと殺虫剤の分は後で請求するからね」
「あ、はい、スンマセン……」
「助けてくれて、ありがとうございました……」
しかし、僕らは無事の帰還を噛みしめる暇もなく、シレーネに蹴っ飛ばされて追い払われてしまった。彼女は命の恩人になったので言い返すこともできなかった。
キラーアント戦を考えているとき、リアルで自宅に蟻が沸きまして蟻駆除をしながら構想を練りました。こんな臨場感はいらん。
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