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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
スタンピート?
79/87

79.え、めっちゃ恐いじゃん

 出発の声と同時に、気付けば第一ダンジョン前の転移門に到着だ。人の声がさっきよりも多くなっている。こちらでも荷物が詰まった影響でダイヤが乱れているのか、係員さんたちが忙しなく歩き回っている。そんな忙しそうな人たちを横目に、僕らはダラダラと外へ出た。


 ダンジョンの変動は予測がつかない。大抵は帰還の輪があれば巻き込まれる前に脱出できる。極稀に、突然生えてきた壁に潰されたとか、突然床が無くなって後ろにいたはずの仲間が消えていたとか、恐い事故が起きることがあるらしい。


「ネニトスは変動見たことあるのか?」

「一回だけ、天井がだんだん下りてきたから、帰還の輪で逃げたな」

「え、めっちゃ恐いじゃん」

「そんな速くなかったから逃げられたけど、パニクったな」

「帰還の輪、買い忘れない」

「忘れない」


 事前確認の通り、ギルド支部で帰還の輪を忘れず買ってからダンジョンに踏み込んだ。

 今日の目的は三階層に行くことだから、一階層と二階層はできるだけスルーする。こういう時、ゲームのセーブポイントみたいなものがあれば便利なのにと思う。


 実は、他所のダンジョンだと、セーブポイントみたいなものがあるところもあるらしい。

 セーブというよりはワープポイントみたいだけど、何故か転移魔法が設置されている場所があって、ダンジョン内の決まった場所へ瞬間移動できるという。


 決まったポイントにしか行けないけど、移動距離がぐっと縮まるから便利だ。

 利用するには、ワープポイントがある場所や起動方法などを知らないといけないから、新参者にデマを教えて金をせしめる悪徳情報屋もいるらしい。


 このルビウスにはワープポイントがあるダンジョンはないから、地道に歩いていくしかない。


「ネニトスは階段の場所も覚えてるんだな」

 迷いなく歩いて行くネニトスの後ろで、僕は二階層に下りてからも道順はメモしていた。二階層はまだ変動の兆候はないというから、覚えておいて損はないだろう。


「まあな、あと、階段に向かうコツがある」

「コツ?」


 ネニトスは何故か声を潜めた。

「荷物をたくさん持ってるやつに付いて行けばいいんだ」


 言われてみれば、さっきから前に大荷物の一団がいたわ。荷物が多いやつは間違いなく泊まり込んで下層を目指す連中だ、とネニトスは得意顔で言うけど、つまりは道順はかなりうろ覚えなのだろう。僕は真面目に自分でマッピングしようと心に決めた。


 三階層への階段はかなり狭かった。初級ダンジョンの入り口みたいに、人がすれ違えるかどうかの幅しかない。

 しかも、微妙に天井が低いし、下は真っ暗闇で、下りるだけでもちょっと勇気がいる。


 ネニトスの身長だとたまに天井に頭を擦るから、屈んでゆっくりと下りていく。下まで行くと、突然、かなり大きな広場に出た。


「うわ、すごい変わってる」


 見回してみると、円形状の広場には何人か他の冒険者もいるが、みんなネニトスと同じく少々戸惑っている様子だった。

 なにせ、広場には五つの通路が繋がっている。


「前はどんなだったんだ?」

「二階層と変わらない、階段の先は一本道の通路で、しばらくしたら別れ道になってるって感じ」

「いきなりクジ引き要素が増えたのか」


 どの通路も入り口は同じ大きさだし、先は真っ暗だし、選びようがない。


「じゃあ、右端から行ってみる?」

「そうだな、道順も変わってるだろうし、今日はとにかく一番右の通路を選んで進むか」


 どうせ道はわからないから、ざっくりした進路を決めて僕たちは歩き出した。


 通路の幅は二メートル程度、アーチ形の天井もたぶん二メートルもない。二階層はどことなく遺跡っぽかったけど、三階層は飾り気がなくて、ただのトンネルに見える。

 壁も天井も石のブロックというよりも、レンガを積み上げたような造りで、突貫工事みたいな、まだ改装中というような雰囲気だ。


「天井低いな」

 今日は二人とも行く先を知らないから、僕が前を歩いて下を警戒、ネニトスが後ろを歩いて上を警戒している。


「確かに、高さも道幅も一定だ」

 二階層の通路は広くなったり狭くなったりまちまちだったのに、三階層はずっと変わり映えのないトンネルが続いている。やっぱりまだ準備中っぽい。


「これだとマンティコアはいなさそうだな」

 マンティコアは高いところに逃げ場がないところを好まない。飛行能力のあるモンスターはかくあるべきで、羽があるのに狭い地中を好むミニコカトリスの方がおかしいのだ。


「ああ、こういうとこなら……いた」

 僕が立ち止まるとネニトスも止まる。


 僕らの前方には陸ダコ、じゃなくてブレインイーターがヌトヌト地面を張っていた。こいつは移動は遅いから、こういう狭い通路での待ち伏せするのが常套手段だ。


「他にモンスターはいない」

 ネニトスが周辺を見回している間に、僕は影に潜って下からブレインイーターの頭を切り裂いた。すぐさま影の中に手を引っ込めたから、生臭い触手でぬめぬめにされることもない。


「食うなよ」

「生では食わないよ」

「生以外でも食うなよ」

「海の方では魚もクラーケンも生で食う文化があるそうだよ」


 僕が言ってやったら、ネニトスが信じられないという顔をする。でも本当だ。冒険者ギルドの食堂に魚の干物を持ち込んでた行商人のオッサンに聞いた。


 海の凍り付く地域だと、生の魚を薄切りにしたものに独特なソースをつけて食べるという。刺身じゃん。

 常夏の地域だと、食中毒や寄生虫が恐いから生のままでは食べないけど、逆に氷魔法で凍らせた生魚をソースに漬け込む料理があるらしい。ルイペじゃん。


 どっちもいつか食べてみたい。ブレインイーターは調理法がまだ確立していないから、とりあえず麻袋に入れてリュックに放り込んでおいた。


 その後、分かれ道が三回あったけど、全て右側の通路を選んで進む。

 道が合流している様子もないから、同じところを回っているわけではないだろうけど、ここまでで遭遇したモンスターはブレインイーター一匹とクローラビット二匹、ファングタートルは無視、一階層と大差ない収穫だ。


「変動のせいでモンスターも逃げてるのかな?」

「只管真っ直ぐ奥に行ってるから、この先は行き止まりかもな」


 通路が曲がりくねっていたら他の通路と交わっている可能性もあるけど、この通路はほとんど曲がってもいなかったから、たぶんどこにも繋がらずに行き止まりになるだろう。


「……なんか、音しないか?」

「音? しないけ、ど……」


 ネニトスの言葉に僕は首を傾げたが、言われてみると、確かにさっきから音は鳴っていたかもしれない。

ダンジョンの変動にはモンスターも普通に巻き込まれるので、変動が起きると一時的に住処を変えるモンスターも多いです。通路が動いたかと思うと突然モンスターと対面ということも起きます。モンスターも吃驚します。


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