78.神様、白状します
暗黒の扉は口を開けて僕らを待ち構えていた。
「真っ暗な部屋?」
「それにしても暗過ぎないか?」
鳥肌が立つような悍ましいノイズ、光を通さない真っ暗闇、通路の奥の謎に本能は恐怖を覚えていたが、沸き上がる好奇心には抗えない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず
冒険者となったからには、危険を承知の上で挑まねばならない場面はある。
僕も、ネニトスだって、それは覚悟の上だった。
しかし、僕はダンジョンアイテムのベストを過信していた。ネニトスは仲間がいることに慢心していた。
敵わない敵は必ずいる。潮時を見極めるのも冒険者に必須の素養だ。
僕らは見極められなかった。
そうと気付いたのは、踏み込んではいけない暗黒へ、一歩進んでしまった後だった。
* * * * *
神様、白状します。
いや駄目だな。神様と言ったらあの矢鱈と庶民的な爺さんしか思い浮かばない。
僕は聖堂の一番奥にある一番立派な男神像をやめて、その隣の女神像に向き直った。丁度、天窓から朝日が差し込んで白い女神像がキラキラ光り輝き、まるで僕の話しを聞いてくれるみたいだ。
女神様、白状します。
前世で中学二年生真っ只中に、自分の左手に魔方陣的なものを描いて、封印されし左手ごっこをしたことがあります。
正直こういう方向性にはあんまり興味のない人間だったとか思ってたけど、格好付けました。自分の黒歴史をもみ消したかっただけです。
でも、本当に隠れてコソコソやってただけで、人前で暗黒微笑きめたり、左手に無意味に包帯まいて外出たりはしてません。あ、また黒歴史をもみ消そうとしました。片手じゃ包帯を上手くまけなかっただけです。
僕は今日初めて用もなく教会へ来ていた。
一応、懺悔するという用事はあったけど、ほんの思い付きだ。懺悔室というやつがなかったから、女神様の像の前でとりあえず手を合わせている。
教会はいつも朝の早くから夕方まで門が開かれている。隣に住んでいるのだから、行こうと思えばいつだって来ることはできた。
それが、今日初めて、いっちょ祈っとこうと思ったのは、いつまでも過去に囚われてうだうだしていてもしょうがないと思ったからだ。
過去に囚われるとか格好良く言ってみても、そんな立派な過去もない。あるのは、前世の子供時代のちょっと恥ずかしいやらかしくらいだ。
しかし、今世、神に授かった闇の力は、僕の細やかで下らない前世の記憶をこれでもかと刺激してくる。それにいちいち苛まれているから、せっかくの力もアイテムも使いこなせないでいる。
本当に自分でもしょうもないと思う。こんな思い出は酒の席の笑い話にでもして、さっさと乗り越えるべきだと思うのだが、如何せん、前世の記憶なので、今世でべらべら人に話せる内容でもない。
だから、神様に懺悔する。
兄ちゃんがビジュアル系バンドのコスプレするために、黒いゴミ袋で衣装自作してたのを笑ったけど、僕もアニメのダークヒーローに憧れてコソコソコスプレもどきしてたよ。笑ってごめんな兄ちゃん。
ああ、思い出しただけで全身掻き毟りたくなる。僕は弱い。あんな布団をマントにして決め台詞の練習をしていた過去なんて、今すぐ乗り越えて、開き直って、黒革ベストと指ぬきグローブを平然と着こなせる人間になれれば楽なのに。
「ヨナハン」
名前を呼ばれて顔を上げると、入り口にネニトスが立っていた。
「随分と熱心にお祈りしてるな」
「ああ、まあ……」
僕は額を押さえて、ネニトスから視線を反らした。
実際は心の中で前世の行いに悶えていたとは言いづらい。ぶっちゃけ、未だに国教の名前も知らないから、真面目に信仰してると思われても困る。
「終わった?」
「うん」
「じゃ、行こうぜ」
気を取り直して女神像を後にする。
ネニトスの表情はワクワクが抑えられない子供みたいだ。たぶん、僕も同じような顔をしているだろうけど、ちょっと、いやかなり、不安もある。
僕は今日、第一ダンジョンの三階層にアタックする。
もの凄く気合を入れてみたけど、ルビウスで冒険者になったら一か月くらいで第一ダンジョン四階層くらいに潜るのが普通だ。僕は遅い方だけど、こういうのは人と比べるもんじゃない。落ち込むから。
外に出るとすぐに転移門へ向かう。中心街と比べれば、この辺りは人通りも少ないけれど、静かな教会にいたせいか、早朝の転移門は明るい活気に満ちているように思える。
「三階層、微妙に変動してるみたいなんだよな」
「ああ、ギルドでも言ってた」
「うわっ、転移門の回数券ちょっと高くなってるじゃん」
「それもギルドにお報せ出てただろ」
転移門の料金表を見てネニトスは愕然としているけど、大分前からギルド本部の掲示板に転移門料金改定のお報せは貼られていた。ネニトスは掲示板とかマメに見るタイプではないのだろう。
かくゆう僕も、別に確認をマメにするタイプではない。ただ遊ぶ金が無くて暇だから、ぼーっとギルド本部の張り紙を見ることが多いだけだ。なにせ、料金改定を知っていても、改定前に回数券をまとめ買いしておく金もなかった。世知辛い。
「三階層だけがちょこちょこ通路変わってるって」
「またマッピングしながらか~、だる」
「まだ変動途中だろうし、迷子にならない程度にチェックするだけでいいんじゃない?」
転移を待ちながら駄弁る。出発時間丁度に来たけど、何か荷物が詰まっているらしい。係員さんたちがダルそうに歩き回っているのを、二人してベンチに座って眺める。手伝おうにも、転移魔法を使う場所は迂闊に立ち入るのは危険なのだ。
ルビウス第一ダンジョンは割と活発な迷宮と言われている。ダンジョンの変動周期とか記録している研究者もいるらしいけど、変動しないダンジョンは本当に何十年も変わらないそうだ。それと比べれば数ヶ月ごとにどこかの階層が変動している第一ダンジョンは、確かに活発と言える。
「下層に潜ってる間に上の階で変動あったら、戻ってこれなくなったりすんのかな」
「さあ? でも、どれだけ変動しても、階段の位置は基本変わらないんだって」
「へー、なんで?」
「知らん、でも結局階段までの道筋は変わるから、階段に辿り着けずに全滅することはあるらしい」
「こわ」
「恐いよな、まあ、俺らじゃそんな深くまで行けないけど」
「僕らには関係ないか」
「ないな」
変動のしかたも、数日でまるっきり違う場所になることもあれば、数ヶ月かけてちまちまと変わり続けることもある。
今回は変動が始まってもう十日は経っているから、数ヶ月かけてちまちま変わるパターンだろうと言われている。だから、今きっちりマップを作ったところで、数日も経てば道が変わってしまうだろう。
「変動に巻き込まれても恐いし、今日は階段付近をうろうろしとこうか」
「変動に巻き込まれるって本当にあるのか」
「ある、滅多にないけどな」
ようやく係員さんから出発の声が上がったから、僕らは立ち上がり出発場に入った。
ダンジョンが変動するときは、速くても人が歩くくらいのスピードで動くので、大抵は逃げきることができます。たまに、狭い場所で変動に巻き込まれて逃げ遅れる運の悪い人がいます。
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