77.バカタレ!!
「なんで?!」
だから手紙が戻ってきていたのか。納得する反面、追い出されるとは只事じゃない。
ネニトスの稼ぎなら家賃が支払えなかったわけもないから、アパート側に何か問題が起きたのだろうか。
「それが……」
僕の問いに、それまで泣きそうだったネニトスの表情が陰った。深刻そうというより、何やら言いにくそうに、そっとベンドレンドさんから目を反らす。
これは、叱られることを予期している時の顔じゃないか?
「………………ゴミを溜め込み過ぎて」
「バカタレ!!」
思わずネニトスの頭をぶっ叩いていた。
僕にだけ聞こえるように小さな声で打ち明けたけれど、ギルマス以外なら叱られないと思ったか。と言うか、こんな閑散とした本部内なら声を潜めても聞こえるわ。一瞬緊迫した顔をしていたベンドレンドさんも呆れかえっている。
ネニトスはやはり叱られることはわかっていたのか、ブッ叩かれても反撃しては来ない。叱られるとわかっているなら最初からやるなバカタレ。
しかし、ネニトスにも言い分はあるらしい。その場に正座して不服そうな顔をする。いくら顔が良くても、完全に説教されるガキの絵面では格好は付かない。
「でも、いきなり追い出されたんだ、荷物も全部外に放り出されてさ、酷いだろ」
流石に家財一式は魔法バッグに入りきらなかったから、服や鎧は全部着込み、リュックにも詰め込んで背負ってきたらしい。それでなんとか運べたのなら、家具を含めれば荷物は少なかったようだ。
「事前通告はなかったのか?」
本当に突然追い出されたというなら、大家に異議申し立てする余地はあるけど、ネニトスはそっと視線を逸らした。
「………………片付けないと追い出すと言われたことはある、何回か」
「おまえが悪い」
何がいきなりだ。この態度を見るに、前々から再三注意を受けていたに違いない。
聞いてみれば、昨日には大家に出ていけと言われて、荷造りを言い訳にどうにか居座ろうとしたが、今朝、荷物ごと部屋から叩き出されたそうだ。わざわざ近所の魔法使いを呼ばれて、文字通り魔法で全部放り出されたという。
昨日の夜には、大家はもうネニトスはいないものとして扱っていたから、こいつのゴミ問題は相当腹に据えかねていたのだろう。
僕は痛む額を押さえ、ベンドレンドさんも豊かな髭が揺れるほど大きな溜息を吐いている。
そんな僕らの態度にもめげずに、ネニトスは真摯な表情で手を合わせてくる。ここまで来て、まだ真摯な顔で押し切れると思うとは、こいつは顔の良さで許されてきたことが過去にも多々あったのだろう。
「行くとこがないんだ助けてくれ」
「実家帰れよ」
「絶対に怒られる」
「怒られろよ」
「もう二度と一人暮らしを許してもらえなくなる」
「おまえが悪い」
素気無い僕の返答に、ネニトスは「あれ?」という顔をする。この顔だけ野郎には、今まで僕に顔の良さが通じたことがあったか、もう一度思い返してもらいたい。ベンドレンドさんからは顔面を殴ってやれと言うジェスチャーをされるけれど、僕の手が傷むのでやめておく。
そもそも、寮暮らしの僕に泣きついてどうしろと言うんだ。
僕は割と本気でもう実家には帰らないという覚悟で家を出てきたから、いつでも帰れる実家があるネニトスは羨ましくも思える。
あのハーフエルフの母親なら、ネニトスよりも長生きする可能性もあるから、一生一人暮らしを許されないというのも大袈裟ではないかもしれない。
自分より先に死にそうにない親と、親でも不思議ではないほど年上の兄に、いつまでも末っ子として育てられると、こういうボンクラ息子が出来上がるんだな。
ただの泣き落としは通用しないとわかっても、ネニトスは諦める気はないらしい。真剣さと根気強さを発揮するとこを間違えている。
「俺が実家に帰ったら実家の手伝いをすることになるから今みたいに頻繁にダンジョンに潜れなくなるからな、それはヨナハンも困るだろ、助けてくれよ~~」
どんな脅しだよ。
このスットコドッコイにも、いつまでも実家暮らしは情けないというくらいのプライドはあるのか。いや、ただ家族にガミガミ怒られて暮らすのが嫌だと思ってる可能性が高いな。
後ろではネニトスに届けられるはずだった昇級通知を見つめて、ギルマスが頭を捻っている。このまま昇級させていいものかどうか悩んでいる。冒険者ランクには人間性などの評価項目もあるのだろう。
僕はこのアホンダラとパーティを組んだことを後悔していたが、しかし、今から新しい仲間を探している余裕もない。ネニトスがまともにダンジョンに潜れなくなるのも、悔しいかな僕は困る。
渋々、ベンドレンドさんを振り返り、申し訳なく訊ねた。
「この辺に即入居可能な物件ってありますか?」
「ないな」
「ですよね」
ネニトスなら貧乏人街のオンボロアパートでもいいような気はするけど、そういうところの元締めは大抵ヤクザだ。今回と同じことをやらかせば、今度はヤクザに目を付けられる可能性がある。
僕はこの街で他に当てはない。ネニトスなら他に当てもあるだろうに、その当てを頼れば間違いなく実家に話しが行くから頼れない。
そこで、ベンドレンドさんが大きな溜息を吐いた。
「次の初心者講習までなら、寮に住まわせてやってもいい、おまえさんの部屋、ベッド一つ空いてんだろ」
確かに僕の住んでいる部屋は四人部屋で、ショーンが出ていったから一つ空きはある。
ベンドレンドさんは寮を提案してくれた。代わりに昇級通知を握り潰していたけど、このボケナスの昇級は待った方がいいと僕も思う。
「ありがとうございます!」
ネニトスは途端に笑顔になる。どうせ遅かれ早かれ実家にはバレるだろうが、冒険者ギルドの寮に入っていれば、今すぐ帰って来いとは言われないだろう。
「ただし、家賃は新人と同じとはいかんぞ、一度でもゴミ溜めたら即追い出すからな、掃除もちゃんとしろよ」
「はい! 頑張ります!」
普通は頑張らなくても片付けと掃除はできるもんなんだよ。
「じゃあまず裏行こうか、訓練場ちょっと借りますね」
僕はしょうがなく立ち上がった。のんびりした休日の予定が全部パアになる予感に頭痛は増すばかりだ。
「何しに?」
「持ってきた荷物にゴミがないか確認するためだよ」
「荷ほどきも手伝ってくれるのかありがとう」
「僕も使ってる部屋にゴミ持ち込んでほしくないだけだよ、荷ほどきは自分でやれ」
ちなみに、この世界にもゴキブリに似た家屋に住み着く害虫はいて、非常に嫌われている。部屋がゴミだらけだったならば、持ち出してきた荷物にも虫がいるかもしれない。
そう考えたのは僕だけじゃなかったらしく、ギルドのスタッフさんが無言で殺虫剤をくれた。
ネニトスを連れて訓練場に向かった僕だったけど、ネニトスのリュックと魔法バッグの中から飛び出してきたゴミの数々に、再びバカタレと叫ぶ羽目になるのだった。
田舎街だと部屋を借りるのに敷金とか礼金とかややこしいものはありませんが、まともな賃貸は保証人や紹介状がないと借りれません。ネニトスは親が保証人になっていたので、アパート出されたことは実家に即バレます。
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