76.E級に昇級が決まったので冒険者ギルド本部にギルドカード更新に来られたし
青い煙玉は定期購入することにした。
朝起き出した時には寮のルームメイトは誰もいなかった。ベッドの一つは数日前から布団もない。ちょっと寂しい四人部屋にも慣れつつある。
残念ながら、あの大きな店主の道具屋では定期購入割引は効かなかったけど、煙玉十個買うと一個オマケで付いてくるので、たまに十個まとめ買いしている。
僕らは相変わらず第一ダンジョンの二階層をうろうろして、割と怪我はするけど大怪我はせず、中型モンスターをぎりぎりで仕留めていた。
今日は休みだ。昨日まで三日連続で第一ダンジョンに潜ったから一日休み。僕とネニトスのパーティは、なんとなく三日働いて一日休みが定着しつつある。
着替えをしながら、朝食はギルド食堂で食べるか、安い屋台まで買いに行くか悩む。休みだけど、午後にはちょっと初級ダンジョンに潜って魔法の練習をしたい。
前世の週休二日と大差ない働き方だと思うけど、借金持ちの貧乏人としては、もう少し必死こいて働くべきではないかとも思う。
でも、ダンジョンに潜れば丸一日仕事中という状態になる。労働基準法なんかないし、そもそも冒険者はフリーランス、休憩なしの十時間労働だって問題にもされない。休憩と言えば歩きながらの栄養補給くらいだ。
だから、三日に一日の休みくらいで丁度良い。
少しずつだけど僕の貯金は増えている。でも、借金は返せてもその後の生活が心配な増加速度だ。
やっぱもう少し頑張らないと駄目かな、と思っていた僕の元に、良いニュースと悪いニュースが同時に舞い込んできた。
「ヨナハン、E級に昇級だ」
部屋を出るとすぐにグレンさんに遭遇した。丁度僕の部屋を訪ねるところだったと、手紙を渡される。
グレンさんは初心者講習がない時は、普通にギルド職員として働いている。装備も着けず、作業着みたいなジャケットにギルドスタッフの腕章を付けていると、本当に前世の市役所職員と変わりない。初心者講習の時はちゃんと冒険者の見本みたいな恰好を心掛けていたんだなと、今ならわかる。
紙ペラ一枚の手紙の差出人は、なんてことないギルマスのベンドレンドさんだったから、手紙じゃなくて直接声をかけてくれればいいんだけど、これが形式だという。
内容はグレンさんに言われた通り、「E級に昇級が決まったので冒険者ギルド本部にギルドカード更新に来られたし」と書いてあるだけだ。
ほとんどギルド本部に住んでいるようなもんなんだから、通知だけじゃなくギルドカードも持ってきてくれればいいのに、と思うけど、形式だ。形式は大事だ。
「ありがとうございます」
「珍しくギルマスが執務室にいたからな、今すぐ行った方がいいぞ」
別にギルマスがいなくても新しいギルドカードは貰えるんだけど、初めての昇給だから、こう、ちゃんとした授与式的なことがあった方が嬉しい。グレンさんもそう思ってくれたようだ。
「わかりました、行ってきます」
僕は朝食の前にギルド本部の一階に向かった。
冒険者ランクの基準は僕はよく知らない。
達成した依頼の難易度や件数、ダンジョンに潜った回数や、倒したモンスターの強さや数、あと問題を起こした件数等々をギルド職員が審査して昇級や降級を決めるらしい。
頼んだらランク変更時の成績表みたいなものが貰えるのだが、発行は有料だ。
滅多にないけど、ランク付けに納得がいかない人が資料請求することはあるらしい。成績表を基に訴え、実際にギルド側に何らかの非があったと認められれば、ランクの修正や謝罪金と一緒に発行手数料が返金される。
そうじゃなくても、今後の活動方針を決める一つの資料として、成績表を発行してもらう真面目な冒険者も一定数いるらしい。
僕は今回の昇級にぜんぜん異論はないし、成績表を貰って今後の冒険者活動を見直そうなんて向上心もぜんぜんないので関係ない話しだ。一応、いつどこで何を狩っていくらになったかは記録している。家計簿として。
冒険者になってから早一か月、同期の連中はみんなもうEに上がっていた。先輩冒険者の手伝いをしていれば、それなりの実績は詰める。それなりの実績を積めば実力も自ずとついてくるのだ。
僕は最初はソロでやってたし、パーティを組んだのも初心者から片足脱した程度のネニトスだったから、一番遅い昇級だ。
同室だったショーンなんて、既に寮を出て一人暮らしをしている。他のルームメイトたちも部屋探しを始めているから、このまま寮に一人残され昇級もできなかったら、ちょっとかなり落ち込んでたと思う。
ギルド本部の一階は閑散としていた。ほとんど昼に近い時間だから、社会人としては怠惰と言われるくらいの遅起きだ。でも朝は本部も食堂も込み合うから、休みの日にわざわざ混雑に巻き込まれる必要はない。
受付でギルマスに取り次いでもらおうと思ったけど、そこにギルマス本人がいた。
丸椅子に腰かけて茶を飲んでいるけど、背が低くてどうせ足は付かないからと、椅子の上に胡坐を掻いている。もう椅子の上に丸い毛玉が乗っているようにしか見えない。湯飲みがモサッと毛の中に埋まるのを見て、辛うじて顔の位置がわかる。
「おはようございます」
「おはようって時間じゃねえだろが、ヨナハン、ほれ、新しいギルドカードだ!! よくやった!!」
その場でホイッと渡された。結局、有難味もあんまりなかったけど、まあ、ドベから一個上がっただけだし、こんなもんか。
「ありがとうございます!」
これで一人でも第一ダンジョン二階層以下に行けるわけだけど、今のところ一人で潜る気はない。
「あと、ネニトスも昇級したんだが、何故か通知が戻ってきとんだ、引っ越したとか聞いとらんか?」
「え? 聞いてませんけど?」
首を傾げるベンドレンドさんの隣に腰かけて、僕も首を傾げる。ちなみにベンドレンドさんは眉毛がモソッと傾いたから首を傾げていると思うけど、全体的に丸い毛玉だから頭と身体の境目すらよくわからない。
朝食はギルドの受付で買える硬いパンにして、僕はもそもそパンを齧りながらベンドレンドさんの隣に腰かけた。
冒険者ギルドでも、ルビウスの街の中なら配達屋なんかは使わないという。用のある冒険者がいれば住処の近いギルド職員に手紙を持たせるのだそうだが、昨晩ネニトス宛の通知を持たせた職員が、そのまま通知を持って今日出勤してきたそうだ。
「その職員が言うには、ネニトスが住んでいるアパートの大家に「そんな住人はいない」と素気無く追い払われたんだと」
ベンドレンドさんが困ったように言われたけれど、僕も今のところ出来ることがない
なにせ、僕はネニトスの実家の場所は知っているけど、本人が一人暮らしている場所は知らなかった。どうせギルドかダンジョン行けば会えるだろと思っていたから、家を知らなかったことに今の今まで気づきもしなかった。
しかし、僕はそれほど深刻には考えていなかった。でなければ話を聞きながらパン齧ったりしない。このパン本当にカチカチのモサモサだから水も貰った。水はタダで貰える。
もしも冒険者ギルドに住所を偽って申告しているなら大問題だが、あの男にそんなことする理由が思い当たらない。引っ越したのを伝え忘れていたとか、そんなところだろうと思う。
明日会う予定だから僕から話しておこうか、と言う前に、ご本人が登場した。
ギルド本部によろよろと入って来たネニトスは、何故か大荷物を背負っている。
「ヨナハン!」
「おはよう、僕E級に昇級したよ」
「それはおめでとう助けてくれ!」
おまえもなと言おうとしたのに、泣きそうな顔に遮られた。今日はネニトスもダンジョンに行かないと言っていたはずだが、何故だか鎧を着こんでいる。
でも、大荷物からは鍋とか枕とかもはみ出ているから、ダンジョンへ行く装備にも見えない。
「どうしたんだ?」
「アパート追い出された!」
冒険者でもA級だとかなりの特権が付くので領主館での授与式とかがあります。でもA級だと国家公務員に近くなり特権だけじゃなく義務や制約も多くなるので、A級への昇級を拒む冒険者も結構います。
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