75.採算取れろー!!
ハンババだ。大きな熊の身体に雄牛の頭、しかし足は爬虫類のような鱗に覆われていて鋭い鉤爪がある。熊の腕力に、ドラゴン並みの脚力を持つモンスターだ。空は飛ばないけどめちゃくちゃ足が速いらしい。
「やめとく?」
この前のモノセロスでも僕らはギリギリだった。ハンババはそれ以上の得物だ。
僕が目を向けると、ネニトスは難しい顔で考え込んでいる。僕と同じく今日の稼ぎを憂えているのだろう。
「う~ん、とりあえず買ってきたアイテム試して、駄目そうなら即離脱するか?」
「まあ、そうだな」
自信はないけど、遭遇した時点でスルーすることもできないのだ。逃げるのでは追撃されて終わりだから、離脱するなら帰還の輪を使うしかないけど、帰還の輪で逃げてばかりいては採算が取れない。
ハンババはとにかく足が速いヒベアだと思えばいい。今回持ってきているアイテムは足止め用ばかりだから、相性は悪くないはずだ。
僕らが武器を構えると同時に、ハンババも突進の構えをとった。
ハンババは二足歩行だけど、頭が雄牛のせいか、得意技は突進だ。地面に手を付いて角を前に突き出し、後ろ足で地面を蹴っている姿は突進しようとする牛のようにも見えるけど、僕は前世の知識のせいでクラウチングスタートのように見える。
モンスターがクラウチングスタートしようとしてる、と一瞬気が抜けてしまったが、そんな場合じゃない。
ドンッと勢い込んでハンババが突進してくる。僕らは左右に回避したが、ハンババは身体は熊だから、太い腕で左右を薙ぎ払いにかかる。
ネニトスは盾で防ぎ、僕は影の中に回避する。
ついでに、ネニトスは横からハンババの足元を狙って網を投げつけた。
狙い通り網は後ろ足に絡まったが、そんなもの気にせずにハンババはネニトス目掛けて突進してくる。網は糸くずのように引き裂かれた。
「ひえっ、ぜんぜん効いてない?!」
そうは言うけど、多少は足を縺れさせる効果はあったのか、ネニトスはギリギリでハンババの攻撃を回避している。でも、振り抜いた斧はハンババの掌をちょっと切っただけだ。
僕だって逃げているだけではいられないので、ネニトスが狙われている隙にロープを投げてみる。左右の端に重しが付いているやつで、網よりは太いから簡単には千切れないはずだ。
グルグル回りながら飛んでいったロープは、ハンババの両足に絡まって転倒させることには成功した。
「よっし!」
すかさず斧を振り下ろすネニトスに続いて、僕も剣を握りしめたけど、ハンババはこれしきでやられてくれる相手ではなかった。
「ぶおおおおおお!!」
「おわぁ?!」
ネニトスの斧はハンババの片方の肩に刺さったが、反撃を受けてネニトスが吹っ飛ばされる。
「ぎゃ!?」
僕は吹っ飛んでくるネニトスを避けて影の中に潜る。
いやだって僕じゃ受け止めきれないし、完全防御で怪我はしなくても二人で動けなくなったら元も子もない。ネニトスは盾でハンババの爪の直撃は避けていたから大丈夫だろう。
僕が投げたロープも、ハンババが二三歩動けば無残に千切れてしまう。やっぱり縄じゃなくて鎖を買うべきだったとは思うけど、だって鎖は高かったんだもん。
現状のハンババは、右肩に斧が刺さったまま、右掌を負傷し、足に網やロープが絡まっているけど走ることに支障はないだろう。
僕らの方は買ったばかりのアイテムを失った。僕はまだ剣を持っている。ネニトスも流石に今日は予備の長剣を忘れていなかった。
このまま獲物に逃げられては大赤字だ。
ネニトスが長剣を構えるのを見てから、僕は影から出てがむしゃらに青い煙玉を投げつけた。
「採算取れろー!!」
アホな掛け声だったけど僕の本心だ。せっかく買ってみた煙玉が全部使えなかったら、ちょっと泣く。
青い煙玉は粉というより泥みたいだった。ハンババのギリギリ左足首に当たって、ベシャッと弾けて泥がまとわりつく。確かに効果範囲は狭いけど、左足が動かなくなったハンババがすっ転んだ。
僕らはその機を逃さず、背後から剣で突き刺した。
二人がかりで二回も三回も刺していれば、大きな身体も動かなくなった。
「ハァ、ハァ……やった」
「ハァ~~よかった……」
僕らも揃って座り込む。
アイテムはほとんど消費してしまったが、ハンババは肉も皮も内臓も売れる。あ、皮は傷付け過ぎたから売れないかもしれないけど、肉と内臓でなんとか採算はとれる。
拳をぶつけ合って、今日の黒字に感謝する。
「青い煙玉は、たぶん使えそうだな」
「網じゃなくて鎖買うべきだった」
「それ僕も思った」
「でも高いんだよな~」
「そうなんだよね~」
「あーいってぇ、盾殴られただけで腕折れるかと思った」
「盾あるからって正面から受けるのは無理あったって」
「つか、採算取れろって掛け声はないだろ」
「僕の心からの叫び」
「ハハハ、わかるけど」
大きな怪我はないけど、ネニトスの盾を持っていた片腕は痺れてまともに動かせそうにない。ハンババの腕力を改めて実感して震え上がる。
青い煙玉を使えば、モンスターの足元から手を出して足を刺すよりも安全に足止めができそうだ。
「……帰ろっか」
「運ぶのしんどい……」
うだうだと喋くって現実を見ないようにしていたが、うだうだしていても迎えが来てくれるわけもない。
僕はネニトスの背中を叩いて立たせる。帰還の環を使うとしても、中型モンスターを運ぶのは重労働だ。
「やっぱ大きい鞄は欲しいよな、今のより容量倍は欲しい」
「それを買うには今の倍は収穫がないとね」
「つまり運搬作業も倍になる、と」
「「はぁ~~……」」
二人分の溜息と共に、僕らは地上へ戻った。欲しいものは色々あるけど、そのために必要なこともたくさんある。とりあえず、もう少しボールを投げる練習をしよう。
金属製のアイテムの方が強力ですが高いです。それに重いしガチャガチャ煩いので先に容量大きめのアイテムバッグを買うべきですが、この二人は失敗から学ぶタイプです。
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