131.そうはならんだろう
暴動は本当に何もなく収束した。
数日後、僕らは三人揃ってギルマスの執務室に呼び出されて説明をされた。
それまではマジで「なんだったんだアレ?」という状態で過ごしていた。だって王家まで関わる話なんぞ、木っ端冒険者が調べられるわけないじゃん。
ギルマスの話では、まず南朝と北朝から交互に王様を出そうねという取り決めを破って、二回連続で北朝の妃の王子が王様になっていたそうだ。それで南朝派の連中はブチギレていた。
しかし、丁度この間、というには数ヶ月ほど前に決定していたらしいけど、あの暴動未遂の前日に、領主の元へ王家から重大発表が届いていた。
電話もインターネットもないこの世界では、田舎まで情報が届くのは遅いんだ。転移門があるから普通郵便なら結構早いけど、王家からの最重要連絡なんて色んな時間のかかる手続きがあるのだろう。
その報せというのが、第一王子が立太子されたということだ。
その第一王子が南朝の貴族出身の妃の息子だった。
まだ即位はしていないけど、実に二十年ぶりの南朝出身の王子が次の王様になることが決定したわけだ。
それに、現王は建国当時の取り決めが果たされなかったことを重く受け止め、次の次の王様も南朝から出すべし、ということを遺言にしたためることを約束したという。
それで緑の騎士団はアッサリ引いた。
同志が拉致されたなんて綺麗さっぱり忘れ去って、領主が北寄りじゃないかという疑惑もうやむやにして、南朝王の誕生バンザーイなんて言いながら、清々しく解散したそうだ。
まあ、シレーネだって救出されて仲間扱いされても困っただろう。アイドル好きの領主のせいでアホな内輪揉めに巻き込まれたことには、三日ほど釈然としない顔をしていた。
結局、今回の騒ぎは僕らにほとんど何の関係もなかったわけだが、それでも、一応、非公式だが僕らの元へ領主と小領主から、謝罪文と慰謝料らしき多少の金貨が届けられた。
「……これ、受け取っても大丈夫だろうね?」
金にはすぐに飛びつきそうなシレーネだけど、三分の一の金貨を前に不審な顔をしていた。領主から届いたというのが警戒心を抱かせるのだろう。
「これはただの慰謝料と口止め料だろ、受け取っとけよ、あの領主様なら、依頼料なら堂々と依頼料だっていうだろうし」
ネニトスはさっさと金貨をポケットにしまっていた。今回の騒ぎでこいつはほぼ何もしていないけど、ネニトスの顔と体格はその場にいるだけで周囲の態度が大分変るのだ。
「本人の引退の意志は尊重するって言ってただろ、依頼なら送って寄越さずに屋敷に呼ぶだろうし」
僕も金貨は有難く受け取っておく。ここ数日なんにもわからなくて、恐くて碌に外にも出られなかったから、働けなかった分の補填だ。情報集という点では一役買ったと思うし。
「何の依頼だよ?!」
シレーネは鳥肌を立てているけど、何のと聞かなくたって、当人もそれを恐れて金貨の受け取りを躊躇っているんだ。
でも、あの趣味に誠実そうな領主なら、本当にアイドルとしてシレーネに仕事を頼むなら、堂々と正面からそう言ってくるだろう。粘着質っぽかったけど良識はあるようだったから、引退したアイドルを無理やり戻そうとはしないはずだ。たぶん。知らんけど。
今回の謝罪文は小領主との連名だったから、変な勘繰りはしなくていいと思う。
「依頼というならヨナハンの方だ、暗躍の腕を買ってスカウトが来ているぞ、この名前は、領主の執事からだな」
ベンドレンドさんが恐いことを言ってくる。
「暗躍なんかしてませんから、断っておいてください」
確かに、僕は殺人未遂事件も政治集会も目撃したけど、本当にたまたまだから、隠れて情報収集していたなんて思われても困る。
今回の件で、僕の闇属性の魔法は本当に暗躍向きだということを痛感したけど、僕にはスパイになれるほどの度胸も忍耐も勤勉さもない。暗殺なんかはもっと無理だ。
シレーネは嫌そうな顔をしていたけど、金にはがめついから目の前の金貨は渋々懐に入れていた。
「領主も、身内のしでかしたことだが、町娘コンテストで殺人未遂まで起きちまったからな、街のもんが勝手にやっていることと放置するわけにもいかなくなったらしい」
「まあ、そうですよね……」
せっかくここまで盛り上がっていることを禁止するのは、なんか勿体ない気もするけど、票集めがちょっと過激になり過ぎていたのも確かだ。領主の立場としては、安全のために来年以降は中止させるべきなのだろう。
あ、今年の町娘コンテストはすでに終了している。僕が寮に引き籠っている間、結果発表と優勝者ライブで街は大盛り上がりだったらしい。
僕は結局アイドルにハマっている隙も無かったから、割とどうでもいい。別に、自分が盛り上がり損ねたイベントで、他人が盛り上がっているのが妬ましいとか、そんな小さなことを考えているわけじゃない。みんなが楽しそうに話しているのは、まあ、羨ましくはあるけどね。ちょっとね。
だから、町娘コンテストがなくなったところで、僕らはぜんぜんまったく屁でもない。
「あれは……うん、やめた方がいい」
「うんうん、若者の将来のためにもね」
ネニトスとシレーネは私情を多分に含んでいるようだ。古傷が痛むように胸を押さえている。
僕らは今の話しの流れで、当然、町娘コンテストがなくなると思っていた。ギルマスも僕らの意見には同意の表情をしていたけど、遠い目をして、眉毛に埋もれて目は見えないけど、ふと哀愁を漂わせて話を続けた。
「今後は安全を考慮して、来年からは町娘コンテストを領主主導で大々的にやっていくそうだ」
「そうはならんだろう」
これはもう、ただの領主の趣味だ。
あれか? もう親戚にもバレちまったから開き直って、仕事としてアイドルの支援をしていくつもりか? 職権乱用にもほどがあるし、言い訳も苦しい。
ギルマスも口には出さないけど、この街大丈夫だろうか、と言いたげな雰囲気だ。跡取りとなる領主の息子がどうかは知らないけど、親戚も大分沼にハマっているようだから、次の代もその次も、末永く家を上げてアイドルのスポンサーをしていく可能性だってある。
「いや、まあ、街の活気が増すと思えば、悪くなくもないというか……」
「まあ、うん、俺も、コンテストの出場者も支援者も、好きでやってるなら別にいいとは思うけど、思うけど……」
「どんな立場でも姿勢でも、若い女に熱上げてるオッサンはキモい」
「シレーネ、もう少しやんわり」
「領主だから、相手、領主だから」
「そうだね、あたしの言い方が悪かった、オッサンじゃなくても若い子にデレデレしている大人はキモい」
「歯に絹ぅ……」
言い直してもアカンかった。
健全に町娘を応援していると言っても、下心がある人がいないわけもない。シレーネは売れなかったことと、そういう下心に晒されるのが嫌になって美少女冒険者をやめた口だ。経験者の意見を否定するのも違う。
ネニトスも隣でシオシオの顔になっている。ネニトスは美少女顔じゃなくなった今も、イケメンとして性的な目で見られることが多い。男として羨ましいことばかりでもないのだろう。
二人とも経験者だからこそ純粋に応援できなくなっている。僕は別に若いうちにちょっと羽目外すのはいいと思うけど、如何せん心がオッサンだから、やっぱり若い子にデレ付く自分キモくないかという気持ちが強くなってしまう。
趣味としての推し活って、精神的な強さも必要なんだな。学び。
アイドル及びアイドルファンの人を蔑視または否定する意図はありません。主人公たちが知識と経験から勝手にダメージを受けているだけです。
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