132.将来のことなんて保障できないからね
三人揃って、ベンドレンドさんも含めて、アイタタタという顔になったけど、まあ、領主の方針に異を唱えられる立場ではない。人の趣味をとやかく言える立場でもないし、これからはどうか僕らと関係ないところで趣味を楽しんでほしいと思う。
「町娘コンテストの今後の動向は、まあ俺達には関係ねえ! 今日の本題はこっちだ!」
ベンドレンドさんが大声で無理くり空気を換えた。
ここまでは余談だ。ネニトスとシレーネが余談でだいぶ勝手にダメージを受けたけど、僕らがギルマスの執務室に呼ばれたのは別件である。
相変わらず中途半端な修理しかされていない執務室の、大きなテーブルの上に、真新しいギルドカードが三つ並べられた。
もしかして、この執務室は僕が借金を返すまで修理ができないのだろうか?
執務室の惨状然り、目の前で額を押さえているベンドレンドさんの様子からしても、僕らがかなりの迷惑をかけているのは間違いない。
「これは五日前には決まっていたんだが……おまえさんらのここ数日の大暴れを思うと、な……」
「俺たちが暴れたみたいに言わないでください」
「勝手に巻き込んだのは向こうの方だよ」
「巻き込まれるようなことをしたのは反省しますけど、冒険者としての成績とは関係ないですよね?」
悩むベンドレンドさんを前に、僕ら三人は揃って手を出す。もうここに用意してあるんだから、今更なしにしないでほしい。
「ハァ……これ以上やらかすなよ、もってけ!」
ベンドレンドさんはものすごく渋い顔をしていたが、諦めた様子でカードを僕らの方へ滑らせた。
僕らは忠告には返事をせず、テーブルの上のカードを取り上げた。
「やった! D級昇進!」
「ハァ~色々あったけど、ようやく……」
「これで第三ダンジョンに行けるね!」
今日の本題は僕らのランクアップ通知だ。普通はD級のギルドカードを受け取るために執務室には呼ばれないから、場所が執務室になったのは前回の件の説明を聞くためだったが、そっちはオマケ、本題はこっち。
三人で大型モンスターも討伐できたし、これからはDランクパーティを名乗れるようになった。
「ちゃんと話を聞け、今後何かやらかしてもギルドは、おい待てコラおまえら」
「確かに受け取りました失礼します」
「ありがとうございました失礼します」
「今後もよろしくお願いします失礼します」
そう言って僕らは逃げるようにギルマスの執務室を後にした。ベンドレンドさんはまだ何か怒鳴っていたけど、将来のことなんて保障できないからね。
D級のギルドカードと臨時収入を手に入れたのだ。装備を一新する良い機会だろう。
「と言っても中古だけど」
「飯はちょっといいとこ行こうぜ!」
「あたしは酒があればどこでもいいよ」
「「飲み過ぎるなよ」」
そう言い合いながら、馴染みになった古道具屋へ向かう。煙玉も補充したいから街の方まで足を伸ばしたい。
ルビウスの街は町娘コンテストが終了して落ち着いたもんだ。今年の街一番の町娘に選ばれた女の子のポスターがあちこち張られているけど、僕のぜんぜん知らない子だ。
アイドルの推し活を趣味にしてみようかとも思ったけど、今回の件で、僕はまだ推しも見つけていないのに、アイドルの追っかけは懲り懲りになった。
ネニトスやシレーネの手前もあるし、僕が今後アイドルの推し活には手を出すことはないだろう。
「ようやく昇進か、時間かかったな」
馴染みの店主からは大きな溜息を贈られた。僕はまだ少々遅かったくらいだけど、ネニトスはだいぶ遅い。シレーネはもう言わずもがなだ。
「そこは素直に祝ってくれよ」
「まあ色々ありまして」
「今日は昇進祝いだ、多少まけてやる」
「「あざーっす」」
これを目当てに昇進当日に買い物に出たのだ。セコいというなかれ、金がないのは変わらないのだから。
僕らは早速新装備を吟味しようと思ったが、振り返ればシレーネが入り口で固まっていた。そう言えば、店に着いてから声を聞いていなかった。
「どうしたシレーネ」
声をかけても顔を上げない。店先の安売りワゴンの前に突っ立っている。
「……ど、どうして、これが……」
視線を辿れば、この店の目玉商品という名の売れ残りのガラクタを見つめている。相変わらずビキニアーマーが五百イェン均一の箱に放り込まれていた。
これがどうかしたのか、とシレーネの顔を見直したが、その凝視する瞳に、僕はピーンと来てしまった。
「もしかして……これ、シレーネの?」
まさか、とは思ったけど、シレーネは僕の声に勢いよく顔を上げた。いや否定してくれよ。
「え……これ使ってたのか、本当に?」
僕の後ろからネニトスも顔を出し、ビキニアーマーを見て顔を顰める。うん、エロい! って思うより、こんな装備でダンジョン潜ってたことに正気を疑うよな。
「違う! これだけじゃないからね! 他にも服とか着た上でだな……!」
顔を真っ赤にして否定するけど、何も否定できていない。中に服を着ていようと、カチコチのブラジャーを丸出しにしていたら、可愛くもエロくもなく、ただの変な格好だ。
「そりゃ裸にこれだけ付けてたら捕まるだろ」
「服の上からでもどうかと……どういう路線の美少女だったんだ?」
別に今更新事実の一つや二つ明かされようとパーティ解散はしないけど、もしもセクシー方面に振り切ったアイドルだったのなら、領主様の見方が変わってくる。
「違うってば! こんな作ったのは最後の方で、使ったのも一回か二回だけだし!」
違う違う言うけど、別に違くはないらしい。
人気が上がらず迷走したうちの一つが、このビキニアーマーだったようだ。アイドルが人気取りのために露出度を上げていく、世界が違っても売れないアイドルの辿る道は似たり寄ったりになるのか。
シレーネは真っ赤になって言い訳にならない言い訳を繰り返していたが、真っ赤に憤慨したままビキニアーマーを引っ手繰った。
「え? 買うの?」
「え? 使うの?」
「使うか!? 持って帰って焼く!!」
「あ、そう」
まあ五百イェンだし、シレーネの金だし、好きにすればいいと思う。
シレーネは店主にも「何も言うな」と脅しのようなことを言って会計を済ませているけど、店主の顔は明らかに笑いを堪えている顔だ。いっそ大笑いした方がいいかもしれない。
「なんでこれがこんなところに?!」
もう見たくもないと言いたげに買ったものを魔法バッグに押し込んでいる。気持ちはわかるけど、挙動不審な態度で魔法バッグを抱えるのはやめてほしい。見た目が完全に万引き犯だ。バッグの中身は見えないから。
「まあ、あんなの買うやつもいないだろうから、道具屋を巡り巡って?」
「そんなに見たくなかったら、売らずに燃やすなりすればよかったのに」
「金がなかったんだよ!! 忘れろ!! あんたらは何も見なかった、いいね!!」
「「はいはい」」
シレーネは頭を抱えて蹲る。昔の黒歴史の数々が頭に浮かんでいるのだろう。
僕らはシレーネの肩を叩いて、自分たちの装備探しに戻った。
やっぱり僕らはこれからも、なんやかんや厄ネタを抱えてやっていくことになりそうだ。
これで一応完結です!ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
結局ダラダラ中途半端な話になりましたが、もともと底辺冒険者のダラダラした日常が書きたかったのでこれで良いのです。ただ、闇属性魔法の設定が活かせなかったのが心残りです。
続きは……気が向いたら書くかもしれません。




