129.神妙な顔で話すような内容ではないとは思うけど
そんな申し訳ないと思うなら話しちまえよ、とパンピーの僕は思うのだが、貴族はメンツだの格式だの色々あるのだろう。
領主はチラチラと僕らの方へ視線を向けてくる。
ネニトスは視線の意味が分からず、びくびくと僕の後ろに隠れようとするけど、隠れられてないけど、僕は領主様の言いたいことがわかった。
そだね。ここまでくれば話すしかないけど、家の恥を部外者がいるところでは話したくないし、だからと言って僕らを下がらせたらまた変な誤解を生むかもしれない、と。
しかし、僕にこの場で発言権はないだろう。貴族って下々の者が勝手に口を挟んだだけで無礼になるはずだ。
どうしたもんかと思い、駄目もとで執事さんに向かって小さく手を上げてみた。
執事さんは察して僕の方へ来てくれる。
「僕あの事件の目撃者です、仲間も真相知ってます」
コソッと告げると、執事は「光明が見えた」みたいな顔で頷き、領主に近付いて耳打ちする。小領主にはすごい怪訝な顔で睨まれたけど、僕は目を逸らして視線に耐えた。
領主様は「なーんだ知ってんのか~」という顔を一瞬で隠して、知られているならば致し方あるまい、みたいな神妙な表情で姿勢を正した。
神妙な顔で話すような内容ではないとは思うけど、僕もスンッと真面目腐った顔で雰囲気を合わせた。ネニトスも何もわからずに僕に合わせるから笑いそうになった。こんな時に笑かしてくるな。
「そこまで言うのなら真実を話そう、覚悟は良いな?」
「……無論」
小領主も真剣な面持ちで頷く。真面目な顔するだけ恥の上塗りになりそうな話だけど、そんなに改まっていいんだろうか、と僕は勝手に心配になる。
「あの日、ダリオとベルナルドは……リンド魔道具店愛の会の集会へと赴いていた」
「…………は?」
予想通りの反応を示す小領主に、領主は重々しく頷いた。この人、真面目腐った雰囲気で押し通そうとしてるな。
「魔道具店、あ、愛の会? ……とは、なんだ?」
「おまえもルビウスの街で町娘コンテストが開催されているのは知っているだろう」
「町民が有志で行っている祭りごとのことか」
あれ街の人が勝手にやってたんだ。だから小領主とかも詳しくは知らないんだな。
「そうだ、それに出場している一人、リンド魔道具店の娘リュディアーヌ嬢を応援するものの集まり、それがリンド魔道具店愛の会だ」
「は、はあ……」
小領主の最初の勢いはどこへやら、ぽかーんとした顔で気の抜けた相槌を打つしかできなくなっている。
「二人はリュディアーヌ嬢を全力で応援すると誓い合っていた、しかし、あろうことかダリオはパン屋ポラリスのガルシア嬢の握手会に参加したというのだ、なんたる無作法! それに激怒したベルナルドが、カッとなって……」
刺しちゃった、と。説明しているうちに領主の語り口もだんだん熱くなっていく。
なんか、この人も、もしかして……
「は、はあ……?」
真相の馬鹿馬鹿しさに、小領主は呆然としている。今の説明で領主が黙秘していたことも、息子が何も言わなかったことも理解できるだろうが、理解が追いつかないし、納得もしたくないようだ。それはそう。
「そ、そんな誤魔化しは……」
「真実だ、そこに事件の目撃者もいる、私が緘口令を出したのが間違いだった」
領主の視線が僕に向けられる。緘口令を解くから真実を述べよと目で訴えてくる。
「はい、お二人は事件当時、本当に、ずっと、最初から最後まで女の子のことしか話してませんでした」
僕が素直に認めると、小領主は愕然とした。こんなアホな理由で、ここまで大騒ぎしちゃって引っ込みがつかないのだろう。いっそ哀れだ。
「し、し、しかし……この娘と、秘密裏に接触していたのは……」
そうだ、今回最大の謎、領主がシレーネについて調べていたという理由がまだわからない。そのせいでシレーネは小領主に捕まって、こんなところまで引っ張り込まれている。
まあ、どうせ下らない理由なんだろうな、と、ここまでくれば察せられる。僕はまだぎりぎり真面目な顔を保っていたが、後ろでネニトスが腹の虫を鳴らすから、肘鉄で黙らせておく。
領主は大きな溜息を吐いた。そして再び表情を引き締めた。
この人は真面目な顔をするだけ下らない話をする、ということが僕らもなんとなくわかってきた。執事さんもなんだかうんざりしたような雰囲気で目を反らしているし。
「ここまで来たからには、真実を全て詳らかにしなければ公平ではないな……」
勿体ぶって咳払いとかするけど、いや、はよ言えや。アホな騒ぎで忘れかけてるけど、今まさにアホな暴動が起きようとしてるんだよ。
「私は、ずっと前から、美少女冒険者シレーネたんの大ファンなんだ!!」
もう、ポカーンだ。小領主だけじゃなく、付いてきた騎士たちも揃ってポッカーンとしている。
その中でシレーネは両手で顔を覆って俯いていた。僕は遠い目をして呆れ顔を誤魔化していた。ネニトスは腹を空かせていた。
この国では重婚はありですが、身分制社会なので、貴族様が下町の娘っ子に熱を上げるのはみっともないというのが常識です。
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