124.自立しろプレッシャーも日に日に強くなっている気がする
僕らの昇級が近いらしい。
まだギルド内の噂程度だけど、第一ダンジョンの五階層まで行けたし、大型モンスターも討伐できた。実績としては充分だ。
僕らは未だにギルドの寮に居座っているから、ギルド職員がみんな親戚みたいに昇給を祝ってくれるけど、同時に自立しろプレッシャーも日に日に強くなっている気がする。
別に、皆さん薄情ではないから、直接出て行けとか言われたわけではない。本当に、僕が立派な冒険者として自立する日を心から待ち望んでくれている。だからこそ大変居た堪れない。出戻りネニトスですら流石に物件探しを始めているくらいだ。
ついでに、僕とネニトスがお試しで受けた強化訓練も、本格始動の目途がたったそうだ。
僕らの時は第一ダンジョンが封鎖されていて他にやることがないから、一ヶ月訓練ばかりだったけど、実際やるなら一日中訓練だけというわけにもいかない。夕方のみの訓練を三か月というスケジュールを作ったそうだ。
正直、一日中訓練でも死ぬかと思ったけど、仕事しながら夜間学校通うような訓練も相当キツいと思う。
それでも、希望者は結構多いらしい。どうせまた逃亡防止の腕輪とか付けられるだろうから、どうか腐らずに頑張ってほしいものだ。
あと、もうお試しではないから、強化訓練には相応の受講費がかかるそうだ。ただ、このルビウスの街で冒険者を三年以上続けるなら無料になるという。冒険者の早期離職は、よっぽど冒険者ギルドの頭の痛い問題らしい。
そんなわけで、ようやく胸を張って冒険者ですと言えるくらいには、冒険者が様になってきた僕が今いるところは……
よくわからん政治集会です。
「正当なるフライエンフェルスナーダ家の血筋を蔑ろにする王家を許すな!!」
「「「「おおー!!」」」」
「侵略者ローゼンウィンケルバルトの横暴を許すな!!」
「「「「おおー!!」」」」
恐い顔した演説者に、聴衆も恐い顔で雄叫びを上げている。あ、女性もいるから雄叫びだけじゃないけど、黄色い声なんて一つもない。
熱気ムンムンでヤル気ムンムンの中、僕はただただ縮こまって震えていた。
なんでこんなことになったかというと、数時間前に僕が一人で街中を歩いていたせいだ。
本当に、それだけ。
ベヒモスの討伐に成功した僕は、少々浮かれていた。
過去最高の儲けを叩き出し、この調子なら借金返済も一人暮らしも楽勝じゃん、むしろ転職しなくても冒険者としてやってけるんじゃないか僕ぅ~、くらいの気分になっていた。
ネニトスとシレーネも同じ気分だろう。ダンジョンから戻った後の打ち上げは、いつもよりちょっと良い飯を食べて大いに盛り上がった。店はいつもの安さが売りの食堂だったのが、まだまだ僕らの小心なところだ。
このノリで、ネニトスは今日は賃貸物件を探しに行くと言っていた。全力の最高額の儲けを基準にして物件を探すのは危険だと思うけど、放っておけばいつまでもギルド寮に居座るつもりのネニトスが、自活に前向きになっているのだ。僕は何も言わずに見送った。
まあ、どうせ、近いうちにまたダンジョンで恐い思いして、さっさと冒険者辞めようって気分になるんだろうけど、調子乗れる機会が少ないから、滅多にない機会を満喫したっていいじゃないか。
そんなわけで、僕も新品の装備買っちゃおうかな~と街に出たのが間違いだった。
今、ルビウスの街は町娘コンテストが佳境。まだまだ票が足りないと思っている店は、形振り構わず票集めをしている。人気があるうちに店の宣伝を有りっ丈やっとこうと、形振り構わず客集めをしているやつらもいる。
そんな中を僕が一人で突破できるわけがなかった。
「ウェリダちゃんのパーティー、誰でも参加できるよ!」
「投票してくれたらガゼット散髪店一割引きだ!」
「北朝の暴挙を見過ごしてはならん立ち上がれ同志よ!!」
「集会参加者限定エリザベス様のポートレイトが貰えるよ!」
「ヘレナちゃんをよろしくヘレナちゃんをよろしくヘレナちゃんを……」
広場に入ってから、もうずっと揉みくちゃにされて僕は一歩も進めていない。返事も碌にできなくて、さっきから「はあ……」「いや……」「まあ……」の繰り返しだ。
ただ買い物に来ただけなのにこの仕打ちは酷い。シレーネはたぶん今日も二日酔いで死んでいるだろうけど、せめてネニトスの物件探しに付き合うついでに買い物に出ればよかった。
一人では無理だ。こんなアイドルの追っかけなんてやってる余裕ないし……と思ったけど、いや待てよ? 余裕あるのでは?
僕は今日ちょっとお金に余裕が出来たから買い物に来たのだ。別に今すぐ必要なものがあるわけではないし、今使っている中古品だってぜんぜん問題なく使えている。今すぐ新品を買う必要なんてない。
そして、今まで町娘コンテストに見向きもしなかったのは、金がなかったからだ。今までもほぼほぼ無趣味だったのも、金がなかったからだ。
思えば、前世からこれと言って夢中になれるものがなかったのは、生活にあまり余裕がなかったせいかもしれない。
前世では余裕はないけど危機もないという人生をぼんやり過ごしてしまったが、今世は、金欠借金という危機を経験したうえで、ようやく多少の生活のゆとりを感じ、前世よりも切実に精神的な余裕というものを実感している。
そうだ。余裕ができたらなんて思っていたら、死ぬまで何もできない。前世の短かった人生で思い知ったことだ。
今こそ、人生に彩というものを加えるときなのではないか!
今直面している困難こそ、もしかすると僕の人生の彩なのではないか!
僕は思わず真剣な顔で拳を振り上げていた。周りの人が変な人を見る目でちょっと引いてくれたから、少し歩きやすくなった。
考え方を変えてみれば、このにっちもさっちも行かない呼び込みの群も、祭のようで楽しく思えてきた。
アイドルというものにそこまで興味はないけど、アイドルが嫌いなわけじゃないし、足突っ込んでみたら案外嵌まるかもしれない。きっと、ショーンとケルビンも、こんな軽い気持ちで覗いてみて嵌まったのだろう。
ネニトスやシレーネに知られたら、ものすごく嫌な顔をされそうだけど、いや別に、僕が女装してアイドル目指すわけじゃないんだから問題ない。現役で頑張っている人を応援したいだけだ。
しかし、思い立ってはみたものの、もう町娘コンテストも終盤というところで、一から出場者を調べて応援する子を探すなんて時間はない。
じゃあ、今回はお試しということで、声をかけてくれた人にテキトウに付いて行ってみよう。
そうして、僕が軽い気持ちでやって来た集会が、ガッチガチの政治集会だったってわけ。
前世でこれといった趣味がなかったのは余裕がなかっただけしゃなく、妙な格好付け癖があったせいです。アイドルの追っかけなんてダセーじゃん、とか、大人になってからキャラものにハマるなんてキショいじゃん、とか。
今世では変な格好と黒歴史塗れの仲間に慣れてしまったせいで色々吹っ切れてます。
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