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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
挑戦!
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123/132

123.僕はただ死角でじっと息を潜める

 ベヒモスの真正面から近づくのはネニトスだ。

 大盾を持って攻撃を誘う。ダンジョンアイテムの変化の盾なら、ベヒモスの突進も耐えられるだろう。吹っ飛ばされるだろうけど、踏み潰されなければ大怪我はない。


「こっち来いデカブツ!」


 ネニトスの挑発が効いたのか、ベヒモスが真っ直ぐ突進する。足を動かしただけで地震が起きたように地面が揺れる。ネニトスは正面から受け止めたが、真後ろに綺麗に吹っ飛んで転がったから衝撃は見た目ほどではないだろう。


 ネニトスが起き上がる前に踏み潰さんとするベヒモスに、右側からシレーネがファイアボールを打ち込む。ゴオッと一瞬顔を覆う火に、ベヒモスの足が止まった。


「ハッ、焦げ目も付かないのかよ」


 顔に直撃しても、ベヒモスの分厚い皮膚には火傷一つできていないけど、鬱陶しい攻撃にベヒモスの攻撃対象がシレーネに移る。


「よそ見すんな!!」


 しかし、ネニトスも立ち上がり再び盾を構える。二方向の敵を前に、ベヒモスは苛立ったように唸り声を上げ、前足を踏み鳴らした。


 完全に立ち止まっているけど、隙が無い。鋼鉄の外皮を持ちながらも、油断なく、どんな攻撃でも回避できる構えだ。どうせ攻撃できたとしても、ベヒモスの外皮は分厚くて煙玉は効かないし、足の関節部分でも僕の腕力では切るのは難しい。


 僕はただ死角でじっと息を潜める。


 ネニトスとシレーネ、どちらを潰すべきか、ベヒモスが苛立ちを露わにしたように一際大きく前足を踏み鳴らした。


 その途端、足踏みだけでは起き得ない揺れが広場全体に広がった。

 ズズーンと波紋のように広がった振動が、またズズーンとベヒモスへと収束する。まるで水のように地面が波打っている。


 ベヒモスが魔法を使う前触れだ。


「来るぞ!!」


 ネニトスは大盾を地面に突き刺し防御の構えを取り、シレーネは走ってネニトスの背後に飛び込む。僕は影の中へと退避した。


 視界が黒い世界に切り替わった直後、ベヒモスを中心にして地面から鋭く尖った岩が無数に生えていく。


 ゴウゴウと物凄い轟音が鳴り響く。地面の揺れと共に、まさしく空気も震えているのだろう。鼓膜だけでなく心臓まで揺さぶるような轟音に息が詰まる。


 しかし、実際の衝撃は僕に届かない。


 僕はベストの魔法耐性ではこの攻撃は防ぎきれないけど、影の中なら魔法攻撃も通じないことは確認済みだ。影に潜っている時に、シレーネにファイアボールを打ち込んでもらったけど、火の玉は地面に当たっただけで影の中の僕には一切影響はなかった。


 ネニトスの持つ変化の盾も、大盾の形にしている時は魔法への防御力があることもわかった。盾の内側には岩の棘は生えていない。でも、範囲がかなり狭いから二人でもかなりギリギリだ。


 ベヒモスに魔法を使わせたのは予定取り。


 脳みそまでシャッフルされるような轟音を耐えきり、揺れが収まる頃を見計らって、僕は影の中から飛び出した。


 ベヒモスは魔法を使った後、約五秒ほどは動けなくなる。


 小さな耳が僕の動きに反応して動くけど、身体は動かない。よく見ると、クルクルよく動く耳はサイよりもカバに似ている。

 それはどうでもいいけど、ベヒモスが動けないうちに、僕は左前足の辺りにブラックホール小を出した。


 ほんの一瞬、本当に加減して出したブラックホールは、狙い通りに片足だけを消失させた。


 ブワワッと地響きみたいな咆哮が上がった。巨体が傾いてドシンッと地面に落ちる。僕はその衝撃だけで吹っ飛ばされそうになったけど、前足一本失ったベヒモスはそれ以上の攻撃はできない。


「今だ!」


 僕の声に、ネニトスとシレーネが大盾の中から飛び出した。

 狙いめは首の付け根、甲羅のような外皮の繋ぎ目部分。そこも硬いけど、可動域が他より広いからまだ攻撃しやすい。


 ベヒモスの左右から、ネニトスは斧を、シレーネは長剣で、首元を切りつける。二人とも全力で突き刺してようやく刃が通る硬さだ。

 しかし、ベヒモスも全力で抵抗してくる。足一本失くしてバランスを崩し倒れ込んでいる状態でも、頭を振り回して敵を追い払う。


「うおっ!! あっぶねえ?!」

「まだ動くのかい!!」


 大きな角を避けて二人は距離を取った。


 ネニトスは前の教訓で武器を離しはしなかった。シレーネは深く突き刺した長剣が抜けなかったらしく、ベヒモスの首に刺さったままだ。予備のナイフを出すが、あの長さでは致命傷を与えるのは無理だろう。


 僕らの作戦はここまでだ。


 かなりの傷を負わせたから、このまま衰弱死を待つこともできるかもしれないが、回復の方が早い可能性もある。

 僕の長剣をシレーネに渡して、もう一度同じ攻撃をするか。いや、もうベヒモスが左右を警戒して、二人が少しでも動けば頭を振り回して抵抗してくるだろう。


 そこで、僕はベヒモスの頭の下にある影に気が付いた。


「二人ともそのままで!」


 叫んでから僕は影に潜って、全速力で泳ぎ、ベヒモスの真下で長剣を抜いた。


 地面にべったりと倒れ込んでいるモンスターは、地面と物体との隙間がないから、僕が影から出ることもできない。

 でも、ベヒモスは左右の二人を警戒して頭を上げているから、頭の下なら影がある。


 僕の腕力じゃ関節も切れないし、ましてや影の中だと足場がないから余計に力が入らないけど、こういう皮膚が固いモンスターには喉のあたりに逆鱗があるはずだ。


 見てもよくわからなかったけど、硬い皮膚の繋ぎ目らへんを目掛けて、思いっきり長剣を突き上げた。

 ベヒモスが驚いたように跳び上がった。


「あわわ!」


 僕も驚いて影に飛び込んだ。


 ベヒモスはドタバタと暴れるかと思ったけど、飛び上がったままの態勢で、ドッスンと大岩が転がるような音を立てて倒れ、そのまま動かなくなった。

 僕はかなり距離を取ってから影から顔を出す。ネニトスとシレーネは警戒態勢のままじりじりとベヒモスに近付く。


 ネニトスがそーっと盾を近づけて、ちょんちょんとベヒモスを突く。まったく反応なし。


「よっしゃー!!」

「獲ったー!!」


 最初に声を上げたのはシレーネだった。ネニトスに台詞を奪われて僕は今回も「とったどー!」とは言えなかったけど、影から出て二人に駆け寄る。


「やったな!」

「おう!」

「当然!」


 三人で拳を突き合わせる。


 初めての大型モンスター討伐で、損失は左足一本のみ、その他の素材になる部分はほぼ無傷だ。大成功だ。

ヨナハンは闇魔法を駆使すればベヒモスくらい簡単に倒せるんですけど、如何せん度胸と戦闘センスがないので魔法を使いこなせません。


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