122.ガチャでたまたまレア装備を当てただけの無課金勢みたいな恰好だ
やってきました五階層。
ここまでの道のりでたぶん一泊している。
たぶんと言うのは、時計が無いから正確な時間はわからないからだ。四階層で一回睡眠をとったから、たぶん一日経っているだろうという予想。
睡眠も交代でとる仮眠程度だけど、小まめに回復薬を飲んでいるからそれほど疲労は感じない。
「ずっと暗いとこにいるって地味にキツいな」
「太陽と教会の鐘の重要性を思い知るわ」
お腹が空いたので休憩中。腹時計を信じるなら、今はたぶんダンジョンに潜ってから二日目の昼くらい。
移動距離と自分たちの歩行速度から、ここら辺まで行ったら夜だろうとか、翌日にはここまで辿り着くだろうとか、だいたいの予想を立ててきた。こういう計算は経験値の多いシレーネが得意だった。
「人は太陽光を浴びないと精神を病むからね、ダンジョンに一か月とか潜ってるパーティは頭どうなってるんだろ」
「ダンジョンによっては、真っ昼間みたいに明るい階層があるっていうよ」
「それでも日にちの感覚は狂うよな、モンスターとの遭遇回数で進行速度も変わるし」
ネニトスは早くも暗いところにうんざりしている様子だ。
シレーネは最長で五日はダンジョンに潜っていたことがあるというから、一泊二日なんて平気そうだ。シレーネが低級の浄化魔法が使えたのにも助けられている。
浄化魔法とは、その名の通り浄化する魔法だ。低級だと水浴びしたくらいには身体が綺麗になる。中級だと身体をよく洗ったくらいに綺麗になるし、上級だと体内デトックスまでできるらしい。
長期のダンジョン探索には必須の魔法だから、僕らも浄化魔法のアイテムを購入しようと考えていたのだが、シレーネが低級の浄化魔法なら使えるというから今回は購入を見送った。
三泊以上の探索なら中級の浄化魔法が欲しいけど、一泊なら低級で充分だ。代わりにシレーネは中級回復薬を持っている。僕らは下級回復薬だけだ。
昨日、仮眠をとった後に浄化魔法をかけてもらったから、身体が汚いという気はしない。
前世だったら、一日中歩いた後は湯船にゆっくり浸かりたいと思っただろうけど、今世はそもそも風呂に入ったことすらない。なんせ、火を熾すのも一苦労だから、川で水浴びか布で身体を拭くのがせいぜいだ。
だから、ダンジョン内でも低級浄化魔法で充分なんだけど、探索中は病気とか怪我の悪化が心配だから、中級浄化魔法が使えれば安心なのだ。
ついでに、僕の黒革のベストと黒革のグローブだけど、なんと汚れにも強かった。というか、どれだけ汚れてもいつの間にかピカピカつやつやになっている。いつでも新品、だからこそなんか安っぽい。
日をまたいでダンジョンに潜るときは、ただでさえ荷物が多くなるから、もう僕は開き直ってマントは置いてきた。どうせ僕のちんちくりんな恰好は知られている。第一ダンジョンは寒いエリアがないので防寒具も必要ない。
ぼろっちい古着と、ぼろっちくてギャグみたいに大きなリュックを背負い、ベストとグローブだけピカピカ。相変わらず僕は、ガチャでたまたまレア装備を当てただけの無課金勢みたいな恰好だ。これでも装備にはちゃんとお金かけてるんだけどね。
「うーん、ここまでの収穫はマンティコア一体とモノセロス一体か」
「あと魔石少々と薬草いっぱい」
「薬草の群生地で時間使いすぎたな」
「まあ、摘むだけで金になるんだからいいじゃん」
五階層に降りてすぐ、ちょっと道に迷いかけたのだが、多種の薬草がわさわさ茂っている場所を発見して、三人して喜び勇んで草刈りに励んでしまった。
万年暗闇のダンジョン内で、緑の草が生い茂っている光景は異様だった。後から考えると、罠とか考えずに草刈りを始めてしまったのは迂闊だったと思う。罠はなく、本当にただのボーナスステージだったのはラッキーだったけど。
しかし、今回の探索の一番の目標は大型モンスターの討伐だ。第一ダンジョンの五階層以下ではヒポグリフやベヒモスが出現する。
せっかく三人パーティになったのだから、いつまでも石や草に甘んじてはいられない。ダンジョンに一泊して最大の収穫が薬草というのも、格好がつかないしランクアップも期待できない。
いや、冒険者の中には植物専門や鉱石専門で鳴らしている人もいるけど、そういう人は半分学者だ。大真面目に勉強している専門家だ。僕らみたいに弱いから草や石拾っている雑魚とは違う。
僕らは知力も戦力も中途半端だけど、パーティを組んだからには大型モンスターに挑むくらいの気概はないと、冒険者としてやってられない。
「いた!」
シレーネの小さな、でも興奮を含んだ声に、僕とネニトスも息を飲んだ。
五階層はいくつかの広場から放射状に通路が伸びて、広場が繋がっているような造りだ。
広場の中でも特に広くドーム状になっている場所に、待ち構えるようにベヒモスが寝そべっていた。
横になっているけど眠ってはいない。耳がクルクル動いて、のっそりと立ち上がり、僕らの方を睨み付けた。
ベヒモスは言ってしまえば巨大なサイだ。全長は七メートルくらいあるし、高さも四メートルはある。
頭に二本の角、鼻筋にも三本の角、口から二本の牙があり、頭が角だらけでちゃんと前が見えているのか疑問だが、目よりも耳が良いらしく、今もまだ結構距離があるけど僕らの声や足音を聞きとったのだろう。
全身甲羅のような分厚い皮膚に覆われていて、並みの武器ではまず攻撃が利かない。その上、重たいくせに足も速く、巨体で突進されただけで人間なんて簡単に潰される。
ちなみに、ベヒモスは身体は大きいけど狭い通路でも遭遇することはある。頑丈すぎる身体で通路を拡張しながら進めるからだ。
「いいところにいてくれたな」
ネニトスの言う通り、広場で発見できたのは幸いだ。
通路なんかでベヒモスに遭遇したら、巨体の突進で潰されて終わり。当初の作戦でも、通路で遭遇したら即帰還すると決めていた。
広場なら隠れる場所はないけど逃げる場所はある。飛行能力はないから、天井の高さは大した問題にならない。
ちなみに、前世ではベヒモスは別名バハムートと呼ばれ、山のような大きさだとか言われていたけど、この世界ではバハムートというモンスターはベヒモスとは別にいる。
本当に山のように巨大なモンスターで、本当にバハムートの亡骸だという山が実在して、しかもダンジョンと化しているらしい。現在は活動しているバハムートは存在しないから、伝説のモンスターになっている。
目の前のベヒモスは、辛うじて人間が倒せるサイズ感だけど、大きくて硬くて機動力があって、更に土魔法も使う。間違っても楽に倒せる相手ではない。
僕らの力量を推し量っているように、じっとこちらを睨みつけて動かない。たぶん睨んでいる。目が意外と粒らだから、この距離だとよく見えない。
大きいとは知っていたけど、目の前にすると本当にデカい。
でも、一歩でも怯んだら即座に踏み潰しに来るだろう。
虚勢でもいいから踏み止まらなければならない。
「じゃ、作戦通りに」
「ああ、死ぬなよ」
「そっちこそ」
肩を叩き合って、僕らは三方に分かれた。
伝説の超巨大モンスターの亡骸がそのままダンジョンや観光地になっている場所はいくつかあります。
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