121.三人してお手上げ
「中古品の遅緩魔法は信用するな、付与魔法も経年劣化する、その中でも特に時間魔法は劣化が早いからな」
三人して唸るばかりの僕らを見かねたのか、店主がアドバイスをくれた。
「時間が遅くなるのに劣化するんですか?」
「遅緩魔法で経過時間延ばせるのは中身だけだ、鞄自体も劣化防ぐような魔法付与されてるのはコレと、あとコッチだな、おまえらの予算じゃ無理だ」
店主が見せてくれたのはほとんど新品みたいな魔法バッグだ。魔法のおかげで綺麗なままだけど、これも立派な中古品だそうだ。
言われた通り、お値段は僕らの予算の十倍はする。
「時間停止魔法もやっぱ劣化するんですか?」
「いや、時間停止魔法は鞄丸ごとの付与になるそうだ、だから魔法自体も劣化しない、ホラ、あの一番高いとこのだ」
「え、あれも中古品なのか?!」
店主が指さしたのは、店の一番奥の一番高いところにある鞄だった。
この世界はまだガラスが高級品だから、しがない古道具屋にガラスのショーケースなんかはない。高級な商品は手の届かない高いところに置くとか、奥にしまっておいて要望がある時だけ出してくるのが普通だ。
一番高いところにあるということは、相当な高級品だろう。でも古道具屋にあるなら中古品だ。見た目は新品よりも新品、今さっき完成しましたというようなピッカピカの鞄だった。
「魔法付与も、魔法によって違うんですね」
「そうらしいな、俺も魔法付与は専門外だからな、遅緩魔法は中身だけ、停止魔法は鞄ごと、としか知らん」
古道具屋の店主は道具のメンテナンスもできるけど、魔法の付与は魔法使いの領分だ。
「じゃあ時間魔法は諦めて容量だけで決めた方がいいか」
「角や骨や皮だけなら、死体を五日ぐらい放置してても大丈夫っていうしな」
「内臓系を諦めるのは勿体ないけど」
僕らはまだ七階層以下に行く気はないから、帰りは帰還の環で戻ればいい。片道と狩りの時間だけ考えればいいけど、それでも第一ダンジョンの五階層に行くなら二泊は想定するべきだ。
食用の肉や薬にする内臓は腐ってしまっては買取不可だから、せいぜい持って二日くらいだろう。
「おまえら解体できる奴はいないのか?」
店主の問いに僕らは顔を見合わせて、三人とも首を横に振った。
「深層に行くならある程度は解体覚えといた方がいいぞ、内臓取り出すだけでもできれば大分違う」
店主の話しでは、大型モンスターを運ぶならその場で解体して売れるところだけ持ち帰るのが主流らしい。
解体すれば、日持ちしない肉や内臓だけ時間魔法付きバッグに入れれば良いわけだから、遅緩魔法付きバッグは容量小さめでもよくなる。残りを別の大容量バッグに入れればいい。
それなら、僕らの予算で魔法バッグを二つ買うことも可能だが、これは解体ができる前提のプランだ。
「ギルドの資料室なら、モンスター解剖の本とかは見たことある」
冒険者ギルドの資料室には、モンスターの身体の構造なんかを解説する本が多くあった。モンスター討伐には身体の構造を知っておくのも役に立つだろうとは思っていたけど、冒険者自身がモンスターの解体をするためでもあったのか。
ギルドの資料室なら頼めば入れてもらえるし、ちょっと勉強しとこうかと思ったけど、本を読むだけじゃ解体はできないらしい。
「構造知るだけじゃいかん、解体方法を誤ったら素材が駄目になるだけじゃなく大怪我する危険もあるからな、ちゃんとした解体屋で教えてもらえ」
モンスターによっては、臓器に毒があったり、間違ったところを切ると酸が飛び出してきたり、時には寄生虫という新たなモンスターとの遭遇もあり得るらしい。
じゃあ、本読んで内蔵の位置を把握した程度じゃ手に負えないね。
「ちなみに店主さんは解体は?」
「俺は解体は知らん、素材に加工されたもんを扱うだけだ」
素気無い答えに僕らは肩を落とす。僕とシレーネはこの街にまだまだ知り合いが少ない。
ネニトスはまだ知り合いは多いけど、冒険者の知り合いは多くない。
「肉屋のバイトでもやってみるか」
「普通の肉屋じゃモンスターの解体はしてないよ」
「してたとしても、素人のバイトにいきなりやらせてくれるもんかい」
「だよな」
三人してお手上げ。
「冒険者ギルドに解体屋がいるだろうが、頼んでみろ」
店主の助言には、三人して目をそらした。
確かに、冒険者ギルドには解体屋と呼ばれる解体専門の職員がいる。だいたい作業場にいるから見かけることはほとんどない。
見かけても、いつも血塗れのエプロンと大きな刃物を持っているから、恐くて近づけないのだ。しかも、いつも鋼鉄の兜で顔まで覆っているから、見た目が完全に殺人鬼。
なんであんな恐い恰好してるんだと思ってたけど、モンスター解体はそれだけの防具がないと危険なんだね。認識は改めたけど、やっぱり恐いから頼み事はちょっと無理。
解体については一旦置いといて、とりあえず、僕らは時間魔法の付与はなしで、容量が五十リッポーある魔法バッグを三人で購入した。
「それで、これ誰が持っとく?」
僕らはまだリーダーは決まっていない。持ち逃げなんかは考えたくはないけど、集団行動ならば防犯を考えないわけにはいかない。
持ち逃げの危険がないのはネニトスだろう。実家も家族も知られているから、家族を担保にすれば信頼はできる。しかし、物品管理能力は一切信用できない。
今のところリーダーっぽくなっているのはシレーネだが、彼女は地元から逃げてきたという逃亡歴がある。もういないとは思うけど、アイドル時代の追っかけが万が一にも現れた場合、蒸発する可能性は捨てきれない。
僕は逃げる気も奪う気もまったくないけど、一番逃亡に適した魔法を持っているのは事実だ。そこのところが信用ならないと言われれば、自分でも否定できる要素がない。
そう思っていたのに、二人して僕に押し付けてきた。
「ヨナハンが持つのが良いと思う」
「まあ、それが無難だね」
「なんで?」
「悪用するとは思えないし」
「逃げる気なんかないだろ」
当たり前のように言われたけど、これは信用されているというより、悪さをするような根性もないと思われている方が大きいと思う。
なんだか釈然としない。でも、多数決で負けているし、実際、特に問題もないから僕が持つことになった。
「それにしても……なんかすごくちゃんと冒険者してる」
「わかる、俺たちちゃんとした冒険者になってるよな」
僕とネニトスが思わず感慨に耽ってしまう。
別に僕らは今までもちゃんと冒険者だったんだけど、やってたことが浅層をうろつくとか、OBにどやされて訓練するとかだけだったから、今ようやく冒険者っぽくなったなと思えている。
「装備揃えただけで一人前気取ってるうちは素人だよ」
「わかってますー」
「少しくらい浸ったっていいじゃん」
シレーネに呆れられて、僕もネニトスも現実に引き戻されてしまった。
ダンジョン内でのモンスター解体を学ぶには、得意な先輩冒険者に教えを乞うのが主流なので、伝手のない冒険者は勉強するのも難しいですね。
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