118.これぞ破れ鍋に綴じ蓋
そもそも冒険者でアイドル目指すのは無理があった。
パン屋の店員さんくらいなら、接客業だし、そこまで汚れることもないから兼任アイドルもいけるだろうけど、冒険者なんて危険で汚くてキツい肉体労働だ。
むしろ二年も冒険者でアイドルやってられたのがすごい。すごい才能の無駄遣いと、すごく無駄な努力だ。
シレーネの話しが終わってから、しばしの沈黙があった。
「……ばっっっかばかしい」
堪え切れず呟いてしまったのはネニトスだ。こいつは人のことを全然言えないけれど、言わずにはいられなかったらしい。
「予想を上回る馬鹿らしさ」
僕は予想してはいたものの、それを上回るお馬鹿な過去話しに溜息しか出ない。
「おまえさん、それは、おまえ……ハァ」
ベンドレンドさんに至っては言葉もない様子だ。
「嗤うなよ?!」
誰も笑ってねえわ!! 笑えないくらいの下らなさだわ!!
仮パーティを組んでいるやつが、元売れないアイドル、しかもトンチンカン方向の色物アイドルだったとか、大分イタイ。今後の付き合い方もちょっと考えるレベルの過去が出てきてしまったけど、少なくとも犯罪方面の心配はなさそうだということはわかった。
「とりあえず、政治とかはぜんぜん関係ないんだな」
「最初からそう言ってんだろ」
僕もそこは最初からあまり心配していなかったけど、万が一、まかり間違って後ろ暗いことが出ないとも限らないと、ほんの少しだけ心配していたのだ。
「本当に美少女冒険者諦めたんだよな? もしもまだ夢見てるって言うなら……」
「すっぱり諦めたよ!! っていうかもう二度とこの話しはするな!!」
ものすごく不安そうなネニトスに、シレーネは逆ギレしたように怒鳴りつけた。
立派な黒歴史だもんな。でも、今の語り口といい、酔ったら歌い出す悪癖といい、イマイチ、本気で諦めたのか不安が残るところだ。
「領主に調べられる心当たりは?」
「それは本当にわからん」
ベンドレンドさんの確認にはきっぱり首を横に振る。
「あ、ナナトちゃんへの恨みって、なんか復讐考えてたり?」
「しないよ!! あれは、言葉のあやっていうか、別に恨んではいないし、あたしが勝手に憧れただけだし……」
これについてはきっぱり否定した後に、なんだかもじもじと声が小さくなっていく。これはまだナナトちゃんへの憧れを引き摺ってて会いたいだけだな。ネニトスの方を見ると、ちょっと青い顔をしている。
結局、まだ謎は残ったものの、政治や犯罪はまったく関係ないことはわかった。
いったん気を取り直すために四人分のお茶を淹れなおす。
悪い話しではないのに、どっと疲れる話だった。もうなんか酒が欲しい。こんなん酒の肴に馬鹿笑いしながら話す内容だろ。なんでギルマスの執務室で大真面目に話聞いちゃったんだろう。
そう言えば、執務室に普通に用意されていた魔法瓶、本当に魔法がかかっていて中身がずっと温かいままなの良いな。いつでも温かいお茶が淹れられる。お高いんだろうな。
ちょっと現実逃避しながら、四人で出涸らしのお茶をずるずる啜って一息ついた。
「で、どうすんだおまえら、まだ仮パーティだったんだろ」
ベンドレンドさんもようやく落ち着いた、というか、シレーネの阿呆な過去はいったん忘れることにしたようだ。僕とネニトスに顎をしゃくった、と思うけど髭で顔の動きは見えない。モサッと顎髭がちょっと動いた。
僕はネニトスと顔を見合わせて、シレーネとも顔を見合わせた。
「僕は、厄介な魔法属性で、借金持ちで、この度前科まで付いちゃったけど、それでもよければ」
どうすると言われたって、僕には他にパーティを組んでくれる当てもないし、ソロでやっていける実力もない。
「俺も女性関係で揉めた前科はあるけど」
「おい」
ネニトスはここでナナトちゃんの正体を話すべきだ。恥を忍んで過去をバラしたシレーネに筋が通らない。あと、片付けできなくてアパート追い出された話しとかもするべきだ。
僕の声にネニトスは情けなく眉を下げた。
「他にもちょっとあるけど、それはパーティ組んだら話す、それでよければ」
この誤魔化しで、ベンドレンドさんはアパート追い出され事件のことだと思ってくれたらしい。
「あたしは、今話した通りだよ、元のファンクラブ、いやパーティメンバーがまだ追ってこないとも限らないけど、それでよければ」
シレーネは相変わらずブスッとしているけど、彼女もソロで活動する厳しさはわかっているのだろう。
「よし纏まったな、これぞ破れ鍋に綴じ蓋、おまえら三人とも破れ鍋だが、破れ鍋も三つ重ねりゃなんとか何だろ」
ベンドレンドさんが良い感じにまとめてくれたけど、破れ鍋重ねてもなんともならん気がする。
「じゃあ、さっさとパーティ申請出してこい、あとヨナハンはしょっ引かれた件について報告書作れ」
「僕何もしてないのに?!」
「一泊でも豚箱入っちまったのは事実だしな」
「まだ豚箱じゃありません、留置所です」
「似たようなもんだ、ギルドが仲裁してやったのに変わりはない」
「え~~~」
人命救助したのに臭い飯食って仕事が増える、これいかに。
「二人も手伝って」
「俺は文章書くの苦手、ヨナハン一人でやった方が絶対早い」
「詳細も知らないのに手伝えることなんかないよ」
パーティメンバーには早速見放されてしまった。仲間甲斐のないやつらだ。
本当はギルドが仲裁に入るには本人からの依頼かパーティメンバーからの嘆願書などが必要ですが、今回のように意味が分からない状況なら、臨機応変に対応して後付けで書類を作らせることがあります。ギルマスの裁量に任せられているところが大きいので結構適当です。
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