117.ほげーって感じだ
「おまえさん、アジュールの街出身だろう、そんであちこち点々としてこの街に来た」
「……そうだけど」
「この前、アジュールの街で政治犯が暴動起こしたのは知ってるか?」
「まあ、なんとなく」
「それで、おまえさんもその一味じゃないかって疑ってたんだよ」
「なんじゃそりゃ!? 出身地で暴動起きたってだけで?」
憤慨するシレーネの気持ちもよくわかる。
アルージュの街はここからそこそこ遠いけれど、行けない距離でもないから、アルージュの街出身者なんて探せば結構出てくるだろう。暴動が起きた街の出身者をいちいち政治犯扱いしていたらキリがない。
「シレーネに政治に関わるイメージができない」
「どこでも酔っぱらっているイメージしかない」
「うっさいよ」
シレーネは不本意そうな顔をするけど、僕らの意見を否定はできないらしい。大酒飲みの自覚があるなら少しは控えてほしいもんだ。
ベンドレンドさんも半信半疑みたいな顔をしているけど、半分信じるしかない事実があるらしい。
「それだけじゃなく、領主の手のもんがおまえさんのこと調べてたって噂もある」
「そんなん根も葉もない噂だよ」
「ところがどっこい、根も葉もあるんだよ、本当におまえさんを調べてた諜報員がいたんだ」
これはギルマスとしての伝手で、ルビウスの領主館で働いている使用人から聞いた話だというから、たぶん間違いない情報だ。
「なんで??」
「俺が聞きてぇよ」
ベンドレンドさんとシレーネの会話はどっちもよくわかってないから、コントにしかならない。僕もネニトスも顔を見合わせて、リアクションも取れない。ほげーって感じだ。
でも、本気でシレーネが領主に調べられる秘密があるというなら、コントを笑って見ているわけにもいかない。
「シレーネは隠し事があるから、余計に怪しまれるんじゃない?」
「隠し事?」
「ほら、森で……のこととか」
森で歌ってたことと言おうとしたら物凄く睨まれた。もういいじゃん、酔っぱらったらすぐ歌い出すんだから、隠せてないって。
「なんで各地点々としてたかも言わないしさ」
ネニトスが当たり障りのないところを突っ込んだ。いや、本来は故郷を離れなければならなかった理由の方が、酔ったら歌い出すよりも当たり障りあるんじゃない?
「シレーネ、おまえさんに悪気がないとしても、下手な隠し事で仲間が捕まったんだぞ、黙ったままパーティ組むのは不義理ってもんじゃねえか」
ベンドレンドさんの説得で、頑なに口を引き結んでいたシレーネが、非常に不本意そうな顔で僕らを睨んだ。
「このことは、誰にも言うんじゃないよ」
だから、そういうこと言うから怪しまれるんだって、と思ったけど、僕とネニトスは神妙な顔で頷いた。
「あと、笑うなよ」
「やっぱり」
「内容による」
絶対そんなに深刻な話しじゃないって思ってたから、僕もネニトスもこれには頷かない。内容によっては笑い飛ばした方が場が治まる可能性だってある。
シレーネは非常に、心の底から不本意そうな顔で、しばらく僕らを睨んでいたけど、意を決して話し出した。
「あたしは十五で冒険者になってすぐ、歌う美少女冒険者を目指したんだ」
「はあ??」
「ベンドレンドさん最後まで聞きましょう、続きをどうぞ」
あんまり阿保らしい単語が出てきたせいで、ベンドレンドさんは椅子から滑り落ちそうになったが、ここで話しの腰を折って、またシレーネを説得するところからやり直すのは嫌だ。僕はベンドレンドさんを椅子に引っ張り戻して、シレーネに顔を戻した。
ネニトスは真剣な顔で黙り込んでいる。どれだけ真剣な顔をしても真剣な話しにはならないけど、こいつはまったく他人ごとではないのだろう。
「切っ掛けは、たまたまこのルビウスの街まで護衛の仕事をした時に、出会っちまったんだ、本物の美少女に」
そう、ナナトちゃんだ。
ネニトスがビクッとしたけど、真剣な面持ちで誤魔化した。
シレーネの話しでは、護衛の仕事でルビウスにやって来た十五歳の駆け出し冒険者は、可愛い声で歌って踊る、この世のものとは思えないほどの美少女を目撃してしまった。
ただのパン屋の倅のネニトスなのだが、確かに四年前までは絶世の美少女だったのだろう。
「それで、あたしはただの冒険者なんてやってられないと思った、歌って踊ってみんなにちやほ、いやみんなに元気を与える美少女冒険者にならなきゃいけないってね」
みんなにちやほやされたかったんだな。わかりやすくて結構。
そうしてシレーネは頑張った。
冒険者だというのに歌と踊りの練習をして、冒険者だというのに服装とヘアメイクに拘って、冒険者だというのにリサイタルとか開いてみたりして、彼女なりに二年ほどおかしな方向に邁進したそうだ。
しかし、人気はそこそこ以上にはならなかった。ただ不人気というだけならまだいいけど、多少はついたファンたちのほとんどが冒険者という、荒くれ者に片足突っ込んだ連中だったのがいけなかった。
シレーネとしては純粋にアイドルとして慕われていると思っていたけど、ファンの連中は下心ありありだ。誰の女にするかなんて話から雰囲気が険悪になり、ファンクラブをまとめ切れなくなったシレーネはアイドル活動を休止した。
それでも身の危険はあるし、散々おかしな方向で目立ちまくった故郷には居づらくて、自分を知る者から逃げるように流れ流れて、ここルビウスに辿り着いたという。
こうして、せっかく冒険者としてはまあまあの実力があるのに、二年アイドル業に専念してしまい、二年逃げることに専念してしまい、冒険者歴四年で未だにE級という残念な飲んだくれ冒険者が出来上がったというわけだ。
冒険者パーティには人数制限はありませんが、普通は2~6人です。
シレーネファンクラブのパーティは多いときは30人くらいいましたが、リーダーのシレーネが変な女だったのでギルドもまあいっかと思ってました。
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