114.倹約は明日から頑張る
精算を済ませて、三人で山分けした僕らは、早速飲みに繰り出した。
最近この街にも慣れて外に食べに行くのが増えている。
これはいかん、と僕は腕を組んで考える。
もとより借金を抱えている僕は倹約に努めなければいけないし、第一ダンジョンが閉鎖されていた間は収入も減っていたのだ。
なけなしの貯蓄でキラーアントに食われた装備は補填したが、それも中古品で最低限の補填しかできなかった。この先もダンジョンに潜るなら装備をもっと充実させないといけないし、家賃と借金返済分の金を再び貯めないといけない。
だから、なおのこと質素な生活を心がけるべきなのだ。
「はい! おまちどー! イモ酒とタリジュース」
店員がジョッキを置いていくのと同時に、僕は腕組みを説いた。
どうせ、食べに行くのは安さが売りの居酒屋だし、今日はこの一ヶ月の収入減を補えるくらいの儲けが出たし、今日くらい良いよね。倹約は明日から頑張る。
反省終わり。
いそいそとテーブルに置かれたジョッキを手に取る。どちらも僕が頼んだものだ。先に飲み干していた空のジョッキにイモ酒とタリジュースを半分ずつ注ぐ。
最近の僕のマイブームは、このイモ酒をタリジュースで割ったなんちゃってチューハイだ。お店の人にもおすすめしているから、そのうちタリジュース割はメニューに載るかもしれない。
「そんでモノセロスの死角から攻撃したのに、ヨナハンの剣ぜんぜん通じないで飛んでって」
「よっわ!」
「俺も挽回するぞって気合入れて攻撃したのに、剣飛んでって」
「ざっこ!」
「二人してもうお手上げで」
「バカじゃん!!」
さっきからシレーネはゲラゲラ笑いっぱなしだ。たぶんもうすぐ歌い出すだろう。
ネニトスも出来上がっている。タリジュース割を教えてやったら、苦手だったイモ酒もがぶがぶ飲めるようになったらしい。
二人ともいかん飲み方だが、僕もまあ、人のことは言えないくらい酔っぱらっているから止める気はない。
しかし、一応今回はお試しで三人でダンジョンに行ったのだ。ここでパーティを組むか話し合いたかったのに、この状態じゃまともな話し合いは無理だろう。
「あ、ヨナハン」
「それにネニトスもいる」
そこに、僕の同期のショーンとケルビンが通りがかった。
ケルビンとは最近まで寮の同室だったが、ショーンはネニトスが寮に出戻る前に退寮しているから、会うのは久しぶりだ。
「よお、久しぶり~」
「久しぶり、二人も仕事帰り?」
「うん、まあ、そっちで先輩たちと飲んでる」
ケルビンが曖昧にそっちを指さした。うん、冒険者の先輩たちじゃなくて、趣味の方の先輩たちだな。先輩は先輩だから、二人は使いっぱしりで両手に酒と料理を持っている。
ショーンとケルビンは隠しているようだが、地下アイドルのファンミーティングに参加してから、ファンクラブにも入って趣味にも精を出しているらしい。
町娘コンテストで盛り上がるような街なんだから、別にアイドルの追っかけしていることなんて隠さなくてもいいのにと思うんだけど、本人たちが隠したがっているなら追求はしない。
僕がこれを知ってしまったのは、一度だけ二人の後を付けたことがあるせいだから、後ろめたさもあって知らないふりをしている。
「ネニトス随分デキあがってるな」
「今日は上々だったんだ」
「羨ましいこって」
思わず自慢げに言ってしまったけど、僕の上々の稼ぎなんて、たぶんこの二人の通常の稼ぎと大差ないだろう。ちゃんとした先輩冒険者のいるパーティに所属していれば、行動範囲も相手するモンスターもどんどんレベルアップしていく。
ショーンとケルビンはパーティこそ別だけど、合同パーティで依頼を受けたり、一緒に飯を食いに行くこともあるという。しかも趣味も共通の仲良しだ。
知り合いが少なくて金のない僕や、地元だけど友達の少ないネニトスが寂しいやつなだけで、普通は同期で情報交換したり助け合ったりするものだ。金がなくて、能力が特殊だと、人付き合いも希薄になってしまう。
「ま、稼いだからって一晩で使い切るような真似すんなよ」
「そんなことしない、そんな余裕ない」
改めて、己の現状を突き付けられてちょっと落ち込む僕だったが、ドーンと背中を叩かれて俯くこともできない。
「ヨナハン! 湿気た飲み方してんじゃねーぞ」
酔っ払いシレーネが絡んできた。飲み方だけじゃなく絡み方もオッサンなんだよな。
「ゲホッ、いったいな、飲んでるよ」
ぶっちゃけると、イモ酒のタリジュース割一杯か二杯で酔っぱらっているネニトスよりも、ずっと飲んでいる。いつも通りアホな飲み方をしているシレーネには敵わないけど、こんなチューハイ程度でべろべろになったりしない。
「そっちは? パーティメンバー?」
ショーンが若干引き気味の顔で聞いてくる。人間とリザードマンのハーフだから、苦笑する口端から細長いしたがシュルシュルと呆れたように覗いている。
「あたしはシレーネ」
シレーネは全然気にした様子もなく、ぐびぐびとジョッキを傾けながら答えた。気にしていないというより、酔っぱらっていて周囲の様子もよくわかっていないのだろう。
「ああ、あんたが、アルージュの街から来たんだっけ」
「うん、そう」
「とうとうパーティ組むんだ」
「まだ臨時パーティだよ」
シレーネはこの街出身の冒険者じゃないこと、ずっとソロで活動していたことが理由で、微妙に名が知られている。街を移った理由や、実力に対してランクが低い理由など、謎が多いからあまり良い意味での有名人ではない。
シレーネ本人があまり気にしていなさそうだから、僕も気にしないけど。
ショーンとケルビンは、僕と酔っ払いシレーネと、早くも眠そうにしているネニトスを見比べてから、二人で勝手に納得したように頷いた。
「お似合いだと思うぜ」
「これ以外にない組み合わせだと思う」
「ほっとけ」
笑顔で双方から肩を叩かれたけど、これはつまり、あまり者同士で他に行きようもないだろ、と言われている。自分でもわかっているから言わんでよろしい。
適当な世間話をしてショーンとケルビンは席に戻っていった。
この世界はまだアルコールの濃い蒸留酒が少ないので、酒を別のもので割るという飲み方もあまりしません。
少しでも面白いと思ったら是非ブックマークお願いします。
リアクションや★付けていただけると嬉しいです。
感想やレビューも待ってます!




