113.ヘビ、おまえなんだったんだ
「どうする? あたしの魔法とネニトスの魔法は相性が悪いよ」
初級の火魔法じゃ防火性に富んだ羊毛にまったく通用しないし、ネニトスの風魔法もミニキマイラの火魔法を増幅させるだけだ。
「煙玉は? 目潰しした後に三人でボコる」
ミニキマイラはこっちを睨みつけている。三対一だから、向こうは逃げる隙を探っているのかもしれない。しかし、こちらが逃げる動きを見せたら、後ろから突進してくるのだろう。
「正面に投げても焼かれそうだけど、背後から黄色の煙玉投げようか」
火魔法で粉塵爆発を期待できるけど、粉塵爆発って見た目ほど威力無いっていうし、焼かれたら煙玉の効果も無くなる。
シレーネとネニトスがミニキマイラの気を引いている隙に、僕が影に潜って背後に回って煙玉をぶつけて、誰かが止めを刺すという作戦になった。
ネニトスと二人でやってた時と大して変わらないけど、シレーネという確実な戦力がいると安心感がある。ネニトスだけだと仕留めきれるか不安だったし、僕はフォローできる自信もなかった。
「あんまり持たないからな、早めにしてくれ」
「一発で決めなきゃ逃げるからね、あたしが」
「はいはい、できるだけ動き回らせないでよ」
三人揃って情けないことを言い合いながら作戦開始、ネニトスとシレーネが武器を構え、僕は影に潜る。
訓練の成果で前よりは当たるようになったと思うけど、まだまだ動く相手に当てるのは苦手なんだ。
だが、影の中からの命中率が上がったため、黄色の煙玉に自分も巻き込まれる危険性は減った。まあ、仲間を巻き込まないように注意するのは変わらないんだけど。
ネニトスとシレーネは僕のお願い通り、ミニキマイラの攻撃を避けつつ、その場に留まるように追い込んでいる。
ミニキマイラの攻撃は主にライオンの頭だから、シレーネに噛みつこうとしていればネニトスが横から斧を振るい、ネニトスに火の玉を飛ばそうとしていればシレーネが横から剣を振るう。
尻尾のヘビはそれほど警戒する必要はないけど、たまに後ろ足で蹴っ飛ばしてくるから、背後には回らないようにする。僕の不意打ちの邪魔をしないためでもある。
胴体は防御力の高い羊毛に包まれているせいか、ミニキマイラは意外と隙は多いんだ。剣や斧で羊毛を叩いても大して傷も与えられないけど、ミニキマイラだって攻撃されたら無視はできない。
二人に追い詰められてその場で足踏みしている隙に、僕は離れたところから煙玉を投げた。
尻尾のヘビに気取られてしまったけど、ヘビの噛みつきによって煙玉は無事に破裂して粉を撒き散らした。ヘビ、おまえ警戒心もないのかよ。
混乱の効果でミニキマイラがよろめいた隙を見逃さず、シレーネとネニトスが動いた。
「よっしゃ止め!」
「首狙えよ!」
ミニキマイラの鬣も結構な値が付く。毛皮の傷を最小限にするため、シレーネとネニトスはライオンと羊の継ぎ目の辺りを狙って刃を突き立てた。
羊の身体がその場にドッと倒れこみ、ライオンの頭も生気を失くす。最後に、ふらふらと酔っ払いみたいに揺れていた尻尾のヘビが、振り返って自分の身体が倒れているのを見ると、え! 死んでんじゃん?! みたいな顔をしてコテッと力尽きた。ヘビ、おまえなんだったんだ。
「いいね、この連携、怪我も少なくて済む」
「な! 煙玉当たったら確実に倒せる」
「消耗品なんだから経費で落とすからな」
ケチ臭いと言う勿れ、一番お金に困っているのは僕だってことは二人も知っている。
今度こそ三人でハイタッチだ。
ミニキマイラはシレーネの魔法バッグに入れて、通路を奥へと進む。
「ミニキマイラが出た近くはレア鉱石が見つかるっていうからね」
「それ本当なのか? 眉唾だと思ってた」
「ミニキマイラと鉱石の繋がりがわからない、苔とか草なら魔石の傍に生え易いのはわかる気がするけど」
ミニキマイラに遭遇するとレア鉱石が見つかる、というのは、冒険者の間で囁かれているジンクスみたいなものだ。別に、ミニキマイラがレア鉱石を生み出しているとか、レア鉱石に引き寄せられているというわけではないらしい。
僕とネニトスは半信半疑でシレーネに付いて行く。真っ暗だった通路にぼんやりと光るところがあった。
「ほらあった!」
「ホントかよ!」
「警戒心……」
一目散に光に駆け寄るシレーネに、ネニトスも興味深々で後を追う。僕は周囲を警戒しながら進む。光っているところには何かあるかもしれないけど、モンスターでも光を発するやつはいるのだ。もう少し慎重に行動してほしい。
シレーネとネニトスが覗き込んでいる壁は、動く気配もないから生き物ではないようだ。
僕も後ろから覗いてみれば、そこには虹色に輝く岩石が壁から飛び出ていた。
「レインボーストーンだ!」
「これが!? 本物?」
「まあ、見たままだよね」
見たまんまの名前だった。
レインボーストーンは魔力を沢山含んだ石で、魔道具などの材料として高値で売れる。
ちなみに、魔石は魔力が結晶化したものだから、石に魔力が沁み込んだレインボーストーンは魔石ではないらしい。魔石は内包する魔力を使いきると消えてしまうけど、レインボーストーンは魔力を使いきっても消えないし、魔力を補填して再利用も可能だという。充電式の電池みたいなものだ。
「天然もの見るのは初めてだ」
「きれーだなー」
シレーネとネニトスは見惚れているけど、僕はそれほど感動はない。綺麗は綺麗だけど、ペカペカと虹色に光る石は何か安っぽく見える。前世だと玩具屋とかにありそうだ。
しかし、高く売れるのは有難い。壁から根こそぎ掘り出して、僕のリュックに入れておくことにした。リュックがレインボーに光るけど、回避能力は僕が一番高いからね。
これでもう充分な儲けだ。三人で分けても過去一番の収入になるだろう。
「今日は良い日だ、怪我もないし、ま、もっと手強い相手でも行けるけど」
「そうだな、あんまり楽過ぎると冒険らしさが足りない気もするよな」
「安全に儲かるのが一番だけど、訓練の成果をもう少し試したくもある」
調子に乗ってニッコニコの僕らだったけど、そんな僕らの要望に応えたように、通路の奥からのっそのっそとハンババが歩いてくるのが見えた。
「……やる気ある?」
「「ない」」
僕らは笑顔のまま帰還の環を使うことにした。やっぱり安全に楽して稼げるのが一番だ。
普通、パーティ組んで作戦も考えずにダンジョンに潜るなんてありえません。もしも講師のみなさんが主人公たちの働きぶりを見たら、低レベルすぎて愕然とするでしょうね。
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