112.まあね、卵泥棒しただけですからね
「取った!」
麻袋を振り上げて影から飛び出す。なんかこの姿、前世のテレビ番組で見たことがある。「取ったどー!」と叫べばよかったかもしれない。
「退避!」
叫ぶと同時にシレーネが一目散に駆け出す。僕とネニトスも後に続いた。
しかし、ハーピーも卵をとったのが僕らだとわかったのか、巣を放棄してしつこく追いかけてくる。
「ネニトス、ウィンドブレイクは使えるか?」
「おう!」
「じゃあ、あたしの合図で後ろに放て、同時にヨナハンはどっか逃げろ」
「どっかって」
たぶん影の中ってことだろう。シレーネにはシャドウウォークのこと話してなかったから、僕がどこに消えたかわからないのだろう。
というか、僕らお互いの使える技も知らずにダンジョンに来てるな。強化訓練の講師たちに知られたら、三人揃って大目玉をくらうやつだ。
「用意、放て!!」
とりあえずシレーネに従って、僕は影の中に潜り、ネニトスは振り返ってウィンドブレイクを放つ。それと同時にシレーネが火魔法を放った。
火属性の初級魔法【火炎】ファイアブレイクだ。一メートルくらいの火柱が上がるだけの魔法だけど、ネニトスの風魔法と合わさって、巨大な炎が広範囲に広がった。
焼き鳥にするほどの火力はなかったけど、羽が焼けたハーピーが落下していく。モンスターだからそのうち回復するだろうけど、この隙に僕らは不快な鳴き声の届かないところまで走って逃げた。
広い通路まで出たところで立ち止まる。他にモンスターの気配もないし、冒険者の姿もない。
「いくつ取れた?」
「五個、全部とれたはず」
僕は麻袋の中から卵を出す。ゴミと一緒に掬い取ったのが正解だった。逃げる時かなり振り回したけど、ゴミがクッションになって一つも割れていない。
「一個三千イェンくらいだから、これで一万五千イェンの儲けだね」
「よっしゃ! 損耗ほぼなし!」
「幸先いいじゃん!」
ハイタッチする僕らを、シレーネが生温い笑みで眺める。まあね、卵泥棒しただけですからね。
麻袋からゴミは出して卵を戻す。これは割れないようにネニトスの魔法バッグに入れとくことにした。
走り回っただけだけど、昼時だからここで休憩することにする。
「最初からあの大きな炎使った方が楽だったんじゃないか」
「それじゃあ卵も焼けちまうよ」
「あー、ハーピーの卵は生じゃないと売れないんだっけ」
通路の真ん中に御座を敷いて座る。しかも背中合わせで座っているから変な感じだ。でも、ダンジョン内ではよく見る光景だ。
全方位を見張るため座るなら背中合わせで、壁から飛び出してくる虫型モンスターもいるから、壁からも距離を取る。だから座るのは通路の中央になる。
地面から飛び出してくるモンスターもいるけど、敷いてある御座には防御魔法が付与されているから、お尻を齧られることはない。シレーネの持ち物だ。
「それにしても、ヨナハンのあれは転移魔法かい?」
「いや、影の中を移動するシャドウウォークって魔法」
「へえ、初めて聞いた」
「レア属性の闇魔法だからね」
「というか、俺らどんな魔法が使えるかも知らなかったな」
顔は見えないけど、たぶん三人揃って苦笑い。友達少ないやつが集まるとこういうことになるわけね。
「まあ、僕のは見てもらった方がわかりやすいし」
「あたしは火属性の初級魔法だけだよ」
火属性の初級魔法とは、【火玉】ファイアボールと【火炎】ファイアブレイクと【火矢】ファイアアローかな。冒険者四年目としては使える魔法が少ないけど、魔法専門じゃないなら不思議でもないだろう。
「俺とシレーネの魔法は連携考えた方が良いな」
ネニトスは最近ようやく使える魔法が二つになっただけだから、この場で言う気はないらしい。格好付けてんじゃねえと言いたいけど、ネニトスに魔法はあまり期待してないから僕も黙っとく。
「じゃ、戻ったら作戦会議のために飯だね」
「飲むなよ」
「作戦会議中はね」
シレーネは今日も飲む気満々らしい。
水と携帯食料を口にしてから僕らは立ち上がった。
ダンジョンにきて卵泥棒するだけというのもいただけない。ソロで活動していれば、モンスターを避けながら鉱物や植物を採取して終わりという日もあるけど、せっかく三人で来ているのだから、中型モンスターの一匹くらいは狩りたいところだ。
とりあえず真っすぐ歩いても、広い通路にはファングタートルしかいなかったので、今度は細い通路へ入ってみる。
シレーネがだいたいの道を知っているというけど、枝分かれしている細い通路はかなり複雑なので、念の為マッピングしながら慎重に進む。
そのうち通路の奥の方から、ガツンガツンと蹄で歩く音が聞こえてきた。
「モノセロスかな?」
「それにしちゃ音が軽いね」
モノセロスは見た目はヤギだが大きさは馬並みだから、歩く音も結構重い。今近付いてきている足音はせいぜいポニーくらいだ。
通路の奥の暗がりから現れたのは、蹄の足音に反して、ライオンの顔だった。
「ミニキマイラだ」
「「へえ、あれが」」
僕だけじゃなくネニトスも初見だったらしい。
ミニキマイラはキマイラの小さいやつだ。そのまんまだ。
本物のキマイラは獅子とヤギとドラゴンの頭を持つ、体長五メートル以上ある三つ首の怪物だそうだが、ミニキマイラはライオンの頭と羊の身体とヘビの尻尾を持つ中型モンスターだ。大きさは大人のライオンくらいだ。
本物よりも随分小さいし、羊の身体はモコモコで恐ろしさが半減しているけど、侮れないモンスターだ。
ライオンの頭は噛みつかれたら普通にヤバいし、胴体はモコモコの毛に守られて並みの攻撃は通用しないし、尻尾のヘビは……まあ噛まれたら痛い。
ミニコカトリスといい、背後の死角を補うように尻尾がヘビというモンスターは割といるけど、あんまり役に立っている気はしない。せめて毒ヘビにすればいいのに、毒べビだと誤って自分のお尻噛んじゃうと危険なのかな?
そんなことより、ミニキマイラの脅威は火魔法を使えることだ。ライオンの頭からファイアボールを放ってくるだけだけど、僕は魔法攻撃を仕掛けてくるモンスターは初めてだ。
だから、ミニキマイラの羊毛は防火性にも優れていて高く売れる。自分の火魔法で自分の毛を焼いてしまったら間抜けだからね。
普通、パーティ組んだ相手の使える技も知らないままダンジョンに潜るなんてありえません。自己紹介なんて当たり前すぎて初心者講習でも教えません。こんな阿呆なパーティは講師の皆さんも想定外でした。
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