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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
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109/132

109.相変わらずファンタジー感なし

「ヨナハン、終わった?」


 名前を呼ばれて振り返ると、教会の入り口にネニトスがいた。久しぶりに見る冒険者スタイルだ。


「うん」


 応える僕も久しぶりにフル装備だ。と言っても鎧はなくて、黒いベストとグローブを付けた上から、新調したマントを着ただけだけど。


 相変わらず僕とネニトスはギルドの寮の同室だけど、今朝寝坊したネニトスを待つ間、僕が教会にちょっと寄っていただけだ。どっちかというと「終わった?」は僕の台詞だ。


「ダンジョンへ?」

「はい、第一ダンジョンがやっと解放されたので」

「そうですか、では神のご加護があらんことを」


 エルンさんは司祭らしいことを言ってくれるけど、神のご加護なんてあったら、また変なダンジョンアイテムが降ってきそうだからやめてほしい。


「行こう」

「おう!」


 気合を入れて教会を出たけど、行き方は転移門だ。

 簡素な待合室みたいなところでぼーっと列に並ぶ。前世の出勤風景と大差ない。相変わらずファンタジー感なし。行き先がダンジョンじゃなければ、自分たちが冒険者であることも忘れそうだ。


 ようやく、第一ダンジョンの封鎖が解除された。


 ブルーセンティピードの出現が契機だった。

 キラーアントの天敵であるブルーセンティピードが表に出てきたということは、ダンジョン内のキラーアントはほぼ狩り尽くされたと考えられる。


 街中の虫除け臭さもだんだん薄れていき、閑散としていた中心街も、毎日やたらと混んでた隣町への街道門も、元の人出に戻りつつある。


 ついでに、僕らの強化訓練も終了した。


 別に修了証なんてもらえない。どうせお試しだったし、はっきりした目標もなく試験もない。今後、一ヶ月以内に僕らがD級に上がることができれば、まあ強化訓練は成功だったと言えるだろう。

 しかし、冒険者は日々訓練だ。終わりはない。と最後にベンドレンドさんに言われたから、今後もなんやかんや訓練されることもあるだろう。


 講師のみなさんも本業が忙しくなるだろうが、今回ので味を占めて、これからもギルドの訓練場を寄り合い所として使う気満々だった。


 それと、今日は初めてシレーネとダンジョンに潜る。


 彼女は貴族街に近い、比較的治安の良いところに部屋を借りているという。今日は現地集合だ。

 最寄りの転移門を使って第一ダンジョン前に行くと、ギルド支部にシレーネはいた。


「おはよう」

「おはよう酷い顔」

「おはよう酷い声」


 シレーネは何故か白い顔色にどんよりした眼をして、声もガラガラで、死相が浮かんでいるようだった。

 服装だけはちゃんと革鎧を着けて荷物を背負っているけど、ひっつめただけの髪はぼさぼさだから、これから仕事だというのに、すでに仕事終わりの草臥れ感が出ている。


「昨日の晩ちょっと深酒しちまっただけさ、今ポーション飲んだから問題ない」

「朝っぱらから回復薬飲むなよ」


 シレーネの手元には下級回復薬の空瓶があった。


 下級回復薬には確かに二日酔いなどを緩和する効果もあるけど、二日酔いにはちゃんと二日酔いの薬を飲むべき、と薬師たちは提唱している。

 下級回復薬には元気になる効果もあるから、二日酔いが治まった直後に張り切り過ぎて、効果が切れた後、回復薬を飲む前よりもぐったりする阿呆が後を絶たないらしい。


 まあ、二日酔いのために下級回復薬を買ってしまう気持ちはわからないでもない。二日酔いの薬は下級回復薬よりちょっと高いのだ。いや、そもそも仕事の日に二日酔いになるなという話だけど。

 ギルド支部の売店のおばちゃんも呆れ顔だ。シレーネは朝一で下級回復薬を買って、その場で飲み干したのだろう。これからダンジョンへ潜る冒険者のすることではない。


「平気平気、いつものことだから」

「いつも深酒するなよ」


 僕とネニトスは早くも、シレーネを仲間に誘ったことが不安になってきた。

 でも、考えてみれば、久しぶりのダンジョン探索だというのにネニトスは寝坊してるし、僕も準備運動なんかしないで教会で懺悔、という名の黒歴史振り返り会をしていたのだから、人のことは言えない。


 気を取り直して、第一ダンジョンは活気を取り戻していた。


 まだ開放されて三日目だから、ギルド支部の裏は立ち入り禁止になっている。仮説焼却炉は土魔法であっという間に埋められたらしいが、弱いといえど魔物の死骸がたくさん埋まっているから、他に影響がないよう結界が張られているそうだ。

 他所の街に行った冒険者たちも、まだみんな戻ってきたわけではないけど、それも少しずつ帰ってくるだろう。


「よし、忘れ物ないね?」


 シレーネがダンジョン入り口前で仁王立ちする。下級回復薬が効いてきたらしく、顔色は良くなってきている。

 なんだか、シレーネがリーダーみたいになってる。まあ、彼女が一番経験値は高いから別にいいけど、僕らはまだパーティ申請を出していないから、シレーネは仮メンバーだ。


「虫除けよーし」

「長剣よーし」


 お互いの荷物を指さし確認する。特に忘れやすいものは声を出して確認する。


「長剣忘れたことあんのかい?」

「えへへ」


 ネニトスのは笑って誤魔化せることじゃない。シレーネも呆れかえっている。


 持ち物確認を終えて、僕らは第一ダンジョンへ踏み込んだ。


「あ、帰還の環」

「あ」

「あ」


 三人して帰還の環を買い忘れていることに気付き、そそくさと引き返した。


 三人揃って不安しかない始まりだった。

下級回復薬は体調不良全般にほんのり効くだけなので、どんな状態で飲んでも大きな副作用はありませんが、健康な状態で大量に飲むと変なテンションになって暴れたり踊りだしたりするので過剰摂取はいけません。


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