107.当たった!
二階層から地上へ走って戻って走って戻って、たまに虫除けを撒いて、二階層と地上を往復する。今日はベストもグローブもつけていないけど、それでも息が上がらなくなっているのは特訓の成果だと思う。
「往復する回数が減ったな」
「やっぱり減ってるんだな」
最初の頃なんて運び出すのが間に合わないから、二階層から一階層、一階層からダンジョン出入り口、出入り口から焼却炉、とリレー方式で運搬していた。
今日は午前中だけ仕事で、午後からまた強化訓練だ。楽な仕事になりそうだ。とにかく臭いけど。
「これで冒険者としての実績はギリギリ維持できるな」
「毎日働いてはいるのに実績に反映しないの辛いよな」
「そりゃね、荷運びとか草むしりして冒険者名乗るのは烏滸がましいって」
「今やってるのもただの荷運びなのに~」
「ここダンジョン、運ぶのモンスターの死骸」
駄弁りながら、もうそろそろ終業の時間だと思った矢先、騒ぎは起こった。
僕とネニトスが焼却炉からダンジョンへ戻ろうとした時、ダンジョン前で悲鳴が上がった。
帰還の環で戻る時の帰還場所から、三階層に行っているはずの殺虫剤散布係が飛び出してきた。
後から大型のモンスターも現れる。
「ブルーセンティピードだ!」
「そのまんま青ムカデ!」
名前の通りの青いムカデだ。全長が十から二十メートルにもなるモンスターだが、魔法は使えないし毒もなく、主食は意外にもキラーアントだから、益虫としてダンジョン内での討伐は推奨されていない。
しかし、ダンジョンから出てきたのなら倒すしかない。
ダンジョン内で遭遇しても、こちらから何かしなければ大人しい攻撃性の低いモンスターだが、今は興奮しているのか長い身体でドッスンバッタン暴れている。標的を決めて攻撃しているわけではないけど、あの巨体だと暴れているだけで脅威だ。
ブルーセンティピードには通常の虫除けも殺虫剤も効かない。殺虫剤散布係は重たいタンクを背負うから武器は持っていない。護衛一人じゃ手に負えないモンスターに遭遇したなら、引き連れてでも帰還の環で戻ってくるのは仕方がない。
でも、言うて僕らもまともな武器は持っていない。今日は運搬係の依頼を受けたから、邪魔になりそうなものは持ってこなかった。
周囲にウロチョロしているのも、僕らと大差ない装備のE級F級冒険者ばかりだから、みんな手を拱いている。護衛班はダンジョンの中だ。
なんとか魔法での攻撃を試みている者もいるけど、致命傷は与えられていない。硬い外骨格みたいなもので覆われているから、正確に関節部を狙わないと軽い攻撃なんか通らないのだ。
「ネニトス、ウィンドカッターは?」
「あー、えー、もう少し大人しくなったら……」
飛び道具の類も持っていないから魔法でどうにかするしかないけど、ブルーセンティピードは興奮しているのか大暴れしているから、当てられる気がしないという。
僕も同じく、ブラックホール小を当てられる気がしないし、下手すると周囲を巻き込む可能性の高い魔法を、他人の多くいるところで使いたくない。
「え、に、逃げる?」
「現場途中放棄したら今日の依頼料入らない」
悲しいかな、僕らはいつだって命と金を天秤にかけて、ちょっと金に傾くくらいには金に困っている。
他の連中も現場放棄と言われないよう、できるだけダンジョン方向へ逃げてブルーセンティピードをおびき寄せようとしている。たぶん、護衛班もこちらに向かっているだろう。
でも、見境のなくなったムカデは思うようにダンジョン方向へ向かってくれない。
「モンスター討伐は依頼内容になかった」
「依頼がなくたってモンスター討伐は冒険者の義務だよ」
「そうだった~」
ネニトスが頭を抱えるけど、こいつは何年冒険者をやってるんだ。冒険者ポリシーも忘れるなんて、あ、まだ半年だったか。
「あ、煙玉持ってた!」
僕も緊急事態でうっかりしていた。護衛班がいるとしても絶対にモンスターに遭遇しないとも限らないから、護身用に煙玉は持っていたのだった。
第一ダンジョンが閉鎖されている現在、第一ダンジョンでのモンスターの買取も取りやめている。蟻駆除の最中にモンスター狩りに夢中になられても困るし、基本的に武器を持たない散布係や運搬係から不平が出るからだ。
だから、僕もダンジョン内ならモンスターを倒す気はなかった。遭遇した時に応援を呼ぶ隙を作るための煙玉だ。
ムカデだから一部分を麻痺させても暴れそうだし、目潰しを正確に顔に当てられる気もしないから、使うのは混乱の黄色い煙玉だ。
どこに当てても効果はあるが、グローブを着けていないからまず当たるかどうかが心配だ。それに前みたいに跳ね返されないよう、慎重にあまり動いていないところを見極めて、全力で投げつけた。
ボカッと当たったところで玉が弾けて粉が広がる。近接で戦っている人もいないし、そんな広範囲ではないから、他の人への被害はないだろう。
「当たった!」
僕は両手を振り上げた。狙い通りに当たった上に余計な被害もない、上出来だ!
ムカデの動きがへろへろと遅くなった隙に、ネニトスがウィンドカッターを飛ばした。
ネニトスのウィンドカッターは、防具を着けていれば防げる程度の威力だが、見事に関節部分を切り裂いてムカデを二つに割った。
「当たった!」
ネニトスも両手を振り上げて飛び跳ねる。これで魔法は役立たずの汚名は多少濯げた。
それでもムカデは動いていたけど、この機を逃さず他の冒険者たちも一斉に魔法攻撃をしかけたから、そのうち動かなくなった。
「「当たったー!」」
僕らはハイタッチを繰り返してすごくレベルの低いところで喜びあったけど、二階層で大苦戦していた頃と比べればすごい成長だ。明らかに特訓の成果だ。
「やったな!」
「助かったぜ!」
「良かったー!」
周りにいた冒険者たちも集まってくる。今回、一番槍を上げたのは間違いなく僕たちだ。バシバシ背中を叩き叩かれ健闘を讃えあう。
ブルーセンティピードなんて、D級なら三人くらいで軽く倒せる相手だけど、ここにいるのはE級以下だ。残念ながら儲けはないけど、討伐記録にはなるだろう。
「投げたの何だったんだ?」
「黄色の煙玉、混乱効果がある」
「ウィンドカッターの威力増したんじゃないか?」
「強化訓練の成果だな」
「あーギルド本部でやってたやつか」
「俺も受けられるかな」
名前を知っているやつも結構いたから、この機に強化訓練のことも宣伝しておく。ギルドに恩を売っといて悪いことはないはずだ。
「やるじゃん」
シレーネもいた。布で顔が隠れているから気付かなかった。彼女は火属性だから、火気厳禁のこの場では使えなかったという。
「そうだろうそうだろう」
「僕らも確実に強くなってるのだよ」
「調子に乗れるほどの強さじゃないけどね」
調子こきタイムは数秒と持たなかったけど、自分の実力が上がっているのは確かなのだ。自慢できるほどじゃなくても嬉しい。
「ま、パーティ組んでやるくらいには、出来るじゃん」
シレーネの言葉に、僕らは顔を見合わせて笑った。
こうなればパーティ加入を祝って食事でも、と言うには三人とも虫除け臭いから、今日は第一ダンジョン前で解散になった。
ブルーセンティピードは比較的大人しいので討伐非推奨ですが、人食いのレッドセンティピードやグリーンセンティピードなどは討伐必須です。青か紫か見分けが付きづらいパープルセンティピードは猛毒があるので、青っぽく見えても要注意です。
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