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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
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106/132

106.これは冒険者として由々しき事態なのでは?

 シレーネとのお試しパーティの機会は、第一ダンジョン開放を待たずにやって来た。


「あ、一昨日ぶり」

「よお、あんたらもギルドの依頼受けることあるんだね」

「あるよ、これでもプロ冒険者です」


 シレーネの揶揄いにネニトスが憮然と反論するけど、最近の僕らはギルド職員や他の冒険者からも、ギルドの雑用係くらいに思われている節がある。


 二人揃っていつまでも寮に住んでいて、訓練と称してギルドに入り浸っていることが多いせいだけど、これは冒険者として由々しき事態なのでは?

 いや、別にいいか。将来、冒険者ギルドの職員になるという道も悪くない。


 余談だが、寮の四人部屋はとうとうエドとケルビンも出ていって、僕とネニトスの二人部屋になっている。一応、半年は住んでいられることになっているけど、大抵は一ヶ月か二か月くらいで寮を出るという。

 だから、いつまでも寮を出ない僕と、何故か出戻っているネニトスで、余計にギルド職員にでもなったのかと思われているらしい。


 実家を出たのにぜんぜん自立できていないのは情けないけれど、このままなんやかんや寮に居座って既成事実作ってなし崩し的にギルド職員になる道を模索してみるか。ネニトスも出戻りのくせして厚顔にも物を増やし続け、寮から出る気がぜんぜんなさそうだし。


「……狙うか、ギルド職員」

「なんて?」

「なんでもない」


 まあ、こんなこと考えているなんて、知られた瞬間ギルマスからたたき出されるだろうから、本気で考えたりはしないけどね。あくまでも選択肢の一つだ。あくまでも。


 僕らがシレーネと遭遇したのは第一ダンジョン二階層だ。今日は蟻駆除の仕事がとれた。

 二階層までは、蟻駆除の依頼を受けた冒険者は階級関係なく入っていい。

 これから、三階層に入る冒険者たちがキラーアントの死骸の詰まった袋を放り出してくるから、只管それを外の仮設焼却炉に放り込んでいく、簡単にして詰まらないお仕事だ。


 今はまだ突入部隊が入っていないから、僕らはダンジョンの中に虫除けを撒いている。地上に蟻を出さないために、一階層と二階層は薬漬けになるくらい虫除けが充満していて、めちゃくちゃ臭い。

 口元に布を巻いても臭いけど、ここ最近は街中がこの匂いに包まれているから、もうなんか慣れてきた。


 虫除け散布&蟻死骸運搬係の他に、周囲を警戒する護衛班がモンスターを見つけ次第討伐しているから、僕らはただ散布と運搬に集中すればいい。


 虫除けのせいでちょっと靄のかかっている中、突入部隊がやって来た。

 D級以上の冒険者のはずだが、みんなガスマスクを着けていて誰が誰だかはわからない。狭い通路を殺虫剤を撒きながら進むから、全員ガスマスクは必須なのだ。


 突入部隊は臨時パーティを組んでいるそうだ。殺虫剤タンクを背負っている散布係二人と、探知魔法の得意な魔法使い二人と、武器を持った護衛係一人という編成だ。

 キラーアントのせいで他のモンスターは少なくなっているけど、まったくいないわけではない。殺虫剤を撒くとずっと霧の中を歩くようになるし、ガスマスクは目のところが透明だけど視界が狭い。周囲警戒は探知魔法頼りになる。


 靄のかかる中をガスマスクを付けた一団がのっそのっそ歩いていく光景は、剣と魔法のファンタジーと言うより、SFチックだ。


 まあ、僕ら下っ端冒険者に戦闘は関係ないので、死骸袋が飛んでくるまでこの場で待機。ガスマスクの支給もないから、自前のマスクや手ぬぐいで口を覆うしかない。殺虫剤は人体に害があるけど、虫除けは臭い以外に害はないからね。


 運搬係の中にはゴーグルなどを持参している人もいるし、作業が作業なので、みんな防具ではなくエプロンか作業着だ。どっからどう見ても害虫駆除の清掃員。冒険者感なし。

 僕も今日はダンジョンアイテムのベストもグローブもつけていないから、堂々とだるんだるんの古着姿だ。エプロンを用意する金すらなかった。


 これも仕事なので文句は言いません。


 二十分も待てば、三階層に入っていた部隊がパンパンの麻袋をいくつも担いで戻ってくる。

 麻袋を置いて、殺虫剤タンクを取り換えて、また下に戻る。僕らは麻袋を担いで外に走る。


「まだこんなにいるのかよ」

「最初に比べれば少なくなっただろ」


 ダンジョン外に出た途端に口元の布を外す。鼻はすっかり麻痺してしまっているけど、ずっと口を覆っているのはやっぱり苦しい。新鮮な空気が美味い。


 持っている麻袋は大きさの割に軽いから、一人で四個くらいは持てる。正確な数なんてわからないけど、麻袋一つに蟻が三十から四十匹は詰まっている。その袋が一気に十個ほど放り出されるわけだ。

 だが、最初の頃は三階層に下りて五分も経たずに持ちきれなくなった死骸袋を運び出していたから、二十分待ってこの量ならば大分減っている。


 この中に虫の死骸がミチミチに詰まっていると思うと、最初は触りたくもなかったけど、それももう慣れた。慣れないやつは他の街のダンジョンに行っている。


 仮設焼却炉は、第一ダンジョン傍の冒険者ギルド支部の裏にある。

 本当に仮設だから、土魔法で大穴を掘って、その上にカマクラみたいな屋根を作り煙突を付けただけだ。中に火の魔石と風の魔石が設置されているから、何もしなくても燃え続ける。全部終わったら灰はそのまま埋め戻すという。


 麻袋から蟻の死骸を焼却炉に放り込み、麻袋は持って戻る。袋だって足りなくなるからね。


「ひ~匂いさえ何とかなれば楽な仕事なのに」

「こればっかりはどうにもならないよ」


 焼却炉の周りは煙臭いし、ダンジョン近くは虫除け臭い。それでも僕らは深呼吸してから、布で口を覆いなおして、靄のかかるダンジョンへ戻った。

冒険者ギルドの職員になるには試験に合格するか、冒険者としての実績を積んでギルマスから推薦されるかしないといけないので、ただずっとギルドに入り浸っても職員にはなれません。アルバイトでも試験と面接があります。


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