104.僕らは今日も依頼争奪戦に負けたってわけ
僕はやる気がない。
冒険者という仕事は嫌いじゃないけど、長くやるつもりはなくて、借金を返して、お金を溜めて、次の仕事が見つかったら、冒険者なんてすぐに辞めるつもりだ。
でも、だからって不真面目にやる気はない。
お金は稼ぐ必要はあるんだ。冒険者が嫌いなわけじゃないんだ。危険なことは沢山あるけど、冒険に出るのは楽しくもある。
だから、真面目に高ランク冒険者を目指している人たちには付いて行けないし、冒険者を天職だと思っている人たちとは相容れないし、ダンジョンの神秘を解き明かそうなんて気概もないし、冒険者とは名ばかりのチンピラになりたいわけでもない。
つまりは非常に中途半端、こんな中途半端な僕の仲間になってくれるのは、同じく中途半端なやつだけだろう。
こんな理由で誘うのは失礼だと思うけど、中途半端なやつは中途半端な仲間を探している。持論だ。中途半端な僕がそうなのだから、これはたぶん間違いない。
* * * * *
強化訓練を始めて三週間もすれば、僕らもまあまあレベルアップを実感してきた。
一日中動いてもへばらなくなってきたし、最初は玩ばれるばかりだった講師たちにも、多少追いつけるようになってきた。
まだ反撃できるほどにはなっていないけど、講師のみなさんは大ベテランだ。そんな人たちに数週間で追いつけるような才能は僕らにはない。
第一ダンジョンのキラーアント討伐も最終段階に入ったそうで、スイルーさんとグレンさんはほとんど訓練場に顔を出さなくなった。連日、土魔法でダンジョンの壁を壊しまくっているらしい。
D級以上の冒険者もみんな駆り出されて、キラーアント殲滅戦を繰り広げているという。
不思議なことに、キラーアントは例えダンジョンの変動に巻き込まれて巣ごと地中に埋もれても、卵が潰れていなければそのうち孵化して、ダンジョン内の魔力を食って勝手に大きくなって、いつの間にか女王蟻が出来上がるそうだ。
だから、今ここで卵の一つも取り逃さないように、巣穴を掘り返して全滅させなければいけないのだ。絶滅なんて心配する必要はない。ここで滅ぼしても、どうせ世界のどこかでまた勝手に増殖するから。
そんな街中の冒険者が一丸となっている中、僕らはぜんぜん関係なく訓練をしている。
一応、E級以下の冒険者にも後方支援などの仕事はあるけど、人手は足りているから依頼はいつも奪い合いだ。
そして、僕らは今日も依頼争奪戦に負けたってわけ。
いいけどね。あと七日で強化訓練も終わるから、ある程度の結果を残さないと「無駄だったから講習代出せ」なんて言われかねない。スイルーさんだけじゃなく、ベンドレンドさんも結構無茶を言うのだ。
しかし、僕らにやる気はあっても、講師の予定が合わないのはどうしようもない。
今日は午後から来れる人がいないということで、僕らはしばらく二人で自習をしていた。
「はあ、やる気がある日に限って先生がいないなんてな」
ネニトスが訓練用の木剣をクルクル回しながらため息を吐いた。こいつはさっきから木剣クルクルしかしていない。どっからどう見てもやる気がないけど、本人的にはやる気満々らしい。
かくいう僕も、さっきから訓練用のボールを適当に投げているだけだ。これも列記とした僕の訓練メニューなのだが、毎日続けてまあまあの命中率になってきたボール投げを、一人で黙々と続けるられるほど僕にはやる気がなかった。
「う~ん……そろそろ昼だし、飯食いながら反省会するのも訓練のうちじゃないかな」
「それだ」
というわけで、僕らは昼食がてらじっくり反省会とゆう言い訳のもと、久しぶりに外に出ることにした。
そこへ、丁度良いお知らせも来た。
「二人に客だよ」
ギルドの受付のおばちゃんに声をかけられた。
ギルド本部の一階に行ってみると、シレーネが待っていた。
今日は防具を着けていない。何にも意識していない簡素なシャツとズボンという服装が、逆に落ちつく。ここでこれ見よがしにお洒落してこられたら、痴情の縺れにトラウマがあるネニトスが身構えちゃうからね。
「よう、奢られに来てやったよ」
なかなかの挨拶だ。まあ、今度奢るって言ったのは僕らの方だからいいけど。
「シレーネは今日は仕事なかったのか?」
「今日はオフだよ、もう蟻の処理は飽き飽きだ」
ギルドでの依頼が今は蟻駆除なかりだから、今日は依頼をとらずにオフにしたそうだ。
それで買い物を済ませて、時間が空いたから僕たちを食事に誘いに、もとい奢らせに来たそうだ。
「丁度よかった、僕らも飯に行こうとしてたんだ」
「ちょっと待ってて、外出申請出すから」
「外出申請……外出るのに許可がいるのかい? 囚人かよ、なにやらかしたんだい?」
「これもお試し強化訓練の一環ですぅ~」
毎度毎度疑われるけど、僕らはそんなに何かやらかすやつらだと思われているのだろうか? やらかしたことなんてそんな、一回か二回か三回か……そこまででもないと思うぞ?
僕とネニトスは外出申請を貰ってギルドを出た。
明日は訓練は午後からだが、午前は講師に頼まれた仕事があるから朝は早い。遅くまで遊び歩く気はない。金もないし。
選んだ店は冒険者ギルド本部の近くにある大衆食堂だ。安さと量が売りで、この街の冒険者なら何度もお世話になっている店だ。
「ここかよ」
シレーネはガッカリした顔をする。まあ、デートでこの店を選んだならセンスのない男だと言われる店だけど、冒険者仲間ならぜんぜん構わないだろう。
「そんなに金に余裕がないんだよ」
「ここなら何頼んでもいいからさ」
二人で割り勘してもかなり痛い出費になるけど、男に二言はない。
「まあいいけどさ、酒はイケるし」
「飲み過ぎるなよ」
「わかってるよ」
シレーネは憮然と応えたけど、たぶんフラグでしかない。
僕らは昼飯を食べに来たわけだが、しかもまだ明るい真っ昼間だけど、酒を飲むのも、まあ、仕方ないだろう。シレーネが来たからには僕らはホストでシレーネがゲスト、ゲストが酒を所望するのだから、仕方ない仕方ない。
この店は一人前が大きいから料理をいくつか頼んでシェアする。イモの蒸留酒も安くてなかなかイケる。なんだか前世が懐かしくなる味だ。
この世界では故郷の味でもないのに、僕はイモの蒸留酒をちびちび飲むのが好きだ。シレーネも美味そうに飲んでいる。たぶん酒なら何でもいいやつだと思う。
一人だけネニトスだけが杯が進まない。イモの蒸留酒は匂いの癖が強いから苦手な人は苦手だ。でも飲んでいる。
何故ならば、なんとなくこの街では、このイモの蒸留酒が飲めたら大人みたいな風潮があるのだ。
前世で言うならば、ブラックコーヒー飲めたら大人みたいな感じと似ている。これもまた中二病の一症状だと思うけど、何なんだろうね、あのブラックコーヒー飲めたら大人格好良いっていう感性。
なんて思ってる僕も、前世では中学生くらいの時は無理してブラックコーヒー飲んで気取ってた。逆に大人になってからは、疲労回復のために糖分を欲して激甘コーヒー牛乳ばかり飲んでいた。
だから、ネニトスも僕らと同じものを頼んだけど、飲めないなら他のを頼めばいいだろうに。この店には他にも甘い酒だってある。
「飲めないなら別の頼めばいいのに」
「飲めるし」
「なんだ、ネニトスはこれが苦手なのか、お子ちゃまだね」
「苦手じゃねーし」
鼻で笑うシレーネに、ネニトスは一気に杯を傾けて咽ている。ほらもう、そういうこと言うから、若者がムキになって飲めない酒を頼んじゃうんだ。
シレーネは酒に関してもう少し慎みを持つべきだ。ホント、マジで、切実に。既にちょっと呂律が怪しくなっているから手遅れだろうけど。
イモの蒸留酒の飲み方は主に水割りです。真の酒飲みはストレートをショットだ、とかいう酒飲みの言葉は信じてはいけません。ロックもあるけど、氷は割と高級品なのでちょっと高くなります。炭酸割りは超高級品です。炭酸水がまだ天然で沸いているものしかないので。
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