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闇属性の方向性  作者: 稲垣コウ
修行編?
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103/131

103.いや、本当に子供の手伝いだな

 講師が複数いても予定が合わない時もある。基礎訓練が終わった後は、三日に一度、半日くらいは空き時間ができるようになった。


 そこでダラダラする余裕はない。

 今のところ食と住はギルドに賄ってもらえているけど、訓練が終わればその限りじゃなくなる。衣服もキラーアントに食われたままで、古着をヘビロテしている状況だ。


 金は稼がなければならない。

 なので僕らは空き時間には日雇いのバイトなどをしている。


 相変わらずギルドの依頼争奪戦は厳しいけど、幸いなことに、講師のみなさんと言う伝手を得られたので、雑用程度の依頼には事欠かなくなった。

 依頼というか、子供の手伝いみたいなのが多くて、バイト代もお小遣い程度だし、冒険者としての実績にはならないけど、無収入よりはマシだ。


 バイトは一人で行く時もあれば、ネニトスと二人で行くこともある。

 この前は二人で雨漏りする屋根の修繕、その前は僕は庭の草刈りと花壇の手入れ、ネニトスは街中へおつかい、その前は二人で荷車を押した。


 いや、本当に子供の手伝いだな。ギルドでの訓練がなかったら、自分たちでも冒険者であることを忘れそうだ。

 行く先々でおやつ貰えたりするから、講師の皆さんは完全に僕らのことガキンチョだと思ってる。一応、この世界では成人年齢に達しているんだけど。


 今日は人数が多い方がいいと言われたから、ネニトスと二人で行ってみれば、やることは殺虫剤製造だった。これはもう懲り懲りと思っていた仕事なのに、今この街で一番需要のある仕事は殺虫剤作りらしい。


 臭い草を只管磨り潰し混ぜ合わせる作業をして、半日で見事に僕らは臭くなった。また数日は薬草臭さが鼻に付いて取れないだろう。


「俺らって冒険者だよな」

「冒険者だよ」

「最後に冒険者らしいことしたのっていつだっけ? 訓練以外で」

「……今日の殺虫剤作りだって魔物討伐の一環だよ」

「魔物討伐の実績にはならないよな」

「ならないね」


 でも、僕らの帰る先は冒険者ギルドだ。ほら、冒険者だ。


 バイト現場に最寄り転移門がなかったから、街中を歩いてギルドに帰っているけれど、すれ違う人たちにいちいち顔を歪められている。事前の説明で着替え持参推奨と言われていたけど、一日に何度も着替えるほどの服を持ってないんだ。


 そんな中で見知った顔に出会った。


「あ、シレーネ、久しぶり」

「あ、虫除け代、あと殺虫剤代、うわ臭っ」


 挨拶もなしに請求された上に顔をひん曲げられた。酷い。

 そんなことを言うシレーネもなんか臭うと思う。鼻が馬鹿になっているからよくわからないけど、僕らとは違う系統の悪臭だ。


「おまえだってなんか臭うぞ」

 ネニトスが遠慮なく指摘する。女性相手に臭うとか言っちゃうところが、この顔で恋人ができない所以だろう。


「キラーアント駆除の手伝いしてたんだよ」

 シレーネも臭う自覚があったのか、嫌そうな顔で応えてくれた。


 E級冒険者だと閉鎖されているダンジョン内には入れないから、ダンジョンの外でキラーアントの死骸を焼くバイトをしていたらしい。だから煙臭くなったそうだ。


「僕らもキラーアント用の殺虫剤作りの仕事だよ」

「じゃあ金持ってるね、寄越しな」


 言い方がカツアゲなんだよ。請求されるのは御尤もなので、僕とネニトスで割り勘した。今日のバイト代の大半がこれで消えた。世知辛い。


「あんたらの居場所知らないから、てっきり踏み倒されるかと思ったよ」


 シレーネの言い分は酷いけど、ダンジョン内でたまたま手助けしただけなんて場合は、後から消耗品代を請求したって知らぬ存ぜぬで金を出さないやつも多いという。

 まあ、居場所を聞かなかったシレーネも結構抜けていると思うけど。


「僕ら今はギルドの寮にいるから、ギルド本部に来れば大抵会えるよ」

「あんたらまだ冒険者になって半年にならないのかい?」


 ギルドの寮に住めるのは冒険者になって半年までというのは、他の街の冒険者ギルドでも同じらしい。初心者講習会をやっているのも、だいたい全国共通だ。


「僕はね」

「俺は諸事情で寮に入れてもらっている」


 ネニトスは神妙な顔で答える。何が諸事情だ。だらしない生活しててアパートから追い出されたと正直に話せ。神妙な顔すれば乗り切れると思っているのか。


「ああ、ギルド本部で毎日罰走させられてるのってあんたらかい? 何やらかしたんだよ」


 ほら変な誤解を生んだ。半ば当たってるけど、罰走ではない。冒険者界隈でそんな噂を立てられていたなんて。


「罰走じゃなくて、D級目指して訓練受けてんだよ」

「この街のギルドでそんなことやってたのかい?」


 シレーネが驚くのも当然だ。こんな田舎の、特に特殊なダンジョンもない街では、初心者講習会以外の講習をしているなんて珍しいことだ。


 もっと王都に近い街のギルドだと、貴族の護衛の依頼なんかも多いから、冒険者のマナー講習会なんかがあるらしい。他にも、特殊なダンジョンがある場所だと、そのダンジョンに特化した講習会が行われているらしい。


 高がD級に上がるために訓練を受けている底辺冒険者には、他の街のことなんてぜんぜん関係ないけどね。


「今回が初めて、と言うか、まだお試しだな」

「いいじゃん、タダで訓練受けられて寮にいられるなら」

「タダかどうかはまだわからない」

「俺らはギルドに依頼されて実験体やってるだけ」

「あと、ネニトスはゴミ溜め過ぎて大家に追い出されてギルド寮に入れてもらってるだけ」

「言うなよ」

「正直に言えよ」


 ネニトスは非難がましく僕を睨むけど、シレーネには呆れた目で見られている。だよね、飽きれるよね、実家に帰りたくないとか言う資格ないよね。


「ま、いいや、また今度飯行こうぜ、奢るからさ」

「そうだ、この前助けてもらったし」


 そう誘うとシレーネは満更でもない顔をしたけど、鼻をピクピクさせて渋い表情になった。


「ああ、お互いに臭くない時にね」


 うん、今日は無理だ。


「じゃ、俺らだいたいギルド本部にいるから」

 そう言ってシレーネとは別れた。


 別れてからシレーネの住所を聞いてなかったことを思い出したけど、たぶん一人暮らしである女性に住所を聞くのも不躾だ。酒癖悪くてチンピラみたいな女でも、女性は女性だ。


 しかし、僕らと同じE級で、でも僕らよりは経験豊富で、実力もそこそこ高くて、なんか訳ありっぽくて、ソロで活動していて、ネニトスの顔に反応しなくて、気安く話せる冒険者、か……


 これはもしかして、もしかするのでは?


「ネニトス」

「んー」

「僕らって今後二人でやってけると思う?」

「え……解散の話し?」

「違うよ、増強の話し」

「へ? あー」


 これだけでネニトスも納得顔だったから、もしかしてもしかするかもしれない。

この国でも確定申告的なものはあります。冒険者は冒険者ギルドが実績や報酬から税金を計算してくれる年末調整的なことをしてます。割とアバウトなので子供の手伝い程度の稼ぎは申告しなくても何も言われません。


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