102.僕らの訓練は暇潰しらしい
基礎から片足抜けた僕らだけど、今後の訓練にはちゃんとした講師が必要になってくる。
しかし、今まで教わってきたスイルーさんもグレンさんもベンドレンドさんも、付きっ切りで講師ができるほど暇ではない。
なので、他所から講師が来てくれることになった。
僕の体術講師と魔法講師が五人くらい、ネニトスの武器講師が六人くらいで、その日暇な人が来る日替わりだ。
流派とかがバラバラだとやりづらいから、僕の講師はスイルーさんに鍛えられた人たちで、ネニトスの講師はベンドレンドさんに鍛えられた人たちで一応揃っている。
現役の冒険者という人もいれば、引退した人もいれば、別の仕事に転職したという元冒険者もいる。みなさん今回の第一ダンジョン閉鎖のせいで暇を持て余していたので、講師の依頼を快く引き受けてくれたという。
「でも、じゃあ本格的に訓練するようになったら、講師足りなくなるんじゃないですか?」
今講師で来てくれている人たちも、第一ダンジョンが解放されたら元の仕事に戻っていくのだろう。
「このお試しが上手くいけば、ギルドでしっかり予算組んで講師を集めるさ」
グレンさんがシフト表と睨めっこしながら答えてくれた。
第一ダンジョンのキラーアント討伐も佳境に入っているから、土魔法を使えるグレンさんも討伐に駆り出されているけど、相変わらず僕らの訓練講師も務めてくれている。
今は主に外部講師の皆さんの日程調整ばかりだけど、これが結構面倒くさい仕事だ。なにせ、皆さん副業というか片手間も片手間だから、本業や私生活の兼ね合いで来れる日時がバラバラなのだとか。
中間管理職って本当大変だよね、と僕は前世を思い出して胃が痛くなる。
講師の皆さんは最低限シフトは守ってくれるからまだ良い方だ。これで遅刻やサボリまで加味して予定を立てろなんて言われた日には、もう毎日が胃痛との戦いだ。
そんなグレンさんの苦労と、わざわざ講師を引き受けてくれた皆さんに報いるためにも、僕も真面目に訓練を受けようと改めて気合が入る。
「今回はみんなボランティアみたいな価格で引き受けてくれたからな、ほとんど暇潰しだ」
「あ……そっすか」
「薄々わかってた」
僕らの訓練は暇潰しらしい。
僕とネニトスはちょっと遠い目になったけど、まあね、僕も薄々気付いていた。講師は日替わりで来ると聞いていたのに、割とみんな自由に訓練場に来ては、ただ駄弁って帰るだけという人もいるもんな。
グレンさんも予定確認でああだこうだと注文を付けられて、せっせとシフト表を作っているのに、当日になって来れないって言ってた人たちも来てんじゃねーか、ということが度々あって、最近は常にちょっとイラッとした顔をしている。
皆さん結構な高齢者だから、この訓練場は最早スイルーさんとベンドレンドさんのお弟子さんの同窓会か、町内会館みたいになりつつある。彼ら相手ならグレンさんだって若造扱いだ。
今日は珍しくネニトスの剣術の相手としてレヴィさんが来ていた。彼は講師には入っていないけど、ベンドレンドさんに鍛えられた口だから、ベンドレンドさん弟子の会から声がかかったらしい。
「ハァ~蟻じゃない相手久しぶりだぜ~、もう蟻は嫌だ、人間相手最高だな~~」
レヴィさんはキラーアント討伐の統括をしているから、連日の蟻駆除にほとほと嫌気が差していたらしい。
それで息抜きで僕らの訓練に顔を出したようだが、笑顔で木剣を振り回すのは恐いからやめてほしい。ネニトスが泣いている。
「ひえぇ~!! 待って待って痛い!! 参りました!!」
「おうおう降参するのが早いぜ!! こっからでも挽回できるようになれ!!」
なかなかのスパルタだ。ネニトスは転がって逃げるのが上達しそうだ。
「他所見しない、油断しない」
「すんまっせん!」
僕も半笑いでネニトスを眺めている余裕はなかった。
ターナさんは魔法の講師で、八十年ほど前にスイルーさんに魔法戦を教わったという。シワシワの顔に鷲っ鼻に黒いドレスと、絵に描いたような魔女のお婆さんだ。特に混血でもない人間だという。え? 今何歳? って思うけど聞かない。
僕は今、ブラックホール小を一定の場所に出し続ける、という訓練をしている。
魔力と技力は大して伸びていないと思ったけど、戦力が上がったおかげで、ブラックホール小を遠隔で出せる範囲が三メートルほど広がっていた。なんと、肩や腰の筋力を鍛えたおかげで、安定して同じ場所にブラックホールを出し続けることもできるようになっている。
「結局、魔法を使うのは自分の身体だからね、身体鍛えりゃ魔法の精度だって上がるさ」
ターナさんの言だ。スイルーさんの受け売りだという。
「じゃあ、戦力と技力の違いって……あ、いいです」
「何だいあんた、戦力と技力の違いも知らないのかい? 戦力ってのはね……」
「いや、いいです、後で自分で勉強するんで」
「いいから聞きな」
「他所見しないって言ったじゃないですか」
「他所見はしなくたって耳は貸しな、あんたね、魔法使ってる間に他のこと何もできないじゃ話にならないよ」
「……はい」
「いいかい、戦力ってのは身体を動かす能力のことだ、対して技力ってのは魔力を操作する能力のことだけど、そもそも身体をめぐる魔力ってのはどこに宿っていると思う?」
「え、え~と……」
魔法訓練と同時に講義が始まってしまった。
僕はただでさえ集中していないと安定しない魔法を使いながら、講義を聞いて、頻繁に飛んでくる質問に頭をひねらなければならなくなった。
要約すると、体内の魔力は丹田らへんで生成されて、筋肉や血管を通って体中をめぐっているらしい。だから、身体を鍛えて戦力を上げれば、体内の魔力も安定して技力も向上するわけだ。
ここまでは僕でも何となくわかる。
しかし、問題は魔力を魔法として身体の外へと出力する方だ。
魔法を使うときは、なんかこんな感じの魔法を使いたいと頭に思い浮かべて、呪文を唱えたり頭に浮かべたりすれば、だいたい想像通りの魔法が出る。
と、思っているわけだが、実はこのイメージして呪文を唱えて魔法を発動する間に、必要な魔力を体外へ放出して呪文によって魔法の理を空へと描きイメージ通りの現象を発生させる、ということを無意識に行っているのである。
この無意識の部分が技力になる。
え? 無意識じゃ鍛えようなくない? と思わなくもないけど、結局これも戦力と同じだ。
身体を動かすのだって、例えば腕を上げようと思うだけで腕は上がる。詳しく、なんとか神経に電気信号を流してなんとか筋を縮めて、なんて考える必要はない。僕が考えれば脳みそと身体が良きに計らってくれる。
身体を鍛えれば良きに計らってくれる精度が上がる。魔法も訓練を重ねれば、無意識で行われているあれこれの精度が上がるってわけ。
妖精族の中には、この魔法の理とかいうものを見たり聞いたり感じたりできる人もいるらしいけど、ただの人間にはそんな能力は一生賭けても身につかないから、ひたすら魔法を使って魔法の使い方を身体に叩き込むしかない。
「つまり、戦力も技力も反復練習するっきゃないってことですね」
「ま、それだけわかってりゃ充分さ」
「講義の意味……」
「他のことをしながらでも安定して魔法を使う訓練さ、まだまだ質問に答えるときにブレてたよ、精進しな、あと、戦力と技力を詳しく知りたいなら教会で鑑定してもらいな」
教会に行って詳細に鑑定してもらうと、戦力も技力もぜんぜん違う構造だとわかるらしい。
僕はこれ以上の詳細がわかったところで、その情報を活かせる気がしないので、今のところ教会で鑑定してもらう気はない。高いし。
前世でも、ゲーム好きな友達が細かいステータスを計算して、どんな行動をすればどの数値が上がるとか、このスキルを得ればこの数値が上がりやすいとか、ずーっと解説してくれたけど、僕はそんなこと考えずにゲームをしてた。
とりあえず、頑張ればなんか強くなるのは間違いない。
魔力の流れとか呪文の流れとか魔法の理とかを観測する魔道具はあります。が、どれも高価な研究用器具なので自前で持ってる人はほとんどいません。
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