[IAP任務テスト]
潤は今日渡された、携帯電話を手に取り眺めていた
アドレスには一件、聖司の番号が入っている
無性に聖司と話したくなり、電話をかけるか迷っていた
すると、突然携帯が着信を知らせた
聖司かと期待したが、番号は違う数字を表示していた
任務の電話だと思い、緊張しつつ電話に出た
「はい!真中です」
「真中潤君?」と女性の声だった
潤はなぜ知らない女性がこの番号を知っているのか、不思議だった
「はい。真中潤ですが…あの、どなたですか?」と潤は聞いた
「突然ごめんなさい。私は中山瞳と言います。君の任務テストのスポッターに選ばれたの。何時任務の指令があるか分からないけど、宜しく!後、この番号登録しておいて。それじゃ」とだけ言って電話は切れた
中山瞳さん…任務テストのスポッター
潤は素直に中山瞳の番号を携帯に登録した
潤は本当に始まるのだと実感した
いつ指令があるか分からない
潤は介護の仕事を辞める事にした
任務に失敗したらまた陽子さんに介護施設を紹介して貰えば良いと潤は思った
そしてやはり聖司と話したくなった
IAP公認なのだ
迷う事はない
潤は聖司に電話をかけた
5コール目で聖司は電話にでた
「もしもし?」と聖司の声が聞こえた
なんだか安心する声だ
「あの、聖司さん。真中です」と話すと
「潤!おめでとう!」と聖司がテンション高めに祝いの言葉を告げた
「ありがとうございます!」と潤は返事をした
「なに?早速困りごと?」と聖司は心配そうに言った
「いえ、まだ任務の指令待ちなんですが…聖司さんと話したくて」と電話をした理由を話した
「そうか」と聖司は安心した声に変わった
「そう言えば、さっき中山瞳さんから電話があったんです」と潤は報告した
「中山瞳君か。彼女はスポッターとして優秀だ!安心して良いよ」と優しい声で聖司は言った
「そうなんですね。なんか聖司さんに言われると安心出来ます」と潤は電話をかけて良かったと思った
「じゃあ、俺は祈る事しか出来ないけど、初任務がんばって」と聖司が激励した
「ありがとうございます!がんばります」と潤は返事をした
「うん。また困ったら何時でも電話して」と聖司は言って、おやすみと電話を切った
やっぱり聖司に電話して良かったと潤は思った
そして、明日介護の仕事を辞めるための理由を考えた
潤は病気で急に入院する事になったから仕事を辞めると嘘を付くことにした
時刻は夜の10時
潤は今日のテストの疲れが急に襲ってきて
今日は早めに眠る事にした
自宅で眠るのは久し振りだった
布団に入ると、直ぐに眠った
翌朝、潤は施設長が出勤してくる時間に電話をかけた
昨日夜に倒れて、入院していると告げた
そして、長期間入院が必要そうな適当な病名を伝えた
すると、施設長が「分かりました。真中君のお見舞いに行きますから、病院は何処ですか?」と聞いてきた
潤は焦った。見舞いにくるなんて考えてもいなかったのだ
「お恥ずかしい姿を見られたくありませんので、お気持ちだけ、頂いておきます」と、咄嗟に思い付いた言葉を伝えると
「そうですか。ではお見舞いは控えさせてもらいますね。寂しがる利用者さんが沢山いるでしょうね。真中君は人気者でしたから。ご病気が完治する事をお祈り致します。元気になったら、戻ってきて下さいね」と言って納得して貰えた様だった
電話を切ると、潤はひとつ大きなため息をついた
これで任務に集中する事が出来る
潤が高校を卒業してから働いて貯めた貯金は50万円ほどある
仕事を辞めても3カ月くらいなら生活していける
後は任務の指令を待つだけだ
潤は午前中、ずっと電話とにらめっこしていたが、緊張は続かずお昼頃になると、電話は肌身離さず持っていれば、そのうち掛かって来るだろうと思うようになっていた
自宅を出てコンビニに行き、お弁当を購入して昼御飯を食べた
任務テストがあるというのに、なんだかのんびりとした昼下がりをおくった
考えてみれば、今まで仕事と訓練でまともな休日は無かった
潤は電話が有るまで、思いきり休日を満喫しようと思い付いた
映画でも見に行こうかと思った
しかし、満喫する時間は沢山ある様に思えたが、潤の頭の中は任務の事でいっぱいだった
きっと映画の内容なんて頭に入ってこないだろう
自宅で待機するしかないのだろうか?
潤はまた思い付いた
任務の指令が有るまで、IAP支部で狙撃の自主訓練出来ないだろうか?
待っている間に腕が鈍っては困る
潤は三神に許可を求めたかったが、生憎連絡方法がない
とりあえず、IAP支部に行ってみる事にした
時刻は午後3時だった
潤は地下鉄を乗り継ぎ、何時もの警察署に着いた
入り口の警官にIDカードを見せる
警官が「訓練は終わったのでわ?」と聞いた
やはり訓練期間中でなければ入れないのか?
潤は一か八かで警官に言った
「任務まで、自主訓練がしたいんです!」
すると警官は感心した様子で
「わかった。三神さんにはこちらから連絡しておく」と微笑んだ
潤は何時もの狙撃訓練場に着いた
扉を開くと、見知らぬ男がいた
背の高さは潤と同じ位で、眼鏡をかけた短髪の男だった
肩には銃をぶら下げている
IAPのメンバーなのだろうか?と潤は思った
その時、狙撃訓練場に備え付けの電話が鳴った
見知らぬ男が電話にでる
あぁ、あぁ、わかったと短く返事をして男は電話を切った
すると、男が潤の方へ歩いてくる
潤は緊張した
男はこう話した
「上の警官の連絡ミスだ。先客…つまり俺がいる事を君に伝え忘れたそうだ」
「そうですか。一緒に訓練しても構いませんか?」と潤は聞いた
「悪いんだが、俺は五十嵐と違って、他人と一緒にいるのが嫌いだ。俺が終わるのを待つか、帰ってくれないか」と男は冷たく言った
「終了時間は何時ごろですか?」と潤は聞いた
男は「俺が満足するまでだ」と威圧感を感じさせる口調で言った
折角来たのにこれは帰るしかないなと潤は思った
だが、なんだかこのまま帰るのは悔しい気持ちもした
そこで提案してみた
「あのう…見学なんてさせて頂くなんてご迷惑ですか?」と
男は少し試案している顔になり、腕を組んだ
「最初の1発だけなら、見学していけ。後は一人にしてくれ」と男は言った
潤は「ありがとうございます!」と言って何時も三神が見ている、ベンチに向かった
どうやら男は、ビルの中で動いている目標を狙っている様だ
人形は窓の中をいったり来たり動いている
窓ガラス越しに狙っているのだ
潤は真剣に男の動きを観察した
男がスコープを覗く
数秒後、バーンと銃声が響いた
男の弾は、窓ガラスを貫通して、人形の胸に当たっていた
「お見事!」と潤は思わず立ち上がって拍手をしていた
「真中潤。見たならさっさと帰れ」と男がスコープから潤の方を向き言った
「どうして、俺の名前知っているんですか?」
と潤は驚きながら聞いた
「五十嵐のバカがやたらお前の話をしていたからな」と言った
潤は聖司さんの知り合いなのだと嬉しくなった
「聖司さんのお友だちなんですか?」と聞くと
「あんなバカと俺が友達な訳ないだろう。部隊の仲間なだけだ」と嫌そうな顔をした
なんだか、聖司さんをバカにしまくっている男に潤は腹が立った
しかし、男の威圧感や冷たい態度に、潤は言い返す事が出来ない
「あの…お名前うかがっても良いですか?」と潤は下でに出て聞いた
「武下大雅」とぶっきらぼうに武下が答えた
「武下さん。今日はありがとうございました」と潤は頭を下げた
「いいから早く帰れ」と武下は潤が出て行くことを促した
潤はすみませんと言って、狙撃訓練場を出た
潤は自宅に帰ってきた
時刻は午後6時
まだ夕食には早いが、コンビニで買ってきた弁当を食べた
食べた後、潤は今日会った武下大雅の事を思い出していた
冷たくて、威圧的な話し方
他人と一緒にいるのが嫌いだと言っていた
潤は今さら陽子の言葉が思い出された
「聖司さんみたいな人ばかりではないか…」
確かにその通りだった
しかし、狙撃の腕は聖司級の腕前だ
あんな人がIAP本部には沢山いるのだろうか?と潤は身震いをした
潤は聖司が俺の次に腕のあるスナイパーが結婚して除隊したから、三神隊長が潤に期待していると、話していた事を思い出した
「俺じゃ無くても、凄い人がいるじゃないか」と潤は思った
ますます、任務テストへの緊張感が高まった
俺が失敗したらどうなるのだろうか?と潤はマイナス思考が止まらなかった
潤は元々優しくて、おとなしい繊細な心の持ち主だ
一旦悩み始めると、直ぐには心を立ち直せれない
潤は今までそう言った意味では、聖司に支えられて、挫けずに訓練が出来たのだろう
しかし、聖司に頼ってばかりいては一人立ち出来ない
暫く悶々と悩んだが、結局は自分の気のもちようで、どうにかしなければならないのだ
聖司の力を借りずに潤は任務をやり遂げようと決意した
何より、武下大雅に対して自分の力だけで任務をやり遂げたと、堂々と胸を張ってIAP本部に入隊したのだと、見せてやりたかった
やはり、自主訓練が必要だと、潤は考えた
明日は朝早めに狙撃訓練場に行くことを決めて、潤は早めに眠る事にした
翌朝、午前8時
潤は地下鉄に揺られて、警察署までやってきた
誰も訓練場にいない事を祈りながら、警察署の窓口にIDカードを見せた
「昨日はすまなかったね。今日は誰もいないよ」と昨日と同じ警官が謝った
「気にしないで下さい。突然来た俺が悪いですから」と潤は警官に微笑んだ
「訓練頑張れよ」と警官もニッコリ笑った
潤は狙撃訓練場の扉を開けた
中には誰もいない
潤は色々な狙撃銃が置いてある場所に行きひとつのアタッシュケースを選んだ
SATで使用されている、豊和M1500を選んだ
潤は最初は仮入隊テストでも使用したバレットM82を使用していたが
聖司が潤が扱い易い銃を見付けようと言ったので、色々試した所、この銃が一番自分に馴染むと感じていた
潤は昨日武下が行った事を自分も試してみようと思っていた
窓ガラス越しの動く目標の狙撃
潤の今の腕前ではかなり難易度の高い訓練だ
潤はそれが出来た時、任務を成功させる自信が持てる気がしていた
昨日武下がいたビルに上り、早速銃を組み立てた
観察した通りの場所に銃を構える
まず、武下の真似をして撃ってみる事にした
スコープを覗き引き金を引いた
弾は窓ガラスを撃ち抜き、人形をかすめる事もなく、大分ずれた位置の壁に当たっていた
「風に弾が流されたな。真似するだけじゃやっぱ駄目だな」と呟いた
潤は風向を調べ、弾が流されない狙撃ポイントを探す
潤は別のビルの一室に場所を移動した
此処なら、上手くいくと潤は確信していた
しかし、また弾は人形から大きく逸れて壁に当たった
潤は今までの訓練で得た自信を失ってしまった
潤が落ち込んでいると背後から
「この場所からじゃ無理ね!」と女性の声がした
あわてて潤は後ろを振り向く
そこには、ショートカットで身長が低く、全身赤い色の服を着た女性が立っていた
「あのう…」と潤が言いかけると、女性が被せて
「声に聞き覚えないかしら?」と潤に聞いた
潤はその人物が誰なのか見当がついた
「中山瞳さんですね」と潤が言うと
「当ったりー」と中山はニカッと笑った
「もしかしたら、任務ですか?」と潤は緊張しながら聞いた
「違う違う。君が自主訓練してるって聞いたから、私もスポッターとして、サポートしようと思ったのよ。」と中山は答えた
「任務の前に君の腕前と、会って話してみたかったしね」と中山は此処に来た理由を話した
「そうですか。わざわざありがとうございます!」と潤は礼を言った
「良いのよ。任務無いから暇だし」と中山は気にするなと言った
「それより、難易度高い訓練してるみたいだけど、昨日武下にいじめられたの?」と中山は半笑いしながら聞いてきた
「いじめられてませんよ!ちょっと昨日武下さんが凄かったので、やってみようかと思っただけで…」
なんだか潤は言い訳の様になってしまったと思った
「なるほどねー。ちょっと待ってて」と言って中山は鞄からタブレットにもなるパソコンを取りだし、何やら打ち込んでいる
暫く経つと、「窓ガラスに当たると、弾の角度が変化してしまうの。風の影響もあるわ」
と言って、今度は指をスライドさせて、パソコンをいじっている
「OK!わかったわ。此処より、あそこのビルの方が、当たる確率が高いわ」と今より北側のビルを指差した
「あそこですか!?」と潤は驚いた
自分ではあそこから撃つなんて考えもしなかった
「行ってみれば分かるわ」と中山は不敵な笑みを浮かべた
二人でそのビルへと移動した
移動した後、直ぐに中山にスコープを覗けと言われた
素直にスコープを覗くと、やはり目標が見えにくい
潤は文句を言おうとすると
「黙って目標と照準が合った時に撃ちなさい」と言われてしまった
潤は照準を合わせる事に集中した
しかし、やはりなかなか照準が合わない
「何分掛かっても良いから、照準合わせて」と中山は穏やかに言った
潤は焦らずに、照準を合わせる
3分後、要約照準が合った
潤は急いで引き金を引く
バーンと音がした後、人形が倒れた
弾はちゃんと当たったのだ
「ヤッタァー!」と潤が喜ぶと、中山も嬉しそうだった
「中山さん凄いです。こんな所から当たるなんて!」と潤が言うと
「君の使っている銃の弾が、窓ガラスに当たる事によってずれる角度を計算したのよ」と
中山は説明した
「聖司さんから、優秀なスポッターだって聞いてたんですよ。本当にありがとうございます!」と潤は興奮して言った
「聖司君にそんな風に言って貰えるなんて光栄だわ。真中君、今日から私達はバディーを組むの。任務まで訓練にも付き合うわ。宜しくね。」と中山は言って片手を上げた
潤も片手を上げ、二人はハイタッチをした
「こちらこそ、宜しくお願い致します」と潤も挨拶した
心強い味方が出来たと潤は喜んだ
潤と中山が合同で訓練しはじめてから4日目
訓練中に潤の携帯が鳴った
登録されていない番号からだ
潤は急いで電話にでた
「はい。真中です」
「真中君。君のターゲットが決まった。」
金田健三からだった
作戦総合本部隊隊長直々の指令だ
「かなり難しい任務だが、真中君なら遂行出来ると信じている。詳しい説明はIAP本部情報部隊から連絡がある。待機していてくれ!」と言って電話は切れた
「金田隊長君の事相当お気に入りね」と電話を盗み聞きしていた中山が言った
「どうしてですか?」と潤が聞くと
「任務の指令に直接金田隊長が電話してくるなんて、滅多に無いもの」と中山が答える
潤はその期待に相当なプレッシャーを感じていた
「何かプレッシャーが日に日に増してきます」
と潤がぼやくと中山は
「あったり前でしょ。プレッシャーは任務を成功させる良い薬よ!」と言った
聖司は自信を、中山はプレッシャーを力に変えて任務を成功させてきたのだろう
俺にもそんな力があるだろうか?と潤は考えた
先輩二人の言葉を胸に刻み込む
自信を持ちプレッシャーを羽附て任務をやり遂げる
今の自分にはそれしかないと潤は腹を決めた
金田からの電話から数分後、また携帯の着信音が鳴った
IAP本部情報部隊からの連絡だろう
潤は落ち着いて電話にでた
「はい。真中です」
「真中潤さんですね。今回貴方の任務のターゲット情報を担当する、吉川愛と申します。今からターゲット情報をお伝えします
情報はメモする事を禁じられています。全部頭に叩き込んで下さい。」と吉川が事務的に話す
潤は聞き逃しが無いように、電話の声にみみを澄ます
隣で中山がまた盗み聞きをしている
「では、ターゲット情報をお伝えします。ターゲットは日本人を装おっている、北朝鮮の工作員です。名前は榊原敦士。こちらは偽名で本名はキム・シウォンです。在日の家庭にかくまわれていましたが、公安に情報が流れて、公安が調べ、追尾し始めると、気付かれた様で、姿を消しました。公安がお手上げで、IAPに依頼が来ました。IAPの情報部隊が居場所を突き止めました。ターゲットはあるビジネスホテルに潜伏しています。今情報部隊が彼を監視して、行動パターンを調査しています。今日は以上です。何かご質問は?」と吉川から聞かれた
「キム・シウォンも偽名ですか?」と聞くと
「恐らくそうでしょう」と吉川が答えた
「では、またの連絡迄待機していてください」
そう言うと電話は切れた
「北の人間か。ターゲットとしては難しいわね」と中山が呟いた
「俺に出来るでしょうか?」と潤は自信無さげに言った
「真中君の初任務でしょ!そんな事言ってないで、私も居るんだから、自信持ちなさい!」と中山が潤の背中をバシバシ叩いた
「分かりました」と潤は背中の痛みをこらえながら返事をした
本部情報部隊からの電話が有ってから一週間が経った
自宅で待機中の潤のIAP専用電話が再びなった
潤は「はい。真中です」と落ち着いて電話にでた
「お待たせして申し訳ありません。担当の吉川愛です。真中さんに、追加情報をお伝えします。ターゲットは相当警戒している様です。ビジネスホテルから余り外出せずに、北の指令を待っている様です。明後日に北朝鮮の団体が日本にやってきます。多分その時、一緒に来日する指導者に情報を伝え、新たな任務を受ける様です。何としてもそれを阻止しなければなりません。」と吉川は厳しい声で伝えた
「狙撃するポイントは、明後日、ホテルを外出する時が一番の狙い目です。ホテルの場所をお伝えしますので、中山さんと一緒に行き今日と明日で下見を行い、有効な狙撃ポイントを探して下さい。後、メールでターゲットの写真を送ります。こちらからは以上です。何かご質問は?」と再び聞かれた
潤は「明後日、指導者の所へ向かう時間はいつですか?」と聞いた
「団体を乗せた船が到着するのが、午前9時。それ以降に動きがあると思われます」と吉川は答えた
「分かりました」と言って潤は電話を切った
時間がない
潤は急いで中山に連絡をした
中山にビジネスホテルの場所を告げ、待ち合わせ場所をホテル周辺の駅にした
電話が有ってから1時間後、中山と潤は駅前にいた
「ターゲットが指導者と接触するまで時間がないわね」と中山は焦った
「取り敢えず、潜伏しいるホテル周辺まで行って見ましょう」と中山は潤を促す
潤は中山と適度な距離を保って、ビジネスホテル周辺に向かった
ビジネスホテルがあるのは色々なビルが乱立している、密集地に有った
まず、二人は近場のビルの屋上へ上り、ターゲットがいる部屋を確認した
その部屋はカーテンが昼間なのに閉まっており、中を観察する事は出来なかった
「やはりホテルでの狙撃は無理ね」と中山は呟いた
「明後日外出する時が狙い目ね」と中山は判断した
潤も異論はなかった
「取り敢えず今日と明日にかけて、観察して見ましょう」と中山は慎重に提案した
暫く経つと、急に部屋のカーテンが開いた
ターゲットはキョロキョロと辺りを警戒する様に見回す
そして、直ぐにカーテンを閉じた
双眼鏡で覗いていた潤は、メールで送られてきた男だと確認した
「本人で間違いない様です」と中山に報告した
「OK。じゃあ、今日はターゲットが外出する時に狙いやすい様なビルの目星をつけておきましょう。」と中山が提案し、潤もうなずいた
周辺のビルを片っ端から調べ、狙撃ポイントを三ヶ所に絞った
まず、カーテンが開いたら、狙撃しやすい場所
ビルの出入り口が良く見やすい場所
そして、ターゲットがビルから外出した時に駅方面へ行く時に、狙撃しやすい場所
外出した後、駅へ向かい目的地に行くだろうと、予想しての場所だった
「今日はこのままターゲットのうごきを観察しましょう」と中山が言うので、ずっと開かないカーテンの部屋を二人で観察した
観察を始めて2時間が過ぎた
時刻は午後5時
また、カーテンが開いた
キム・シウォンと名乗る男の姿が現れた
「定期的に外の様子を探っているみたいね。ターゲットも焦っているんだわ」と中山が分析する
「あの…ひとつ疑問なんですが、居場所が分かったのなら、公安に任せれば良いのに、何故暗殺しなければならないのですか?」と潤は中山に聞いた
「多分、ターゲットが相当重要な情報を握っていて、それを祖国に報告されてはまずいからでしょうね」と中山が冷静に答えた
「そうですか」と潤は短く返事をした
男は暫くキョロキョロした後、またカーテンを閉めた
「カーテンを開けてるのは、1分位ね。真中君、1分でターゲットに照準を合わせれそう?」と中山が聞いた
「やってみないと分かりません…」と潤は答えた
「そう。真中君が自信満々なら明日、狙撃を決行しようかと思ったけど…」と中山は言った
何しろ明後日迄には必ず仕留めなければならないのだ
「そろそろかしら。真中君、男の部屋でなく出入り口を見張って」と中山は指示した
「何故ですか?」と潤が聞くと
「ターゲットは外出もせずにずっと部屋にいるのよ。そろそろ夕飯時。ルームサービスも有るかも知れないけど、差し入れをする、仲間がいるかもしれないわ。出入り口で怪しい人物を探して」と言った
分かりましたと言って、潤は双眼鏡を入り口に移した
更に監視して2時間
出入り口には不審な人物は居なかった
また男の部屋のカーテンが開いた
そして1分後また閉じた
この時を狙うのが一番簡単な気がするが、潤は1分間と言うタイムリミットに、自分の実力があるか不安だった
「観察はもうよいわ」と突然中山が言い出した
潤は中山の次の言葉を待つ
「訓練場に行きましょう」と中山は真剣な顔をして言った
「1分間のタイムトライアルに挑戦しましょう」と中山は潤の訓練を促した
「分かりました!やってみます」潤は力強くうなずいた
二人は狙撃訓練場に行く事にした
二人は別々に歩き、尾行などに警戒しなら地下鉄に乗り、いつもの警察署に着いた
時刻は午後8時半
狙撃訓練場の人形とカーテンの設置が終わった
カーテンは1分事に開閉する様に設定してある
「じゃあ、始めるわよ」と中山が確認した
潤はスコープを覗きながらうなずいた
一回目カーテンが開く
潤は照準を合わせる事に集中した
照準が合いそうになった時、カーテンは閉じてしまった
やはり難しいようだ
「五十嵐君から聞いているわ、君は訓練すれば、成長するって。諦めないで続けて」と中山が励ました
二回目、照準は1分以内で合わせたが、人形を外れてしまった
「先ずは照準を1分で合わせる事に慣れることよ。ドンドン撃って行きましょう。狙撃の精度は後回しで良いわ」と中山が言った
潤は1分以内で照準を合わせる事に集中する
弾は外れてばかりたが、1分以内に照準を合わせる事には少し慣れたようだ
「真中君。暗示スコープに変えて撃って」と中山が指示する
中山が明かりを消しに行く
暫く経つと真っ暗になった
潤は暗示スコープを覗いた
一回目、カーテンが閉まるまでに照準を合わせる事は出来なかった
二回目、照準は間に合ったが、また人形を大きく外してしまった
その後もドンドン繰り返し撃っていく
ついに、潤の弾は人形をかすめる事ができた
潤はいけるかも知れないと思った
少し自信がわいてきた
「OK。1分以内で照準合わせるのは慣れたみたいね。やはり君は凄いわ。五十嵐君から聞いた通り。自信持って良いわ。次は狙撃の精度を上げて行きましょう」と中山は笑顔で言った
潤も笑顔になり、「はい!」と返事をした
どうしても、明日狙撃を決行したい
それは自分の訓練次第だと潤は自分で自分にプレッシャーをかけた
何回も何回も挑戦した
時刻は午後11時
暗示スコープを覗く潤
もう何回目かわからないほど引き金を引いた
潤の集中力は極限まで研ぎ澄まされていた
カーテンが開く
照準を合わせる
引き金を引く
一連の動作に無駄は全くなかった
そしてついに、弾は人形の頭を撃ち抜いた
「キャー」と悲鳴をあげたのは中山だった
「当たったわ!」と潤以上に喜んでいた
潤は何故か妙に冷静になり、「やっと当たりました。しかし、まだ一回です。訓練を続けます」と中山に告げた
訓練開始から4時間
時刻は午前0時半
潤の弾は人形に必ず当たる様になっていた
しかし致命傷に至る場所ばかりではない
「真中君。根を詰めすぎても、良くないわ。君は頑張った。狙撃決行は明日の夕方から。君の腕にかけてみるわ!今日は仮眠室で休憩して、また朝から訓練して、狙撃の精度を上げて行きましょう!」と中山が言った
潤は素直に従った
全ては明日の訓練次第、潤の腕にかかっている
翌朝午前6時半
潤は仮眠室で目覚めた
狙撃決行の日はいよいよ今日だ
中山は女性用の仮眠室にいる
7時半に狙撃訓練場で訓練となっている
潤は食堂に朝ご飯を取りに行った
メニューはメロンパンにコーヒーとサンドウィッチだ
メロンパンは潤の大好物でもあり、メロンパンを食べると必ず勝つと言うジンクスを信じている
高校入試も、仮入隊の時も潤はメロンパンを食べた
たかが、げんかつぎかもしれないが、そうする事で潤は心を落ち着かせる事が出来るのだ
ゆっくり食事を味わい、今日の為に用意されていた、IAPの隊服に着替える
隊服は、まず黒い長袖Tシャツを肌着の上から着る
その上にノースリーブの防弾チョッキ
防弾チョッキの上から、カーキ色のコート
フードは着いていない
コートには、色々なポケットが着いている
ズボンはストレッチがきいていて動きやすい素材で出来た黒いズボンを履く
ズボンにもポケットがいくつかある
靴は、爪先がランニングシューズの様になっている、黒い編み上げブーツだ
パッと見は、オシャレなミリタリーファッションだ
街中に溶け込み易いだろう
着替えを終えると、早速狙撃訓練場へと潤は向かった
狙撃訓練場へ行くとまだ中山は来ていなかった
約束の時間にはまだ少し早かった
中山は女性なのでメイクなど、男には分からないが時間がかかるのだろう
約束の時間3分前、中山は狙撃訓練場に現れた
中山も隊服に着替えていた
ほぼ、潤と同じ格好だが、しかし、街中に溶け込む様に、任務をする時には無関係な
フリルがコートにあしらえてある
女性専用のコートだろう
「待たせてゴメン。早速訓練に入りましょう」
と中山は言った
状況を似た設定にするべく、狙撃訓練場を真っ暗にして、今日の夕方の風向きを中山が予測して設定した
中山と潤は今日狙うビジヌスホテルの窓と
狙撃ポイントのビルと同じ距離間のビルの屋上へ上った
「準備万端ね。じゃあ開始しましょう」との中山からのゴーサインに潤は暗示スコープを覗いた
一回目、弾は人形の腹に撃ち込まれた
1分間は克服したものの、やはり狙いをつける時間が短い分、狙撃の精度が落ちるようだった
「カーテンを開くターゲットも、人形も余り大きくは動かないわ。頭を撃ち抜けた時の銃の位置を覚えて、そこに固定して。照準の中にターゲットの頭が入ったら撃ってみて」と中山がアドバイスした
何回か撃ち、10回目で頭にヒットした
「よし!今の位置覚えて!」と中山は言った
潤は今当たった位置をしっかり記憶する
カーテンが開いた
人形の頭が照準に入る
潤は引き金を引いた
弾は見事に人形の頭を貫いた
「連続おめでとう!」と中山が喜んだ
「ありがとうございます。」と潤は照れながら言った
その後も撃っていく
潤は連続で頭に撃ち込める様になった
もう50回連続で頭にヒットしている
時間は午前9時半になっていた
「真中君。訓練はもう良いわ。君の腕は確かになったわ。そろそろ狙撃の準備に入りましょう」と中山は訓練終了を告げた
潤も今回の任務の成功に確かな手応えを感じていた
「今から、狙撃ポイントに移動しましょう。今の時間からカーテンが開くのは、昨日観察した時刻を想定して、11時と13時と15時と17時と19時の2時間間隔ね。11時と13時と15時に照準合わせをして、決行は17時か19時としましょう」と中山は言った
「分かりました!」と潤は気合いを入れて返事をした
「ビルには別々で向かうわ。昨日のビルで10時半に落ち合いましょう。」と二人は約束した
中山は直ぐに狙撃訓練場から出て行った
潤は銃とスコープと暗示スコープをアタッシュケースにしまった
それを持って潤も狙撃訓練場を後にした
午前10時45分、二人はビジネスホテルの窓が見やすいビルの屋上にいた
今、潤が狙撃銃の設置を終えた所だ
中山はタブレット端末で風向等を調べている
「私の予想で風向は合ってるわね。窓ガラスに当たる角度も訓練通りだわ」と中山は潤に知らせる
15分後にはカーテンが開く
潤はスコープを覗き、中山は双眼鏡を覗いた
二人とも伏せた体勢だ
15分後、やはりカーテンは開いた
潤は男の頭に照準を合わせる
身体は動かさないが、頭をキョロキョロしているので照準を合わせずらい
潤はなんとか照準を合わせた
「一応、合わせました」と中山に報告する
「チャンスはまだ二回あるわ。焦らないで、今日の訓練通りにすれば良いのよ」と優しく中山は言った
「分かりました」と潤は返事をした
午後1時、二回目のカーテンが開いた
潤は自分の神経を研ぎ清ませる
さっき、合わせた照準にターゲットの頭が何回か入る
いける!と潤は思った
「今の照準にターゲットの頭が何回か入りました」とまた中山に報告すると
「OK!次にカーテンが開いた時に照準がずっと頭になる様に、微調整してちょうだい」と指示を出した
実際に撃つときには、辺りは暗く暗示スコープに付け替えて、狙撃しなければならない
次の時間で完璧な銃の位置を覚えて置かなければならない
午後3時
緊張めの3回目のカーテンが開いた
潤はスコープの真ん中にターゲットの頭がずっと入る様に微調整する
もうこの一回しかないのだ
潤は慎重に訓練通り、照準を合わせる
男の頭が真ん中に入った
このまま、引き金を引けば、命中するだろうと潤は思った
「バッチリ真ん中に入れました」と報告する
「そう。では、午後5時に狙撃を決行!」と中山は言った
潤はスコープを暗示スコープに付け替えた
そして、暗示スコープを覗く
カーテンの閉まった窓が白黒の世界で見えた
今日3回覗いた男の位置を思い出す
潤はイメージをした
男の頭を撃ち抜くイメージ
絶対成功させてやると潤は気持ちを強く持った
冬の空の下、二人は決行の夕方5時を待った
「キャア!」と悲鳴が聞こえた
それは午後5時の5分前の事だった
潤は暗示スコープから視線を外して、悲鳴がした隣をみた
中山がいない
潤は立ち上がると、男に捕らえられ、首もとにナイフを突き付けられた、中山の姿が見えた
潤は動揺した。この状況で自分はいったい何をすればよいのかを
潤が中山を助けるため、男の元へ行こうとすると
中山が「来ないで!!」と叫んだ
潤は足を止める
「自分の事は自分で何とかするわ!君は狙撃に集中してちょうだい」と中山が言った
「この女がどうなってもいいのか?」と男がドスのきいた声で言った
潤は迷ったが、カーテンが開くまで時間がない
ターゲットはこの男ではなく、部屋の中の男だ
潤は狙撃体勢に戻り、暗示スコープを覗いた
二人の会話が聞こえてくる
「女。随分余裕だな!これは俺が仕掛けた罠なのに」と男は言った
「やっぱりね。仲間がいると思ったわ。罠だと気付きながら、あんた達の作戦に乗ってあげたのよ!」と中山は言った
「おまえ達は、警察でも公安でもない。いったいなんなんだ?」と男は聞いてきた
「さぁーね。あんたには教えない。お話しはこれで終わりよ!」と中山が言うと、男の左親指を思い切り噛んだ
男が痛がり、拘束が緩んだ隙に中山は、ズボンの左ポケットに潜ませていたスタンガンを取りだし、男の首筋に当てた
男は何も言わずに倒れた
その時だった
窓のカーテンが開いた
潤は集中して照準を合わせる
昼間通り、照準は男の頭に合っている
潤は引き金を引いた
弾は窓を突き破り、キム・シウォンの頭に命中した
血をながして、男は倒れた
潤は任務に成功した
しかし、成功に興奮している場合ではない
潤は中山と男の方へ視線を向けた
スタンガンを握っている中山と倒れている男が見えた
本当に自分の事は自分でやってのけていた
潤は中山の元へ駆け寄る
「仲間がいたんですね!」と潤が言うと
「君には黙ってたけど、カーテン決まった時間に開けるのは罠だと私は気付いていたの。仲間が居るのに、発見出来なかったから罠に乗って、誘き寄せたかったの。だから今日の狙撃決行を選んだの。仲間が一人で良かったわ」と中山が安心して言った
「沢山いたら、今の様にはいかなかったわ。この男をどうするか、金田隊長に聞いてみるわ。彼は、任務外だからね」と言って中山は電話をかけた
事情を説明して、この男の所存が決まった
「貴重な工作員から話を吐かせたいから、身柄は公安行きだって。私達の事見られたから、殺すかと思ったけど、死体が増えなくて良かったわね」と中山は微笑んだ
そして、任務成功おめでとうと言った
二人は気絶している男を公安に引き渡しさっさとその場から離れた
中山の話しでは、IAP支部で金田隊長と三神隊長が待っているから、真中君は行きなさいとの事だった
潤はIAP支部に着いた
金田と三神が待っている
きっと本入隊の話しだろうと、潤は確信していた
二人の隊長は中山の話しだと、潤がIQテストを受けた部屋で待っているようだ
部屋にたどり着き、深呼吸をひとつしてから潤はドアをノックをした
「入りたまへ」と金田の声がした
潤は失礼しますと言って中に入った
「真中君。任務成功おめでとう。御苦労様だった!」と労をねぎらったのは金田だった
「ありがとうございます」と潤は礼を言った
「先程君のIAPへの入隊が決定した。真中君には、三神隊長率いる射撃・狙撃部隊に所属してもらう」と金田が告げた
「真中君。我が部隊への入隊を大歓迎するよ!君の腕は素晴らしい。今日の任務は御苦労様だった」とまた三神が今日の潤の働きをねぎらった
「ありがとうございます。未熟者ですが、三神隊長に付いていき、任務に励みたいと思います。宜しくお願い致します」と潤は深々と御辞儀をした
「あぁ、宜しく」と三神が言った
「さて、本入隊に際して君に話す事がある。まず、明日からはIAP本部へ顔を出して貰う。本部の場所はわかるかね?」と金田が聞いた
IAP本部は使われなくなった東京タワーの地下深くにある
2020年に老朽化のため、東京タワーは改築工事を半年かけて行った。その時IAP本部も誕生したのだった
少し寂れたが、今も観光客で賑わっている
潤はその話を聖司から聞いて知っていた
「はい!分かります」と潤は返事をした
「なら良いのだか、入り口迄は知らないだろう?」とまた金田が聞いた
そういえば、聖司さんからそこまでは聞いていないと潤は思った
「入り口は分かりません」と潤は答えた
「明日、午前10時に五十嵐君がここに来る。そして、五十嵐君が君をIAP本部まで案内する。五十嵐君と一緒に本部まで来てくれ」と金田が言った
潤はまた聖司に会えるのだと、明日が楽しみになった
「そして、給料と言うより報酬だが、任務を成功させた時に支払われる。任務成功の翌日に銀行に振り込まれている。真中君達が政府から助成金を受けていた口座に振り込む事になっている。今日の報酬も明日振り込まれる。報酬額は任務により違う。今回は200万円だ!明日確認しておいてくれ。」と金田が説明した
「はい。確認致します」と潤は言った
たった一回の任務でそんなに貰えるなんてと潤は驚いていた
「そして、IAPに入隊すると本部の近くにマンションが借りられる事になっている。勿論家賃は政府が支払う。真中君はどうするかね?」と金田に問われた
潤は迷った
今の家からでも、東京タワーはそう遠くない
だが本部により近い方が便利ではある
「本部に近い方が便利ですので是非、用意して頂くマンションで生活させて頂きます」と答えた
「ならば、1週間以内にマンションを用意しておく。君は引っ越しの準備をしていておくれ」と金田は命じた
「はい」と潤は返事をした
「では、明日本部で会おう」と金田が言った
「今日はゆっくり休んでくれ。明日は五十嵐君に本部を案内させよう」と三神が言った
では、これで以上だと言って二人は部屋から出て行った
潤はまた深呼吸をひとつして、緊張を解いた
背筋を伸ばして立っていた身体を緩め部屋の椅子に座った
「報酬にマンションまで。IAPって凄いな…」と潤は呟いた
じわじわと喜びが全身に広がり、潤は叫び出したい気分だった
なにより、明日久々に聖司に会えるのだ
潤はどうせここで聖司と待ち合わせなので、仮眠室を利用する事にした




