闇の中から
2035年の日本
増え続ける人口に日本も一人っ子政策をとらなければならなくなっていた
増え続ける高齢者、減り続ける子供
社会には漠然とした不安感が広まっていた
そんな中で、年々増え続ける事があった
それは子供の中絶だ
一人っ子政策の成果なのか?
堕胎する女性が増えていた
命を殺す
それが当たり前に行われている日本
そんな闇を抱える2035年の日本…
しかし、政府は国民には極秘に
ある政策を行っていた
政策名はヒューマンリバース
このプロジェクトは最近、当初の目的よりずれつつあった
政府特別中絶省が管轄している中絶された子供たちを救うプロジェクトである
このプロジェクトにより、子供たちが救われたのか?
それは子供たちにしか分からない…
政府特別中絶省職員の中丸陽子はある少年と待ち合わせしていた
陽子が担当している3人の子供のうちの一人だ
彼の名前は真中潤
彼は今、介護の仕事をしている
中絶省が担当している子供は名前も政府から与えられ
自分の職業も自由に決める事ができない
政府に支配されているのだ
元々この世に産まれてこないはずだったのだ
生きている事が奇跡なのだ
ヒューマンリバースプロジェクトとは
おもに妊娠4-5か月位に中絶された子供たちを最新の医療を持って保育器の中で育て
成長させ、政府のために役立つ人間を作るプロジェクトである
勿論、中絶した母親には秘密だ
真中潤もそのひとりである
政府に育てられ、教育をうけ
人手の足りない介護職につかされた
陽子の役割はそんな彼らのお目付け役だ
「陽子さん!お待たせしました」
やっと彼がやってきた
「30分遅刻ね」陽子はそういいながら
彼に微笑んだ
「新しい介護施設はどう?」
「前の施設と比べたら、全然よいですよ」
真中潤はそういいながら微笑み返した
「そう。じゃあ、行きましょうか」
「はい!」
二人はならんで、待ち合わせ場所からそう遠くない駅まで歩き出した
今日は潤が以前から希望していたテストを受ける為に、政府特別中絶省に行くことになっている
政府特別中絶省は霞ヶ関にはない
では、一体何処に有るのか?
答えは全国の警察署の地下にある
陽子と潤が待ち合わせをした場所から
一番近い駅から地下鉄に乗る
地下鉄に乗っている間は二人は他人の振りをする
ある駅で二人共に降り、別々に改札をくぐる
そして別々に同じ出口を出た
出口を出てから約徒歩3分
目的の警察署にたどり着いた
今度は二人一緒に警察署の中に入っていく
入口の警察官に、陽子が政府特別中絶省の職員証を見せると、中年の警察官が
「ご苦労様です」と挨拶をした
陽子に着いて潤も警察署の中に入って行く
入口から入って真っ直ぐ進み右に曲がると、鍵の掛かったドアにたどり着く
陽子が鍵を鞄から取りだし、そのドアを開けた
潤が先に入り、次に陽子が中に入り、また陽子が鍵をかける
ドアの先には、地下に続く階段がある
地下に潜る為に階段がかなり続いている
政府特別中絶省の支部にたどり着く為には
約3㎞程地下に降りなければいけない
「本当に良いの?」階段を降りながら陽子が潤に聞いた
「ええ!良いんです」キッパリと潤は答えた
「介護の仕事貴方楽しそうだったのに…」
「楽しかったですよ。でも俺はIAPに入りたいんです」
IAP…invisible assasination professional
見えない暗殺のプロ集団
政府特別中絶省が密かに統括している
暗殺部隊である
この部隊は、ヒューマンリバースプロジェクトにより副産物的に出来た部隊である
政府により育てられ、教育を受けた中絶児達はIQが高く、身体能力も抜群に高かった
そこで、政府は考えた
彼らの能力を活かす最強の部隊を作ろうと
自衛隊にも警察にも出来ない仕事をさせようと
最初の中絶児達を救うプロジェクトから一変して、政府は最近IAPに力を入れている
潤はそんなIAPへ入隊したいのだ
陽子は何故潤がそんなにもIAPに入りたがるのか分からなかった
中絶児達は適職診断を受け仕事が決まる
IAPには診断を受け入隊する者がほとんどだ
希に自分から志願して入隊テストを受けて入隊する者もいる
潤は既に入隊テストのIQテストと身体能力テストをパスしている
「確かに今までのテストでは、素晴らしい結果を出してるわ。でも貴方は適職診断を受けて介護施設に入って、自分には祖父も祖母もいないから楽しいって言ってたじゃない」
「確かに楽しかったですよ!でも俺は決めたんです」
陽子を見つめる潤の瞳には揺るぎない物があった
話してるうちに政府特別中絶省の支部の入口にたどり着いた
入口にはまた鍵が掛かっている
陽子はさっきとは違うカードタイプの職員証をだして、入口の読み取り機にカードをスライドさせた
3秒後扉が開いた
ここは政府特別中絶省の支部の中でもIAP専門の支部だ
潤がここを訪ねるのは今日が3度目になる
今日行われるのは、より実戦的な射撃と狙撃のテストだ
二人はIAP専門支部の射撃場へ向かった
射撃場の扉を2回ノックすると、なかから
「入りたまへ」と中年の男の声がした
「失礼します」と言って二人共射撃場に入った
中には二人の男が待っていた
IQテストと身体能力テストの審査員とは
別の人間だった
「IAP入隊希望の真中潤、18歳だね」
中年と言うよりは、初老の眼鏡を掛けた男が問いかけた
「はい!私が担当しております、真中潤18歳に間違いありません」と陽子は答えた
「真中潤。18歳、現在介護職をしております。本日は宜しくお願い致します」と潤は深々と頭を下げた
「私はIAP作戦総合本部隊隊長の金田健三だ。隣は、射撃と狙撃部隊隊長の三神竜也隊長だ」
「三神竜也だ。君の今までのテストの結果は聞いているよ!素晴らしい結果だった。何故君がIAPに来なかったのか、不思議なくらいさ。今日は君の腕前を楽しみにしているよ」
そう言って、少し小太りでひげを生やした中年の男、三神竜也はニコリと笑った
「ありがとうございます!宜しくお願い致します」
潤はまた深々とお辞儀をした
「では、早速テストさせて貰おう」
そう言って、二人の審査員はキリッとした
表情になった
潤は心のなかで今までの事を考えていた
高鳴る心臓の音
家から一番近い警察署で仕事帰りに射撃の練習に励んだ日々
全てはこの日の為に!
射撃場には日本の警察が良く使っているニューナンブ式リボルバーの22口径が置かれていた
的は人間の形をした人形だ
「我々が指示を出す箇所に、正確に弾を撃ち込みたまへ」
「分かりました」
潤は拳銃を構えた
「先ずは右腕」
拳銃を構え右腕に狙いを定める潤
一発目
パン!と音がして、拳銃から放たれた弾は見事に右腕に当たった
「次!頭」
またもや拳銃から放たれた弾は見事に頭に当たった
潤は心の中でいけるぞと確信した
その後、どんな箇所を指定されても潤は見事に撃ち抜いた
「パーフェクト!」そう言って三神竜也が拍手をした
潤は「ありがとうございます」と首をぺこりとした
「本当に君の様な人材が何故介護職だったのか不思議だ!」
金田健三は真底驚いた顔をしていた
そこに陽子が口を挟む
「彼は優しくて、大人しい性格なので人殺しには向いていないと判断されたのではないでしょうか」
潤はこの時、陽子さんはやっぱり俺がIAPに入るのは反対なのだと思った
「ふむ…」そう呟いて金田健三は何か思案している様だ
「君は人が殺せるかね!」
金田がストレートに質問した
「殺せます!!」潤は即答した
「人殺しの子供は人殺しに向いています」
潤のその言葉を聞き金田と三神はなるほどという顔をした
陽子は少し悲しくなった
潤がそんな風に思っていたなんて…
陽子は中学生の頃から知っている潤とは違う人間の様に思えた
誰にでも優しかった潤
介護施設で優しい笑顔で利用者に接していた潤
心の中では苦しんでいたかも知れない潤
陽子は泣きそうになるのを必死で抑えた
「じゃあ、射撃はもう良いから、狙撃訓練場に移動しましょう」と金田が言った
狙撃とは対物狙撃ライフルを使用して遠くの相手を狙うのである
射程距離は1500mから2000mぐらいだ
潤はそんな遠くから撃つのは、初めてだった
少し不安になりながら、しかし何だか自分なら出来るだろうと漠然とした自信もあった
皆で狙撃訓練場へと向かった
狙撃訓練場は物凄く大きかった
東京ドーム程の広さがあり、再現したビルの屋上があった
またもうひとつのビルの窓から人影が見えた
人影はさっきも登場した人形だった
「さぁ、この屋上からあそこのビルの人形の頭を狙え!」
三神がそう言った
しかし、潤は初めて持ったライフルに手間取っていた
三神からライフルの扱い方をレクチャーされた
「さぁ!良く狙って撃つんだよ!」
そう言って三神は潤の動作を見守った
潤が狙いを定める
バーンと音が響いたのは潤が狙いを定めはじめてから2分後だった
人形の頭を少しかすめて、弾丸は壁に刺さっていた
「いやー良いよ!真中君」
今度は金田が拍手をした
「初心者にしては上出来だ!」
三神が潤を誉めた
「審査結果は今聞きたいかね?後日にするかね?」
金田の言葉に潤は「今聞かせて下さい」と答えた
「おめでとう!君は今日からIAPの隊員だ
しかし、お試し入隊だがね」
「お試し入隊?」
潤が疑問に思うと金田が
「良くあるでしょ。違う仕事でも。試用期間3か月とか!それだよ」
金田に続いて三神が話す
「とりあえず入隊して貰って、試用期間中に訓練して、君が使えるなら本入隊となる」
「では、明日からの訓練を頑張ってくれたまへ」
「君のここへのIDカードは今日中に作らせるから、帰りに出口で受け取りたまへ」
そう言って金田健三と三神竜也は狙撃訓練場を後にした
残った陽子と潤は対象的な顔をしていた
IAPに仮入隊が決まって清々しい顔の潤と
入隊をかなり複雑な心境で聞いていた陽子の顔
階段をのぼりながら潤は言った
「おめでとうと言ってくれないんですね!陽子さん」
「だって…貴女があんなこと言ったから…」
「人殺しの子供は人殺しに向いているですか?」
陽子は黙ってしまった
「優しい俺も俺自身だけど、確かな闇が俺にはあるんです。だから、政府特別中絶省の闇の中の闇…IAPに入ってその闇を突き止めたいんですよ。俺は!」
「闇の中の闇?」
陽子は聞き返した
「ええ、表の世界じゃ味わえない特別な闇の中の闇です」
「どうして、そんなにこだわるの?」
陽子は潤が分からなくなってしまった
「陽子さんには分からないでしょうね」
潤が少し拗ねた様に呟く
「俺は俺以外の中絶児達に会ってみたいんですよ。」
実は中絶児同士は子供のころは良いのだが
12歳になると中絶児同士で逢うことは禁止されている
IQが高い上に身体能力も抜群の彼らが集団になってしまったら
テロでも起こしかねない
あくまでも政府のプロジェクトなのだ
中絶児は政府に管理されている
「会ってどうするの?」
陽子が疑問をぶつける
「さあね!それは入隊してみないと分かんないかな…」
テストから次の日、潤は介護の仕事を終えてから、昨日訪れた警察署の前にいた
昨日渡されたばかりのIDカードがコートのポケットに有ることを確認した
今日からは陽子抜きで、政府特別中絶省のIAP支部に行く事が出来る
警察署に入り入口の警察官にIDカードを見せる
すると、入口の警察官が、手で持てる位の金庫を持って来て、中から同じ鍵が3つ付いている束を取り出した
その束から1つの鍵が潤に渡された
地下に降りる階段へ行くためのドアの鍵だ
「絶対に無くさない様に」と警官から注意を受けて
「分かりました」と潤は返答した
そして、1人で廊下を歩き、右に曲がると
あのドアにたどり着いた
潤は回りをキョロキョロ見渡した
先程受け取ったばかりの鍵を鍵穴に差す
がチャリと音がして鍵が開いた
潤はドアを素早く開けて中に入り素早くドアを閉めた
そして、ドアの鍵を閉める
「誰にも見られなかった」と呟きホッとした
陽子が一緒の時は、誰かに見られても刑事と犯罪を犯した少年だと思われるだろうと
あまり警戒していなかったが
初めて自分1人なので、妙に緊張していた
潤達の事は、ヒューマンリバースプロジェクトは極秘なのだ
あの長い階段を下に降りていく
潤の心臓は何時もより速い速度でドクドクとなった
今日の仕事の昼休憩中に携帯に電話があり
相手は三神竜也だった
今日から1ヶ月間は此処で、狙撃の訓練を受けて貰う、との事だった
三神は狙撃訓練場で潤が来るのを待っている
階段を降りきり、政府特別中絶省IAP支部の入口に着いた
潤は先程のIDカードを入口の機械にスライドさせた
3秒後扉は開いた
開いた扉を素早く通り抜け、扉が閉まるのを確認した後、潤は少しはや歩きで狙撃訓練場に向かった
まだ心臓の音がうるさい
狙撃の訓練…
潤は昨日三神に教わった事を頭の中で復習していた
ライフルの扱い方、ライフルの構造
弾の込めかた、狙いの付け方、
IQの高い潤でもさすがに昨日の説明だけでは覚え切れなかった
狙撃は暗殺には欠かせないスキルだ
復習をしている間に、潤の心臓は落ち着いてきた様だ
「大丈夫…俺なら出来る!」潤は独り言を呟いた
とうとう潤は狙撃訓練場の入口にたどり着いた
ノックしようか迷ったが、結局何もせず
扉をいきなり開いた
すると、すぐに三神竜也の姿を見つけた
三神の側には若い男が1人立っていた
誰だろうか?一緒に訓練を受ける仲間だろうか?と潤は色々考えた
「やぁ、来たかね真中君」三神が潤に声を掛けた
潤は「お待たせして申し訳ありません」と頭を下げた
「構わんよ!それより、彼を紹介しよう。
彼は私の部隊、射撃・狙撃部隊のエース
五十嵐聖司君だ!」
身長175cmの潤よりも頭1つぶん身長が高くて、髪の毛が長く、それを後ろで結んでいる。細身だが、それは無駄な贅肉のついていない、鍛え抜かれた体だとわかる
紹介された男は
「五十嵐聖司だ。君より3歳年上だ。俺も君の歳にIAPに入隊した。宜しく」
そう言って五十嵐聖司は潤に握手を求めてきた
潤は戸惑いながら、五十嵐の手を握った
「真中潤です。宜しくお願い致します」
挨拶がすんだ所で、三神が説明を始めた
「彼は我が部隊の狙撃の名手だ!私は最近デスクワークが多くてね。五十嵐君に君の狙撃の訓練をして貰う事にした。彼は実戦経験も豊富だ。生の現場の指導が受けられる。真中君には狙撃の才能があると見込んでの事だ!」
三神は少し誇らしげに話した
「そうですか、俺の為にわざわざありがとうございます」
潤はまた頭を下げた
「では、早速訓練を始めよう!五十嵐君宜しく頼むよ」
そう言って三神竜也は訓練場内にある階段をのぼり、全体が見渡せる、ベンチに座った
昨日は金田健三が座って見ていた場所だ
潤と五十嵐は訓練場にある1つのビルに向かった
二人がビルの屋上に登ると
昨日とは違う位置に人間形の人形が置いてあった
そして、狙撃用のライフルは昨日と同じ銃で、昨日と同じ位置にセッティングしてあった
五十嵐が説明を始める
「昨日君が使った対物狙撃ライフルは、バレットM82と言うもので、アメリカ製のセミオート式狙撃銃だ。アメリカの軍隊等で使用されている。射程距離は2000m!弾丸が11個装弾出来る。弾丸が自動でそうちんされ、連射する速度が速い。目標が沢山いる場合や一発目を外した際に、すぐに第2弾目が撃てるのが特徴だ」
潤は説明を頭に叩き込んでいく
五十嵐がまた説明を続ける
「このライフルは、長距離射撃の際に空気抵抗や、横風などの影響を受けにくく、撃った際に速度低下が少ない」
「そうなんですか。だから昨日は初心者なのに、頭をかすめる事が出来たんですね。」
実はこの狙撃訓練場には、自然に模した風を起こす装置があり、5分毎に風向きが変わ
る
同じ様に湿度も調整する事ができる
「いや、確かに対物ライフルは外部かんしょうに、左右されにくいが、絶対的な射撃精度では、ボトルアクション方式より劣る。昨日人形の頭をかすめることが出来たのは、君の才能だとも言える!」
そう言って五十嵐は潤に微笑んだ
才能だと言われると、潤は何だか複雑な心境だった
しかし、銃撃・狙撃部隊のエースが言うのだから、そうなのだろう
潤は説明の中で聞き慣れない言葉があった
「あのう…ボトルアクション方式って何ですか?」
「あぁ!それの説明も必要だね。ボトルアクション方式とは、薬室への、実包装填・閉鎖・発射済み薬莢の排出を一発ずつ手動で行う狙撃銃の事さ」
「成る程」
潤はだんだん狙撃銃の事を学ぶのが楽しくなってきた
五十嵐はまた説明を続けた
「ボトルアクション方式の狙撃銃の中で日本に配備されている物は色々あるが、豊和M1500、この狙撃銃はsATで使用されている。そして、米国レミントン社製のM24、こちらは自衛隊の陸上自衛隊で使われている」
「沢山有るんですね!」潤はまた成る程と呟いた
「しかし、ボトルアクション方式の狙撃精度は高いんだが、問題点もある。ボルトを操作するために、引き金から手を離さないといけないので、目標と照準がズレてしまうんだ。
目標が複数の場合や一発目を外した際には致命的だ!スナイパーは一撃で仕留めないといけない。」
「だから、ここで訓練を受けるんですね」
「そう言う事さ。説明はこれくらいにして、
訓練に入ろう!じゃあ、あの目標に対して確実に目標を仕留められる位置にライフルをセッティングしてくれ」
五十嵐に言われて、潤はライフルを何処に移動させれば良いか考えた
うつ伏せの体制になり、スコープを覗き単眼鏡の中に現れる照準が目標に照らし合う様にライフルを移動させる
照準を垂直・水平微調整をして目標を狙う必要がある
スコープを覗きながら、潤は此処だと思う位置にライフルを置いた
「此処です」と五十嵐に報告する
「まぁ、いい線いってるかな。でも俺ならここに置く」そう言って、五十嵐は潤が置いた位置から少し左にずらした
五十嵐は何やらタブレット端末を手に持っていた
「このタブレットの中には、距離や風、目標物との角度による弾道を計算するソフトウェアが入ってるんだ。何時もはスポッターがしてくれる仕事だけど、俺がしてみた」
また分からない用語だ
「あのう…たびたびスイマセンが、スポッターとは?」
五十嵐は、あぁ、そうだったと言う表情をした
「ごめん、ごめん。スポッターは観測手の事さ。狙撃は二人一組で実行する事が多いんだ。スナイパーに必要な風や目標、着弾点の情報を報告して、狙撃を補助してくれるんだ!」
「へぇーそうなんですか」
潤はスポッターと言う存在がいるなんて
意外だった
暗殺の狙撃は単独で動くと思っていたからだ
「じゃあ、俺の置いた位置からあの人形を狙撃してみて」
「はい!」
五十嵐に言われて潤はうつ伏せになり、またスコープを覗いた
成る程。俺の置いた位置よりも目標が見えやすいと潤は思った
「射撃時の反動を殺す為に、もっと身体を銃に可能な限り密着させて」
五十嵐から指導が入る
潤は銃にぴったりと密着した
「撃つときは、出来るだけ息を吸い終わった時に撃った方が、ブレが少なくて、狙撃しやすいよ」
潤は照準を目標に照らし合わせる事に集中した
此処だと思った時に、五十嵐のアドバイス通りに大きく息を吸い終わった時に、引き金を引いた
バーンと音がして、弾丸は放たれた
そして、昨日よりも頭寄りのコースで撃ち抜く事が出来た
出来れば頭の中心部にヒットさせたかった
「最初はこんなものさ。君は訓練すれば必ず成長する」
五十嵐は嬉しそうな顔でそう言った
傍観していた三神も拍手をした
「訓練して君にあった狙撃銃を探して、射撃精度を上げていこう」
五十嵐はニッコリと笑った
訓練は深夜まで続いた
「よし。今日はこの辺で訓練は終わりにしよう」
五十嵐の言葉に、潤はスコープを覗いていた目を、五十嵐の方へ向けた
「明日も仕事なんだろ?」
潤は腕時計に視線を移した
時刻は深夜11時半
潤が仕事を終えて、此処に来た7時半から4時間も経っていた
「はい。明日も仕事です」
潤は立ち上がり、質問に答えた
「そうか。悪かったね!こんな遅くまで。いやぁ、君があまりにも教えがいが有るものだから、すっかり時間を忘れていたよ!」
五十嵐はそう言いながら、潤の肩を二回叩いた
「ご苦労さん」
「こちらこそ、ありがとうございます」
訓練を見守っていた、三神は途中で
五十嵐に
「じゃあ、私は帰るから。五十嵐君後は宜しく頼むよ」
と言って、帰宅した
なので、今は二人しか居ない
「明日の仕事は何時から?」と五十嵐が聞いた
「朝7時半からです」と潤は答えた
「真中君。このIAP支部に仮眠室が有るのを知っているかい?」
「いいえ」
仮眠室所か、このIAP支部に何があるのか潤は全く知らない
知っているのは、IQテストを受けた部屋と
身体能力のテストを受けた、屋内競技場と
射撃場と狙撃場だけだ
「じゃあ、この後俺が施設を案内するから、このまま此処の仮眠室に泊まっていかないかい?」
確かに、此処から潤の自宅までは遠い。しかし、仕事場までなら30分くらいの距離にある
「はい。泊まっていく事にします」
「決まりだね。じゃあ先ずはお風呂場から案内するよ」
「はい。宜しくお願いします」と潤は頭を下げた
「真中君は真面目だね。俺は隊長でもないし、硬くならず、もっと肩の力を抜いてくれて良いよ。」
「はぁ…」
そんな事を言われても、初対面で年上で指導者である五十嵐に肩の力を抜いた物言いなど、潤には出来ないのであった
五十嵐と一緒に狙撃銃をアタッシュケースに分解して、しまった
「片付けOK。んじゃあお風呂場へいこう」
「はい!」
二人は五十嵐を先頭にお風呂場へ向かった
お風呂場は狙撃場のすぐ隣にあった
シャワー室がある施設は沢山あるが、何故五十嵐がお風呂場と言ったのか、お風呂場に入ってから、潤は分かった
お風呂場にはいくつかの湯船があり、まるでスーパー銭湯の様だった
さらに、サウナまである
「どうだい?凄いだろう」
と五十嵐はびっくりしている潤の顔をみてチャカス様に言った
「はい。凄いです」
潤はそう言うしかなかった
「先ずは俺のオススメ!泡が身体をほぐしてくれる、あのジェットバスに入ろう」
どうやら五十嵐のお気に入りらしい風呂に入る事になった
湯船に入ると、二人は
「ブハァー」と同時に叫んだ
五十嵐は自分自身のリアクションと潤のリアクションが一緒だった事に、クスクスと笑った
潤は何だか照れくさかった
しばらく二人は無言で泡のマッサージに身を委ねた
5分くらいたった後、五十嵐が
「フゥー」と空気を吐き出して
「俺、サウナに入ってくるから、真中君は色々な湯船を堪能していて」と言って、泡の湯船を出て、サウナに向かった
潤はもうしばらく、泡の湯船に身を任せる事にした
湯船に浸かりながら潤は考えた
そう言えば、五十嵐さんは俺が久しぶりに会った中絶児だと
潤は会って見たかったのだ
自分以外の中絶児に…
中絶児は中学生になると、中絶児同士の接触を禁じられる
そして、中学生から政府特別中絶省の担当者がつく
中絶児たちがどうやって成長していくかと言うと
まず、保育器を出た後、中絶児しか居ない乳児院に行く
乳児院では一般の幼稚園にはいかず政府の特別幼児教育を受けスクスクと成長していく
そして、小学生になるとまた中絶児しか居ない、児童養護施設に行く
ここでも、一般の小学校へは行かず政府の特別教育を受ける
6年間を児童養護施設で過ごし
中学生になると、今まで仲の良かった友達とも別れ、政府の担当者が付き1人暮らしが始まり、一般の中学校へ進学する
一般社会に馴染む訓練だ
クラスメイトに中絶児が居ても絶対に接触してはいけない
潤のクラスにも潤以外に中絶児が二人いた
中絶児達は、一般社会では孤児として扱われている
中学生で1人暮らしをしていても何ら不思議には思われない
何故ならば、一人っ子政策で増えたのは中絶だけではない
産んでから捨てる親も増えたからだ
町にはいくつもの乳児院や児童養護施設が新たに作られ、クラスの4分の1が孤児だからだ
中学生で一般社会を学んだ後、高校は一般人と同じ様に、好きな学校を選んで受験する事ができる
好きな学校へ進学し、高校3年生になると大学に行くか、適職診断を受けて職に就くか自分で選ばせられる
潤は大学には行かなかった
大学に進学した中絶児達は、政府の教育のお陰か、優秀な研究者となる者が多い
3年前に癌の特効薬を作ったのも、中絶児だった
中絶児達は18歳までは金銭面で政府の援助を受けれるが
職に就くと、自分の稼ぎで生活しなければならない
大学に進学した場合は、学費免除となるが
生活費は自分で稼がねばならない
だから、大学に進学する者は少ない
一般社会と中絶児のバランスを考えた政府の政策だろう
潤は子供の頃の様に、同じ仲間と一緒に過ごしたいから、IAPに志願したのだろう
泡の湯船から出た潤は、もっと五十嵐さんと話がしたいと思っていた
潤が次の湯船に向かうと、五十嵐がサウナから出てきた
アチィーと言いながら水風呂に浸かった
潤は水風呂の隣の普通の風呂に浸かった
「五十嵐さんは適職でIAPに入隊したんですか?」と潤は質問した
水風呂に浸かりながら、「そうだよ」と五十嵐が答えた
「やっぱり気になるんだ?」と五十嵐が潤に視線を向けた
「いや…そう言う訳ではないんですが」
と潤はなんでこんな質問してしまったのだろうと思った
身体が冷えたのか五十嵐は水風呂からあがった
「身体洗おうぜ!恥ずかしがるな。男同士裸の付き合いだ。俺に興味持ってくれて嬉しいよ」と五十嵐は潤にウィンクした
潤も身体を洗う事にした
五十嵐から少し離れた洗い場に座り、頭から洗い始めた
その間二人は無言だった
二人とも洗い終わると、また一緒に水風呂の隣の湯船に浸かった
「どう?肩の力抜けてきた?」
五十嵐がニヤニヤしながら聞いてきた
潤は「抜けたかわかりませんが、もっと五十嵐さんと話がしてみたいと思いました」と答えた
「あぁ、そう。じゃあ今日はお互い語ろうか」
と五十嵐が真面目に言った
「施設案内終わったらね」と五十嵐が付け加えた
「はい!宜しくお願いします」潤も真面目に言った
「やっぱり肩の力抜けてないね」と五十嵐は苦笑いした
10分程湯船に浸かった後、二人はお風呂場を一緒にでた
脱衣場で、置いてあったバスタオルで身体を拭き、急いで置いてあった浴衣に着替えた
脱衣場を出てから五十嵐の施設案内が始まった
まず、食堂へ案内された
食堂と言うよりは、コンビニに近かった
パンに飲み物、お弁当やら日用品やら
何故食堂と言うのか謎だった
「今不思議に思っているだろう。ここは昔は本当に食堂だったんだ。でも利用者が少なすぎて、食堂をやめたんだ。売店にしたら利用者が増えたんだ。だけど、皆昔の名残で食堂と呼ぶんだ」
と五十嵐が説明してくれた
「腹減ったろう?夕飯抜きの訓練だったからな。食堂の物は全部タダだから。好きなもの持って行っていいよ」
五十嵐の手には焼きそばとおにぎりとお茶のペットボトルがあった
潤は急に空腹を感じた
潤はスパゲッティとサンドイッチとコーラを手に取った
食堂に置いてあった袋にそれらを入れて食堂を後にした
次は会議室だ
五十嵐の説明によると会議はほとんどIAP本部でおこなうが、念のため支部にも会議室があるとの事だった
そして娯楽室
これで施設案内は終わりだと、五十嵐が言った
娯楽室には、卓球台や、ゲーム機や、テレビ、漫画、本、カラオケなど、沢山置いてあった
娯楽室を出ると
「やっと仮眠室だね」と五十嵐はニッコリ笑った
仮眠室に着いた
仮眠室はまん中にテーブルがあり、壁ぎわに二段ベッドが6つあった
先ず二人はテーブルに食事を広げた
よっぽど腹が減っていたのか
二人は夢中で食べた
潤は何だかいつもより美味しい食事だと感じていた
焼きそばを食べている五十嵐は「美味い」と舌鼓をうった
二人が食べ終わったのは午前1時だった
「煙草いいかい?」
と五十嵐が聞いてきた
「あっ!どうぞ」
と潤は言った
五十嵐が煙草をくわえ、ジッポで火をつけた
「結婚するんだ」と五十嵐が煙草の煙りを吐きながら、ボソッと呟いた
「えええぇー!!」と潤はすっとんきょうな声をあげた
潤は驚愕した
中絶児は結婚なんて出来るのかと
「びっくりだろう。でも冗談じゃあないぜ!ま、俺じゃなくて、仲間の隊員だがな」
「五十嵐さんじゃないんですか!?」
潤は何だか肩透かしを喰らった様な間抜けな顔をした
「俺の次に腕の良い、スナイパーだよ。隊員には女性もいる。恋が芽生えてもおかしくない。ヤツと彼女はスナイパーとスポッターだった。彼女は現在、妊娠3カ月。すでに除隊している」
潤には信じられない話しだった
政府は中絶児同士の接触を禁じてきたのにあり得ないと思った
「政府は結婚を認めたんですか?」
「それが、認めたんだ!俺も予想外だった」
本当に政府が?潤は混乱した
「それで、俺の次に腕の良いヤツが、父親になるからと、除隊を申し込み、普通職に戻るんだとさ!たから、今三神隊長は真中君に物凄く期待しているんだ。俺の次に腕の良いスナイパーとしてね」
潤は頭の中がまとまらなかった
結婚する…スナイパーとして期待されている…
潤は女性と付き合うどころか、恋をした事もなかった
闇に生きる俺達が結婚して子供まで…
潤はずっと頭の中で、結婚と言う言葉がグルグルとループした
「俺はさ…その話を聞いて、何だか目の前に光が差した気がしたんだ!真中君はどうだい?」
潤は答えれなかった
「今は驚いていて、良く分かりません…」
「そうかい」と言って、五十嵐は煙草を灰皿に押し付けて火を消した
「こんな話ししてしまって悪かったなぁ。そろそろ寝るか!」と五十嵐は言った
潤はうなずき、電気を消してベッドに入った
興奮でしばらくは眠れそうになかった
翌日、朝6時
腕時計のアラームで潤は目を覚ました
潤の身体に昨日の疲れは残っていない
「おはよう」潤が目覚めた事に気付き五十嵐が挨拶をした
「おはようございます。スイマセン。アラームで起こして仕舞いましたか?」
潤は申し訳なさそうに尋ねた
「いやいや、大丈夫!先に起きていたから。
君が寝坊しない様に、起こしてあげようと思って。」
そう言って、また五十嵐はウィンクをした
「もしかして、寝てないのですか?」
「ちゃんと寝たよ!俺は1日4時間睡眠で大丈夫な男なんだ」
「そうなんですか!4時間って凄いですね。わざわざありがとうございます」
潤はまた頭を深く下げた
「凄くないよ。任務に着くと自然に身に付くのさ。しかし、まだ真中君はかたいなぁ。一緒にお風呂に入った仲じゃないか!下の名前で呼んでくれてもいいんだよ。」
五十嵐にそう言われ、潤は困ってしまった
「そんな!名前で呼ぶなんて無理です」
「かたいこと言わずにさぁー。ほらほら」
そう言って五十嵐は潤の方に耳をむけた
「…聖司さん」勇気を振り絞って名前で呼んだ
「よし!訓練中もそれで良いから。でも三神隊長には、内緒だよ!」
「分かりました」潤は恥ずかしがりながら答えた
なんだか友達みたいだと潤は思った
自分の訓練を担当する上官なのに五十嵐に妙な親近感がわいてくる
それは、五十嵐の明るい性格のおかげだろう
中学以来、中絶児の友達は作れなかった
IAPに正式入隊すれば、また友達が出来るのだろうか?
潤はそんな物思いにふけっていた
「じゃあ、俺も潤って呼ぶな!ところで潤。時間大丈夫か?」
そう言われて潤はハッとした
時間を確認する
6時17分
仕事が7時半からで、ここから仕事場まで30分
のんびり用意しても大丈夫だ
「大丈夫です」
「そうか。んじゃ、着替えて、食堂に朝ごはん取りに行くか」
「そうですね」
二人は着替えて食堂に行き、朝ごはんにパンと缶コーヒーをゲットし、仮眠室に戻った
潤はさっさっと食事を済まし、仮眠室にあるテレビで、今日の天気予報を観ていた
「気象予報士でも目指してるのかい?」
と聖司が冗談を言った
「施設の利用者を送迎するときに天気悪いと大変なんです」と真面目に潤は返答した
「へぇー。潤は大変だね。訓練も仕事もあって」と聖司は感心しながら言った
「まだ仮入隊の身ですからね。給料出ないので、働かないと!」と潤は聖司の方を見て言った
「イヤー俺なんか、今は任務に着かず、潤の訓練だけなのに、給料貰っちゃって」とすまなそうに言った
「俺の訓練も立派な仕事ですよ!じゃあ俺そろそろ行きます」
ベッドの縁に座っていた潤はテレビを消して立ち上がった
「ほーい!行ってらっしゃい。今日も訓練待っているよ」と聖司が手を振った
潤は少し戸惑いながら「行ってきます」と言った
潤は仮眠室を出て、またあの長い階段を上った
行ってきますとゆう言葉が潤の頭の中でループしていた
何年ぶりだろうか?誰かに見送られるのは…
潤はなんだか嬉しかった
仮入隊して2週間がたった
潤はスコープを覗いている
傍らにはタブレット端末を持ちながら伏せた体勢の聖司がいる
「よし!風向、距離、角度よし!撃つなら今だ」
聖司が潤に伝えた
潤はスコープの照準を目標に合わせる
照準の真ん中に目標が入った時、潤は引き金を引いた
バーンと音がした後、目標の人形の頭を撃ち抜き人形は崩れ落ちた
聖司が拍手をした
「おめでとう!真中君。今日の訓練はパーフェクトだ!」
潤は今日の狙撃訓練で一発も外していなかった
傍観していた三神も拍手を送った
「真中君!君は素晴らしいよ。たった2週間でパーフェクトとは、五十嵐君以来だよ」
と三神は褒め称えた
「こりゃ、エースの座は危ないなぁ」と聖司が呟いた
「せ…五十嵐さんのスポッターのおかげです」と潤は謙遜した
「動かない目標の狙撃はパーフェクト。三神隊長!そろそろ次の訓練にいきますか?」
と聖司は三神に伝えた
「あぁ。次の訓練にうつりたまへ」
「分かりました」
二人のやり取りに潤はドキドキしていた
果たしてどんな訓練なのか?
「じゃあ、真中君!明日の訓練は新しい事をするよ」
「どんな訓練ですか?」
「明日の訓練のお楽しみ」と言って聖司がウィンクした
「では、訓練終了!五十嵐君、真中君御苦労だった」そう言って三神は狙撃場を後にした
二人は、「お疲れ様でした」と言いながら敬礼した
「潤、君はやはり天才だ!こんなに早く狙撃をマスターするなんて。」
と聖司が誉めた
「聖司さんには敵いませんよ!」
「またまた謙遜しちゃって!自分の才能を認める事は自信に繋がる。自信は成功を導く!才能を認めてあげよう!」
なんの標語なのか、聖司は自分の言葉にうっとりしている
「じゃあ、聖司さんも自信たっぷりなんですか?」
と、潤は茶化して聞いた
「勿論さ!俺は任務に当たるとき、自信たっぷりさ。俺には才能がある。失敗なんかしないってね」
聖司は勇ましい表情を浮かべた
「ナルシスト」と潤が呟いた
「なんだと、今ナルシストと言ったな!?俺のどこかナルシストなんだ!」
聖司は顔を赤らめて興奮していた
「はいはい!じゃあ聖司さん。銃片付けてお風呂行きますよ」
潤と聖司はこの2週間で兄弟の様に仲良くなっていた
潤は最近、着替えを取りに行く意外家に帰っていなかった
仕事後、訓練をしてIAP支部の仮眠室で睡眠を取り、また仕事へ行く生活をしていた
何より聖司と話すのは楽しかった
一歩IAP支部から出たら、潤は聖司と接触する事が出来なくなる
聖司の武勇伝を聞いたり、談笑する事など出来なくなるのだ
二人はお風呂に入り、食堂からデザートを持ってきた
そして娯楽室へ行った
卓球をするためだ
「これまでの成績だが俺の勝ちが9、潤の勝ちが4!それでも勝負をするのかい?潤」
「当たり前です!そのうち俺が上達して必ず聖司さんを王座から引きずり落とします!」
「生意気な!いくぞ、潤!」
そう言って聖司さんがボールをラケットで打った
今日の結果は潤の勝ちだった
聖司が悔しそうな顔をしている
「自信を持てって、アドバイスのおかげですよ」と潤は笑った
「チッ!くそっ」と聖司は舌打ちをした
「今日はもうやめだ!仮眠室へ行こう」
聖司がそう言ったのは午前0時を過ぎていた
「はい。」と潤は返事をした
仮眠室へ行ってから、潤は気になっていた事を聖司に聞いた
「聖司さん。ひとつ聞いても良いですか?」
「なんだい?」と聖司が答えた
「結婚した二人は今どうしていますか?」
「あぁ、その事か。明日の訓練かと思ったよ」
聖司が二人について話してくれた
どうやら男性も除隊して、今はゴミ収集車の仕事をしているらしかった
「最後の任務の日、彼はとても嬉しそうだったよ」と聖司は語った
「良かった。二人が幸せそうで…」
潤は心底そう思った
「俺もなんだか清々しい気分だったよ」
と聖司も言った
「この間、聖司さん光が見えたって言ったじゃないですか?」
「あぁ。」
「俺も感じるんです。人生の光みたいなものが」
「そうか。良かったな!潤。」
「はい」そう言う潤の表情は穏やかだった
「明日の訓練は新しい事をする。そろそろ寝よう」
「そうですね」
二人は眠りに落ちていった
翌日、潤は新しい訓練に緊張しながら廊下を歩いていた
狙撃場に着き扉を開けると、中は真っ暗だった
「こんばんは」後ろから声をかけられ潤は急いで後ろを振り向いた
ライトで照らされた、人の顔が蒼白く光っていた
「ヒッ!」と潤は驚き、後ずさりした
蒼白く光っている人の顔が、ゲラゲラ笑いはじめた
「五十嵐さん…なにしてるんですか?」
潤はよく知った顔だと気付き、呆れた口調で言った
「今日は三神隊長いないよー」と聖司がまだ笑いながら答えた
「なんで真っ暗なんですか?」と潤が聞くと
聖司は顔を照らしていた懐中電灯を狙撃場に向けた
「今日からは夜の狙撃任務の訓練するから」
と行って、いつもとは違うビルの階段を照らした
聖司は「潤、着いてきて」と言って階段を上りはじめた
潤は聖司の後を着いて階段を上った
「今日はこのビルの一部屋の窓から、下を歩いている人間を狙撃する訓練」
「しかも夜って事ですね」と潤が付け加えた
「そう言う事。かなり難易度高いと思うけど、潤なら大丈夫さ。」と聖司は軽く言った
「潤、窓から下を覗いてみて」
聖司の言葉に素直に従い、潤は窓の下を見た
下にはいつもの人形が右へ行ったり、左へ行ったりと、スピードは遅いが動いていた
「下の人形は人間の歩くスピードの、平均速度で、動いている。そう言うシチュエーションで、狙撃しなければならない時も有るからね」と聖司は今日の訓練内容を説明した
「いきなり下の人形は難しいだろうから、まず今日は、夜間用の暗視スコープに慣れて貰うよ。後、部屋の窓からの狙撃ね」
「分かりました」と潤は返事をした
「じゃあ、あそこのビルとビルの間に、動かない目標が有るから、まずそれを狙って」と聖司が指示をした
潤はいつものように、初めての暗視スコープを覗いた
明るい時はハッキリ見えた目標が、暗視スコープを通して覗くと、白黒の世界で、目標を判別しにくい
おまけに、窓からの狙撃なので、手振れが邪魔をした
「狙いが定まったら、狙撃してみて」と聖司が簡単に言う
「聖司さん…お手本見せて?」と潤はおねだりしてみた
「いいよ!」と聖司が軽く返事をした
聖司がスコープを覗く
すると、すぐに引き金を引いた
バーンと音がなり、弾は人形の左胸を貫通していた
「聖司さん…ごめんなさい。俺最近聖司さんの事、ただの面白いお兄さんだと思ってました。でも今、尊敬の気持ちを取り戻しました」と潤は言った
「尊敬なんていらないさ!俺は潤の中でただの面白いお兄さんでいたいのさ」と聖司が潤の頭をくしゃくしゃ撫でながら言った
「そんな事言って良いんですか?聖司さん。三神隊長が泣きますよ。今の言動」
「三神隊長は俺の狙撃の腕がいるんだ。俺の性格なんて関係ないのさ…」と聖司さんは少し寂しげに言った
「聖司さん…俺は聖司さんの性格好きですよ」と潤は伝えた
「潤、愛の告白?」とさっきの寂しげな顔つきはどこえやら、もういたずらっ子の顔に戻っていた
「前言撤回!」と潤は叫んだ
訓練を始めてから2時間
午後9時半
潤は暗視スコープを使っての狙撃に少し慣れてきた
弾は人形をかすめる様になっていた
「聖司さん。そろそろ訓練を終了しても良いですか?今日は自宅に帰って荷物を取りに行きたいので」と潤が言うと
「三神隊長も居ないし、暗視スコープ慣れてきたみたいだから、今日はもう良いよ」
と聖司は答えた
「俺も今日は、自宅に帰るよ」と聖司も言った
二人で銃を片付けて、一緒に狙撃場を出た
あの長い階段を二人で上る
突然、聖司が静止した
潤にも手振りて動くなと指示を出す
聖司がコートで隠れていた拳銃ホルダーから
拳銃を取り出した
緊張しながら階段を上って行く
潤はその様子を静かに見守った
「誰だ!!」と聖司が叫んだ
すると、階段を下りてきた人物は「キャア」と悲鳴をあげた
潤が上の様子を伺うと、その人物は陽子さんだった
「陽子さん!」と潤が声をかけた
「なんだ?潤の知り合いか?」と聖司が銃をおろした
緊張していた潤はホッと息をついた
「聖司さん。この人は中丸陽子さん。俺の担当者です」と言うと
「なんだ担当者か。上と下の連絡の行き違いだな。中丸さん。脅かして申し訳ありませんでした。俺は真中君の狙撃訓練を担当している、五十嵐聖司です」と自己紹介した
「五十嵐さん。初めまして。真中潤君の担当者の中丸陽子です」
と言って、二人は握手をした
二人の挨拶が終わったところで、潤は
「陽子さん。なんで此処へ?」と聞いた
すると、陽子は凄い剣幕で
「あなたが全然家にも帰って来ずに、連絡も出来ないから、此処へ様子を見にきたのよ!」と答えた
「潤、女性に心配させたらいけないよ。積もる話も有るだろうし、俺は先に帰るよ」と聖司がウィンクした
「明日の訓練も楽しみにしているよ」と言いながら聖司は階段を上って行った
「陽子さんに心配かけてしまってスイマセン」と潤は陽子に詫びた
「元気で生きてるなら良いのよ」と陽子は言った
「で、訓練はどうなの?」と陽子は心配そうに言った
「順調ですよ。今日から新しい訓練に入りました」と潤は答えた
「随分若い人があなたの訓練を担当しているのね」と陽子は聖司について聞いた
「銃撃・狙撃部隊のエースだそうです。実際凄いんですよ。せ…五十嵐さんの腕前は!」
「中絶児同士、あまり深入りするのは良くないわ」と陽子が潤を睨み付けた
潤は聖司の事を悪く言われた気がして少しイライラしなから
「聖司さんはとても良い人です!陽子さんには分からないだろうけど、俺はあの人と出会って、救われているんだ。面白いし、上官なのに、俺を友達の様に接してくれる!」
「そう言う傾向が危ないって事!あなた他の中絶児と、会ってみたいって言ってたわよね。五十嵐さんみたいな人ばかりでわ無いのよ。よく覚えていなさい!」と陽子は潤に釘をさして、階段を上って行った
その後ろ姿には怒気を纏っていた
「何なんだよ…ちくしょう…」と潤は呟いた
気分は最低だった
中丸陽子は自宅にて、迷っていた
自分の担当している少年が、いくらIAPとはいえ中絶児同士友情を深めている事を
政府特別中絶省の上層部に報告するか否か
「五十嵐聖司…潤に悪影響を与えるとは思えなかったけど…」そう呟きグラスにビールを注いだ
酒の力に頼らなければいけない程、考え事はまとまらなかった
「私の使命はなに?彼等のお目付け役。つまり、中絶児同士の接触を監視する事。でも私の力だけではIAPの事には口出し出来ないわ…」
IAPは政府特別中絶省が統括しているとはいえ、警察は警察庁、自衛隊は防衛省と言う様にはなっていなかった
独自の命令系統を持ち、権限は作戦総合本部隊隊長の金田健三に委ねられていた
「IAPは知っているのかしら?中絶省が頑なに禁じている中絶児同士の親密な接触を…知っていて害はないと判断したのかしら?」
中学生から見守ってきたからこそ、陽子は苦悩しているのだった
陽子はまとまらない自問自答に頭をかきむしり、考える事をやめた
「私には見守るしかないか…」と呟き眠りに落ちた
一方、自宅に帰った潤も今日、陽子に言われた事を考えていた
「中絶児がみんな聖司さんの様な人ばかりではない…か」
潤は陽子が心配している気持ちを理解はしていた
しかし、聖司の事に口出しされるのは、とても嫌な気分だった
まるで反抗期を迎えた子供の様だ
潤は陽子が政府特別中絶省に自分達の事を報告する事を恐れていた
「もう…聖司さんとは会えないのかな…」
潤はそう呟くと、とても寂しい気持ちになった
今の潤には聖司の存在は大きなものだった
それと一緒に陽子の存在も大切だった
中学生の頃から自分を見守ってきた人なのだ
聖司が兄なら陽子は姉の様だった
「考えても仕方ないか。全ては明日訓練に行けば分かる。」
潤も考えるのはやめ、鞄の荷物を入れ替えた
二人にとって悩ましい夜が過ぎて朝がきた
潤は仕事に行くには大きな荷物が沢山入っている鞄を抱えて、自宅マンションのエレベーターに乗った
一階で降りると、マンションの出入口に陽子の姿があった
潤は昨日の出来事のおかげで少し寝不足気味だ
陽子の顔を見ると更に気分が沈んできた
「何の用ですか?政府に報告するんですか?」と潤は静かに問いかけた
いきなり陽子は潤の頬を平手打ちした
潤は何も言わず、けれども表情は陽子への反抗心と悔しさがにじみ出ていた
「あなた達の事IAPが気付いていないとは思えないわ。私は口出し出来ない。でもこれだけはわかって!あなたが心配なの。それだけよ。昨日は悪かったわ。上層部には報告しない。でも、私はこれからも潤を見守っていくから。」
そう言うと、陽子は足早に潤の自宅マンションから遠ざかった
潤はぶたれてジンジンと痛む左頬をさすりながら
「ありがとうございます…」と呟いた
今朝の事もあり、潤は介護の仕事に身が入らずにいた
利用者の入浴介助を終え、潤は同僚と昼休憩をとっていた
「真中君熱でもあるのかい?」と同僚が心配する
「あ、いえ、昨日ちょっと眠れなくて。でも大丈夫です!」と潤は説明した
「大丈夫ならいいんだけどさ」と同僚は安心したようだ
その時、潤の携帯がなり着信を知らせた
同僚にちょっとすみませんと言って潤は休憩室の外に出た
着信を確認すると、知らない番号だった
一応出てみる事にした
指をスライドさせて、電話に出た
「イェーイ、潤。俺だよ!」といきなりテンションの高い声だった
聞き覚えのある声だった。しかし、その人から電話があるなんて有り得ない事だった
「昨日の事、美人なお姉さんに叱られちゃった?」
やはりこの声は聖司の声だった
「聖司さん、こんな事して駄目ですよ!俺の番号どこから?切りますよ」と潤が焦って言うと
「待った!!大丈夫。番号は三神隊長から教えて貰ったから。バレバレだったんだよねー、俺らが仲良くしてるの。それで、俺は潤の指導者だしって事で、業務連絡のみ許可がおりた訳」
「そうなんですか。良かった。で、業務連絡って?」
「うん。潤、今日も訓練頑張ろう!それだけ!」と言って電話は切れた
潤は次第に笑いが込み上げてきた
全くあの人は面白くて、飽きさせない人だと潤は思った
暗視スコープを覗き始めて、一週間
潤は次第に白黒の世界に慣れてきた
銃弾は静止した目標に、正確に当たるようになっていた
「潤、そろそろ動く目標への狙撃訓練に入ろう」
「分かりました。でも暗視スコープでの狙撃訓練の前に、一度明るい時に狙撃出来るか、試して見たいんですが?」
潤は聖司にそう提案した
「そりゃそうだね!明るい時に狙撃出来ないのに、暗視スコープでの狙撃なんて、難易度高いからね」
灯り付けてくるよと言って、聖司は懐中電灯片手にスイッチを付けに行った
数分後、狙撃訓練場に久し振りに灯りが灯った
眩しさに潤は眼を細めた
聖司も眩しいと呻きながら戻ってきた
「眼が慣れたら早速始めよう」と聖司が言った
潤は「はい!」と返事をした
要約二人とも眩しさを感じなくなってきた
「潤、いけそうかい?」と聖司が聞く
「はい。大丈夫です。」と潤は答えた
普通のスコープに付け替えた、狙撃銃を窓から出し、下を動いている人形に照準を合わせる
しかし、照準を合わせるのはとても難しかった
数分ねばったが、潤は白旗をあげた
「聖司さん。お手上げです」と初めて潤はねをあげた
「迷える、子羊に、コツを与えよう」と聖司はいきなり片言の日本語で言った
「なにキャラなんですか、それ!」と潤が突っ込む
聖司は少し笑った後、急に真面目な顔をした
こういう表情の時の聖司の指導は本気だ
「いいかい。逆の発想をするんだ。照準を目標に合わせるのでは無い」と言うと聖司は潤に銃をよこせと、手を差し出した
潤は聖司に銃を渡した
聖司が銃を構えスコープを覗く
「銃の位置は固定するんだ。そして、目標を追いかけて照準を合わせるのでは無く、照準の中に目標が入った時に引き金を引く!」
そう説明すると、聖司は下の人形を撃った
弾は人形の頭を撃ち抜いていた
「こんな感じ」と聖司はねだられる前にお手本を見せた
「分かりました!やってみます」
潤はそう言うと、聖司から銃を受けとりまたスコープを覗いた
潤は聖司が先ほど人形を撃ち抜いた位置に銃を固定した
暗視スコープの訓練で手振れでの誤差は修正出来る様になっていた
聖司の指導通り、人形が照準に入るのを待って狙いをつける
今だと思った時に潤は引き金を引いた
弾は動く人形のお腹に当たった
「潤、流石だ」と聖司が拍手した
「駄目ですよ。お腹は致命傷にならない。スナイパーは一撃必殺でしょ?」と潤は言った
聖司は「いやいや。確かにそうだけど、当たっただけでも、凄い事さ!潤はお手上げ状態だったのに、アドバイスを与えただけで見事に命中させる。指導のしがいがあるよ」と誉めた
「聖司さんのアドバイスは的確ですからね」と潤も誉めた
お互いに誉めあいなんだか気持ち悪い雰囲気になった
「どうする?明るいままで訓練続ける?」と聖司が聞いた
「はい。しばらく明るいままで、目標に致命傷が与えれるまで、訓練したいです」潤はそう答えた
「潤は真面目だなぁ。よし。とことん訓練しよう」
二人の訓練はまた深夜まで続いた
深夜0時
二人はお風呂場のサウナにいた
「もうすぐだね。三神隊長が狙撃訓練に与えた一ヶ月」
聖司は唐突に切り出した
潤は訓練に必死で、期限があった事を忘れていた
「忘れていました…」と潤は呟いた
「今日の訓練もそうだが、君は飲み込みが早いし、努力家だ。俺が指導しているのだからね。絶対大丈夫だ!」と聖司は太鼓判を押した
「はい!必ず結果を残して見せます」
潤は決意を新たにした
「俺は適職で入隊したから、定かではないけど、多分狙撃訓練終了後に任務を与えられて最終テストになると思う。」と聖司は言った
潤は任務と言う言葉に緊張した
「聖司さんはどんな任務をこなして来たんですか?」
武勇伝を聞かされてはいたが、それは対象はどんな人物なのか?等詳しい事は聞いていなかった
「スマナイ。任務の事はまだ潤には詳しく話せないんだ」聖司が眼を伏せながら言った
「そうですか。俺どんな任務でもきっとやり遂げて見せます」
「あぁ、必ずIAP本部で会おう」と聖司は微笑んだ
潤も微笑み返した
そろそろ出ようと言う聖司の言葉に従い二人は水風呂につかり、体を洗い、湯船に浸かって、お風呂場を出た
仮眠室のベッドの中で潤は、さっきの聖司の言葉を思いだし、考えていた
任務に着く事は、人を本当に殺す事だ
聖司にはあのように言ったが、自分は本当に殺せるだろうか?と不意に思った
何故なら、聖司と出会った事で潤は満足している自分に気付いたからだ
陽子に聞かれて咄嗟に答えた動機
他の中絶児に会ってみたい…
その気持ちはなんだか満たされている気がした
しかし、この繋がりはIAPあってこそだ
一歩外に出れば接触する事は出来ない
だが、潤はもうひとつの理由を忘れていた
闇の中の闇を知りたい
そう、闇の中で生きている中絶児は他にも沢山いる
潤はそれを思いだし、人を殺す決意も新たにした
IAPに正式入隊するには、狙撃の腕がいる
明日は介護の仕事は休みだ
期限が迫っている
潤は明日、聖司に一日中訓練してもらおうと思った
いつの間にか潤は眠りに落ちていた
聖司とのもう特訓の末、潤は暗視スコープでの動く目標に対しての狙撃の精度をあげ致命傷に至る場所に弾を当てられる様になっていた
そして訓練最終日
狙撃訓練場には金田と三上の姿があった
聖司はいない
「さて、真中君。君の成長ぶりを確かめさせて貰うよ」と金田が言った
「先ず、静止している目標を狙撃する。そのあと夜間を想定した暗い中で、暗視スコープでの動く目標への狙撃をやって貰うよ。目標の位置は自分で探してくれたまへ」と三神がテスト内容を説明した
「はい!分かりました!」と潤は返事をした
何時も一緒だった聖司はいない
潤は一人でビルの階段を上っていく
屋上に着き、潤はアタッシュケースから銃のパーツを取り出し、組み立てていく
最後に銃にスコープを付けて完成した
先ず、目標が何処に有るのか探した
見付けたのは、屋上の西側にあるビルの一室だった
上ったビルからは少し狙いずらい位置だった
潤は、風向を確かめより狙いやすい位置にあるビルから狙う事にした
銃を肩にかけ別のビルの屋上へと階段を上っていく
屋上に上ると目標に対して、有効な銃の角度を探す
ここだ!と潤は確信した場所に銃を置いた
体を伏せて、スコープを覗く
潤の考え通り、目標がよく見える
風向の変わらぬ内に照準を合わせる
狙うのは、入隊テストで失敗した頭だ
狙いを定め、潤は引き金を引いた
弾は潤の思い描いた通り進み、人形の頭を貫いた
心の中で潤はガッツポーズをした
金田と三神が拍手をした
「お見事だ。じゃあ真中君。次へいくよ」と三神が言った
三神が暗くしてと言うと、スイッチの所に誰か人がいるのか、直ぐに灯りが消えた
潤は懐中電灯を使って、次の動いている目標を探し始めた
今いるビルからは発見出来ない
懐中電灯を片手に、銃を肩にかけ次々とビルを上り目標を探す
4つ目のビルで微かに動く人影が見えた
今いるビルの南側だ
潤はまた風向を確かめ、弾が風に流されない、狙撃ポイントを探した
違うビルの、ある一室から狙う事に潤は決めた
聖司のアドバイス通りに銃を構える
暗視スコープを覗くと目標がハッキリと見えた
引き金に指をかけ照準に目標が入るのを待つ
目標が入った瞬間、素早く引き金を引いた
弾は人形の首に当たった
人形の首は折れて頭ごと下に落ちた
潤は今度は実際にガッツポーズをした
暗い中、潤は金田と三神の元へと急いだ
「素晴らしい!」と言って金田が迎えた
いつの間にか狙撃訓練場の灯りは灯っていた
「いやぁー、五十嵐君を指導者にした甲斐があるよ」と三上が満足げに言った
「はい!聖司さんのおかげです」と潤はすっかり忘れて、名前で呼んでしまった
しかし、二人は気にしていない様だった
「おめでとう!真中君の狙撃訓練テストは成功だ」と三上が言った
「テストは合格。君ならもう任務に当たれるだろう。次は君に任務テストを受けて貰う」
と金田が言った
聖司の言った通りだった
本当に人を殺す任務に着く
潤は緊張しながら、金田の言葉を待った
すると、金田は潤に携帯電話を差し出した
潤は訳もわからず、電話を受け取る
「真中君専用のIAPから支給される電話だ。任務の指令は後日、その電話でする。それまでは待機していてくれたまへ」と金田が言った
そのあとこう付け加えた
「五十嵐君の番号が登録してある。任務に困ったら、相談してみると良い」
潤にはありがたい事だった
「では、我々はこれで」と言って二人は狙撃訓練場を出て行った
潤はありがとうございました!お疲れ様でしたと言って敬礼をした




