第三話 地上
見慣れない緑の森を抜ければ、見慣れない形をした建物。
そこはまさしく別世界だった。
日光に当たった場所から体内の『魔術因子』が流れ出していく感覚を覚える。素早く力で人間の姿になると全身から力が抜けていくような感覚に襲われる。慣れるまでは結構疲れそうだ。
とりあえずアリスティッドから渡された地図を見て家の×印に向かうことにした。しばらくして建物が見つかった。
「よう、お隣さんかい?」部屋の前に着くと、たった今帰宅してきたらしい隣の住人が話しかけてくる。言っていることが分かったのはフェリクスの力だろうが、言葉も扱えないのでどうしたものかと迷っていると、
「俺みたいなおっさんとは口もききたくないってか」そうぼやいて部屋の中に入ってしまった。
私は、ため息をつくと隣の男がやっていたように見様見真似でドアを開けると部屋に入った。部屋には既に家具が備えられていて、ソファにはフェリクスが腰かけている。
「お邪魔していますよ」
「ああ」
「アリスティッド君にも伝えたように、陛下には雪 乃亜という名前を使っていただきます。 人間のあなたは十六歳で、親元を離れてこのアパートメントに一人暮らししている、そういうことになっております。」フェリクスが生年月日、住所など暮らしていくうえで必要な情報を伝えてくれる。
「手配感謝する。ところで確認だが、本当にありふれた名前なんだろうな」胡散臭い笑みを浮かべた男に確認する。
「ええ、スズキという名前はこの日本でよくよくありふれた名前ですよ」
「……そうか」さっきより少しだけ目が輝いている気がするのが気になりはしたが、とりあえずうなずいた。
「ここに日本語の辞書や辞典、他にも様々なものをおいておきました。陛下なら数時間で覚えられますよ。三年の間、どうぞごゆるりとお過ごしください」フェリクスはそう言うと光に包まれ消えた。
ようやくお客のいなくなった部屋で、フェリクスの置いていった資料をさんざん見尽くした後、私は次の日から始まる学校生活に胸を躍らせ眠りについた。




