第四話 出会い
次の日の朝。フェリクスが用意した制服に着替えると早速学校に向かった。
校門を抜け、フェリクスに言われた通りに職員室という文字を探し、ノックをする。
「失礼します」そう言って部屋に入ると、年若い女の人が近づいてくる。
「こんにちは。あなたが雪 乃亜さんね? 珍しい名前で先生びっくりしたよ」
「珍しいんですか?」騙されたと思いつつ、尋ねる。
「ええ、スズキという名前は珍しくないけど普通は別の漢字を使うの。雪さんの地方では珍しくないの?」
「ええ、まあ」騙されたことに気付き、私はあいまいに微笑んでうなずいた。
「そうなの。ああ、そうだ。私の名前をまだ言ってなかったね、私は雪さんのクラスの担任の藤崎恵美。よろしくね」笑顔で手が差し出される。
「はい。よろしくお願いします」その手を握っていうと、先生は嬉しそうに笑った。
先生は私を連れて教室の前で立ち止まった。見たことのない1年2組と書かれた光沢のある白い板にここは本当に別世界なのだと心が躍る。ここには私が相手を知る前から私を憎む人はいない。それだけでとてもとても嬉しかった。
「緊張してる?」無意識のうちに、綻びそうな顔を引き締めていると先生が優しく聞いてくれる。
「大丈夫、です」ここでは私が笑顔を浮かべることを、私が幸せになることを恨む人はいない。そのことに気が付いて、私は肩の荷が下りたように気楽な気持ちになった。
「そう、良かった。じゃあ、雪さんは私の後ろについてきてそこに立ってね」
先生はわたしが頷いたのを確認すると、ドアを開けた。
部屋に入ると、それまで騒いでいた生徒たちの視線を一身に受けることになった。その中にあって、一人。まったく頭を上げない人がいた。机に突っ伏し、身じろぎ一つしない。
「皆さん、今日からこのクラスの一員となる転校生の雪……」先生がそこまで言ったとき、ふいにその頭があげられた。
目が、あった。
表情は硬く、考えていることは全く読み取れない。ただただ無感動に私を見つめている。なぜかわからないが、彼の無遠慮な視線から目を離すことができなかった。彼の目に目が縫い付けられたかのように。
「鈴木君?」先生の言葉で、ようやく私は彼の目から目を離すことができた。
「……。雪さんは鈴木君の前に座ってね」
「あ、はい」ぼんやりとして全く話を聞いていなかった私は、慌てて返事をして指定された席へと進んでいく。
私がさっきまでいたところに視線を固定したままの彼の前に、右手を差し出す。今まで全く動かなかった表情に、ほんの少しだけ変化が現れた。わずかに、ほんのわずかに目が見開かれ、眉がゆがんだのだ。
「よろしくね」そういうと、少しの沈黙があった。
「よろしく」そう言って彼が私の手を握った。しっかりと握り返すと、また表情が動いた。手を離すと、私は前を向いた。




