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第三十一話 嘘
「殺さないで。あんたを作ったのも、育てたのも私。それを忘れないで」たたみかけるように声の震えを抑えている。
その声の震えが怒りなのか恐怖なのかはわからないが、彼女の発言には呆れるしかなかった。かつて母のように慕い、敬愛していた人。
そして、一人の女性として愛していた人。
そのあまりに情けない姿に、俺のほうが情けなかった。なぜこんな人を信頼し、愛していたのか。自分を、朔を、キメラたちを苦しめた人を愛していたという後悔。自分は裏切られてすらいないことへの悲しみ。心の中で暴れまわる思いは何一つ言葉にできなかった。
「殺さないよ。愛してるから」何も言うことが見つからなかった俺は目の前の女が一番ダメージを受けるであろう言葉を選んだ。クローンに愛されるなんてと返ってくるかと思ったが、意外にも目の前の女は驚いたような顔をしただけだった。
俺は女に背を向け、キメラを探すため再び通路に出た。
ごめんなさい。
風に乗ってかすかにそんな声が聞こえた気がした。
俺は振り返らなかった。
彼女も罪悪感に苦しめられていたのかもしれない。研究所にいて自分の弱い心を守るためにはああなるしかなかったのかもしれない。同情する気はないが、理解はできるかもしれない。
とうに狂っていたのだろう、あの女も。




