第三十話 科学者
俺と朔は『扉』へ向かった。傷だらけの朔の血に反応して『扉』が開く。
現れた森には目もくれず研究所に向かう。
研究所の表のセキュリティーをどうやって突破しようかと考えるよりも早く、耳をつんざくような轟音と炎の柱。
研究所の後方が爆発したようだった。俺と朔は顔を見合わせ、炎に近づいていった。壁に空いた穴と通路。
「俺は右に」俺は素早く朔に伝えた。
「じゃあ僕は左に。了、気を付けてね」朔がうなずく。
「ああ、お前もな」そう言いあってお互い真逆の方向に向かう。何もない無機質な通路。足音を反響するようになっている通路に音を響かせないよう細心の注意を払って歩みを進める。
五分くらい歩いたころだろうか、突如爆発が起き、近くの通路に穴が開いた。煙の中に現れた人影が襲いかかってくる。とっさに右手を出して攻撃を受け止める。
「お前……」そう言った相手は、二十代後半ほどの男。見慣れた顔に、その人がオリジナルだと確認する。
「了だ。朔は反対側を探してる。ここは俺が調べる。アンタは次へ」必要なことだけを伝えていく。
「分かった」返事をするなりオリジナルは走り去っていく。
煙が薄れ、穴の中が部屋になっていることが分かった。もう一人誰かいる。注意深く見るとその人がアミさんだとわかる。いつもきれいにまとめられた髪が崩れている。
「あら、了。どうしたの?」爆発を受けて薄埃が立ち込める部屋で、アミさんは床に座りこんでいた。アミさんが普段と変わらない様子で話しかけてくる。それがかえって気味悪かった。
「キメラは、どこだ」
「あら、そっち? てっきり、あなたのこと聞かれるのかと思ってたのに」穏やかな様子で尋ねてくる。
「なら、聞いてやるよ。何人いるんだ?」心の中に渦巻く感情を押さえつけ、静かに問う。
「今残っているのは二個体ね」何の感情もこもらない無機質な答えが返ってくる。
「へえ……、なら俺はそのうちの一個体ってわけだ?」俺は皮肉を込めて言ってやった。
「そう。最初はたくさんサンプルがあったの。でも、試作品っていうか、朔があまりにもうまくいっちゃったものだから、私たち調子に乗っちゃって。そしたら、サンプル全滅。そこで、あわててあんたを作ったのよ。あれは失敗だった。この間オリジナルから連絡が来たときは本当に驚いた。『朔から話は聞いた。すぐにキメラ実験をやめろ』ってね。さすが私たちの『最高傑作』。朔は少し賢すぎた、あの子にコンピュータの知識を与えたりしなければあの子にクラッキングで研究所の情報をとられることもなかった。思えば、それも失敗だったかも。いろいろ科学者失格ね」ため息をつく目の前の女に俺は二の句が告げなかった。試作品、サンプル。彼女が使う何気ない言葉一つ一つが彼女が俺らをどう扱ってきたかを如実に表している。この女は自分が科学者どうこうの前に人として失格といわれるラインを超えているだろうことに気付かないのだろうか。
「どうしたの」ようやく、俺が黙っていることに気付いた女が首を傾げた。俺はそれには答えず、一歩二歩と歩みよった。
手を伸ばせば届きそうな距離にまで近づいた途端女は顔をひきつらせた。




